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シンと周平

 「ここに来た理由は本当にそれだけなんですか?」


 雪は九十九に質問をした。初代勇者として教えに来た以外に何か理由があるのではと考えたからだ。だが自分や美里に関連する理由があって欲しいという願望もあった。事情がどうであれ周平が自分達を野放しにしないだろうと。


 「フフッ、周君の事が気になる?」

 「えっ……」


 雪はそれを九十九に指摘されドキッとしてしまう。そんな雪を見た九十九はクスクスと笑う。


 「大丈夫、周君はちゃんとお二人の事を心配しています。もし私達二人がいる間に何かあったのならその要因は全て排除していいと言ったぐらいだから。加えて雪ちゃんと美里ちゃんの二人に対しては彼からとある事を頼まれているの」


 それを聞いた雪はほっこりとした表情を見せる。


 「頼まれ事ですか?」

 「前に二人に渡したお守りはしっかり持っているよね?」

 「はい、私も美里ちゃんも肌身離さずつけています」

 「なら大丈夫、今回ここに来くるのも本当はもう少し後の予定だったんだけど、ケープヴェルディで勇者達は負けちゃったからね」


 周平はファーガス潜入時の訓練だけでは中途半端だった事もあり、勇者達の強化は前々から行う予定で考えていた。だが魔大陸上陸後は順当に進んでいた為崩れるのを待っていた。何故なら上手くいっている時は他人の助言などに聞き耳になど持たないからだ。


 「負けるのを待っていたんですか?」

 「敗北は人を強くするの。私も実君も周君も立花さんも負けを知っているからこそ今があり強くなった。騎士団メンバーは皆そうだから」

 「あの立花さんも!?」


 雪は驚く、雪の持つ立花のイメージの中に負けるといったイメージがないからだ。


 「はい、本人に言うと拗ねるんだけどね~」

 「フフッ、そんな立花さんも見てみたいですね」


 負けず嫌いでプライドが高い立花だが、転生前の訓練でランスロットやジェラードといった他の二十柱相手に何度も負け、力の差を知りその度に周平と共に這いつくばった。当時の不完全な状態だったとはいえ、その努力で強大力を使いこなせるようにしてきたという過去がある。


 「今回の訓練だけど大半は実君が見るけど、雪ちゃんと美里ちゃんは私が個人的に別の場所で見るけどそれで大丈夫かな?」


 雪は九十九の表情を見て察する。周平絡みの話がある事を確信したからだ。


 「はい、願ってもない事です」

 「二人は特別なの、だからこそ強くなって貰う必要がある。少し厳しい訓練をするかもしれないけど、頑張ってついてきてね」



 ◇



 聖地ペブルスにて活動中のシンはたくさんの反対派を率いて大聖堂ブランカを囲っていた。


 「教皇出てこい!」

 「退任しろ!」


 聖堂を囲う人々を後ろで見るシンは満足気な表情を見せる。変装をして偽名を使ってここまで不満を持つ人々を立ち上がらせたのだから流石と言わざるをえない。


 「流石ですね、武力を使わずしてもここまで人を動かせるシンさんにしかできない事です」

 「フッ、時には自分ではなく人を動かす事も必要さ。血を流すだけが戦いではない。戦争とは情報戦 だ」

 「おっしゃる通りですが、百年前の戦争では武人として前線に立つあなたが強く印象に残っていますのでどうしても違和感がありますね」

 「俺は元々こういうタイプさ、人の本質を見抜き弱い部分をつけば流れる血は少なくて済む。もうかつてのような破壊者ではないが人の弱い部分をたくさん見てきたからな」


 一つの世界を滅ぼし、竜王ジェラードと一騎打ちをした頃のシンは武人ではなく魔術師。攻撃系統もそっちよりだったが、今では武器を手にした直接攻撃の方が好んでいる。その背景には周平との出会いとスカウトがあったからだが、それ以前を知らない者からすれば違和感は拭えないだろう。


 「あなたという人はまるで掴めない。それがあなたの魅力なんでしょうね」


 人を惹きつけ従わせるという面では周平よりも長けているシンが周平を友と呼び従うにはとある理由がある。


 「俺の時間はあの時から止まっている。だが百年前の友との出会いはそれを動かすきっかけになる事を確信したんだ。掴めないかもしれないが俺は剣としての役割を果たすというただ一つ理念に沿って動いているにすぎないさ」

 「周平さんの剣ですか?その話は少し興味がありますね」


 ガルカドールの戦死もあり周平に不信感を抱いていた時期があったレイチェルだけにシン程の男が何故後輩の周平に慕うようになったのか興味があった。もう周平に対して不信感はないもののレイチェルの中ではシンの方が評価は高い。


