アーシアの帰還
「やぁ三人とも、特にアバーナントは何百年ぶりだい?」
「フフッ、会うのは本当にお久しぶりですねロードリオン」
ロードリオンが夢の世界で語りかけてきた時に図書館の事をロードリオンに話しておいた。
「久しぶりにのんびりお茶でもしたいけどそんな暇がないのは残念だね」
「ですね、色々と研究をしていたのでその成果の話のしたいところですが……」
「フフッ、二人とも全て終わったら好きなだけ話せるわ。だから今はその為に会議をしましょうか、九兵衛さんがいなくなった以上今後の方針を決める必要があるわ」
「そうだね、ただ今回はペブルスに行っているアークルやレダ達は不参加かな。夢で語りかけたら今はかなり忙しいみたいでね。まぁ進捗は順調みたいだからいいけど」
シンとレダさんならヤバそうなら援軍を頼むだろう。そもそも抜け目のない二人だし順調なのは当然といえば当然だが。
「そうか、なら会議のメンバーはこの四人に直樹、エミリア、実、九十九に陣だな」
「了解、全員に伝えてからだから会議は昼食後にしようか」
一度部屋に戻った後は参加メンバーに声をかけて回った。そして最後となった陣に勇者達の話を聞いていた。
「勇者達が大敗しただと!?」
「ああ、冒険者達から聞いたんだ。ケープヴェルディでの戦いで勇者達が魔王軍と交戦、勇者達は敗れた」
「それで勇者達は?」
「負けはしたがうまく撤退したらしい。何でも誰かが敵を引き付ける形で逃がす事が出来たとか……」
そうか……勇者達は大敗したか。雪や美里は今のところ問題ないだろうがどうなるだろうか……
「そうか、大敗という事は、魔王軍は幹部クラスを何人か派遣したんだろうな」
そうでなきゃ勇者達が大敗するとは思えないからな。
「だろうな……やはり雪ちゃんと美里ちゃんだけでも早く……」
「慌てるな陣、あそこに残ったのはあの二人の意志だ。勿論それを踏まえて対策はしてある。そこはお前にも話しているはずだ」
「ああ、勿論それはわかっているさ。ただクラスメイトがあの二人に何かするかもというのは一緒に行動している以上リスクとして存在する」
それに関しては俺も懸念しているところではある。だが嶋田あたりがその抑止力になるだろうし、何よりそうなればあれが発動して虫の知らせが届く。そうなった時点であの二人をあそこから引き抜く事にもなっている。
「そこは確かに心配だが、クラスメイトと共に遠征する事を決めたのはあの二人だ。その時点でそのリスクは向こうも重々承知なはずだし、無理やりという訳にもいかないだろ?」
「そうだな……それであれはいつなんだ?」
「時期出来る、だからそれまでは慌てずに待つしかない」
陣としては早く二人をこっち側に置いておきたいのだろう。だがそれでは二人の意志に反してしまう。出来る限り二人の意志を尊重してあげたいからな。
「そうか……まぁ俺はお前を信用している。それに最悪の場合は代わりに俺がいくさ」
「ああ、俺の代わりが務まるのはお前ぐらいだからな。もし俺が助けにいけない時はお前に頼むさ」
「ハハッ、まぁでも二人とも……特に雪ちゃんは俺じゃあ不服だろうけどな~」
雪はある一件から俺と特別な信頼関係がある。陣の事も俺の次ぐらいに信頼はしてるがあの時の約束からして陣では内心納得しないだろう。まぁ雪だけでなく美里とも前に色々あったが……
「代わりは務まるとは思うけどな~まぁ約束した以上命をかけてそれを果たすさ」
「頼むぜ、俺はまた四人で馬鹿やったりしたいんだ」
陣にそれを言われるとこっちに来る前の事が頭に浮かぶ。立花の事もあって高校に入ってから意気消沈していた俺を立ち直らせてくれたのが陣と雪と美里だった。俺にとってかけがえのない三人だ。だからこそ……
「勿論さ、もし二人に何かするやつがいたら容赦はしない。クラスメイトであれば殺す事も躊躇はしないさ」
