出発
もう少しで五章終わりです。
それから俺達はこのはぐれ兵士共を引き連れ、村全体を回って謝らせた。今後のこいつらの処遇の事を話したら少し不服に感じた人達もいたが、その時は俺も一緒に頭を下げて納得して貰った。二十柱である俺が頭を下げたせいで、後から二十柱だと知った村人から逆に土下座をされてしまったが、それがかえってあいつらの村の残留を反対する者がいなくなったし良かっただろう。
まずは農作業って事でここいらでも育てられる食用の作物を作って貰う事にし、村の警備も兼任させた。足りてなかった食料の補充なども立花のゲートでギャラントプルームに戻って持ってきた。これで当分食料は大丈夫だろうしあの脱走した兵士達も俺達には逆らわないだろう。何だかんだで一週間近くの滞在になってしまったが色々と情報収集も出来た。
「勇者達が二手に分かれて進んでいるだと?」
「ええ、あっし達が入った時勇者迎撃部隊が二つ作られていてどっちかに行く予定でしたから」
脱走兵のリーダーで悪魔族のマッチから魔王軍の動向などを聞いていた。
「ファラリス連邦軍とファーガス軍がいて、さらに別で勇者は二つに分かれているって事でいいんだよな?」
「ええ、そうです。あっし達が脱走する前の段階で交戦していて、その段階で勇者がメインで構成されている部隊にやられて進撃を許していましたから」
「なるほどな、元の部隊は?」
「突破は勇者部隊に任せて上陸後の拠点確保をメインとしていると聞いています」
完全に勇者任せという事か?だが連邦も上の方の大将クラスが行っているしファーガスもタピットが行っている。そこまで勇者任せという事にもならない気もするが……
「ふむふむ、ありがとう」
本当は色々と調査したいががそっちをメインにするわけにもいかないからな。現在戦局がどうなっているかも気になるし、魔王軍の将軍クラスとの対決になった時に勝てるのかというのもある。パールダイヴァーに着くまでに情報が収集できればいいが……
「ところで魔神様と大賢者はこの戦争には直接関与しないというのを決めているとお聞きしていますが、その真意を聞いても宜しいでしょうか?」
マッチは真剣な眼差しでこちらを見る。リリィにも答えたが、これは返答次第では権威と信用にかかわるが答えない訳にもいかない。元魔王軍であるマッチに納得してもらう返答をしなければならない。
「俺達二十柱には魔族優先の者もいれば人間優先の者もいるし、どっちも大事だという者もいる。これは各種族の長にあたる者が二十柱として君臨しているからというのはわかるな?」
「はい、しかしこの世界では人間の大半は二十柱をないがしろにしており、それに対し我等は信仰しています」
「その通りだ、ではその原因を作ったのは誰だ?元々俺達が神として崇められるべきなのにどうして人間はないがしろにする?」
マッチは少し考え込む。目先の戦争しか考えていなければその疑問に違和感はないだろう。魔族の中では攻めて来る人間は敵というのは当たり前の認識だが、何故こうなったかについてまで考えない。
「あと何故魔族が俺達を崇拝しているかというのも考えた事はあるか?」
「いえ……考えた事もなかったです」
「人間達に俺達が忌みすべき敵として刷り込んだのはダーレー教に出て来る偽神共だ。俺達はそいつらを完全に消滅させる為に戦っているんだ」
そいつらを消滅さえさせれば二十柱がこの世界を支配するようになり、自然とこっちよりの考えに民衆がシフトしていくようになるし、戦争もなくす事ができる。
「そして魔族が俺達を崇拝するようになったのは初代魔王であるガルカドール卿がバイアリー教を布教させ、ダーレー教を魔大陸に入れないようにしたからだ」
「なるほど……確かに考えた事もなかったです」
大半の者は当たり前の事に疑問を持たない者が多い。仕方のない事だがその当たり前に疑問を持つ事で物事の理を追い求め、把握する事が出来る。当たり前にはそうなったきっかけがあって初めて当たり前になるのだから。
「だから今の人と魔族の争いなんて宗教の信仰に踊らされているに過ぎない。俺達二十柱は俺達を忌み嫌う存在という事を当たり前にした偽神共を倒す。その為に今動いているしそれが当然だとは思わないか?」
「はい……私の質問に答えていただき感謝します。見ている視点が違うというのを実感しました」
マッチは強く頷く。この頷きには戦争に肩入れしない事に対して理解を得る事はできただろう。
「最終的に戦争は止める。だから暫くは我慢してほしい……こっちの目的が達成された後は人間を侵略者側と見なしてこちら側の味方をする。それは俺達の総意として決めているからな」
「わかりました、その言葉信じております……二十柱に栄光を……」
◇
「もう行ってしまうのですね……」
「ああ、元々パールダイヴァーに行く予定だからな」
少し名残惜しいが出発だ。来たくなったらまたくればいいし、どうせそのうち来る。予定よりも少し長くいて、脱走兵士達の指導や食料の供給など最低限の支援はしたし、パヴォットもいる。後は大丈夫だろう。
