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地下道へ

 「一つ思った事を言っていいかしら?」

 「どした?」


 パールダイヴァーへと向かう周平と立花のとある日の夜だ。


 「あれだけ貯めているお金全く消費してないわよね?」

 「そういえばそうだな」


 ここに来てからたくさんお金を稼いできた。使う時は使っているが基本的に入って来る額の方が多いので減る事がないのだ。そして最近は全然消費していなかった。というのも前に作った組織あるべき世界モンド・ペレッセリでの活動費は、冒険者ギルド上位勢が在籍している事もあって九兵衛さん達がかなり出してくれている。ギルドマスターの一人のアッシュ・ベーリングもファウンドで得ている資金の一部をこっちに回してくれているから余計にだ。一応ファーガスでこっち側についている貴族なんかに金をばらまいたりしているが、結局俺が蓄えている資金はほとんど消費していないのが現状だ。


 「折角組織作った割には大々的に拡大させてないし、あんまり意味がない気もするのよね」

 「まぁ裏切り者とかが現れないように入るメンバーをかなり絞っているからな。でも戦力だけなら世界最強だし、それぞれが暗躍してくれているから後々生きるはずさ」


 ファラリスはともかくファーガスの政権は俺が裏で糸を引いていると言っても過言ではない。実際魔族との戦争に対しても勇者や一部を除いて引き上げているのが現状だ。勇者の事もあるのでタピット達は遠征しているが数で言えば少ない。その分ファラリスがかなりの数を出兵させているから戦争自体は続いているがな。


 「ファーガスやダルシはともかくファラリスの動きが気になるわね。いつ反旗を翻すかわからないし」

 「その為に戦争を止めずにさせているからな。戦争している間に奴らを潰せれば作戦成功だ」


 まぁあれだけ陣にボロ負けしてるし再び戦おうなんざ思わないと思うけどな。ただ書記長のゼラは内心どう考えているかだな。最近行ってないからわからないが、あいつがあのまま折れたままでいてくれるか……まぁ反旗を翻したら潰すまでだけど。


 「そう上手くいくといいけど……封印されている偽神の居場所もまだ特定できてないのがね……」


 聖地ペブルスにはほぼ間違いなくいるだろうが、他の三か所がな……二代目勇者の映像で言っていたサイフォンの地下にいるのも偽神の可能性はあるが確証はない。親玉のエクリプスを除く四体は各大陸に散らばっていると考えるのが妥当だがいかんせん世界は広い……特定にはもう暫くかかるだろう。


 「立花が不安があるのも無理もないな。だがそんな事を言っていても仕方ない。俺達は俺達の目的を一つずつ果たしていこう」


 まず一つはパールダイヴァーの中のダンジョンにある祭壇の間に行く事。他に遠征しているメンバーと共通の目的としてアーシアと再会だ。やる事はまだまだ盛沢山だが焦っても仕方ない。


 「ええ、それとまだ動きを見せていない実力者が気になるわ」

 「例えば誰だ?」

 「四戦姫で唯一動きを見せていないクィル・ハシハーミット、ミラー・ブリッドを筆頭とした七魔女セブンウィッチ、残りの十三騎士ナイツオブラウンドよ」

 「今回の戦争に直接加担してくる可能性はあるだろうな~」


 クィルは流石に参戦しないと思うが、他はわからないな。ミラーはともかく他の魔女達はそもそもいるのかがわからない。先の戦争でも何人か亡くなっているはずだし継承して受け継がなければ空席があるだろう。十三騎士も同様だ。筆頭の騎士王の座は俺の時も空席だったからな。


 「現在の勇者達じゃ戦力が足りないわ。魔王軍の幹部勢が出てきたらまず勝ち目がないし、人間側の戦力補強がそろそろ欲しいわね~」

 「楽しそうだな立花」

 「ええ、偽神どもを抹殺後は私達がそれをコントロールする側に行くわけだしそれを考えたら尚更ね」


 そういえば戦略ゲームとか結構好きだったよな。チェスとか将棋も良くやったし。勝敗は結果的にはごぶごぶだったけど最初の方は全然歯が立たなかった。俺は後から真似て覚えて追いついていたからな。


 「俺もクラスメイトが参加しているからな。こっちが片付いたらそっちもやりたいな」

 「あの計画もあったわね。でもそれはあなたが何かする必要はないんじゃないの?」

 「まぁそうだけどどの道緊急事態が想定しておかないといけないからな」


 クラスメイトが結果的何人死のうがそれは戦争に参加しているから仕方のない話。だがあの二人は絶対に死なせてはならない。


 「まぁいいわ、私としてはあなたと一緒なら何をするにも楽しいだろうし、一緒に考えていきましょ」

 「ああ、勿論だ」



 この後パールダイヴァーに着いた時起こる事件をこの時はまだ想像していなかった。



 ◇



 「着いたよ」

 「ここが……」

 「綺麗です……」


 九兵衛達三人は奥へと進み、祈りの場所へと辿り着いた。祭壇のようなモノが建てられており、中心は強い魔法の力がかけられていた。


 「うん、アーシアがここに来たんだろうね~」

 「どうしてわかるんですか?」

 「簡単なことだよ~まず祭壇が綺麗になっている。百年近く放置状態だっただろうし、街の住民はこんな奥まで来て手入れなんかしないだろうからね~これは誰かが手入れをした証……そして何より……」

