カゲロウと気
暫く二つの視点で話を進めていきます。
「う~ん……」
菱田はカゲロウの問いに対して言葉が出せず口ごもってしまう。
「何でもいいから思った事を言葉にしてみろ」
「そうだな……何ていうかオーラを感じたって言うのかな?攻撃がいつもと違ったな」
「二人は?」
「無駄のない動きでしたね。俺達の攻撃と違い鋭い感じがしました」
「よくわからなかったけど気迫が込められた感じがしたかな。流石はメイスちゃん!」
するとカゲロウは四人の前で手にオーラのようなモノを込めて見せる。
「これは?」
「お前達に今必要な技だ。この世界にいる全ての種族が潜在的に秘めている技、気というやつだな」
「気?」
「そうだ、特に人間は他種族と比べて基礎能力が低い。一般的に魔力は妖精族や魔族に劣るし、身体能力は獣人族にも劣る。中途半端で弱く繁殖力だけが取り柄なのが俺達人間だ」
勿論例外はいる。化け物じみた強さを持つのは逆に人間族が多かったりする。
「だが俺達はそんじゃそこらの人間とは……」
「勇者でもここでは全然だろ?」
「なっ……」
「何故それを……」
菱田は自分達が勇者である事はカゲロウや老人には言っていない。それだけにそれを知るカゲロウには驚きを隠せない。
「勇者は魔力や身体能力等の基礎的なとこは高いが、そのせいでかえってある一定のとこで止まる。お前達以外の勇者がどこでどうしてるか知らないが、だいたいこっちに来たところで詰まるはずだ」
「確かに……」
「というか何で俺達が勇者だって知ってるんですか?」
「そうだ、俺達そんな事一言あんたに……」
「そんな日本名勇者以外には考えられんからな。まぁいいか……今さら別に隠す事でもないしな……」
カゲロウは懐からコインを出し見せた。
「五円玉……」
「やっぱお前……」
「俺の名は灰崎影狼、元勇者だ」
「やっぱり……」
「お互いに聞きたい事があると思うが、先に気についての話に戻ろうか」
カゲロウとしても現勇者達がどういう構成かについては興味があった。長らくパールダイヴァーにいてはファーガスの情報など入ってこないからだ。
「この気だが、所謂本物の強さを持つ者はみな使えるといってもいい。今こうして大袈裟に見せたが本来はそっと纏う。この技自体の名がクレセントやレガリアでは普及していないらしいから知らずに使っている強者も中にはいるだろう」
冒険者ギルドのSランククラスやファラリス連邦の十三騎士の称号を持つ騎士辺りはみな習得している。
「メイスちゃん、知ってた?」
「一応ね、だけど自分が使えてるとは思ってないわ」
「メイスの気は不完全だな。ちなみに魔族自体は魔力の高い種族だけに魔法を主な攻撃手段にする事が多い事から、気を纏う事が出来る人口はそこまで多くはない。メイス、直接戦闘は誰かに習ったか?」
「一応昔、生まれ故郷に強そうな魔族の人がいてその人から直接戦闘を習ったわ。さっき見せたのもその人の受け売りかしら」
「なるほどな、たぶんその人は気を纏う事が出来たのだろうな」
本来この気というのは鍛錬を重ねて身体強化をする事で習得でき、Sランククラスの冒険者となれば自然にそれを使いこなす事ができる。魔族に関しては身体能力が人間よりも高い事から鍛錬をすれば人間よりも早い習得が見込める。
「今思うとそうだと思うわ。その人からは気について説明された事がなかったから意識してなかったけど」
「俺はこの気について、意識的に研究をしたからこうやって見えるように纏う事ができるが、これは無駄な努力で別に目に見せる事ができない者でも俺よりより強い気を凝縮できる者はたくさんいる」
「俺達もこいつを習得すれば一歩上にいけるって事だよな?」
菱田が目をギラギラと光らせる。
「ああ、だがまず最初に言っておくが、勇者は気の習得は他の人より大変だ!まぁ普通の人も大変だがな」
「どうしてです?」
「まず元からギフトで恩恵を受けて、ある一定のとこまでは能力が早く上がるようになっているのはわかるよな?」
「はい、自分や隼人君や秋山見てれば一目瞭然」
「普通の人はその一定のとこにいくのに鍛錬を積んで自然と習得するが、勇者はギフトの恩恵で常人より鍛えてなくても高いステータスを持っている。気はあくまでも鍛錬の繰り返しが習得に繋がるせいか、鍛えなくても一定のステータスまで上がる勇者が気を纏える体を作るには、普通の人よりも鍛えないと気を纏う事はできない」
「どういう事だ?馬鹿にもわかるように説明してくれ」
「わかりやく言うと例えばステータス一万の人が習得するのに、ボーダーラインの五万まで四万分の鍛錬をすれば普通の人は習得できるが、勇者は三万までは大した鍛錬がなくてもギフトの力で上がるから、三万から五万にあげる段階で四万分の鍛錬をしないと上げないと駄目な感じだ。ただステータスは上がれば上がるほど上がりにくいから三万から四万分の鍛錬をしたって当然七万にはならないし、そういう意味では勇者は常人よりも気の習得が大変なんだ」
結局気は鍛錬での習得なので誤魔化しは利かない。だがその分、気を纏えるぐらいになった勇者はその段階で五万を超える事になるだろうし、常人よりステータスも高くなる。魔力面なんかも平均より上の数値を持っているし、色々込みで考えれば勇者補正は特別だし優遇措置である事は間違いない。
「だがそこまで行けば、魔王軍幹部にも遅れをとらない戦いができるって事だろ?」
