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雪の追憶1

過去編を少し書きます。

 「クソ……忌々しい!」


 誰もいないその一室にて男はイライラしているのか壁を叩いて言う。


 「折角嶋田もいなくなって月島がフリーになったのに……忌々しい奴め……」


 月島を狙うその男にとって先の戦いで嶋田が離脱したのは好機と捉えていた。だが代わりに月島を狙う二組の石川の存在が忌々しかった。


 「このまま分裂できなかったら奴も……化け物だった神山は殺せなかったが奴は普通の人間、それにあれもある……」


 男は不気味に笑う。前に周平を殺そうとしたり、月島を手に入れる為に魔族と取引したりと危険な橋を渡っているだけに男の目論見は止まらなかった。


 「待っていろ……お前は俺が……」



 ◇



 「ふわぁ~」


 会議の翌日の朝、月島は太陽の光を浴びながら景色を眺めていた。ケープヴェルディからはかなり離れたこの場所には魔族から奪取した砦があり、そこを拠点にしている訳だがその砦と隣接するように同じぐらいの高さの高台があり、雪はそこから見る景色をよく見に来ていた。ここは一組の拠点側にあり、朝は二組が来る事もないので安心してのんびりできるのだ。


 「一ヶ月以内に離脱か……上手くいくかな……」


 クラス会議では分かれる事で決まったもののそれがすんなり上手くいくかどうかはわからない。それまでに準備もあるし、その間に二組のメンバーが先手をうってくるかもしれない。嶋田の離脱で統率の取れなくなっており、分裂できたとしてその後上手くいくか等依然不安要素を残していた。


 「周平君元気にしてるかな……」


 そんな心配をしながらも雪は周平と初めて会った日の事を思い出していた。



 ◇



 「学級委員はくじで決めて貰うぞ~」


 入学して間もない頃学級委員を決めるくじがあり、男女一人ずつが選出された。当初は立候補制だったが誰も手を上げなかったので結局くじになった。


 「あっ……」


 雪はそれを見て溜め息をつく。別に大した仕事をするわけではないが、選ばれれば異性の相方と仕事をする必要があった。この段階で何度か告白を受けていた雪にとってはやりたくない仕事だった。


 「くじに当たった人は手を上げて」


 そこで雪は相方が振った男子でない事を祈って手を上げた。


 「女子は月島だな、男子は?」

 「はい」

 「神山だな、それじゃあ学級委員は神山と月島で決まりだ」


 ここで雪はホッとして肩の力を抜く。相方の男子はこの当時一度も話した事がない周平だったが、告白を断った男子よりは遥かに良かったからだ。


 「それじゃあ二人は放課後職員室に来てくれな」


 放課後になり雪と周平は職員室に行き、先生から渡された資料を教室に戻って、各生徒毎に分ける作業をやっていた。


 「神山君とこうやって話すのは初めてだね」

 「そうだな、まぁそっちの話はちらほら耳に入ってくるよ。たくさんの男を虜にする魔性のマドンナなんて呼ぶ奴もいるぐらいだからな」


 この時点でけっこうな人数がアタックしていただけに雪は有名だった。勿論周平は失踪したばっかりの立花が頭から離れず蚊帳の外にいたが、雪と美里は結構な人数が玉砕した。


 「ははっ、そんなんじゃないのに全く困っちゃうな~」


 この時の周平の言葉にイラっとした雪だったが笑いを交えて返す。だがこの直後の周平の言葉でイライラは驚きに変わる。


 「あ、悪いな今イラっとしたろ?もうやめるよ」

 「えっ?」

 「いやその事に関してどう思っているのか確認するのにカマをかけたんだ。今の表情を見てウンザリしてるってのはよくわかったし」


 雪自身顔に出さないように振る舞っていたし、得意な方だった。それだけにそれを言われたのが理解できなかった。


 「私顔に出てた?出したつもりはなかったんだけど」

 「わずかながら一瞬引きつった感じがあったよ。でもまぁあんなに噂されればウンザリだよな~」


 人間観察は趣味の一つでもあった周平は、席が割りと近くでたくさんの男子に囲まれて対応する雪を見ていた事もあり、ある程度は把握していた。


 「ちょっとね~でもなんでカマをかけたの?」

 「昔月島以上にモテていた奴が近くにいてな。そいつも何人も断って話題になってファンクラブできたり色々噂されたりしてたんだ。でもそいつはそれに対して自分ぐらいになればそれは当然で息を吐くぐらいに当たり前の事だと言い切ったんだ」

 「ははっ、それはすごいね……」

 「それで同じように注目されている月島の心理が気になったわけさ。不快に思ったらすまん」


 その時雪が周平に対して自分を見る目が周りと違う気がしていた。告白しにきた人や気がある人は皆雪に気を使うような節があったり胸元を見るような素振りがあったが周平は目を見て話してくる上、媚びるような感じがなかったからだ。


