リリィとの遭遇
お盆中ですが何とか書けました~
「ぶはっ~お腹一杯~」
女の子はすっかり体調を取り戻したのか声にも活力が出てきた。
「それでお前こんなとこで何をしてたんだ?」
「はい、ええっとまずは自己紹介から私の名はリリィ・マートルウッドと申します。この先の山のふもとの村アルサブの出身で、ここには食料不足の村の為に山菜を取りに来ました」
小さな羽を揺らしながらしゃべる。この羽は魔族群の中でも悪魔族と呼ばれる種族でシンと一緒だ。なお魔族群は大きく分けると魔人族と悪魔族に分かれる。前者は俺が該当するわけだが人型のまま魔の力を宿した姿をしている魔族に対してであり、後者は魔の力が体表に現れて人間離れした姿の魔族を指す。悪魔族の方が割合は高いが、魔人族は強い力を有する事が多い。ちなみに他の世界によってはこの世界にいない竜人族や鬼人族も魔族としてひとくくりに呼ぶ事もある。
「なるほどな、飢饉にでもあっているのか?」
「そうですね、確かに今年はあまり収穫が良くなかったですが、生活できるぐらいはあったんですよ」
「あった?」
「はい、今人間と戦争しているじゃないですか?それで食料をいつもより多く徴収され、さらに魔王軍がうちの村に在駐して、お金払わないで飲み食いしてるんです」
「周平、たぶんそこ通るわよ」
あ、それはたぶんしめないといけないやつだ。ついたら多分目についてボコボコにする未来が見えたわ。
「なるほどね~でもだからといってこんな危ない場所で山菜取りはいくら何でも危険だぞ」
「それはそうなんですけど……でも私の村の周辺で食料たくさん取れるのってここしかないんですよ……」
今いる所はピークを越えて下山中なので俺がいなくても雪はあまりふらない。なのでここいらでは山菜や木の実が確かにとれるが、それでも魔物は多く存在しており、腕に覚えがなければ危険である。
「立花、アルサブの村ってのは経路に入っているんだよな?」
「ええ、このまま下山していけば通る村よ」
「了解、アルサブの村まで案内してくれないかリリィ?」
「いいですけど三人とも人間ですよね?今人間がアルサブにいくのは……」
「うん?」
少し力を出してオーラを見せつける。
「ヒッ……」
「そういえば自己紹介がまだだったな~」
自己紹介を軽くして二十柱である事を話した。
「あなた達二人があの二十柱?そんでもってそっちがハードロック山脈の守り神にして神獣パヴォット……」
「ハハッ、驚くのも無理はないわね~」
「まさか実物に拝めるなんて……」
リリィは俺達を讃えて拝む。
「おいおい~仏様じゃないんだから」
「いえいえ、私達魔族からしたら二十柱は信仰の対象ですので!特に悪魔帝や魔神は私達の親ともいえる存在ですし」
魔人族と悪魔族からすれば当然か。
「ハハッ、ここで会ったのは何かの縁、村に着いたら魔族を追い出すよ」
「本当ですか?」
「ああ、そもそもここいらに軍を置く必要もないだろうし」
ここいらに勇者が攻めて来る事はないだろうし、何でこんな所に軍を在駐させているのか気になる所だ
「ありがとうございます!というか一つつかぬ事を聞いてもよろしいですか?」
「おう」
「周平さんは魔人族の長である魔神として、人間族と戦争をしている魔族の肩入れをしてはくれないのでしょうか?」
その質問が来るか……これについてでがとても複雑だ。結論から言えば肩入れする事はできないのだが。
「そうだな、俺達二十柱の中には魔人族の長たる俺もいれば人間族の長的な立ち位置の奴もいるんだ。例えばこの立花は俺の嫁だが大賢者だ。大賢者は人間族系だし、他にも人間族の上に立つような立場の者もいる。だからこういう争いには基本的に介入はしない事にしているんだ」
もし介入すれば他の二十柱の反感を買う恐れがある。そもそも元人間だけに人間族を滅ぼすような事もしたくはない。
「成程~確かに二十柱同士での争いが起きれば世界の危機ですもんね」
「ああ、だけどお前の村の危機ぐらいは救うぜ。国同士のいざこざには入る気はないがお前とは個人だからな」
「ありがとうございます~」
せめて魔人族の長としてはそれぐらいはやらないとだからな。
「じゃあそれ自分も行っていいでごわすか?」
「あら、山の方はいいの?」
「アルサブは山のふもとだし、実質この山脈の中みたいなものでごわす。それにお二人の勇姿が見たいでごわすからね~」
「しょうがないな~特別にな」
「ありがとうでごわす~」
◇
その日の夜テントを貼り休息をとる。アルサブの村まではもう一日か二日はかかる。リリィがテントから抜け出したので後を追った。
「何してるんだ?」
「周平さん」
「こんな夜中だ、テント周辺は明かりをつけているがあまり離れると危ないぞ」
「へへっ、すみません~」
リリィは石の上に座り込む。
「考え事か?一人になりたいならテントに戻るけど」
「いえ、むしろ少しお話したいです」
「そうか」
隣に座り込む。
「周平さんは魔神になる前は人間だったんですよね?」
「ああ、しかもこっちに来た時は勇者だったよ」
「ええっ!嘘~」