「寂しいです……」
するとリリィは涙を流しながら俺達を見て深々と頭を下げて拝む。
「おいおいいきなりどうした?」
「大いなる二十柱に感謝と忠誠を表し、勝利と栄光をお祈り致します」
リリィがやり始めると、他の村人もやり始める。
感謝と忠誠って……まぁ悪い気はしないが慣れてないし流石に恥ずかしいわ。
「あらあら~その忠誠心は悪くないわ~また来てあげるからその時まで元気にやりなさいね」
立花も村での扱いが良かったのか気に入ったらしい。確かに魚人族の街では影から石投げられたりと散々だったし余計になのだろう。あの時は街を壊さないか本当にヒヤヒヤしたな。
「立花さん、是非是非お待ちしております~また恋話聞かせてください」
「いいわ、今度来た時はもっと話すわね~」
立花の奴俺との昔話どれぐらい話したのか気になるな……あんまり話されると今後リリィと顔を合わせるのが恥ずかしいんだが……
まぁ立花の奴か嬉しそうに話してるから止められないんだがな。
「やった!お願いします」
「パヴォットお前にも世話になったな」
「こちらこそてごわすよ」
握手を交わす。
こいつとは短い間だったがなんだかんだで親しくなったな。普通にいい奴だし、脱走兵達の指導や監視なんかも引き受けてくれて頭が上がらないな。
「コイツらの事任せたよ、それとまた会おうな」
「任せるでごわす!自分も会えるのを楽しみにしてるでごわすよ。ガルカドール様の復活と二十柱の目的の達成を心から願ってるでごわす!」
「おう!」
全員がここまで友好的かはわからないけど他の神獣達とも会ってみたいな。二回ほどスルーして会い損ねているからな。
「お前らはわかってんな?」
最後に向けるのは脱走兵達だ。ちゃんと説教して脅しておいたからくれぐれもよろしく頼むぞ。もし裏切ったりしたら容赦しないからな。
「ははっ、勿論でございます!」
「次来る時は見違えたこの村をお見せしますので是非とも来てください!」
深々と頭を下げる。
恥ずかしいからそれ止めてくれ……
「おう、楽しみにしてるからな~」
「へい、兄貴達も気をつけてくだせぇ」
「魔王軍も流石にこっち側に派遣をしてないと思います遭遇が面倒ならなるべく大きな街で目立つ動きはオススメできません」
ここからパールダイヴァーまでは早くても一週間ぐらいかかるが、途中に大きな街はなかったはず。まぁ仮に絡まれて面倒になったら、力を見せればいいだけだがな。
「おう、お前らも色々と教えてくれてありがとな~」
こうしてたくさんの人に見送られてアルサブの村を後にした。
◇
「姉御それらしき女性が洞窟の中に入っていくのを目撃したとの情報が」
「十日程前に街の入り口でキョロキョロしてた女の子に似てるとの事です」
ブロードブラッシュの街では椿に絡んだチンピラ達が手先となって情報収集した事でアーシアらしき人物の目撃情報を得ていた。
「凄い……」
「これは椿ちゃんファインプレイだね~」
九兵衛とダルジナは結局大きな成果があげられなかったので椿と合流し、任せる事にしたのだ。
「へへっん!少しは見習ってね九兵衛さん~」
椿はドヤ顔を見せる。九兵衛としてもまさかこんなに成果があると思わなかったので驚きを見せている。
「いや~椿ちゃんの活躍にはビックリだよ~」
「てことは見つけられますかね?」
「うーん……そこは微妙かも……」
ダルジナの問いかけに対して微妙な返答をする椿だが理由があった。
「確かにアーシアちゃんの目撃情報あるんだけど一週間前とかなのよね~」
「なるほどね~確かに一週間前だと今ここの付近にいるかは微妙なところだね~」
アーシアが感傷に浸って長くいる場合もあるが去ってしまっている可能性も十分有り得るからだ。
「ここに来るのが少し遅かったわね……」
椿が舌打ちをしていると手下にしたチンピラの一人が戻ってくる。
「姉御!」
男はハァハァさせながら戻ってくる。
「何か情報を得たの?」
「ハァ……それがアーシアと名乗る女の子と話したという有益な情報が」
「何ですって!」
椿は男の胸ぐらを掴んで揺らす。
「ど、何処にいるの?会わせなさい!」
「グハッ、姉御苦しいっす……そう言うと思ってちゃんと仲間が連れてきてますからご安心を」
「ナイス~良くやったわ!」
歓喜のあまり更に強く胸ぐらを掴んで揺らし始める。男は顔を青くして訴えかけるが喜びのあまり耳に届いていない。
「ほらほら~落ち着いてこっちの方が気絶しちゃうよ~」
九兵衛が止めに入って離す。
「す、すみません……」
「これ飲んでください!」
ダルジナが水を渡すと喜んで受け取り満面の笑みを見せる。
「お、おう、ありがとう」
少し顔を赤くすると椿がすかさず睨む。二人を会わした段階で脅しはかけてあるが念には念をという精神だ。
「あんた、手ぇ出したら分かってるんでしょうね?」
「わ、分かってますって~流石に命は惜しいっす」
「姉御~」
その声の方向を見るとお婆さんを連れてきた男が手を振っている。
「よし、早速聞きましょ!」
椿はお婆さんの元へと向かった。




