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ダウン街

遅くなりました。

 聖地ペブルス内には冒険者ギルドがある。と言ってもそこのギルドは他の冒険者ギルドとは少し違う。何故ならギルドマスターをしているトムロルフはダーレー教団の幹部を父親に持っており、そんなトムロルフがギルドマスターをやっているせいか、そこに所属するギルドのメンバーはダーレー教団を信仰している者が多く教団に入っている者もいる。本来種族分け隔てなくが信条のギルドだけに毛色が他とは異なっているギルドとも言えるだろう。


 「さて、また調査だな」


 ギルドマスターのトムロルフの最近の仕事は反対派や現体制批判派を見つけ出し、粛正する事。これは教団が依頼し、それを受けたという形にしている。と言うのも自由を重んじるギルドがこんな事を自主的にやるのは体裁に関わるし、ギルドマスターが率先してやっていたらギルドマスターとしての資格も問われてしまうからだ。


 「今回は一人ですか?」

 「おう、多人数だと隠密行動に支障がでるからな。ギルド番は任せたぜ~」


 トムロルフはギルドを出てしばらく歩き、裏道の方に入って行く。勿論やる事はダーレー教一派を見つける事だ。


 「相変わらず辛気臭いな……」


 聖地ぺブルスはダーレー教の聖地であり総本山、華やかで整備された街ではあるが光あれば闇がある様にそうでない場所もある。特に救いを求めてこの地を目指す者達もいて、中には定住しようとする者もいる。教団側も救いを求めて来る者達を大っぴらに追いやる事もできず、そんな人達を一つの区画に追いやる事にしたのだ。その場所はダウン街と呼ばれ治安もあまりよろしくない。この区画を作ったせいで犯罪者も住み着くようになったからだ。


 「やっぱり誰か連れてくれば良かったな~」


 ここを通ると常に複数の目線の的となる。特に身なりが良い者に対しては物乞いがあったり、運悪く犯罪者に出くわすと襲われる可能性もある。


 「まぁ俺を襲う奴なんざいないと思うけどな~」

 「視線がうるさいな……まぁ仕方ないか」


 トムロルフは前にこのダウン街に入って絡まれた時に完膚なきまでに痛めつけており、それを知っているせいか無闇に絡む者はいない。


 「ここら辺だな、毎回思うが分かりにくい場所だ」


 トムロルフは裏路地の更に分かりにくいとこにある、少し広目のお店に入った。


 「邪魔するぞ!」


 入ったお店は食堂なように食事を提供するお店だ。何でこんなとこに来たかと言えば当然理由はある。


 「あんたか……毎回ご苦労なこった。食事なら出すぞ」

 「それは結構だ。それよりも今日は客が少ないな」


 反ダーレー教がこのお店を根城にしているという噂が立ち、調査の為に何度か足を運んでいる。ダーレー教の者がダウン街に入ると早い段階で伝わり隠れてしまうと考えているからだ。


 「どっかの誰かさんが言いがかりをつけてくるもんだからな~すっかり客が減っちまったよ」


 店主の親父は皮肉気にそれを言う。


 「つー事はここが反逆者がここに集まってたっていう裏付けだな~お前も隠してるとろくな目に合わねぇぞ」

 「さぁな、俺は何も知らねぇよ……」


 実際にこの店主も教団を悪く言う声は聞いている。だが現体制を批判する教徒も多々おり、そういう人達もこの店に多く足を運んでいたので、どれが反対派の集団だったかどうかまではわかっていない。


 「何も知らないねぇ……」


 トムロルフは一度深呼吸をすると店主の胸ぐらを掴んで恫喝する。


 「でたらめな事言ってんじゃねぇぞ!ここでダーレー教を批判してたって話は聞いてんだよ!お前が投獄されたいか!?」

 「俺はこれでもダーレー教徒……捕まる理由が理解できねぇな」


 現体制の批判をあげる声が大きくなっており、最近では教徒ですら取り締まりの対象になる事も発生している。その為教団の幹部を父親に持つトムロルフに頼んでギルドの一部のメンバーにも取り締まりをやらせている。勿論九兵衛に知られたらギルドマスターとしての地位が危うくなるので、やっているのはダーレー教徒の一部のギルドメンバーのみだ。


 「ああっ!?ならしっかり他の教徒が暴走したら報告すべきだよな?」


 トムロルフがそのまま店主を殴りつけようと手をあげた時だった。


 「やめておけ!」


 なんと店で食事をとっていたシンが後ろから抑えたのだ。



 ◇



 それと同時期レダと裕二は同じ戦姫であるミッディの家にいた。


 「姉さん、家に来てまで裕二君とイチャイチャしないでよね~」

 「フフッ、気にしない気にしない~」


 かつては九人の戦姫候補生の中で長女として全員を厳格な態度でまとめ上げていたのを知っているミッディからしたら見慣れない光景なのだろう。


 「八百年前の姉さんに見せてあげたいわね……次女のエルザ姉さんが見たらドン引きかしら?」

 「うるさいわね、エルザがいたらこんな姿見せません!」

 「懐かしいね……エルザ姉さんもあの時ミライを庇ってなければ……」

 「それは言わないお約束よ。あの黒姫様の予言を覆すぐらいの事件だったからね」

 「それはどういう事件だったんですか?」


 裕二が聞くと二人は目を反らし、シーンとしてしまう。


 「あれ?僕何か変な事聞きましたか?すみません……」

 「いえ、いいのよ裕二君。もう今更だし」

 「そうそう、別に隠すほどの事じゃないから話すわ」


 レダが話し始めた。


 戦姫選定という二十柱がもつような力の一部を持った忠実な戦士を選ぼうという選定があり、その最終候補性がレダやミッディを含んだ九人。九人は暫くの間義姉妹となり生活を共にし二十柱からの試練をクリアしていき、全員が最後の試練に臨んだ。その試練をクリアできればその強大な力を得て、戦姫を名乗る事ができた。勿論全員がその試練をクリアするのが理想であったが、全員が無事戦姫になれる確率はかなり低いどころか絶望的だった。


