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正義と悪

祐二はどういう風に育っていくのでしょうかね…

 盗賊団のアジトの洞窟に案内された俺達はキャロネロの後ろを歩きボスの元に向かう。洞窟の前にいた護衛は当然全員消し済みだ。今日は剝いだ物をアジトに持っていくみたいだったし、全員揃っているとのことだ。


 「この先です」


 洞窟の奥にはボス含む一〇〇人近いメンバーが揃っている。


 「ボス今帰りました……」

 「おう、遅かったな。残りの奴らはどこだ?それとその三人はなんだ?」

 「あんたが盗賊団のボスか。悪いが俺達を襲った二十人は全員殺したよ」


 その言葉にボスは身構え、全員がこっちに武器を構える。


 「てめぇ、自分が何いってるのかわかっているのか?」

 「ああ、それで提案だが、死にたくなければため込んだ宝をこっちに渡しな。そうすれば命だけは助けてやるよ」


 すると周りはみな笑い出す。まぁ当然の反応だ。


 「おいおい~お前本気でいってるのか?お前ら三人に対してこっちは一〇〇人近くいる。どうやって勝つってんだ!?」


 ボスの言葉にキャロネロが口を開く。


 「ボス、頼むからこいつらには逆らうな。こいつら二十人で囲ってやろうとしたら、その二十人を一人ずつ見たこともない魔法で殺したんだ……それも一個一個が普通に放てば周りを消滅させられる魔法をあえて一人にだけ範囲を縮小させてな。悪夢だった………俺も一回腕をちぎられて、案内しなきゃ腕は戻さないし殺すって言われたんだ。頼むから逆らわないでくれ!」


 キャロネロの必死の懇願に対しボスはそれを一蹴する。


 「おい、何馬鹿いってやがる。それとてめぇ俺達を売ったのか?」

 「違う、こいつらがボスを説得する時間をくれるっていうから。仲間が死ぬとこなんてみたくねぇよ……」

 「お前、俺を誰だと思ってやがる!?俺の強さをお前はよく知ってるよな?」

 「ああ知ってるさ……だけどボスでもこの二人に比べたらハエ同然だよ……こいつらは本気でヤバい……」


 その言葉にボスは怒りをあらわにする。自分のボスをハエなんて言わなくてもと思ったのは言うまでもない。まぁ間違っちゃいないわけだが……


 「お前は後でおしおきだ。おいお前ら、あの三人を料理するぞ!」


 ボスの掛け声と共に全員が動き出す。


 「交渉決裂ね~」

 「そうだな……んじゃ予定通りにいくか。今のやりとりの間に仕込みはばちっしだ」


 AAランク異能の天の糸で相手の動きを止めてある。


 「糸はもう仕込み済みだ。」


 一〇〇人近い相手の動きが止まる。


 「なっ、体が……」

 「さて立花ボス以外一人ずつ殺っていこうか?」

 「ええ、そうね」


 まだ抵抗はあるが立花だけにやらせるわけにはいかない。ガルカドール卿との約束を守らねばいかん。


 「グランドクロス!」


 光の十字架によって相手に裁きを与える第八位階魔法だ。威力を抑えてまず一人だ。


 「一人一人だと威力を下げないといけないわね……クリムゾンヘヴン。」


 聖なる炎が相手を焼き尽くす第八位階魔法だ。


 「一人ずつなら無詠唱連続魔ね~」


 そもそも魔法は詠唱をせず、発動するには詠唱呪文とその魔法を脳内でイメージするのが条件だ。魔法のレベルが上がれば上がるほど詠唱は長くなるし、イメージも複雑になってくるのだ。連続魔は二つの魔法を繋げて唱えることで、連続して魔法を唱えるやり方だ。立花はその気になれば無詠唱連続魔で第十位階を百連する事も可能だ。


 「ヴァイス・シュヴァルツ!」

 「ルナティック・フレア!」

 「ゼロイクリプス!」


 三人がお亡くなりとなった。その後は盗賊団にとって悪夢だったに違いない。ちゃんと跡形もないよう、高位の魔法や技を一人ずつに当てていき、一人、また一人と消えていく。だが自分たちは動けないのだ。それはだんだんそれは恐怖へと変わり戦慄する。次は自分の番だと……十分ほどが過ぎ、ボス一人を残すのみとなった。