「ほんとだよ、来てすぐに前世の記憶思い出して離脱したけどな~」
「それじゃあ実際の所どっち側なんですか?」
リリィは俺の目をジッと見る。勇者なんて言ったもんだから疑っちゃったかな。
「少なくともこの世界ではどっちでもないかな。最終的には戦争を止めようとも考えているしな」
偽神さえ倒してしまえばどうとでもなる。だがまずそこを倒さない事には戦争への介入もできない。もしこのまま魔族側につけば戦争が長引きこの世界は荒れ果ててしまう。
「それは両方の味方って事ですか?」
「そうとも取れるな。今の状況では他の二十柱の事もあって難しいんだ。ただ魔族の事も考えてはいるつもりだ。これでも魔人族の長である魔神だしな」
「色々とあるのですね……」
リリィのとっては満足な回答ではなかったのだろう。だがリリィとて俺の言っている事を理解できないわけではない。
「ああ、リリィは人間は嫌いか?」
「いえ、いい人間がいるのも知っていますから。前に人間に助けて貰った事もあります」
「なら人間そのものが悪ではないというのはわかるよな?」
「はい」
「悪いのは人ではなく国だ。本当は全種族が手を取り合ってくれればいいんだけどな~」
偽神共が人間に植え付けた精神には全く腹立たしい。だがそれらも全て何とかして協調路線の世界を作り上げないといけない。果たしてそこに行くまで何年かかる事やら。
「周平さん達が今その為に頑張ってくれているならきっと叶うと信じます」
「ハハッ、ありがとな~そういえば人間族はどこまで進軍しているか知っているか?」
「村の酒場にいる魔王軍の話を耳にしたんですけど、人間族の軍が勇者を筆頭に魔王城に向かって進んでいるらしいです」
「ほう」
「何でも要塞都市デヴィルダイヴァーにて大規模な戦いがあるのではという噂です」
デヴィルダイヴァーか……魔王城を目指すには避けては通れない場所だ。魔王軍も恐らく幹部クラスを投入してくる。第八位階魔法の使い手を前に勇者が勝てるとも思えない。場合によってはその後何かしらで介入をする必要が出て来るかもしれないな。
「今は要塞都市なんて言われてるんだな~百年前に一度行ったのが懐かしい」
「はい、何でも勇者を迎え撃つために秘密兵器を用意してるとかで」
「秘密兵器?」
「私もよく知りませんが酒場の軍人達がそう言ってました」
秘密兵器か……アルサブについたら問いただす必要がありそうだな。
「面白い、どっちが勝つか見物だな~そういえばリリィは両親と暮らしているんだっけ」
「はい、父と母と三人です。村は小さいですが皆優しくて温かい村です」
「いい村なんだな。行くのが楽しみだよ~」
「はい、だから早く戦争が終わって欲しいです。軍の人が来てるせいで村の皆が暗くて……」
悲しそうな顔を見せる。こんな顔見せられたら是非とも助けてあげないとって気持ちになるな。
「着いたら俺が何とかしてやるからそれまでの辛抱だ」
「お願いします。周平さんに会えたのは私にとっての幸運です。」
よく見ると普通に可愛いな。つい一緒にいたく……
「何コソコソと二人で話しているのかしら?」
「うわっ!」
「周平~私がいない間にナンパかしら~」
「いや、そんな事は……」
立花が後ろから抱き着き首をしめてくる。
「いててっ……」
「いけない子ね~ちょっとお仕置きかしら?」
「奥さんを前にナンパなんていけないでごわすよ」
「そ、そんな事してないって……イテテッ……」
そんな後ろから首を絞められると痛さと同時に胸の感触が……痛さと同時に別の快楽が……
「すみません、そういつもりじゃなかったんですけど……」
「フフッ、大丈夫よ~後ろから見ていたしわかってるわ~」
後ろから見てたなら早くこっちに来ればいいんだけどな……どういう会話をしてるか聞くのに敢えて後ろで聞いてやがったな。
「見てるんだったら最初から来てくれよ~」
「フフッ、旦那が他の女性とどんな会話してるか気になって後ろで見ていたわ」
「お前らしいな、別にやましいことなんざ何一つないぜ」
「ずっと見てたし知ってるわ~」
最初から起こして連れてくれば良かったな。こういうとこは本当に抜かりがない。
「それじゃあそろそろ戻ろうか」
「はい」
「明日も下山するし体力はしっかり回復させるんだぞ」
◇
「着いたね~」
九兵衛達は旧レイルリンク王国の領内だったブロードブラッシュに着いた。
「疲れましたね」
「だね、お疲れ様~」
「馬車の旅ってほんと退屈ね~こっちだから魔物も全然強くないし襲ってこないし退屈ね……」
椿がつまらなそうな顔を見せる。ギャラントプルームからクレセントに入ってここまで来たが道中の魔物は椿の出す殺気でだいたいが逃げた事もあり魔物とはほとんど戦わなかった。盗賊にも襲われなかったので椿としては退屈な旅だったのだ。
「まぁまぁ~そのうち椿ちゃんの出番もきっとくるよ~」
「この街からは血の匂いも殺気もしませけど~それでこの街でまず何をするんですか?」
「そうだね~」
九兵衛は二人に写真を渡した。
また来週頑張って挙げます。




