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パールダイヴァーへ

「姉御、この人です!」

「ありがとう、早速話を聞かせて貰ってもいいかしら?」

「はい、あれは二日前の事でした……私が旧レイルリンク王国のお墓がある場所にお墓参りをしていた時でした」


 この街のはずれに戦争と謎の爆発で滅びたレイルリンク王国の人々の為の大規模な墓地がある。アーシアが昔よく行っていた祈りの場所もそこから近い。


 「見せられた似顔絵と瓜二つの女の子が来て供養していました。あんな場所に若い子が一人で来るのも珍しいと思い、声をかけたんです」

 「そ、それで!?」


 椿はやや興奮ぎみで、九兵衛が抑える。


 「あなたも供養ですか?と聞いたら女の子はにっこりと微笑みつつ、墓を見て複雑な表情を見せながらここに眠る人達は私にとって大事な人でしたと言っていました」

 「間違いないかな~」

 「ええ、その後は?」

 「少し他愛もない話をしてから彼女は石碑のある方に向かっていきました」

 「なるほどね、お婆さんありがとう!」


 椿は頭を深々と下げてお礼を言う。


 「さて準備だね!」

 「だね~間に合うかは知らないけど痕跡を辿らないとだからね~」

 「あ、一つだけいいかしら?」


 老婆は椿に一つ問いかける。

 

 「何ですか?」

 「あの子、凄く悲しい顔をしていたの……大丈夫かしら?」


 老婆は心配そうな顔を見せる。椿はそれを見て不安を拭うかのように微笑み、肩を軽く叩く。


 「大丈夫、再会したらここにつれてきてあの子の笑ったとこ見せてあげられると思います」

 「そう……なら宜しくね。私もあの子の笑った顔が見たいわ」

 「任せて!」



 ◇



 「さてお婆ちゃんとも約束したしアーシアちゃんを見つけ出すわよ!」

 「「おおっ!」」


 話が終わり、一度宿に戻った三人は出発の準備をしていた。二日前となればもういないかもしれないがアーシアはお祈りの時は何日もかけていたのを考えればまだいる可能性は大いに有り得るからだ。三人は宿を出ると捜索に使っていた男達がいた。


 「あんた達……どうして?」

 「姉御みずくさいっすよ」

 「洞窟の墓地を越えた先は魔物がいるんであれですがそこまではきっちり案内させて貰いますよ!」


 それを聞いた椿は溜め息をつきながらも微笑む。

 椿はシメて手先として情報収集させながらも、この数日間でチンピラ達の話を聞いたりして面倒を見ていた事で慕われるようになった。面倒を見ていただけにこの申し出には内心嬉しい椿だった。


 「まったく……そこまで言うならしょうがないわ……案内よろしくね!」

 「「任せてくだせぇ!」」



 ◇



 「優雅だね~」

 「ええ」


 アルサブの村を後にした俺達は一度立花のゲートでギャラントプルームに戻り、馬車を取り寄せたお陰で優雅に移動中だ。本当はアルサブの村で調達したかったが貴重な資源を取るわけにもいかなかったからだ。


 「周りを見ている一面荒野だ、だけど改めて見ると普通だよな」

 「今更かしら。まぁ名前の由来だって魔族の住処だから魔大陸ってつけたのが始まりだし、名前だけだと暗黒大陸みたいな感じだけど内情知っていればクレセントやレガリアと大して変わりはないわ」


 勇者達は最初魔大陸なんて聞いた時はどこの暗黒大陸だって感じで捉えた人も少なくないはずだ。ちなみにここ来て記憶が戻る前にこの名前聞いた時の俺はそんな感じだった。結局魔族はそんな人口多くないし、人間もけっこう住んでいるからな。


 「そうだな、でもオルメタっていうと昔のディスカバリーの戦いやノウンファクトの殲滅戦、サンインローの戦いなんかを思い浮かべちゃうな~」


 ディスカバリーはガルカドール卿が戦死した苦い記憶があるが、ノウンファクトは俺達騎士団の力を見せつける為の舞台で最初に名をあげるきっかけになった。

 俺達十三人で十万人の人間族の軍を殲滅し、それに恐怖を感じた当時レガリアにあった大国、ファロス帝国は魔大陸に遠征させていた軍を全撤退させ、帝国を恐怖を与えた。さらにとどめをさしたのが後半のサンインローの戦いで、これの勝利が帝国の衰退のきっかけとなった。

 ノウンファクト後に当時の皇帝が負けをきっかけに急に方向転換したものだから、帝国にはダーレー教の資格が送られ皇帝殺され、再び大軍を派遣したサンインローの戦いでも負け、最後まで敵対して敗戦国となって力を弱めた。結果当時帝国の下についていた有力貴族が国を起こしそれに呑まれて滅亡。その勢力が作ったのがファラリス連邦だ。


 「フフッ、ノウンファクトは楽しかったわね~石にして砕いたら、帝国軍が恐怖して敗走していくし、停戦協定では向こうの指導者を兵たちの前で土下座させて軍の遠征を二年止めさせたる事も約束させたわね~」

 「エミリアの交渉術も上手かったが、立花の石にして脅していくのが向こうは一番恐怖していたからな~こっちの一方的な要求にだいたいイエスで調印してくれたっけ」


 停戦後は皇帝の暗殺で二年経たないうちに遠征が始まってサンインローの戦いになったから、約束を反故してこなければ帝国は滅びなかったかもしれないな。俺が死んだ後も降伏しなかったせいで怒り狂った立花にかなりの人数を石化されては砕かれたみたいだし、それが滅んだ原因の一つでもあるだろう。

