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勇者の休息

 「身体は良くなったようだな」

 「お陰様でね、ありがとう」


 嶋田はミラーとフィジーによって介抱され傷を癒した。


 「ふむ、では早速君を鍛えようか」

 「鍛える?」

 「そうだ、今君が向こうに戻っても足手まといになるだけだからのう」


 ミラーにそれを言われると嶋田は悔しそうな表情を見せて拳を強く握る。だが何も言い返す事が出来ず現実を受け止める。


 「……悔しいが何も返せない。今必要なのは力だ……どのみち今戻ったとしても俺は避難されるだろうからね」

 「わかってるじゃないか~それは評価に値するよ」

 「冷静になって考えた結果だよ。反発してくるメンバーを抑えてケープヴェルディの戦いに臨んだんだ。今戻ったら敗北の責任をとらされ、俺の言うことを聞かないメンバーはより増え、分裂は不可避。それだったらリーダー的ポジションだった俺がいない方がかえってまとまるさ。帰ってこない奴に責任をつけさせた上で建て直す為に協力しようという風にさせたいからね」


 魔大陸に入ってからもリーダー的なポジションでまとめてきた嶋田だが決して楽ではなかった。反発するメンバーを抑えつつ折り合いをつけてきたのだ。二組のメンバーは連邦の方針で辛い訓練を強いられてきた事もあり、魔大陸に遠征しているメンバーは心身共に強い事もあり、ぬるま湯に浸かっていた一組のメンバーを見下すような場面もあったのだ。


 「なるほど、そこまで頭が回っていたとは少し見直さざるを得ないのう。流石は勇者のリーダーか」

 「ハハッ、今はこの様だけどね」

 「さて、早速お主を鍛えるとするかのう。その前に言っておくが我々は魔女、だから鍛えてお主の魔法を底上げする。そもそも第八位階魔法を使えなければ魔王軍幹部以上と戦うのは難しいからのう」

 「あの化け物じみた威力を持った魔法……どれぐらいで習得できる?」

 「フフッ、それはお主次第じゃがその前に……」


 ミラーはニヤけながら魔法で嶋田を拘束する。


 「な、何を……」

 「私はお前の師匠になる、その口の聞き方はどうなんだい?」

 「く、苦しい……」

 「確かに鍛えると言ったが、礼儀の知らん男を鍛えるほど暇じゃないよ」


 拘束しながら鋭い目で嶋田を睨む。


 「わ、わかった……いや、わかりました。よろしくお願いします」

 「それでいいんだよ」


 ミラーは納得したのか嶋田の拘束を解く。横で見ていたフィジーがクスクスと笑っているが、これは自身にも昔覚えがあるからだったりする。


 「それじゃあ早速魔力を身体で意識するところからだよ」

 「意識する?」

 「そうだ、フィジー!」

 「はい」


 フィジーが身体で魔力を意識すると身体からオーラのようなものが纏われる。


 「これは?」

 「驚いたかい、これは魔力さ。魔力をあげる一番の方法は身体と魔力を同化させる事にある。魔法における戦いは魔法の効率よい発動と魔力の量と使い方で決まる。大抵の者がそれを意識しないまま一生を終える」

 「これだけで魔力が上がるんですか?」

 「これだけ?魔力を身体に纏わせるのは生半可な事じゃないよ。確かに魔力のない才能のない奴でも鍛練すればここまでの領域に辿り着くのは不可能じゃない。だが魔力が一定以上じゃなきゃ纏わせる事もできないからね」

