演説
6月に国民の祝日をください……
「今我々は危機に直面しています!」
聖地ペブルスの大聖堂の中で司教の一人が教皇であるダンテに問いかける。
「そうです!ファラモンドでの事件があってからというもの、ダーレー教に対して不信感を抱く者が多くなってきています」
「このままでは……」
他の司祭も訴え掛けるように続く。ファラリス連邦ではダーレー教を支援こそしてしたが、ゼラはダーレー教の要職に就く者は国の役人として用いなかった。というのも国全体が宗教に踊らされるのを危惧し、今まではダーレー教徒こそ多かったものの、宗教とは関係なく国の政治を行っていた。だがあの事件で周平達が二十柱としてファラリス連邦陥落をした事で、元々宗教に染まってなかったのが反ダーレー教に傾く政治体制に傾きつつあった。
「皆の者静粛に!」
枢機卿のラヴァンダンが宥めると、ダンテが言葉を発する。
「皆の想いはよくわかる。確かに今ダーレー教内ではスパイや反乱分子が乱立しており、その立て直しに苦戦をしている。だが心配する事はない!なぜなら我らが神の啓示を受けたからだ!」
初老でお世辞にも鍛えているとはいえないが、その声には力強さを放っている。そんなダンテの言葉に周りがざわつく。
「その事に関しては教皇共々我々上層部では常日頃心を痛めてきました。何とか対策をと考えているその時、啓示の間で声が聞こえてきたのです!」
ラヴァンダンがダンテに続くと、質問の声が飛び交う。
「その声とは?」
「その内容の開示を!」
またもざわつくが、ダンテが大きな声で静粛にと言うと、一瞬の沈黙が訪れ、口を開く。
「我等が神の復活が近いとの事だ。神が復活し、現世に具現化すれば、二十柱を名乗る愚かな異端者どもを駆逐し、世界は再び我らが統治する事となる!」
「そうです!百年前の大戦にて神は我々の前に姿を現す事ができなくなりました……だが神は我々の活動を見ていたのです!」
「ダンテ教皇とラヴァンダン枢機卿は神と対話をされたのですか?」
司教の質問に対し、二人は自信を持って首を縦に振る。
「その通り!私を含めた歴代の教皇達はその権威を拡大し、信者を増やしてきた。その行いをずっと見ていた神はそれが力となって予定よりも早い復活を遂げる事ができると言っていた。そしてそれに備えて今から一つの宣言をする!」
「神の復活が近い今、今の教団の現状を神に見せて、恥をさらすような事はできません。そこで私と教皇様でこの混乱を抑えるべき、一つの事を決めました」
ラヴァンタンがダンテを見ると頷き、口を開く。
「今ここに神の復活、そしてダーレー教の繁栄の為、裏切り者の処罰は厳正かつ迅速に行う事を決めた!これから教団の戦士達がみなの周辺を監視し、裏切り者や反逆者に最悪死をもって償わせようぞ!」
その言葉を聞いた者達はみな、テンションを上げ始める。
「ダーレー教に永遠の繁栄を!」
ダンテのその言葉に周りも復唱し始める。大聖堂の中は歓喜の声で包まれたのだった。
◇
「司教殿、この後の会合ですが……」
「うむ、少し遅れると大司教殿に伝えておいてくれぬか?」
「いつものですね?」
「うむ、よろしく頼む」
大聖堂での集まりが終わり一人の司教が大聖堂を後にし、聖堂の裏路地にひっそりと入る。
「うむ、ここいらで大丈夫かな」
老人の姿を解き、今度は少し若い青年風の男へと変身を遂げる。そう、シンは司教としての顔持っているのだ。
「今度は青年革命家だっけ?流石に芸が細かいわね~」
レダと裕二とレイチェルと合流をする。さっきまで司教だったシンも、今度は反ダーレー教を掲げて活動をする革命家へと変身する。
「まぁな、過激な活動をするにおいて、本当の顔を見せるのはリスクだからな」
「それでどうだった?」
「ああ、どうやら教皇と枢機卿は偽神の声を聞いたらしいな」
「声?という事は復活が近いという事かしら?」
「そういう事だな。真偽はわからないが、じき復活を遂げる等と言っていたからな。あの場で司教達を抑える為に嘘をついた線もあるが、楽観視はできんからな」
四人は大聖堂を離れ、裏路地の方に入って行く。
「スパイラルと裕二はどうだ?」
「シンの言っていた通り取り締まりが厳しくなるのは間違いないわ。私や裕二みたく下っ端のフリをしている新参者には、誰であろうと疑いの目を向けているけど深く追及はしてこない。でも立場が少し上の若い中堅教徒に対しては厳しい取り調べも始まってるわ」
「やはりか、なら中枢への潜入はくれぐれも用心をしてくれ、司教としての俺の身分も黒だとバレてしまうかもしれないからな」
「ええ、最悪ミッデイのとこに行くつもりよ。もし私に何かあれば裕二はあそこに預ける予定だし」
四戦姫の一角ミッディ・パールキャップはシン達への直接的なサポートの申し出は断ったが、間接的なサポートに関しては引き受けてくれた。緊急時の避難先はミッデイの家になっている。
「ああ、裕二よスパイラルの指示には素直に従え。お前の命はお前一人の物ではないからな」
「はい、そのつもりです」
「ならいい……さて今度は青年活動家として地下だな……」
青年活動家に化けて街の地下にある反教団組織の中枢を担っていた。
「そうね、私と裕二はここで一度別れるわ。レイチェル、シンのサポートをよろしく頼むわ」