「まぁ幹部クラスをサシでやるには、もう一つ上の段階にいかないとキツイが、お前達四人がみな気を纏った状態で四対一なら現実的だな」
「ちょっと菱田君、私は魔王軍とは戦わないわよ?」
「別に俺も基本的に戦う気はねぇよ。例えばの話だ」
菱田の目的は戦神の丘からの帰還ルートを見つけて、玲奈先生と帰る事で、それはメイスには伝えてある。ただあの時の負けを意識しているだけに過ぎない。
「メイスちゃん、隼人君はザラックって言う魔王軍幹部に手も足も出なかったのをずっと気にしているだけだから」
「そうそう、その後神山の奴が簡単に倒しちゃうもんだから余計にね」
「こらお前等、余計な事言うんじゃねぇ!」
「「あてっ!」」
菱田が二人の頭を叩くが、カゲロウは大野がだした神山という名前を見逃さなかった。
「その神山ってのは地球人か?」
「ああ、そうだよ」
周平を意識している菱田は少しぶっきらぼうな返事だ。
「ああ、でもそいつはちょっと特殊なんですよ」
「特殊?」
「確か百年前この世界で戦ってた二十柱の一人とかで、地球に転生してこっち来たからクソ強いんですよ。俺達はそいつに戦神の丘の話を聞いてここまで来ましたから」
「えっ、祐一君の知り合いに二十柱がいるんだ~」
「あ、メイスちゃんにはまだ言ってなかったね。こっちでは信仰の対象なんだっけ?」
「ええ、初代魔王様も二十柱だからね~」
「なぁそいつとはいつ会える?」
カゲロウは急に神妙な顔つきになる。
「どうだろ?いずれどっかで会いそうな気はするけど……」
「そうか、ならこの特訓が終わったら俺もお前等について行くとしよう」
「「「えっ……」」」
「一体どういうつもりだ?」
「その男に話す事があるからだ」
◇
「こんな感じか?」
周平達は夜を過ごす為に宝物庫からテントのセットを出して作った。
「いい感じでごわすよ」
「しかし手伝ってもらって悪いな~」
「気にしなくていいでごわすよ。某もこの中で寝てみたいでごわすから」
「二人ともそこ立ってちょうだい」
「はいよ」
立花がテントと一緒に写真を撮る。ここに来てから写真を撮るのにはまったらしい。
「今度は俺と立花だな、撮ってくれるか?」
「任せるでごわすよ」
使ってるとこをしっかり見ていたのか手際よくシャッターを押す。流石は神獣と言ったところか。
「撮れたでごわすよ」
「ありがとう、そういえばあなたの本当の姿見てなかったわね?」
神獣だし、本当の姿はモフモフした獣であるのは間違いない。
「あっちの姿はブサイクでごわすから見せるのが恥ずかしいてごわすよ」
「そんな勿体ぶんなよ~俺とお前の仲だろ~」
「そうよ、私達友人じゃない」
「じゃあ少しだけでごわすよ」
パヴォットは変身を解いて本当の姿になる。体長五メートル越えの白い毛むくじゃらの熊みたいな姿で威圧感は凄い。流石は神獣だ。
「流石デカいな~」
「地球にいる熊を大きくした感じね」
「恥ずかしいから戻るでごわすよ」
すぐに人型に変身して戻る。
「すまんな、というかその太った男の姿は何処からとったんだ?」
「それ私も気になってたわ。そもそも変身魔法自体も難易度高いし」
「この姿でごわすか?人型になるのは初代魔王様に教えてもらったのと、これは昔山頂に登ったとある若者の姿でごわすよ」
若者だと?そんな風貌の若いやつがいるんだな……
「へぇ~随分老け顔だったんだな」
「何でも空手の達人だったと自分で言ってたごわすね。白米食べながら焼き肉食べたいってずっと言ってたでごわすよ」
「へっ?」
白米に焼き肉だ?それは確実に地球人だろ。
「その人の名前とか聞いたかしら?」
「輪島銑十郎って言ってたでごわすね。何でも勇者として召喚されたけど色々あって最後の一人になり、仲間の供養の為にここを登る事にしたとか」
やっぱ勇者かよ。
「何年前の話だ?」
「七,八十年ぐらい前だったでごわすかね」
エミリアに始末された二代目勇者か。戦死したとされていた二人以外の四人は全員殺したと言っていたが、そいつだけ殺し損ねたのだろうか。
「その人がどうなったか知ってるかしら?」
「山を降りた後はどうなったかわからないけどパールダイヴァーに行くと言ってたごわすね」
「なるほどな」
流石にもう生きてはないだろうな。
「気になるでごわすか?」
「周平は記憶か戻る前は勇者として召喚されたし私も勇者じゃないけど同じように地球という場所に住んでたからその人とは同郷なの」
「なるほど~そうでごわすか」
「先代以前の勇者がどういう末路を辿ったか気になってな」
先代は行方知らずでその前以前も幸せになった者は果たしているだろうか?勇者が召喚されては不幸になったのは俺達が片付けられなかったあの戦争にある。どうしても責任を感じてしまうな。
「銑十郎は少なくとも前を向いていたでごわすよ。色々あって仲間の死を間近で見て運よく生き長らえた自分を嘆き自ら死ぬことを何度も考えてたと言ってたでごわす。でもそれじゃあ駄目だと、一度リセットして新しい道に進むと言ってたでごわす」
きっとそいつは乗り越えたのだろう。何度も苦しんでもがいて……それでここに来たんだな。
「そうか、ならそいつはきっと幸せになったと信じたいな」
「きっとそうでごわすよ。銑十郎は強い人間だったでごわす」
先代の勇者もどっかで生きているかもしれないし、会える日を信じてみてもいいかもしれないな。
来週までにアップする予定です。
良かったら感想とか待ってます。




