カゲロウの頼み
「助けたい人?」
「ああ……」
カゲロウは力なき声で言う。
助けたい人?何処かに捕らえられているとかだろうか。それとも何かの病か。
「その人は何処に?私達もそこまで暇じゃないわ」
「わかっている、時間はそこまでかからないと思う。何故なら俺の家にいるからな」
「えっ……」
「付いてきてくれ」
カゲロウに言われるがままに付いていった。
◇
「ここだ」
付いていった先はカゲロウの家だ。簡素な感じだが見た感じ木造の家だが、周りと同じような作りで外観も特に変わらない。パールダイヴァーの家はどこもこんな感じらしい。
家の中を案内された。
「ここが師匠の家か」
「思ったより普通ですね」
菱田が早速椅子に座り始めるが、そんな態度を見てつい呆れてしまう。
お前いくら弟子だからって態度でかいぞ。
「あなたが裕一君のクラスメイトの二十柱なのね」
菱田を見て溜め息をついていると、菱田達と一緒にいた魔族の女性に話しかけられる。
「ああ、神山周平だ。あんたは?」
「メイスよ、彼等とは別の街で会ったんだけど裕一君に口説かれてついてきちゃいました~」
なっ……秋山がこんな美人捕まえただと!?
しかも秋山のやつドヤ顔でこっち見てくるな。別に俺だって立花いるし、負けてないわ。菱田や大野はそれ見て呆れているが、人生わからないものだな。
「な、成程、三人のサポート宜しくな」
「フフッ、任せてくださいな~私も二十柱の繁栄を心より願っております」
メイスはそう言って頭を下げる。魔族はどこもこんな感じなのだろうか。
「くつろぎ始めたとこ悪いがそちらの二人は付いてきてくれ」
カゲロウは床の板をどかす。どうやら地下室があるらしく、そこに助けて欲しい人を隠しているという事だろう。
「了解」
「師匠俺達は?」
「狭いからお前達は待っててくれ」
菱田は少し不服な顔を見せたがすぐに納得したのか特に何も言わなかった。何でも突っ掛かる男だったが少しは成長したという事だろう。
「この下か?」
「ああ……」
「助けて欲しいという事は生きているという事だと思うけど病気かしら?」
「呪いのようなモノだと俺は考えている」
呪いか……呪術ならシンの奴が専門だな。俺達に治せればいいが……
「ここだ」
地下室のような場所に入るとベッドがあり、人が眠っていた。見かけは日本人の風貌の女性。少し歳がいっている感じからしてこれは元勇者だろうか。
「元勇者か?」
「そうだ、名前は黒崎陽菜。俺が来るより何年も後にボロボロになってこのパールダイヴァーに辿り着いた」
カゲロウはここに来るまでの経緯を俺達に話し始めた。殆ど菱田達には話した様だがこの女性の話はまだしていないらしい。王国の策略で分散を余儀なくされた後、ここに先に辿り着いたメンバーは鍛え、カゲロウ以外はここを去った。それから数年して彼女はここに辿り着いたという。来たときは話す事が出来たが記憶を殆ど失っており、呪いのようなモノで殆ど眠る日々が続いていて、ここ最近は殆ど目を覚まさないらしい。
「どうやって生かしてきたんだ?」
「色々調べて貰ったんだがどうやら呪いの副産物で魔力をエネルギーに変換できるらしい。それで俺が定期的に魔力を与えている」
魔力をエネルギーに変換か……逆に便利たがその体質のせいで目覚める事が出来ないのかもしれないな。
「立花」
「ええ」
二人で身体を確認する。女性なのでデリケートな箇所は立花に見てもらい、俺は首より上を確認する。
「当然だが息はある」
「治せそうか?」
んな事言われてもな。身体の魔力の流れを確認するか。
うん?
この身体に流れる魔力は異質だな。何が異質かというと常に身体に魔力が循環している。循環量は省エネって感じだが、こんなに常に魔力を循環し続けたらガス欠になる。それをカゲロウが与える事で補っているのはわかるが、問題はこの循環させてるせいで身体の機能のほとんどを奪っている事だ。
「立花この魔力循環の原因なんだけど……」
「心臓に部分に何かあるわね」
心臓部分を触れるとより違和感がある。つまりこれの原因は心臓にある何かという事で決まりだろう。
「心臓部分にある何かのせいか……取り出せないか?」
「やってみるわ」
立花が心臓部分に触れ、取ろうと試みる。こっちの魔力で無理矢理引き剥がし、身体から分離する方法だろう。だがそれによって身体に負担がかかるので同時に大再生ザ・リバースの異能をして身体の負荷を最小限にする。
「くっ……随分と面倒ね、身体に根強く癒着している感じね」
「大丈夫なのか?」
カゲロウが心配そうにこっちを見る。
「立花に任せておけば大丈夫だ。それよりも集中してる立花の邪魔になるから声は荒げるな」
「わかった、すまない……」
今立花はただ手を与えて魔力を与えているようにしか見えないかもしれないが、身体と癒着している何かを切り離す為に魔力の糸を一本一本張り巡らせて慎重に解除している。俺だったらここまで上手くはできない。流石は立花だ。
「ん……」
「陽菜!」
どうやら解除は上手く言っているらしいな。意識を取り戻しつつあるし、もう一息か。
「あぁぁぁぁぁ!」
「周平!」
「おう」