 「この魔法の結界はアーシアちゃんが来た何よりの証拠ね。こんな強い結界アーシアちゃんぐらいじゃないと貼れないし、維持も出来ないわ」


 確かにアーシアはここに来た。それは間違いないが一足遅かったのもまた事実だ。ここまで手入れをしていないという事はここでの目的を果たし、どこかへ移動したと考える方が自然だからだ。


 「でもちょっと遅かったね~」

 「ええ……」


 二人は残念そうな表情を浮かべる。だがもう一つの目的もありそっちに専念する事ができる。


 「まぁ後は他の人に任せて地下に潜ろうか?」

 「地下ですか?」


 ダルジナはキョロキョロと周りを見渡す。一本道でここまで来たので、行き止まりであるここのどこかに入口があるのではと見ているが、目に見える場所に入口はない。


 「ああ、地下だね~言っておくけど入り口はこの場所だよ~」

 「えっ……」

 「でも入り口なんてないわよ~」


 椿もキョロキョロ周りを見ては首を傾げる。


 「まぁそうだろうね~椿ちゃんはここに来るまでで疑問を持たなかったかい?」

 「どういう事?」

 「入り口入る時感じたほどの魔物は来る道にいたかい?」

 「あ、確かに……」


 お墓のある場所からここにくるまで一時間ぐらい進んだが、言う程強い魔物は出て来なかった。尤もそれは椿基準であって常人の感覚とは別だ。だが入り口で感じた気配の源はどこにあるという話になってくる。


 「その正体はここだよ~」


 九兵衛は祭壇の奥まで行き、壁に触れる。


 「はっ!」


 壁に手を触れると壁が崩れていき、入り口のような穴が姿を現した。



 「これは……」

 「サイフォンの地下って聞いた時はすぐにピンとこなかったんだけどね~昔レイルリンク王国とファーガス王国を繋ぐ地下道の話を聞いたのを思い出したんだ」


 かつてまだレイルリンク王国が存在していて両国に交流があった頃の話だ。昔はその地下道を通じて物資のやり取りをしていた。しかし徐々に考え方の違いから袂を分かつようになり、百年前の戦争が始まる頃には入り口を完全に封鎖し、通れないようにしたという。もうほとんどが使えないがこの穴もそのうちの一つだ。


 「へぇ~そんなのがあったんだ~」

 「椿ちゃんや周平とかが来る前の話だからね~知らないのも無理はないよ~」

 「でもそんな交易ルートも今は魔物が巣食うようになっているんですよね?」


 ダルジナが不安気な表情を見せる。戦闘慣れしていないし無理もない。


 「それなんだけど何か強大な力を持つのが住み着いたんだと思う。それで魔物達がそれに惹かれて住み着いて危険なダンジョンの出来上がりって話だろうよ~」


 穴から魔物の声や嫌な気をより感じていた。ここに来るまでに戦った魔物よりももっと強い魔物が出て来るのは容易に想像できた。


 「それじゃあここからが本番って事ね~」

 「そういう事だね~」

 「が、頑張ります!」


 三人は穴へと進み地下へと潜っていった。



 ◇



 魔大陸のとある場所では……


 「ミラー様~」

 「なんじゃフィジーよ」

 「勇者達人間族と魔王軍がケープヴェルディで衝突するみたいです~」

 「そうか……大規模な戦いが始まるのう……」


 鋭い目付きでニヤッと笑うこの女性こそ七魔女の一人ミラー・ブリッドだ。銀髪に首に目立つタトゥーが彫ってあり、美しい顔を相まって首から上を見れば忘れる事はない。そしてそんなミラーに話しかけて来た茶髪のおっとりした感じのフィジーという女性も同じく七魔女の一人であるが、彼女はまだその地位を受け継いでからそこまで年数は経っていない。現存する七魔女の中でもミラーが一番の古参の為、七魔女の統轄みたいなポジションについていた。


 「どちらにつくんですか?というか戦争に参加する事自体ビックリなんですけどね~」

 「今回は神側が直接加担をしていないみたいじゃ。それならば参加しても面白みがある」


 百年前の戦争ではミラーは二十柱側で参加をし、結果的に過半数の七魔女が亡くなったが彼女自身は生き延びた。その後は空席を埋める為に空いた席の後継者探しと教育をしていた。フィジーとははその一環で出会い、後継者に育て上げた。


 「そういうものなんですね~それでどっちに加担するんですか?」


 フィジーは興味深そうに眼をギラギラと輝かせている。


 「フフッ、それはケープヴェルディの結果次第じゃよ。大規模な戦いになるだろうし、どういう結末になるかもわからないからね~」


 結果出ていないのでフィジーにはそう言いつつも、ミラー自身内心では結果をある程度予測し、その上でどっちに加担するかを決めていた。理由はいろいろあるが、一番の理由はその方が面白いからだ。


 「成程~あと残りの七魔女なんですけど、三人は連絡が取れました」

 「うむ、二つは空席だろうからね~それで?」

 「ミラー様の意向に従うそうです」

 「それは良かった……さて面白くなってきそうじゃ……」


今月中に五章を終わらせます。

六章は最近書いてない勇者達の話を書きたいと思います。

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