「任せてください」
◇
裏路地から地下通路に入る。レイチェルもシン同様変装をする。
「昨日は他の反対組織に潜入していたよな?どうだった?」
「はい、昨日行った所は相変わらずで、まとまりがありませんでしたね」
「そうか……スパイについてはどうだ?」
「まだ断定はできませんが、数名怪しい者がいます」
「ほう、どういう奴らだ?」
「明らかに戦い慣れをしたのがいます。教団の刺客と考えるのが妥当かと」
ファラモンド陥落の一件で、反ダーレー教を掲げる者達のグループは増えたが、些細な主義思想の違いから連携をとれずにいた。だがシンが潜入してから一つの組織をまとめ上げ、更に他の反対組織との中継を、レイチェルを通じてやっている事で反対組織の中でも中心の方の位置づけとなっていた。
「うむ、ではその者の顔を見かけたら教えてくれ。また顔を変えて他の組織の集会に参加した時に殺るのもありだがな」
今向かっているシンが指導する組織については、集会の度にシンが全員を見て、怪しい者を見つけては尋問しているのでスパイはほぼ皆無の状況だが、他の組織ではそうはいかなない。中には摘発されてしまった所もある。
「ですね、この後の集会にいたら即始末します」
◇
「カヤージさん!それにウィンスさんも」
「遅くなってすまないな」
シンはカヤージ、レイチェルはウィンスという偽名を使い、革命組織クールモアを率いていた。
「いえいえ、もうメンバーは集まっておりますので準備はバッチリです」
「了解。それじゃあ早速集会を始めるか」
◇
「では集会を始めよう!」
地下通路を進んだ先にあるそこそこ広い一室。シンは真ん中の演説台に立つ。
「みんなお疲れ様!まずは俺の方から入手した情報を皆に伝えようと思う」
何時ものシンはクールなのでそこまで流暢に話す方ではない。レイチェルは最初にこれを見て本当にシンなのかと疑ったぐらいに違和感があった。
「教皇が反組織勢力の完全根絶やしを宣言した。これからはより一層秘密裏にやっていかなければならない。十分に注意してほしいのと新たに組織に入れる者は俺との面接を条件にしようと思う」
「カヤージ様、腐敗した今のダーレー教を追い出そうとこの街の若者、または別の反ダーレー教組織の者が入会を望んでいます。今はまだいいですがこのままいけばもっとたくさんの人が接触をしに来ることでしょう」
一人の若者がシンに問いかける。
「そうたな。それで?」
「その中には良くない輩も紛れてくるかと」
「当然その中には俺を殺そうとする輩も出てくるだろうな」
「はい、カヤージ様が直接会われるのは大変大事な事かと承知していますが、カヤージ様の命を狙おうとする輩も増えてきています」
シンは革命家カヤージの名で仲間を増やし、心を掴んで組織を大きくしてきた事で教団からはブラックリストとして命を狙われている。
「そうです!カヤージ様は今や我々の希望なのです!」
「腐敗した今のダーレー教を倒すと仰られたあなたの言葉でここまで来たのです!」
一人に続いて複数がシンに問いかける。
「みんなの気持ちはよくわかった。そういう風に思ってくれている事は大変光栄だ。だが面談は今まで通りやっていくつもりだ」
「カヤージさん!」
「俺は自分の目には自信がある。だからこうして集まってきた皆にはとても信頼を置いている。それに指導者が先頭に立たなければ下の者はついてこない……違うか?」
「ですが……」
「俺は正直虫のいい事をしようとしている……だから集まってくれた皆の為に身を犠牲にしなくてはいけないんだ……前にも話したがそれが俺に課せられた責任なんだ」
「カヤージ様……」
シンがここまで増やした理由はもう一つ……シンが率いている革命家組織は決してダーレー教団を潰そうとしているという事ではないという事にある。シンが倒そうとしてるのはあくまでも現体制。ダーレー教を潰そうとする者、現体制を倒そうとしている者、この二つの考えを持つ者を仲間につけていた。
「俺は腐れきった教団の現体制を倒し、本来あるべきダーレー教の在り方を取り戻す為にここまできた。俺は無宗教家だが、本来あるべき宗教家を見てきたし、本来のあるべき宗教家は立派に見える。ここに集まった者の中でもダーレー教を潰そうと考えている者にはそういった者の姿を見てほしいし、ダーレー教を信仰する者はそういう風になってほしい。そんな願いからこの組織を作った。悪いのは宗教でなく人や体制である事……それを皆にわかってもらえる日を信じて活動していきたいんだ……」
ダーレー教の存続は勿論本心ではない。だが宗教そのものに対する考え方としては本心であった。
「勿論でございます!カヤージ様のその理念に惹かれて考えの違う皆が集まっているのですから!ただカヤージ様は我々の為に働きすぎなのでその身を案じての事なのです!」
「ははっ、こんなたくさんの人に心配される俺は幸せ者だな。心配せずとも皆の力が必要になったら嫌でも助けて貰うつもりだ」
「カヤージ様!」
「さてまた俺の自分語りがでてしまったが本題に入ろうか。その後の皆との交流もあるからな」
またつなぎみたいな話ですみません……
次も一週間以内に上げていきます。