 大賢者おそるべしだ。


 「今回はそんな大規模な戦争に参加出来ないのが少し残念ね」

 「俺達が今戦場で暴れまわったらやばいな」


 力も完全になったし下手したら国が滅んでしまうな。まぁそれもそれで面白いかもしれないが、流石に今回は自重だ。穏便に偽神を倒して戦力を潰し、全ての偽神殲滅後に戦争を止めるという流れだからな。


 「はっ!」


 前方を見ると魔物と人が戦っている姿が目に入る。


 「立花あれ?」

 「ええ」


 どうやら人間っぽい、何でこんな所にって感じだ。若そうな男が複数の魔物に囲まれているが男は特に困った様子もない。それどころか襲いかかりそうな魔物を全て倒すと言わんばかりの目をしている。


 「はぁぁぁぁ!」


 掛け声と共に魔物に襲いかかり次々に倒していく。


 「最後だ!」


 シルバーウルフの群れとはいえ見事な剣さばきで瞬く間に倒してしまった。少し骨のありそうな男だがこんな所で修行でもしているのだろうか。


 「よっしゃぁぁぁぁ!今日も命ある事に感謝ぁぁぁぁ!」


 何やら喚いているが少し変わり者なのだろう。


 「いきましょう」

 「いいのか?」

 「デートの邪魔よ」


 立花はそのままスルーしようとなに食わぬ顔で馬車を動かしスルーしようとするが男は当然気付きこちらに来る。


 「そこのお前達!」

 「ちっ……」


 立花は舌打ちしながら馬車を止める。


 うわっ……凄い迷惑な顔してやがるよ。


 あからさまにそんな顔しなくてもと思ってしまう。


 「俺達か?」

 「ああ、そうだ」

 「何か用かしら?」

 「よければその馬車に乗せてもらいたい」

 「拒否!」


 立花が素早く言う。


 即答かい!


 立花はそのまま馬車を動かして行こうとする。


 「お、おいおい……ちょっと待ったぁぁぁ!」


 旋回して馬車の前まで来る。


 「何かしら?」

 「何かしらじゃなぁい!サラッとスルーとか酷いじゃないか~」


 あ、この人無駄に声でかいし暑苦しいわ。つか面倒くさそうな臭いがプンプンする。


 「今旦那とデートしてるんだけどその邪魔よ」

 「こんな場所でデートだと?」

 「そうよ、それじゃあね」

 「ちょちょちょっと待ったぁぁぁ!」


 いちいちリアクションがうるせぇ!暑苦しいわ。


 「しつこいわね~大体名前も名乗れない人に話す事なんかないわ~」

 「こ、こいつはすまん。俺はサドラー・ズ・ウェルズだ」


 立花の言葉で忘れていた事に気付いたのか慌てて自己紹介をする。


 「俺は神山周平でこっちは立花だ」

 「よろしく頼む」

 「こんな殺風景な所で何をしてるかしら?」

 「うむ、実は冒険者ギルド所属の白金ランクなのだが道に迷ってしまい、魔物をか狩りながら生活して一週間。パールダイヴァーから帰還して帰ろうとしたのだがな……」


 白金ランクの冒険者か。確か十人いると言っていたからな。思えば一人も会った事がなかったな。しかもこいつパールダイヴァーで修行していた感じか。


 「あら、ならあっちよ~私達パールダイヴァー行くからじゃあね~」


 立花が満面の笑みを浮かべながら手を振る。


 「それじゃあまた逆戻りじゃないかぁぁぁ!」


 いや、何さりげなく馬車に乗って行こうとしてやがる。お前の都合なんか知らないし、方向逆なら素直に一人で帰れよ。


 「別についてくる必要ないわよ。あなた帰りだし」

 「ぐぬぬぬぬ……」


 何悔しそうな顔してんだよ。

 能力だってそこそこあるんだから大丈夫だろ。早く馬車から降りろ。


 「埒があかんな……」


 粘着されても面倒なので一週間分の食料と簡易地図を渡す。これで死んで化けてでる事もないだろう。


 「これは……」

 「俺達も一応冒険者ギルド所属だからな。それがあればクレセントやレガリアにも帰れるはずだ」

 「いいのか、というかあんた達もギルドメンバーだったのか?」

 「まぁな、南部の街のブレニムって場所があると思うけどそこは人間族も数多く住んでるらしく、情報も手に入る。気をつけて帰れよ」


 九兵衛さんの腹心であるシルキーサリヴァンがかつて連邦軍から守った街で、オルメタ大陸初の冒険者ギルド設立の協議も続けている街だ。ギルドメンバーが交渉に行っているみたいだし、帰りの船も教えてくれるだろう。


 「かたじけない、ありがとう!」

 「気にするな」

 「そういえばこの先のパールダイヴァーだが、最近いくつかの経路に魔族が待ち伏せして勧誘活動している。気をつけてくれ」


 パールダイヴァーで修行してから里を出て来るような人材は大半が手練れだし魔族も欲しいのだろう。勧誘活動には気をつけないとだ。


 「了解、お前も勧誘されたのか?」

 「ああ、断ったがな。だけど何人か誘われるがままに傭兵に行った者の話は聞いている」


 傭兵を募集しているという事は勇者達が戦闘で同じ人間と戦う可能性もあるという事か。どうなるか見物だな。


 「そうか、気をつけてな~」


 サドラーとは会って間もない別れとなった。だがこいつとはまたどこかで会うかもなと内心思ってしまった。尤もまた会いたいとは微塵にも思わなかったし立花は会いたくないだろうがな……


今月中までに今の章終わらせます。

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