 「自分はその一定以上の魔力は持ち合わせているのでしょうか?」


 嶋田が質問をするとミラーはその問いに対して即答せず少し考えて答える。


 「そうだね……ここは言っておかないとね。ハッキリ言ってよくその程度でよく魔王軍幹部と戦ったなってのが感想さ」

 「そうですか……自分達でこれだとそもそも先代以前の勇者達がどうだったのか純粋に気になりますね」


 ハッキリ言われてしまいショックを隠せないのか暗い顔になる。だが嶋田はそれを聞いた事でそもそも勇者が魔王を倒す事が不可能なのではと疑問が生じる。


 「歴代最弱だから仕方ないのう。だが悲観する事はない、お前の素質は悪くないし私が教えれば最強の初代勇者以外とはひけをとらない実力を身につける事ができるだろう」

 「初代勇者は見た事があります。反応できない速度で刀を抜いていましたね」

 「おおっ、会った事があるのか。初代勇者はな加護に頼らずとも元々特殊な力を持っている。それが初代が別格という言われる要因の一つだ」


 初代の召喚にあたっては特別な才能を持った者を対象に召喚されたという経緯がある。初代召喚はガルカドール卿の力を恐れた偽神達が裏で糸を引いており、倒す事よりも魔王軍を悪と認識させて、追い出すつもりで考えていたからだ。


 「ミラーさんは全ての勇者を知っているのですか?」

 「初代から先代までは皆会った事があるからのう」

 「ではミラーさんは他の代でも教えていたのですか?」

 「こうして弟子にしたのは初めてじゃよ。そもそも初代のお前が見た天竜院実は私よりも強い、二代目のペア、三代目や四代目も会った奴は皆個性派だったのう」


 ミラーは懐かしそうに語る。


 「皆俺より強かったんですね」

 「ああ、だがこれから強くなる。尤もそれはお主次第だがな」

 「よろしくお願いします!」


 この日から嶋田の鍛練が始まった。



 ◇



 その頃撤退が無事済んだ勇者達は自陣まで戻っていた。


 「浩二……」


 クラスメイトの一人木幡竜也は嶋田の身を案じていた。それと同時に後悔していた。


 「竜也、君まで離脱する事になれば一組は終わる」

 「だがお前がいなくなれば……」

 「これは俺の責任さ、それに俺がおめおめ残っても亀裂はより決定的になる」


 木幡は嶋田が犠牲になると決めた時点で強く反対をしたが自分の責任と言い放った嶋田を止める事が出来ず他のクラスメイトと共に撤退。


 「くそっ!」


 木幡は何より親友を犠牲におめおめと撤退したのを頭に浮かべ、自分に嫌悪感を抱いていた。


 「木幡くん」

 「月島か、どうした?」

 「二組の石川君が話があるって」

 「石川が……わかった……」


 木幡はその名を聞いて苦々し気な表情を見せてその場を去る。


 「きっと嶋田君は生きてるから!だから信じよう!」


 雪が去り際に言う。月島自身も木幡がここで踏ん張らなけば崩壊する事はわかっていたからこそ身を案じて励ましの意味で言った。


 「勿論だ!ありがとな」


 そして去った後外の森を一人眺めながら考え事をしていた。


 「周平君……」


 こんな時周平ならきっと上手く立て直すんだなと想像していた。雪が信頼を置くのは周平、美里、陣の三人だが中でも周平は特別だった。


 「何考え事してるのかな~」

 「ヒャッ!」


 後ろから美里がやってきて胸を揉み始める。


 「どうせ周平君の事考えたんでしょう?周平君ならこういう時はこうして~なんて想像してたでしょ?」

 「せ、正解だけど胸は止めてよ~」

 「雪はわかりやすいな~」

 「ハハッ、美里ちゃんには敵わないな~」


 美里は雪の隣に座り込む。


 「嶋田君心配ね、生きてるといいけど……」

 「そうだね……嶋田君が抜けた事で大きな穴が出ちゃったし、今後どういう方針で行くのか……」


 雪は不安気な表情を見せる。


 「二組のしつこいのも雪により言い寄って来るでしょうね。特にあの石川君、一度分かれて進んでたのに合流したらかなり絡んできたし」


 雪も美里も人気があるせいか二組が合流してからは二組のメンバーからアタックを受けていた。特に二組のリーダー格である石川隆文はしつこく、嶋田が一生懸命ガードをしていた。