 「ふむ、少し時間があるしこれを見せようか」


 シンは魔法を唱え、レイチェルに自身の記憶を植え付けた。


 「ウッ……」


 他人の記憶が入り込んだ事で一瞬ふらつくがすぐに態勢を戻す。



 ◇



 「あんたがアークルって言ったか?」

 「そうだがそれがどうかしたか?」


 初めて周平からシンに話しかけた時の記憶がレイチェルの脳内に流れる。


 「俺は周平、魔神の力を受け継いだ。あんたは確か悪魔帝だったよな?」


 このときのシンは転生して間もない頃で転生前の苦い記憶から立ち直っておらず引きずっていた時期だった。


 「お前のような若造が魔神の力を……随分と若いが精々頑張る事だ」


 初対面で気さくに話しかけた周平を見て態度のでかそうな若僧というのが最初に抱いた印象だった。


 「ああ、まだ力も不完全の見習いだ。色々迷惑をかけるかもしれないけどよろしく!」


 シンは軽くあしらったつもりだったが周平はめげずに返し握手を求めた。流石に握手を求められて拒否をしたとなれば同じ二十柱として問題になるので渋々握手をかわす。


 「よろしく、ところで何て呼べばいい?色々と呼び名があるだろ?」

 「好きな名で呼んでくれれば構わんさ。俺はいくつかの名を使ったがどれも気に入っている」


 シンは様々な状況で名前を使い分けていた。元の本名であるアークル・ブランドフォードですらあまり使用しない。


 「そうかーなら新たに名前を一つ考えないか?」

 「考える?」

 「そうだ、俺はルシファーさんからとあるミッションを言い渡されている。そのミッションにあんたを連れていきたい。だからそこで俺達で考えた名を使ってほしい」


 これにはシンも驚きを隠せない。自分より下の若僧にこんな事をいきなり言われたシンは思わず笑ってしまう。


 「クックックッ……ハッハッハッ!」


 だがその笑いは感心したからではなく、その図々しさに呆れを通り越して笑ってしまったからだ。それと同時に周平を威圧する。


 「貴様……少し馴れ馴れしいぞ……二十柱といえど最低限の礼儀を知るがよい!」

 「おっ、流石はスゲー威圧……やはりあんたに声をかけて正解だな」


 周平は明らかに不愉快な表情を見せながら威圧するシンを見て笑う。


 「礼儀を欠いたことを深く詫びよう。こうやってあんたに話しかけたのもちゃんと理由がある」

 「うむ、狙いはなんだ?」

 「俺の戦友になってほしいんだ」

 「戦友だと?」


 シンはこれを聞いて今度は不思議に思う。何が狙いなのか掴めなかったからだ。


 「そう、あんたの話は聞いている。ジェラードさんとの一騎討ちやその理由とかな。俺はあんたをリスペクトしている」

 「フッ、私的な理由で世界を滅ぼした男をリスペクトなどとは笑わせてくれるな。そんな危険な男を戦友にしたいなどと尚更だ」

 「大事な人の為に男が体張って一人で世界と戦ったんだ。そんなカッコいい事をした人をリスペクトしないなんて俺にはできないさ。俺も嫁がいるんだけどそいつに何かあったら同じことをするからな」


 物は言い様とはこの事だがシンは周平の目を見て本心で言っている事を確信する。シン自身もその行動に対して後悔をしておらずむしろ行動した事に自信を持っている。


 「なるほど……どうやら少し改めないといけないようだな。さて戦友と言ったな?」

 「ああ、なってくれるのか?」

 「それはお前次第だ、さっきのお前の目を見て少なくとも俺と通ずるモノがある事は確信した。今度はお前の強さを俺に見せろ、口だけの弱き者が俺の隣で肩を並べる資格はないからな」


 ここで二人はお互いにニヤりとした表情を見せる。周平からすれば話が通じてチャンスを得た事に対してだがシンは久しぶりに見た真の男たる資格と強さを持ち合わす者かもしれないという期待を込めてだった。シンの認めるべき者は大切な者の為に命をかける事ができる者、周平はそれに値する男だと確信していた。


 

 ◇



 「ハァハァ……」

 「やるな……その剣術は私を遥かに越えている」

 「そっちこそ話に聞いてた通り凄い魔術と呪術だな……強いぜ……」


 本気の手合わせを終えたシンは膝をついている周平のもとへ歩み寄り手を差しのべる。


 「見事だ、俺と肩を並べるには十分だ」

 「へへっ、あんたにそう言って貰えて嬉しいよ」

 「シンと呼ぶがよい、それが一番気に入ってる」


 周平とシンは全力で戦い力を見せあった。当時のシンは今ほど剣術を極めておらず周平も剣術メインだった。この手合わせでシンは周平の事を認める事となりお互いの得意な分野を教えあい、シンはエクリプスでの戦いに参加する事を承諾した。


 「どうだ?」

 「いや見事だよ、流石はシンだ。免許皆伝だな~」


 シンは周平に剣術を教わるとみるみると技術を磨きあげ達人級へとなり、周平と剣術を競えるレペルになった。


 「うむ、ではそっちの世界では剣士として参加する事にするさ。そうだな……呪術を交えた暗黒剣を使うし魔剣聖という呼び名と凛真という名前が浸透させようか」

 「魔剣聖凛真か、カッコいいし悪くない。俺の刀とそっちの暗黒剣で大暴れしようぜ!」


 シンはエクリプスに来た頃は魔剣聖凛真として名を馳せた。周平を含む周りには何だかんだシンと呼ばれる事が多かったが、戦争では一人で軍隊一つを壊滅させる等をして魔剣聖凛真の名で恐れられたのだ。



 ◇



 「どうだ?これが私と友の出会いと共に戦いに参加したきっかけさ」

 「周平さんは相変わらずでしたね、でもまさかあなたが周平さんに剣術を教わって達人級になったのは知りませんでした」

 「友は仲間を絶対に見捨てないし裏切らない。そんな奴だからこそ俺は剣として戦う事を決めたんだ。そしてこれが終われば友は今度俺の剣として俺の探し物に付き合う事を約束している」


 シンはかつての最愛の女性との再会を待ち望んでいた。一度死んで死後の世界に行っても魂が見つからなかった事で、消滅せず何処かの世界に漂流している事を確信し、この世界での戦いがおわったら今度は周平がシンの剣になるという約束を交わしていた。


 「私達も協力しますよ」

 「ありがたいことだ、ではその為にもこの茶番を終わらせようか」


更新遅れました……

勇者たちの話と併用してシン達の話も進めます。

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