その時だった。
「むっ……」
何か大きな気配を感じ取った。俺と同等とも言える強大なオーラ、そしてこのオーラには見覚えがあった。
「まさか……」
早い速度でどんどん近付いてくる。探さないといけないと思っていたがまさか向こうから来てくれるとは。
「おい、周平このオーラは?」
「どうやら眠り姫がこっちから出向いてくれたようだ、お出迎えに行こうか」
◇
「ロードリオンに立花に図書館か、三人もお出迎えの準備か?」
街の正門とも言える入り口の前に行くと三人が既にいた。
「あら、遅かったわね。少し気を抜きすぎじゃないかしら?」
立花は少しピリピリした表情だ、だが先の大戦での俺の死の事を考えれば仕方のない話だ。交渉の席で盛大な裏切り行為を受けたエミリアや師匠であるガルカドール卿の死に繋がった事で良い感情を持たないレイチェルなんかも同様だろう。
「そこまでピリピリする事もないさ、なぁロードリオン」
「僕はそうでもないよ、事情も全て君から聞いているからね、ただあの時の事を考えれば致し方ない。二十柱と言えど感情はあるからね」
俺を失った立花は実質一人で当時のファロス帝国を半壊させている。あの時アーシアの中に巣食う最高神である奴を完全に消滅させた結果俺も死んだがアーシアも封印状態になり本来なら当たるべきアーシアに当たる事が出来なかったから余計だろうな。
「確かに……だが今回は大丈夫だろうさ。今度こそアーシアは俺達の力になってくれるさ!」
その為に俺やガルカドール卿は命をかけた。そして中に巣食う奴を完全に追い出す事に成功したんだ。全てはこの時の為と言っても過言ではない。
「空から来たよ、何人か引き連れている様だね」
見た感じ椿とダルジナを連れている様だがもう一人は確か……
「よいしょっと!」
「随分と派手な登場だねアーシア、人の目に入ったんじゃないか?」
「お久しぶりです!姿を消して高速で移動したので大丈夫ですよ~」
アーシアはにっこりと微笑み手を出す。それを見た立花は少し複雑な表情だ。ここは俺が温かく迎えるべきだろう。俺の事で良く思ってない奴らはこれで少しは納得擦るだろう。
「よっ、元気そうで何よりだ。久しぶりだなアーシア」
スマイルで返し手を握って握手をかわす。だが俺の顔を見ると早速申し訳なさそうな表情を見せる。
「し、周平君……私貴方に……」
「ハハッ、気にすんなって。それにこうして再び会う事が出来た。力も互いに取り戻した訳だし結果オーライじゃないのか?」
かえって逆効果だったかな……まぁあれで負い目を感じないのも無理な話か。
「周平君……君のそういう所はやっぱり凄いね。うん、久しぶりだね。あの時は本当にありがとう!周平君シンさんガルカドール卿……三人には頭が上がらないよ」
「ガルカドール卿もそこまで気にしてないさ、むしろ復活したらこうしてまた手を取り合う姿を見て喜んでくれるさ」
あの人もきっと同じ気持ちなはずだ。何しろその為に俺達は命をかけたんだからな。
「うん、改めてよろしくお願いします!二十柱が一角、大天使アーシア・フォン・レイルリンク、周君の組織に入って共に戦いたいです!」
アーシアが意気揚々と言うと立花か横から出てきた怪訝な顔でアーシアを睨む。
「おい、立花……」
「立花さん……」
立花が睨んだ事でアーシアも思わず顔を反らしてしまう。俺の事もあるし立花にも負い目を感じているのだろう。
「久しぶりねアーシア、悪いけど私は貴女に対していい感情を持っていない。正直に言うけどあの時周平を失った私は気が気でなかったわ。旧ファロス帝国で大虐殺までしちゃったのは今でも反省する所だけど、私は貴女に対して懸念があるわ」
