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陣の励まし

陣を裏切ったクラスメイトの話をどこかでいれておきたかったのでここでいれました。

 「話は以上だ」

 「うむ」


 俺がそれを告げるとホッとしたような表情を見せる。対魔族との戦争を止められる事を危惧していたのだろうか。戦争関連の話の時は特に真剣な顔をしていた。


 「また何かあればこっちから出向くしそちらから何かある場合は遠慮なく言うといい」

 「わかった」

 「せいぜい滅ぼされないように気を付けるんだな~」


 陣の言葉に対して良く思わなかった大臣の一人が我慢できなかったのか、ここでつい口を滑らせてしまう。


 「ちょっと前までは一人の駒だったくせに良く言いよるわ……」

 「あっ!?」


 陣はその言葉を聞き流さなかった。王の間全体を威圧し、言葉を発した大臣を睨み付ける。


 「うっ……」

 「死にたいか?」


 陣のそのオーラを直に受けたゼラ達は冷や汗をダラダラと流し、一つの事実を突きつけられる。それは怒らせたら簡単に死が訪れるという事だ。


 「ハハッ、そうカッカするなって~」

 「そうよ、取るに足らない蠅の戯れ言をまともに取り合ってもキリがないわ」


 俺と立花で陣を宥める。まぁこうなるのを見越して陣を連れてきたというのもあったりする。陣がこういう風に威圧すれば奴らは勝手に恐怖するし、陣に対しては何をされても仕方ないというのは嫌でも把握している。陣に対してやった仕打ちを考えれば生きている事自体がおこがましい。


 「そうだったな、すまない二人とも。まだコイツらに対する殺意が消えなくてな~」


 陣は威圧を解く。


 「お前等も口を慎む事だな。俺達に不都合な事をしたらいつでも消す事が出来る……それを忘れるな!」


 三人は王の間を後にした。



 ◇



 「やり過ぎよ陣」

 「ごめんね立花ちゃん、ついカッとなっちゃった」

 「気にするな、むしろいい脅しになったよ、ナイス」


 むしろそれを少し期待して連れてきたから本当にナイスだ。俺達が頻繁にあれをやるとただの脅しになるが、陣がやる場合は別だ。陣にはそれをやる権利がある。連邦で酷い扱いを受け、今でも陣同様に恨んでいる者は他にもいる。


 「ハハッ、まぁ脅しはしても流石にいきなり手をかけるような事はしないよ。アイツらを生かしている意味がなくなるからね。それとまだこっちにいるかな?ちょっと行くとこがあるから少し別行動で」

 「オッケー、立花と街でブラブラしてるわ」

 「私も構わないわよ~行ってらっしゃい」

 「ありがとう!」


 陣は俺達と別れて城の中に戻っていった。陣が何しに行ったのか何となく想像できたがそこは敢えて何も聞かない。ただ一つ言えるのはアイツが優しい奴だという事だ。



 ◇



 「よっ!」

 「じ、陣君!?」


 陣は残留したクラスメイトの元を訪れていた。


 「久しぶりだな~皆元気か?」

 「今は落ち着いたよ、自由になったし前のように何かを強いられる事はないし」


 陣のクラスメイトの一人倉橋早苗が言う。陣の元に残ったクラスメイトか集まる。


 「宗田には感謝してるよ。誰が何を言ったって宗田のやった事は俺達を助けたんだ」

 「遠征した奴らはともかく俺達は神山君や陣君がやろうしている方法で地球に帰る。帰れなかったらその時はその時だけどね~」


 二組の半数の生徒は遠征する事を辞めてこのファラモンドに残った。そしてこの半数の大体は前から陣を慕っていたメンバーでもある。


 「ハハッ、皆の為に頑張るよ、それでアイツは何処にいる?」


 その言葉を聞いてクラスメイトは皆表情が暗くなる。陣の言うアイツとは陣がこうなる要因となった張本人。勿論拷問に近いような尋問を受けた事で言うことを強要されて自白してしまったというのが事実としてあるので陣も恨んではないし、他クラスメイトも同情していた。


 「うん……部屋にいるよ」


 倉橋が力のない声で言う。そのアイツは自白した事で陣が酷い目にあった事の罪悪感と自身も自白した事で心の弱さを指摘され、更に厳しい仕打ちを受けついにはメンタルを病んでしまったのだ。ファラモンド陥落後陣はそれを目の当たりにして怒り、それをやった者達全員に厳しい処罰を与え、責任者クラスの者はゼラ達上層部に見させた上で廃人にした。それを見ていたゼラを含んだ上層部のメンバーは陣に恐怖したのは言うまでもない。


 「そうか……そんじゃあちょっくら会いに言ってくるわ~」

 「陣君……」

 「皆、アイツの事責めないでやってくれな。アイツはこの国の……そして勇者召喚の被害者なんだ。アイツは何を悪くないんだ」

 「うん……わかってる。だから頼んだよ」

 「任せとけって~」


 陣はその場を後にしてアイツのいる部屋に向かった。ファラモンド陥落後に一度会いに行ったきりだが少しは立ち直って元気だと信じたい。そんな事えを考えながらハイフライヤー城の中の一室に向かう。


 「さて、どういう顔して話そうかな……」


 アイツが陣に対して抱いている感情は後悔と恐怖と懺悔。後悔は自白した事で陣と自身に対して酷い目に合い、恐怖は陣が覚醒して暴れた現場に居合わせて連邦の兵士達を殺す現場を見た事、懺悔はそれらを合わせてだった。


