クラス会議
用事を済ませた陣は周平と合流した。
「悪い遅くなったな~」
「もっとゆっくりでも問題なかったぜ。それでクラスメイトの心は開いたか?」
「ああ、俺の想いがちゃんと伝わったよ」
陣は満足気に語る。どうやらちゃんと上手くいったらしい。
「フフッ、それは良かったわ~」
「それでその後クラスの奴らと話したんだけどさ……」
陣はその内容を二人に伝える。そもそも陣は遠征しているメンバーの事で前々から疑問があった。
◇
「石川がクラスを仕切り始めたのっていつからだ?」
陣はクラスメイト達に問い掛けた。そもそも陣や竹中とは別のグループだったし、そこまで目立つクラスメイトでもなかった石川がクラスを仕切る現状は何故起こったかだ。
「私も良くわからないけど陣君が暴れて出ていった後ぐらいから石川君がクラスメイトの一部と行動を共にするようになったんだよね」
「宗田の事があって、丁度その頃から俺達に対して懐柔策をとるようになって若干制限が解除されたんだ」
どこの部隊も一つの部隊の中枢メンバーをまとめて殺した陣による報復を恐れた。結果クラスメイト間の交流をさせたりといった緩和策が出された。
「なるほどな~となるとアイツの異能や素質が一部のメンバーを惹き付けたって事か?」
陣の目ではそんな器のある男には見えなかったのでそれも疑問だが事実今は二組を束ねている。
「隠れた素質?仮にあっても石川君は陣君や神山君と違って凡人に毛が生えた程度でしょ?」
「そうそう、そもそも異能だってAランク止まりだし」
石川の持つAランクの異能は幻想景色、相手に実際と異なる景色を一時的に見せる能力だった。幻術系に近い厄介な能力ではあるが対象が強ければ強いほど効果かなくなる異能で、効力も長くは続かない。
「解放前にいた部隊とかは?」
「どこだったかな……確か……」
「特殊部隊……それもダーレー教団と繋がりがあった危ない部隊だ」
竹中が答える。一時その部隊へ追加配属の話が出ていた竹中は知っていた。
「どういう訓練受けてきたのか気になるな」
教団絡みの部隊は壊滅&解散に追い込んだ。殺した者も複数いるだけに今更当事者を見つけ出すのは骨の折れる作業だ。
「本人もあんまり語らなかったみたいだけど大変だったってのは聞いた。だから陣、月島さんや杉原さんが心配なら行った方がいいかもな」
◇
「とまぁこういう忠告を貰ったよ。前はそこまで目立つような奴じゃなかったから気にも止めなかったがちょっと警戒するべきかも」
「なるほどね~能力的に少し危険な臭いがするわね。私達はともかく月島さんや杉原さんが異能で幻術をかけられる可能性があるわ」
「確かに……だがアイツらにも石川の名前は伝えてある。それにアレもあるし今は様子見さ」
実と九十九を派遣してあるし、そろそろあっちに着くだろう。実の事だからどうせ不憫に思って鍛えるだろうがあの二人が今の勇者達に遅れをとる事はないだろう。
◇
「この先ずっと二組のメンバーと一緒だなんて俺は反対だ!」
「軍の上層部に頼まれたとはいえ、木幡のその判断はどうかと思う!」
一組だけの会議にて今後の方針を決めていたが、二組と行動を共にする事については反対の意見は多く、特に橋本や東とその周辺はその意思を強く見せており最初から荒れていた。
「落ち着けって……わかっているさ、この先もずっと行動する気はない」
「橋本君も東君も落ち着いて」
「ああ、すまん」
周りがフォローして落ち着かせるが、この意思は橋本だけの意見ではない。木幡や雪や美里、橋本の周りは同じ気持ちだ。
「だが今は状況的に別行動は難しい。あの時の戦いの傷も残っているからな」
木幡の言葉に皆苦々しい表情を見せる。
「つまりどのタイミングで別行動にするかってのが問題だね」
「東の言う通りだ、今後どうなるかわからないが少しでも早くそれを実現する為に力をつけて、皆でタイミングをはかりたい」
一部二組と友好的で懐柔されている者も中にはいるだろうが、主軸メンバーは皆反二組。木幡はそれを利用した共通意識の共有と団結が目的だった。
「確かに、となると独自のパワーアップで二組に負けない力をつける事かな?」
「そうだ、先の戦いで敗北したのは俺達の力が足らなかったからだ。二組以上に最終的に倒すべき敵は俺達の今の実力では到底勝てない。この先生き残る為にはもっと強くならなければ……」
「その事なんだけどさ、そもそも軍の人間と行動を共にする必要があるかしら?」
「えっ?」
ここで発言をしたのは田島亜紀、橋本達のグループと仲のいい女子で一つの女子のグループを仕切っている。
「そもそも私達はまだ力が足らないんだから皆で抜ければいいじゃんよ」
「田島それは……」
橋本が止めようとするがそれを振り切る。
「あんたと東が最初に言った事じゃんよ。嶋田が不在な今は二組に飲み込まれかけてる。何も足並み揃えて一緒に行動するより私達は私達なりに訓練して力をつければいい。凄くいい案だと思うんだけど」
田島のその意見に対して一部が頷く。木幡や雪や美里もその考えはなかったのか言葉を一度失う。そもそもついこの間までは嶋田が先導して二組を抑えていたし、呑まれるから完全別行動というのはそもそも発想になかった。
「確かに俺と東でお前らに話してたけどさ……」
橋本は一度一呼吸置くとその案を木幡に提案する。