 「ううん、別に大丈夫だよ~そんな事聞かれたのは初めてだからビックリしただけ」

 「まぁ人は顔が七十パーセントなんて言うぐらいだし最初から中身を見ようとする奴は少ないからな。その中身も外見があって初めて見られるぐらいに世の中は残酷だよ」

 「ふふっ、意外と残酷な事言うんだね。でも女子は男子よりは相手の中身を見る生き物かな」

 「かもな、つまり月島のお眼鏡に叶う男子は中身が大事だと言う事だな」

 「ま、まぁそういう事だね」


 この時雪は周平との会話に新鮮味を感じていた。あまり見繕う事なく本音で話してくれているような感じがしたからだ。


 「これで終わりだね~」


 つい話に夢中になってしまった二人だが作業を終えて帰る準備をしていた。


 「すまんな、俺の話に付き合わせてしまったな」

 「ううん、私も楽しかったから」


 ここで雪は周平の事が少し気になったのでとある質問をした。


 「そういえば神山君は好きな人とかいるの?」

 「それは……」


 周平はこの質問で黙ってしまう。この時の周平は立花が失踪したばかりでまだ立ち直れてなかった。暗い表情を見せる周平を見てしまったと言わんばかりにすぐにフォローを入れる。


 「あっ、聞いちゃいけない内容だったかな?」

 「いや、大丈夫だよ。さっき話した女の事だけど俺の幼なじみだったんだ。一緒にこの高校入る予定だったのに失踪しちゃってさ……今も探してるけどもう一ヶ月……現実を受け入れようとしている所さ」


 立花が失踪したのはそれなりに事件になっていたので、雪もそれを聞いてその事件を思い出す。


 「ちょっと前の女子中学生失踪事件……まさか神山君の幼なじみ!?」

 「ああ、家も隣でいつも一緒にいて高校入ったら告白する予定だったんだがな……人生ってのは上手くいかないものだ」


 ここで雪は自分に気がない理由、そして自分同様どこか闇を抱えている事を理解した。それを汲み取った雪は暗い表情を見せる周平に自分の話をしようと決心した。


 「その人はよっぽど大事な人だったんだね、わかるよ……私もお父さんを亡くしてるから……」

 「えっ……」


 雪は中学二年の時自分の目の前で父親を殺された。フードを被った男と思われる通り魔に刺された。公務員として職場で誰からも好かれるような人柄だっただけに私怨での犯行ではないとされて犯人は見つからないまま終わった。死ぬ最後まで娘を護ろうとして死に逝った父を前に無力で何も出来ない自分を恨んだ。


 「そうだったんだ……」

 「うん……それで犯人探そうとしたけど見つからなくて……」

 「探してどうするつもりだったんだ?」

 「殺してやるつもりだったよ」

 「えっ……」


 この時周平もまた雪の中にある闇を見た。微笑ながら殺してやると言った雪のその表情に迷いが一切なかったからだ。


 「まぁ見つからなくて諦めたんだけどね~」

 「そ、そうか。まぁ気持ちはわからなくもない。もしアイツが殺されていたら殺した奴も意地でも探すからな」


 周平のこの言葉にも迷いはないのを確認した雪は周りに隠している本音を明かす。


 「だよね~強い想いと覚悟があれば道徳なんて関係ないって私は思ってる。美里ちゃんに言ったら説教されちゃったけどね~」

 「同感だな、人間は理屈じゃない。大小あれど皆背徳的な行為をしているからな~でもあまりそれを大っぴらに言うのは良くない。杉原とは親しいみたいだからいいけど俺以外にはな。月島のイメージにも影響がでる」

 「うん、神山君ならわかってくれると思って話してるし、基本的には言わないよ。それと連絡先交換しない?」


 立花に未練のあった周平はともかく雪はこの時点で周平の事が気になっていた。本音で語っても理解してくれる事を確信したからだ。


 「クラスのアイドルの連絡先は光栄ですな~喜んで交換させていただきます」

 「もう~からかうと怒るよ~」


 周平が冗談混じりで言うと雪も笑いながら返す。入学間もない頃の二人が仲良くなったきっかけとなった。


 「そういえば月島だけじゃなくて杉原もけっこう人気だよな?」

 「美里ちゃん?なになに~気になるの?」

 「いやそういうわけじゃないけどけっこう噂が入るからさ~」


 美里も美里で当時から人気があり、おっとりしている雪と活発な美里でどっち派だなんて裏で投票されるぐらいだった。ちなみにこの投票は雪が勝った。


 「美里ちゃんは可愛いからね~優しいし元気でリーダーシップもあるから私よりも凄いんだ~小学校から一緒で一番の親友だよ」

 「そうなんだ、なんかホームルームの時に目があって睨まれちゃったから何かしたかなって」

 「あーたぶん私に近付く男子かもって思って警戒したんじゃないかな?ほら放課後二人で学級委員の仕事やるの決まってたでしょ?」


 当時の美里は雪の事を魔性のマドンナとか言ったり変な噂をする男子達に腹をたてており、近付く男子全てに警戒していた。これは強い押しが苦手な雪を配慮しての事だった。


 「なるほど……まぁ現状仕方ないな」

 「ふふっ、明日ちゃんと美里ちゃんに言っといてあげるから」

 「ははっ、かえって敵認定されるかもしれないけどな~」


 美里は雪が当初立花の事を話さなかったので雪が周平と仲良くなった理由が理解できず周平に対して警戒心を出していた。二人が打ち解け、美里が周平を気にするようになるのはもう少し後の話である。


 「きっと大丈夫、神山君なら美里ちゃんとも仲良くなれるよ~」


 次の日から早速美里に警戒されたのは言うまでもない。


ここいらで周平と雪の過去編を入れたいと思ったので入れます。

次話も過去編です。



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