 「俺はアイツを立ち直らせないといけないんだ。だから今日はアイツに勇気を与えたい」


 部屋の前に辿り着いた陣は一度深呼吸をしてから中に入る。


 「入るぞ~」


 中に入るとアイツ、竹中治人がいた。陣と目が合うと気まずそうな怯えた表情に変わる。


 「じ、陣か……」

 「よっ、元気か~」

 「う、うん……」


 どんどん竹中の表情が暗くなる。そんな竹中を見て陣は何とかしようと頭を働かせる。


 「暗い!」

 「えっ……」

 「外に行くぞ!」


 陣は竹中を無理やり引っ張り部屋から出す。


 「ち、ちょっと……」


 部屋から出した後は引っ張りながら天魔モードの両翼を出し窓から飛んで城の屋根の上に連れていった。


 「やっぱり話すなら明るいとこだな~」

 「い、いきなり強引だよ~」

 「でもこうでもしなきゃお前を部屋から引っ張りだせないからな~」


 あのまま部屋で話しても殻に籠ったままだと考え、逃げ場のない城の上まで連れてきたのだ。


 「改めて久しぶりだな~」

 「う、うん、陣は元気そうだね」


 竹中治人、二組では陣とつるんでおり、性格は活発な方でクラスの主軸メンバーの一人だった。勇者召喚後も陣と共にクラス全員を逃がそうと画策して協力していたが、それが怪しまれたある日拘束され、拷問に近い尋問を受けて自白した。結果首謀者である陣が拘束されて拷問に合い、自身もその事で酷い目にあった。


 「当然!治人はまだまだ元気なさそうだな」

 「あんな事があったからね……皆に合わせる顔もないよ」


 昔はもっと元気があった竹中をこんな状態にした連邦には殺意がほとばしる。


 「そうか……まぁあんな事があったもんな~」

 「うん、陣にも酷い事をしたし……」


 酷い事か……確かに酷い目にあったが、結果陣は親友の隣で同じ景色を見ることが出来ているので特に気にしていない。だからこそ、その事をずっと気にしたままにしてほしくなかった。


 「なぁ治人、もうそれやめようぜ」

 「えっ?」

 「もうそれ気にするの禁止!それと引きこもりもな!」


 前は竹中の精神状態を考えて触れなかったが、もう終わりにしたかった。


 「でも……」

 「でもじゃないんだよ、俺がいいって言ったらいいの!それと俺は拷問受けて暗闇の牢獄の中に囚われたけど、結果皆を解放する力を得た。周平達が来ていいとこ持ってかれたけど、それでもあの時得た力は結果的に皆を解放するに至ったんだ。お前のやった事は確かに褒められた事じゃないけど、それでも当初の全員を解放する計画は達成された。つまり俺達は目的を果たしたんだ」


 実際あの脱走計画で全員を助けるのはまだまだ難しかった。だけど竹中のやった行動は陣の力を得るきっかけとなり、結果的に全員の解放に至った。


 「でもそれは結果論じゃ……」

 「勿論過程も大事たけど結果が良ければよし!だからこそお前に言いたい事がある」

 「言いたい事?」


 陣は竹中をどうやって立ち直らせようかずっと考えていた。色々考えた結果それに辿り着いた。


 「ありがとう」

 「えっ?」


 突然陣が頭を下げて感謝の言葉を言ったので竹中は何の事か分からず困惑してしまう。


 「これがファラモンド陥落後からお前に伝えたかった俺の気持ちだ」

 「ど、どうして……そんなのおかしいよ!俺は陣に感謝されるどころか……」

 「色々あったよ、だけど俺達はこうして生きてる。それに結果的に今俺はとても充実してるんだ。なのにそのきっかけを作った仲間であるお前だけそんな風にくすぶってるのは不公平だと思うんだ」


 陣が竹中に感謝する行為は当て付けのように聞こえるかもしれない。だけど陣は決してそんなつもりで言ったわけではない。何を言おうか考えた結果自分の思う本音を言うことにしたのだ。


 「だって……俺のせいでその姿に……そりゃ強くなっただろうけど……」

 「この翼か?気に入ってるんだぜ。空も飛べるしカッコいいじゃん?」


 陣は笑いながら竹中に問いかける。そして竹中は陣のその屈託のない笑顔を見て確信する。


 「俺……ずっと陣の事気にしてたんだ……俺のせいで拷問受けて幽閉されて人間辞める事になっちゃたから。俺があの時心が強ければ陣は俺達同様人間を辞める事なかったのにって。でも陣のその顔を見て確信したよ……陣は今の自分の状況を楽しんでいて全く悲観してないって」

 「だからそう言っているだろ~最近色々忙しいけど充実して楽しいんだ」


 竹中は涙を流し始める。ずっと陣の事で罪悪感があり、解放後も皆と関わる事が出来なかった。だがそれは陣の想いによって紐解かれたのだ。


 「わかった、もう殻に閉じ籠るのはやめるよ!」

 「ああ、治人もやりたいように生きて楽しもうぜ!」

 「うん、ありがとう……陣と友達で本当に良かったよ、これからもずっと友達でいてくれるかな?」

 「当然だ、もちのろんさ!」


 陣が手を出すと竹中もそれに応えて握手をする。手を出した竹中の表情は明るく、それを見た陣も満足気な表情だ。


 「これからどうしようかな。残った皆が何かやろうとしてるみたいだしそれに混ざろうかな」

 「おう!そうと決まれば皆の所に行こうか」


 陣は竹中の手を掴んだまま飛んでクラスメイトの元に向かった。陣が空から来るとクラスメイト達はそれを温かく迎えたのだった。


次はクラスメイトの話の予定です。

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