雪の追憶2
「神山君おはよ~」
「おう~」
周平は遅刻すれすれで教室に入ったが早速雪が声をかけてくる。すると周りのクラスメイトの目線が二人に集まる。
「遅刻すれすれだよ~」
「いや~ちょっと寝るのが遅くなってな~」
「ふふっ、こういうのは習慣だから気を付けないなと駄目だよ~」
加えてこの会話でクラスメイト達が怪訝な目線を送る。ヒソヒソと何でアイツあんなに親しげなんだとかそういう妬みの入った言葉を耳にする。加えて横にいた美里もそういう目で周平を見る。
「ホームルーム始めるぞ~」
先生が来たことで一旦難を逃れるがホームルームが終わった後もトイレに行ったりしてサッと交わすが昼休憩の時に美里に捕まった。
「神山君私達と食べない?」
「お、おう」
この当時周平は立花の事がショックで特に友達を作ろうと考えてなかったので一人で食べていた。加えて中学時代から立花とともにやっていた株をスマホで見たりして金を儲けていたので余計に人と関わらなかった。なのでクールで一匹狼というのが当時の周平の周りからのイメージで壁があり自ら話しかけようとする者も少なかったが美里はそんなの御構い無しだ。雪と美里が周平を囲うようにして近くに座る。
「周平君、これか美里ちゃんね~」
「言われなくてもわかるぞ。月島同様有名だからな~神山だ、よろしく」
この時の周平は周りから注目を浴びてヒソヒソ言われるだけでなく杉原が敵意を見せていてるので居心地が悪かった。だがこの程度で怖じ気づく事もなく平静と杉原と接する。
「あなたの事は知ってるわよ、何しろ陣君が注目してるからね。でもまさか雪まで注目するって事は陣君の目は間違いないみたいね~」
「宗田か、俺なんか大した人間じゃないよ~」
陣はこの時点でクラスをまとめるリーダーシップを発揮していた。海外で拉致された後半年戦場を経験して帰還。そんな非現実的な自己紹介をした陣だが人を惹き付ける魅力的な人柄によってクラスをまとめるような存在となっていた。そんな陣も周平には目をつけていたのだ。
「またまた~陣君がいってたわよ~いつもスマホで難しそうなグラフとか外国語のニュースを見てるって言ってたし」
「周平君そうなの?」
雪が驚いたような様子を見せる。
「あー株やってるからな。見落とすと数千万の損益かでる、外国のニュース見とかないと海外の情報がわからないからな」
「数千万?というか英語話せるの?」
「フランス語と中国語あたりもいけるよ。中学の時にけっこう稼いだんだ。今は遊び程度だよ」
周平にとって立花が近くにいた時はそれが当たり前だったので平然と話してしまうが今話しているのは雪と美里だ。そんな話を聞いて驚かないわけがない。
「雪や陣君の言う通りね……嘘を言ってるような感じにも見えないし」
「でしょでしょ~でも流石に今の発言は驚きを隠せないかな」
雪や美里がちょっと引き気味な表情を見せる。
「あれ、何か俺不味い事言ったか?」
「ううん、とことん規格外って改めて思っただけだよ~」
「そうそう、私も神山君の調査を本格的にするってだけだから~」
調査と言った時の美里の目が光っていたので逆に引き気味になる。
「あれ、二人とも何神山君にアタックしてんの?」
と教室に戻ってきたのは陣だった。美里とは同級生なので中学からの間柄だ。美里と雪は小学校は一緒だが中学は別である。
「見ての通りよ、あなたと雪の注目する神山君に突撃したのよ」
「俺が先にいくはずだったのにな~」
陣は周平の隣に座ると手を出して握手を求める。
「宗田陣だ、是非話したいと思っていた」
「ははっ、名前は知ってるよ。まさか噂の宗田陣に注目されるとは光栄だよ」