「こないだ田島達と話しててふと思ったんだ。いい案だと思ってる、これは現状利点のが多い」
「どういう事だ?」
「まず離れられる事でもう一度一組だけで団結がとれるし、気にせず力をつける事ができる。そして時間が経ち、仮に二組が先に魔王討伐してしまった場合にも戦わずに済む。どのみち今のままでは勝てないし、長期の訓練が必要だろう」
橋本の言うことは尤もだった。たが橋本としても今この場でこれを言うのは避けたかった。何故ならこの案がまとまっても今すぐは出れないのとここで話した内容を内通者が二組に言うからだ。
「確かに……だがもし浩二が戻ってきた時に俺達がいなかったらアイツの帰る場所がなくなる」
木幡は親友である嶋田の身を案じていた。だがその意見が全員に通るわけもない。
「確かに嶋田君の事は心配だけど今すぐに離れるわけじゃないし、それまでに戻って来なければそういう事でしょ?帰ってくるかもわからない人をいつまでも待ってても仕方ないし」
田島は木幡の想いをバッサリと斬るかのように自分の意見を述べた。だがそれは反感を買っても文句を言えない内容であり、特に木幡はそれを言われて怒らないわけがなかった。
「田島……お前本気で言っているのか!?」
壁を叩き大きな音が響く。クールであまり大きく声を荒げる事のない木幡だけに周りも驚きを隠せない。田島はここで初めて言葉を選ばなかった事に後悔する。
「浩二は責任を感じて自分を犠牲にして俺達を逃がしたんだ……お前にそれが出来るのか?誰のお陰で今があるんだ!?」
木幡は続けて言う。当然怒っており、木幡に言い返す言葉もないので下を向いて黙る。橋本や東も嶋田が身を呈して自分達を逃がしてくれた事は重々承知なのでこの案を出した時点で引っ掛かる嶋田の事は言えなかった。
「まぁまぁ、落ち着いて木幡君」
「そうよ、田島の馬鹿には後で言っておくから怒りを鎮めて」
不味いと思った雪と美里が慌ててフォローに入る。
「そうそう、田島も離れたい気持ちはわかるが、それは人道を無視する事になるからな」
「済まない木幡、彼女も二組に嫌がらせを受けてそっちの気持ちが強いんだ」
橋本と東もフォローに入る。今ここで割れたらそれこそ二組有利に話が進んでしまうのは木幡も分かっているので、怒りを一生懸命抑えて一度大きく深呼吸をした。
「こっちもすまん、浩二の事でついカッとなった。今大事なのは考えを共有してまとめる事だ」
「ええ、田島の意見も踏まえて一組全体の意見として離れるって事で話を進めましょう!」
「となると今すぐとは行かないけど近い内にでるって事でいいよね?」
雪が言うと周りは頷く。仮に反対であってもここで反対意見を言える雰囲気ではかいので誰も言わない。
「決まりだな、後で軍の上層部にクラスの意見として伝える。浩二の事は……考えておくさ」
木幡としては嶋田が戻ってくるまで待っていたいのは本音だったが、ずっと戻ってこない可能性も考えなくてはいけないのも内心では理解していた。仮に出るなら自由に探しに行くことも出来るのでそっちの方向でも良いと考えていた。
「具体的な日程はどうする?」
「日程はある程度決めておきたいね」
橋本と東が言う。だが軍の上層部から引き留められる可能性もあるので具体的な日程を決めるのは難しかった。だが決めないでズルズルいってしまったらこの決定が意味を成さなくなるのでそれは避けなければならない。
「そうだな……軍の上層部から引き留められてズルズル行ってしまわないように一ヶ月以内に出たいな。その間に各自準備をしていく感じでどうだ?」
出た後の生活基盤を安定させる為の事考えれば準備する事はたくさんある。橋本や東達独立推進派からしても猶予としては納得できる期間だった。
「一ヶ月か、準備を考えれば丁度いいな」
「だね、田島もそれで納得かい?」
「いいんじゃないかな、たださっきあんな事を言ったけど嶋田君の事を待つか待たないかはちゃんと考えるべきかなって。勿論安否が確認取れてないしずっと待ち続ける事は出来ないけどある程度は考えるべきかなって」
田島はさっきの事で反省したのか嶋田を気にかける発言をする。
「それに関しても別れた後探すというのも考えているからとりあえず一ヶ月という方針でいこう」
「わかったわ、そのさっきはごめん……今までクラスの為にやってくれた嶋田を簡単には見捨てられないわ」
田島は木幡に謝った。
「気にするな、こんな時だし皆大変なんだ。勢いに任せて言い過ぎちゃう事もあるさ」
木幡もそれ以上は責めずに大人の対応で終わらせる。本当はもっと言いたい事もあったがこの場で責めても何も始まらないと理性を働かせた。
「それじゃあ会議はここら辺で一旦終わりにしましょう」
こうしてクラス会議は終わった。だが今回の決定はこの段階で言うべきではなかった。それを後から思い知るのだがそれは先の話だった。
◇
「何!一月後にクラスごと脱退?」
「らしいぞ、そういう報告を受けた」
その会議の後の夜、石川を含む二組の上層部はその話を耳にした。
「どうする?」
「ならこっちも行動をしないといけないな……」
石川は不気味な笑い声を見せる。
「あいつらが離れる可能性は元から考えていたからな。ただそれならこっちにも考えがあるってだけの話さ」
雪を狙う石川だけに易々と抜けさせるつもりはなく、クラス同士の攻防が始まろうとしていた。
次もクラスメイトの話の予定です。