 「えっ……戦姫になれるのは五人って決まってたんですか?」

 「少し違うわ、未来を視る事が出来る黒姫様が試練の結果を見たの。流石の黒姫様でも二十柱や私達戦姫が有する創生エネルギーが絡むと予言は完全には当たらないわ。だけど日にちを変えたりして能力で何度予言しても五人という結果だけは変わらなかった」


 黒姫の未来を読む能力は、対象の相手が強大な力の持ち主であればあるほど変動し、その場合未来を視る度に変わったりして結果何通りかの未来を視るといった感じになるが五人というのだけは変わらなかった。


 「まぁ私達は当然後から聞いたからあれだけど、黒姫様の未来予知が外れたのは驚きだったわ」

 「四戦姫なんて言われているという事は……」

 「そうよ……黒姫の予知が外れて四人になったのよ。長女だった私に三女のヒルデ、五女のミッディ、六女のクイルが試練に合格し戦姫となったけど、試練突破濃厚だった次女エルザがまさか突破が出来なかったのを聞いた時は呆然としちゃったわね」


 黒姫は定まらない未来に対しても、複数のパターンを見る事で結果的に進んだ未来を視ている事がほとんどなだけに不可解な事件として今でも語り継がれる事となったのだ。


 「そんな事が……ちなみに試練に落ちた五人はどうなったんですか?」

 「消滅よ……強大な力を得る為の試験なだけに試練を超えなければ死あるのみ」

 「勿論私達もそのつもりで戦姫選定試験を受けて最終試練に行ったわ。だけど最後試練を超えられなかった五人の事は今でも悲しいわ。共同でやるミッションなんかも最終の試練の前はあったしそれだけにみんなで超えるっていう想いは強かったからね」


 ミッディは昔を思い出したのか悲し気な顔を見せる。


 「だからこそ私達は他の五人の想いも背負って戦姫として君臨しないといけないの。私達の中であの五人は今でも生きてるから……」



 ◇



 「折角静かに読書しているというのにこうも邪魔されては落ち着かんな」

 「誰だてめぇ?」

 「このお店の客さ」


 勿論シンは姿を変えており、今度は三十手前ぐらいの長髪の男といった感じだ。


 「ああっ?んなもんはわかってんだよ!どこの誰かって聞いてんだよ!バカかお前?」

 「ふっ、名乗る訳がなかろう……お前はバカか?」


 それを聞いたトムロルフはカチンときたのか、シンに手をあげる。


 「てめぇ……調子にのってんじゃねぇぞ!」


 トムロルフがシンに向かって拳を向けるが、シンはその拳を軽く受け止める。


 「なっ……」

 「手を上げればどうにかなるとでも思ったのか?思い上がりもいいとこだな?」

 「くっ……離せ……」


 シンは受け止めた拳を離さず掴んだまま、上から力をいれて握る。


 「い、痛い……や、止めろ……」

 「ならこの店に二度とと来るな!この区画に来て難癖をつけるも止めるんだな。営業妨害だからな」

 「こ、この……調子にのるんじゃねぇ!」


 トムロルフは左拳で殴ろうとするが、シンはカウンターで鳩尾にヒットさせ、その場で崩れ落ちる。


 「ぐはっ……」

 「冒険者ギルドのギルドマスターともうあろう者がこの様とはな……情けない」

 「き、貴様……何者だ?」


 シンの能力があれはギルドマスターレベルでも拳一つで事足りる。


 「取り締まる前に何故そのような反対運動が起こるか……それを考えるべきではないのか?最近では反対派の運動どころか現体制を批判する信徒までも取り締まると聞いているが言語道断!それでより運動が加速する事がわからないのか?」

 「おのれ……ぬけぬけと……」


 シンの言葉は最もなものだが、父親から言われて現体制の為に取り締まりを行うトムロルフにそれが響く事はないだろう。だがそれを言われて何も言い返す事ができないのも事実。


 「自由を象徴する冒険者ギルドのマスターでありながら、そのような行動をする貴様は見てられんな!目障りだ、私の前から消えるがよい!」

 「くそっ……覚えていろ!」


 腹を抑えながらトムロルフは店を後にすると、少ない客全員がシンに対して賛辞の拍手を贈る。


 「すまねぇな、助かったよ」

 「ふっ、気にすることはないさ。それより怪我はないか?」

 「お陰さまでな~」


 シンはカウンターに席を移す。


 「一杯貰いたいのと、最近の奴らの動向を聞こうか?批判運動で捕まった仲間の事もあるからな」

 「なるほどな……そういう事ならここで知りえた話をするとしようか。助けてくれた御礼も兼ねてな」


感想等いつでもお待ちしております。

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