早速立花が突っかかる。だがガルカドール卿、シン、俺とアーシアを助ける為にここまでの犠牲を払ったのは事実としてある。あの時アーシアごと偽神を倒せば大天使の復活は当分先となっただろうがそれでも偽神全てを殲滅出来ただろう。どっちが良かったかと言うのは今となってはわからない。この百年のお陰で陣が二十柱となったし最終的に全ての二十柱を確立させるという意味では俺達がアーシアの為に犠牲を払ったのは大きい。
「立花さんの言うことは尤もですしそれついては私が弱かったからです。そのせいで三人もの犠牲を出し今に至っています。だけど周平君やシンさんにガルカドール卿の犠牲は今私がこうして剣を共に取る為だったと私は解釈しています。大いなる二十柱の確立と偽神の殲滅は私達の共通の目的であり悲願。今すぐに過去の事を払拭できるとは思ってませんし、私としてもまだ許される身分ではない……だからこそ共に剣を取ってあの時の償いをしたい!だから私が共に戦う事を許して欲しいです……お願いします!」
アーシアは真っ直ぐな目で立花に訴えかける。気持ちのこもったその表情には戦う事に対する一切の迷いがないのは言うまでもない。さてこれで立花がどう思うかだな。
「それが貴女の出した答え……わかったわ……」
立花は手を出し、アーシアと握手をかわす。
「立花さん……」
「偽神の殲滅には二十柱が一丸となってやらないといけないわ。そしてその為には貴女の力が必要不可欠……よろしく頼むわよ!」
「立花さん……ううっ……ありがとうございます!共に偽神を倒しましょう!」
「フフッ、そんなに泣く事はないわよ」
「だって……私ずっと立花さんに負い目を感じてて……」
「もう過ぎた話よ、だから共に頑張りましょう」
きっと立花の事だから何かあったらこの件を盾にアーシアをゆするんだろうな。力はともかく女としては立花の方が強いからな。うちの嫁は恐いぜ。
「あなたが二代目大天使ですか」
「あなたは?」
「お初にお目にかかります。二十柱が一角、図書館、クリストフ・アバーナントです。以後お見知りおきを」
「あ、これはこれは初めましてよろしくお願いします。前に周平君達から話は聞いております」
アーシアは丁寧に頭を下げる。
「あ、一応俺もですかね。ええっと二十柱が一角、天魔、宗田・アロゲート・陣です。なったばっかの新米ですがよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします!」
「さて自己紹介も終えたし、椿やダルジナも疲れてるみたいだから行こうか~アーシアと椿はこの後の会議に出てな」
そのまま話を終えて戻ろうとすると、殺気を感じた。あ、一人忘れてたわ。
「こらこら周平、クィルを忘れては行けませんよ」
図書館に言われ、顔をチラッと見るとスルーされそうになった事を怒っている表情を出している。
「あ、ああ、そうだったな~久しぶりだなクィル、元気にしていたか?」
「何私をスルーしようとしているかしら?」
「いや~今のでちょうどいい感じが……」
クィルは白い目でこっちを睨む。いやーこれは視線が痛い。
「お久しぶりですわね、長い間クレセントに封印されていましたが戻りましてよ」
「クレセント?という事は九兵衛さんはクレセントと戦ったのか?」
「ええ、姿は消しましたがクレセントはしっかりと消滅しましてよ!」
そうか……偽神の一人クレセントをしっかりと倒したのか。流石九兵衛さんだな。この世界から消えるにしてもちゃんと仕事はこなしてくれたようだ。
「そうか、それは嬉しい報告だな」
「私もその会議とやらに参加してもいいかしら?私からも話す事がありますし、九兵衛さんに起きた事も気になるでしょう?」
「そうだな、よろしく頼む」
会議には予定したメンバーに椿、アーシア、クィルを加えての参加となった。
少し遅くなりました。次は一週間内の投稿予定です(笑)