 「俺はこれでも金ランクの冒険者だぞ。こんなことが……」

 「立花、認識阻害を解いて俺達のステータスを」

 「オーケー」


 俺達のステータスを見たボスとキャロネロ、祐二はそれぞれが思ったことは異なるだろうが、みな驚愕していた。そしてボスの顔は歪むどころか意識を保つのが精いっぱいといった感じに見えた。


 「ひっ、八十万……嘘だ……」

 「というわけでステータス見せたし、冥途の土産にはなったな。」

 「助けてくれ……宝も全部渡すしもう悪さもしねぇ。心も入れ替えるから……」

 「でもあなたはさっきその申し出を断ったわ」

 「それは……そのイキがってただけです……ほんとあなたたちにこんな目に敢わされて、悪さとかできないっすよ……」

 「ほんとか?」


 目を見るが、反省などする気配はまったくない。したがって生かす理由もないのは明白だ。


 「痛いな……お前の判断ミスで部下はみんな死んだぞ。何か思うことはないのか?」

 「痛いです……でももう死んだ者は戻らないでしょう。俺はこれから部下の供養をします。あなたたちのようなお方に逆らったことを一生後悔して生きます。」


 うわぁ……こいつ自分も殺してくれぐらい言えないもんかね。人間はこれだから……


 「しょうがない……」


 周平は糸を解き自由にする。


 「ありがとうございます。この御恩は一生忘れません。」

 「立花、あれをあいつに」

 「ええ、わかったわ」

 「ただでは駄目だな。だからお前さんを試そうか」


 ボスは言っている意味がわからないのか顔を顰め始める。


「あなたには罪を悔い改めるチャンスを与えるわ。心の底からそれを受け入れれば、あなたは死ぬことはない」


 立花に頼んだのは創生魔法による魂の浄化だ。果たしてこいつが魂の浄化をした時、こいつは人格を保てるのだろうか?こいつはおそらく黒い魂のはずだし、それを受け入れるかどうか……まぁ結果は見えているが一つの余興だ。


 「ストックウェルの審判」


 王のような男の影が光となって、ボスを包み込むとボスは浄化されたのか体ごと消滅した。


 「この男は体すら残らなかったわ。それだけ体の髄まで悪に染まっていたということね」


 この魔法は決して攻撃系の魔法ではなく、聖者のような人間にはむしろ力を与えるし、二十柱のような存在や強い魂を持つ者、悪意のない者には効かないのだ。それと魂の浄化を心の底から受け入れてた者は消滅することなく善人へと変える。ただ大抵の悪人はそれを心の底から受け入れられず、消滅するのだ。


 アジトにはさっきまで百人ちょいはいたが、今は四人しかいなくなり、静寂が訪れた。さっきまでにぎわってた洞窟は、元の静けさを取り戻したとも言えるだろう……俺は沈黙をやぶり口を開いた。


 「いいか祐二、世の中は悲しいことに理不尽なんだ。こいつらは俺達の理不尽により殺された……俺達の行いもまた善行にほど遠いことだから。俺達は善行をしたと感謝を受けるだろう。それはこいつらが世間一般的には悪の屑だからだ。そして俺達もこいつら同様たくさん殺してきたが悪とは言われなかった…その理由はなんだ?」


 祐二にこんなことを問いかける俺はまるで悪の親玉が自分の行いを正当化しているようにしか聞こえないだろう。俺や立花は別に正義の味方というわけではなく、ただ仲間を最優先にという行動理念で動いているし、前世での経験から殺しにそんなに抵抗がないだけだ。


 「圧倒的強さがあるかないかですか?」

 「そう、俺らにあって、こいつらにないものだ。善悪ではなく勝った方が正義となる。なぜなら勝者は敗者を服従させられるからだ。勝者は国を作り法律を作る。歴史とは勝者が編集しあげたものだ」