寝たままいきなり声をあげ、暴れだしそうになったので身体を抑え込む。身体の中で戦っている事の副作用だろうか。
「あっ……あっ……」
身体の熱も凄いし息もも乱れ始めた。さっきまでのひんやりが嘘のようだ。
「いけそうか?」
「ええ、私にかかればこれぐらい問題ないわ」
この顔は少し強がっているな。だがそれだけこれの難易度が高いという事だ。
「うっ……あっ……ううっ……」
「フフッ、もう少しよ、あと数分頑張って」
それから数分、彼女の心臓部にあるものを抽出した。それを取り出し終えると、身体の体温も平温に戻り呼吸も落ち着いてきた。
「それは?」
「眠りの宝樹、アクセサリーとして装備すれば大気から魔力を吸収したアクセサリーを介して身体に入る。レア度はまぁまぁか」
尤もそれを体内にぶちこむとこうなるなんて初めて知ったがな。そもそもこれは眠りの宝樹を改造した別の物と言うのが正解だろう。一体誰がこんなものを……
「こんな魔改造したのを体内に入れるなんて一体何の経緯があったのかしら?」
「それは目が覚めたら聞けるだろうさ」
「だが記憶が……」
その事だが俺が頭を弄っている間に調べさせてもらった。そして厳密には記憶喪失というより眠りの木のせいで脳の機能を阻害されていたと言うのが正解だろう。
「うっ……ここは……カゲロウ?」
「陽菜!」
カゲロウは目を覚ました彼女を見て涙を流す。何年も待っていたんだし無理もないか。まぁ涙が似合う感じでもないけど。
「私ずっと……」
「良かった……本当に……」
カゲロウは向きを変えて俺達に頭を下げる。
「ありがとう!お前達のお陰で陽菜を……」
「ははっ、俺達がここに来なかったら菱田達に付いていって探すつもりだったみたいだしタイミングが良かったな」
「ああ、知り合いに陽菜を任せて探すつもりだったからな」
まぁ二十柱だからって簡単に治せる訳じゃないんたがな。今回のも立花じゃなければそう簡単にはいかなかった。魔法系じゃない九兵衛さんとかならきっとお手上げだったはず。
「後から色々聞きたい事はあるが、今聞くのは酷だな。話は後で聞くとしてとある場所に行きたい、案内してもらえるか?」
「ああ、勿論だ」
「パールダイヴァー内にある導きの間にある祭壇に行きたいの、場所わかるかしら?」
「導きの間か……魔物のレベルが高いがお前達なら問題もないな。急ぎならこの後すぐに行こうか」
◇
「はっ!」
九兵衛達は地下洞窟の奥へと進んでいた。進に連れて魔物がより敵意を見せているせいか、戦闘の大変を九兵衛に任せて、椿はダルジナをガードしながら進んでいた。
「もうちょっと観光したいんだけどね~」
「何でこんなに好戦的なの?」
「たぶん、この奥にいる何かが魔物を操っていると考えるのが妥当だね~」
むしろ襲われるのは自分がいるからだと気付いた九兵衛だが、二人には伏せていた。
「操る?こいつら操られているの?」
「そうだね、でもこれは洗脳しているという訳ではないよ~こいつらに恐怖を植え付けて従わせているのさ~」
本能で動く獣を従わせるのに一番いいのは、絶対に勝てないという圧倒的な強さで恐怖を植え付けてやる事。この獣達はその恐怖から俺達に必要以上の殺意を見せて襲ってきていた。それはつまり絶対に近づけるなという事でもあった。
「キャッ!」
「ダルちゃん!」
椿が一瞬目を離した隙に魔物がダルジナに襲い掛かった。だがその魔物はダルジナを前に攻撃を止める。
「えっ……」
ダルジナは何故魔物が攻撃を止めたのか理解出来なかったが、椿は理解していた。そして同時に冷汗をかく。
「君達……調子に乗り過ぎだよ……」
九兵衛が本気のオーラを放って魔物達を威嚇したのだ。すると今まで好戦的に襲って来た魔物達は一斉に鎮まる。そう獣達も九兵衛を見て感じとったのだ。絶対に勝つ事が出来ない圧倒的な強さをそのオーラで理解したのだ。
「大丈夫かい~」
「は、はい、ありがとうございます!」
「良かった~それじゃあ先に進もうか」
ダルジナには感じ取れなかったが椿はしっかり感じとっていた。そして同時に再認識をした。
二十柱というのがどういう存在なのかを
「全然襲ってこなくなりましたね」
九兵衛のオーラで威圧して以降、あんなに殺意をむき出しにしていた魔物達も大人しくなった。それで九兵衛の見せたオーラに戦慄したという事だ。だがそれをいまいち理解していないダルジナは首を傾げていた。
「さっき九兵衛さんが魔物達に威嚇したからそれが原因ね。こんな事ならささっと威嚇しして貰えばよかったわ~」
「ですね、でもこの先私でも嫌な感じがします……」
ダルジナですらそう感じ取っただけにそれを聞いた二人も本気になる。前方に見える大きな穴、その先に何かがいるのを感じ取っていた。
「二人とも警戒を怠っちゃ駄目だよ~」
「わかっているわ」
「はいです」
穴の奥まで進んでいく。
「これは……」
「へぇ、やっぱりね~」
奥にはその元凶ともいえるモノを見つけた。椿やダルジナは驚きを隠せず、その場に立ち止まったが九兵衛は目の前まで進み、不気味な笑みを見せた。
あと数話、九月中にアップして五章を終わらせます(書き終えられるか……)