周平も陣の握手に応じて手を出す。陣もクラスでは注目の一人だけに目立っていた。
「よろしくな!」
「うっ……」
握った瞬間陣は腕に力を入れる。それに対して周平も負けじと力を入れて対抗する。
「ちょっと……」
ムキになって顔に力の入った二人だが周りなど気にせず勝負の世界に入っていた。
「ふぅ~なかなかやるな~」
「試したのか?」
「強い相手だってのはオーラでわかったからな~」
陣が力を入れるのを止めると周平も止める。
「そっちも中々やるな~久しぶりに本気になったよ」
「いきなりすまんな~だが確信したよ、俺の背中を預けられる奴だってのは間違いない。俺の事は名前で呼んでくれ。そっちの事も名前で呼ぶ」
「了解、よろしくな!」
陣と周平が仲良くなったきっかけかこれだ。この時周平も陣に対してただならぬ何かを感じて認めたのだ。
「もう、いきなり二人の世界に入らないでくれない?」
「ごめんごめん、俺もずっと話したかったからついな」
「物好きな奴だ、だが戦場上がりは伊達じゃないってのは良くわかったよ」
「神山君も格闘技とかやってたの?」
「色々かじった程度だけどこれでも身体は普通に鍛えてるからな」
周平は小さい頃から飲み込みの早くて周りからは天才ともてはやされ、格闘技も少しかじったぐらいでかなり吸収するので色んなのをかじっていた。
「確かこないだの実力テストもかなり良かったよね?」
「まぁそこそこかな」
「俺が注目してたんだからスペック高いのは当然だな」
「陣君もまだまだね」
「ははっ、そんな事ないよ。陣見たくクラス全体を惹き付けるようなああいうのも立派な能力だし」
周平自身そういう能力がないわけではないが、全体を自然に従わせるという面では陣には劣っている。そもそも周平自身が大人数を好まないというのもあった。
「へへっ、美里ちゃんにそれもっと言ってやってくれ~」
「こらっ!神山君もあんまり陣君調子にのらせたら駄目だよ~」
◇
放課後になると早速陣が周平を誘う。
「遊ぼうぜ~」
「いいぜ、野郎二人で何するんだ?」
「私達もいるよ~」
「仲間外れはないっしょ!」
人気のある雪や美里と遊べるのは周りからはさぞかし羨ましがられる事だが周平は前まで立花がいたのでそこまで特別感はなかった。
「ははっ、どこ行くんだ?」
「ゲーセンで周平と勝負してから喫茶店でも入ろうかなぐらいで考えてるけどどう?」
「賛成~」
「それでいこっ!」
「俺は構わんぞ」
ゲーセンに行くと早速いくつかのゲームで対決したが全て周平が勝った。尾形と鍛えていただけに負ける要素はなかった。銃のゲームは実物を扱った事がある陣だけあってかなりの腕前を見せ、協力プレイワンコインでエンディングまで見る事ができた。
「ふぅ~負けた負けた~結構得意だと思ってたんだけどな~」
「ふっ、甘いな」
「でも上手すぎて逆に引くぐらいね~でもこれはありがとう~」
「本当凄いよ~」
美里と雪それぞれに欲しいぬいぐるみを取ったのだ。美里もこんな風に言ってはいるが周平の事を認めようとしていた。
「じゃあ次は神山君の苦手な分野を見つけよう」
「それ名案ね、で神山君苦手なのは何?」
「そこ聞くんかい~」
「当然でしょ~神山君の弱点丸裸にするんだから~」
「俺もそれ参加するわ~」
「お前らな……」
立花の事で落ち込んでいた周平にとってこの三人の存在は後々大きくなろうとしていた。
「いたっ!」
「おい、お前今ぶつかったよな?」
歩いていると雪が柄の悪い男にぶつかった。
「すみません?」
「ううん~よく見たら可愛いじゃん!今から俺らについてこいよ」