 「ちょっとね……だからこうやって想像して現実逃避をしていたんだ」

 「わかるよ、私も二組が合流してやりにくくなっちゃって、一組の中でも分裂考えてるのもいるっぽいしでどうしようかなって感じ。あの時周平君にクラスの為に残るって言ったのもミスだったかも……ごめんね雪」

 「ううん、地球への帰還だってあるんだし仕方ないよ。それに美里ちゃんがいなかったら今頃とっくに分裂していただろうしさ。周平君との約束があるし頑張ろう!」


 美里は雪のその言葉を聞いて、ファラモンド陥落後陣も交えて四人で話している時、周平が二人にとある提案をした事を思い出す。


 「一緒に来ないか?」


 周平からのその提案は当然と言えば当然だ。この後二人が周平と交わしたとある約束の事を考えても一緒に行動した方が都合がいい。勿論二人はこれを言われた時はどうするかかなり迷った。雪は一人であれば確実にその提案に乗っただろうが、美里を一人に出来ない。美里も本音はこの提案に乗りたかったが、クラスメイトとの事や地球への帰還を考えてそれを断った。勿論それにはとある理由があるわけだが……


 「ごめん周平君、今すぐにフェードアウトはできない」

 「そうか……」

 「雪はどうする?好きな方でいいわよ、今すぐ周平君に付いていっても私は全然恨まないし自分の行きたい方でいいわ」

 「美里ちゃん……」


 美里のこれは勿論本音だ。そもそも残る選択をしたのは自分であり、それを雪に押し付けるのはおかしな話。寂しいという気持ちは嘘ではないが雪の気持ちを尊重しようとしていた。


 「待て、片方だけ来るなら二人とも無理矢理でも連れていくぞ」

 「周平言う通りだ。ただでさえ二人でも不安なのに一人になんか出来ないよ」


 周平も陣も片方だけ連れて片方残すという選択肢はなかった。


 「周平君も陣君もダメよ、ちゃんと雪の考えも尊重しないと」

 「美里ちゃん……でもそれじゃあ雪ちゃんが残らない選択をしたら一人に……」

 「まぁそうだな、雪どうする?」

 「私は……」


 雪はそれを聞き戸惑うが三人はプレッシャーをかけまいとフォローする。


 「ハハッ、別に俺か美里か選べって言ってるわけじゃないから深く考えなくていいぞ」

 「そうそう、何かあればすぐに駆けつけるし」

 「そうよ、今分かれてたとしてもいずれは合流する事になるし。ただ私と一緒に残れば再度合流するまで大変な思いをするかもだけどね」


 美里はこの時雪の為を思って周平の方に行かせようとした。と言うのも周平が最初に命を狙われたのも雪が原因だ。となれば雪を巡って誰かの命を狙うという事態が起こりかねないと考えたからだ。


 「美里ちゃん……」


 雪は周平達の方に行きたかったが美里が残るのを決めた事で揺らぐ。美里は同性では一番にして唯一の親友。そんな親友を一人に出来る訳がなかった。周平や陣は周りをひれ伏せる強さを持ち合わせているが美里はそうではない。結果的そういった面を考え雪は美里と共に残る選択をした。


 「私も残るよ。美里ちゃん残したら後悔するし、途中で拉致するように頼むの目に見えてるから」

 「本当にいいんだな?」

 「うん!でもちゃんとあれは果たしてくれるのが前提だよ!」

 「勿論さ、命に変えてもそれは果たすさ」

 「大丈夫だよ雪ちゃん。もし周平がすっぽかしそうになったら、ぶん殴って引きずってでも果たさせるさ」

 「ハハッ、こりゃすっぽかせそうにないな~」


 この時点で最初から周平に付いていっていればまた違った選択肢があったに違いない。だがそれは考えても仕方のない話。


 「そうね、ありがとう。そうと決まればもう人踏ん張りね」

 「うん!私もサポートするから一緒に頑張ろ!」

 「それじゃあそろそろ戻りましょうかしら?木幡が石川君と話してるだろうし」 


 二人は陣営へと戻っていく。この後の方針決めの会議が荒れる事になるのをこの時の二人はまだ知らなかった。


この章は勇者達の話メインです。

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