 黒姫やランスロット先生はこれを俺や立花に教え込んだ。しかしこれはそれが世の常であって、正しいわけではないという事もまた教えられた。力の強いものはそれを自由に行使する権利があって、それを間違った方向にいかないようにする必要がある。


 「はい!」

 「でもこれは正しいわけじゃないんだ。あくまでも世の常でありどうにもならないというだけ。だから祐二にはそれを覚えてほしい。祐二がもしレダさんに追いつくような力を身につけたとして、こういう雑魚を屠れるようになったとしても、それを忘れないでほしい」

 「わかりました」

 「世の中どうにもならないことはどうにもならないの。私たちだってこんな力があっても、どうにもならにこともたくさんあるわ。それと私達やレダさんは同じ人から、この考えを教えられているから少し考え方がずれているわ。あなたはまだ強くないんだしそれも覚えておきなさい」


 そう祐二はまだ人の域を抜けるどころか、まだまだ駆け出しの人間だ。


 「それと俺達がなんでこいつらを殺したかわかるか?何も殺す必要はなかったと思ったはずだ」

 「たしかにそこまでしなくてもとは……助けてもまた悪さをするからですか?」

 「二つあって、一つは個人的な理由で話せないが、一つはお前の命を脅かすことのないようにだ」


 一つはガルカドール卿の為……だがもう一つとして祐二はもう大事な仲間でもある。俺達のように強くない祐二が狙われて仕返しされないように……つまり禍根を残さないためだ。


 ランスロット先生は仲間を第一に考えろと言っていた。救える命を救い、正義の味方をするのもよしだが、それは仲間の命をまず先に考えた上でやれと教わった。すべての人を守るのは無理だし、守るうえでの優先順位を考えろと。


 「僕の命ですか?」

 「私たちはあなたを仲間だと認めているわ。だからこそ、あなたが報復を受けないようにする為よ。あなたを育てるのに無駄にはしたくないわ」


 それを聞いた祐二は何か考えているようだった。まぁ自分の考えとかは、今後徐々に定めていけばいい。


 「俺達に疑問を持ち、間違ってると思ったら遠慮なく言ってくれ!」

 「わかりました。今すぐには答えは出せませんが、二人から色々教わり、自分の考えや信念を定めていきたいです」

 「ああ、それがいい」


 いくら同じ教えを受けたからといって、思想が何から何まで一緒になるわけではない。ランスロット先生は今の状況ならボスだけは生かすだろうな。まぁ死んだ方がましってぐらいのことをするだろうけど。


 「さてキャロネロ」

 「はひっ!」

 「お前のおかげで盗賊団を倒すことができたよ」

 「それはよかったです……あっしももう大人しく暮らしますのででは……」


 そう言って退散しようとするが、キョロネロを当然逃がすはずはない。


 「何するんです……あっしはもう……」

 「あなた何か勘違いしてるわ。」

 「へっ!」

 「あなたも仲間でしょ?」

 「何の話です?あっしを助けてくれるって……」

 「案内をしてくれたあなたの命は助けるけどちゃんと罪は償わないとね。」

 「えっ?」


 立花は笑顔を見せながら光の縄をだして、キャロネロを拘束する。


 「あなたをギルドに引き渡すわ。当然でしょ?」

 「そんな……」


 キャロネロは落胆する、まぁ生かす以上は当然だ。


 「逃がしてくれな……」

 「さっきの魔法あなたにもやりましょうか?」


 立花は笑顔で言うとキャロネロは顔を青くする。


 「すいません……死にたくないです……」

 「ならわかるわね?」


 キャロネロはその場で崩れ落ちた。今回は派手に人を殺しすぎた……少し自重すべきだろう。ただ今回は教育も兼ねているし、これよりひどいことを前世の時やっている。大きな戦いで何人も殺したし、俺も立花も今の行いに心を痛めない程度に慣れてしまっている。真に強くなるにはこういった経験も大事なのだが……


 「さぁ、戻ろうか」


 残したお宝をしっかり回収して、洞窟を後にした。


次はクラスメイトの話です。


2019年3月20日修正

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