金髪のチンピラ風の男が言うと一緒にいる数人も雪の手を掴もうとする。
「何触ろうとしてやがる?」
周平は触ろうとしたチンピラの手を掴んで強く握る。
「いてててっ……」
「セクハラは容認できんな」
「雪こっちへ」
美里が雪の手を掴んで陣の後ろに逃がす。
「お引き取り願いたいね~」
「てめぇ……お前ら!」
チンピラが陣に殴りかかると陣はそれを避けてお腹に一発いれる。陣のパンチを喰らった一人はそのまま崩れる。
「なっ……」
「くっ……腕離せや!」
周平に対しても殴りかかったが周平もそれを避け、掴んでいた腕を離してお腹に一発いれる。陣と同じぐらいの力を持つ周平だけに受けた方はそのまま崩れ落ちる。
「おっ、やるんじゃん周平」
「陣には負けるがな」
「ぐっ……こいつら強いぞ……」
「まだやるなら相手になるぜ~」
「ははっ、挑発は止めとけって~こいつらもう顔引きつってるぞ」
二人が瞬殺された事で勝てないのがわかっただけに戦意喪失していた。
「くそ……覚えてろよ……」
「相手はちゃんと見極めるんだな~」
チンピラ達は逃げるように去っていった。
「怪我はないか?」
「うん、神山君こそ大丈夫?」
「ああ」
「神山君も強いんだね~何となくわかってたけど」
「大したことないさ。陣の方が強いよ」
陣の身のこなしを見て自分が本気を出しても負ける可能性を見た。
「いーやわからんぞ~ちょっと本気でやってみるか?」
「面白い」
「二人とも何馬鹿な事言ってるの~身内で殴りあいとかくさいことしないでよね?」
美里が二人の頭を叩き、軽く説教をする。
「美里ちゃん冗談だよ~それに本気でやったらお互い色々後遺症残りそうだしな?」
「そうだな」
お互いにお互いを認めあった瞬間だった。
◇
喫茶店で話しをしながら交流を深め、気付いた頃には夜になっていた。
「それじゃあまた明日ね~」
「また遊ぼうな~」
美里、陣と別れた二人で帰り電車に乗っていた。
「今日は楽しかったね~」
「ああ、月島もありがとな~月島のお陰で今日楽しめたようなもんだし」
「そんな事ないよ~でもそう思ってくれてるんだったら今日付いてきた甲斐があったかな~」
雪はご機嫌なのかいつも以上にニコニコしていた。
「月島は杉原と中学違うよな?」
「うん、美里ちゃんとは母親同士が同級生でよく遊びに行ってたんだ~うちが引っ越す前までは家も近くで小学校も一緒だったから」
「そうなんだ、二人を見てると本当に仲いいなと思ってさ。でもそれ聞いたら当然っちゃ当然だな」
「美里ちゃんは私の一番の親友だからね」
「雪ちゃん?」
すると電車でスーツを着たおじさんが雪に話しかけてきたのだ。
「柿原さん?」
何やら少し困惑した表情を見せる雪に対して少し違和感を覚える周平がいた。
「この人は?」
「お父さんの会社の同僚かな、お母さんと旧知でたまに来たりしてるんだ」
「デート中だったかな~二人ともごめんごめん」
「いえ、母がいつもお世話になっています。今日も来られる感じですか?」
「ちょっと渡す物があってさ。それ渡したら帰るよ」
少し気まずそうにしている雪だったが、その理由を確定出来なかったのと他人が家庭の問題に口を出すのは間違いだと考えた周平は特に何も言わないまま雪の方が先に最寄り駅に着いた。
「そ、それじゃあ神山君、また明日ね」
「おう、またな~」
この時の周平は雪の表情に対する違和感を気付けなかった。
過去編は全部で4、5話ぐらいで終わらせる予定です。
ブックマーク2000突破しました。完結まで書いていきますので今後ともよろしくお願いします。




