終結へ
次で魚人族の話は終わりです。
「さて譲る気にはなったかな?」
屋敷の中の一室、マムールは不気味な笑いを見せながら痛めつけ、鎖で拘束したコロネーションを見ていた。
「誰が貴様なんぞに……世界の情勢が大きく動いている今、貴様の考えるような鎖国政策など容認できない」
「そうか……ならこうしてやろうかな!」
マムールはコロネーションの腹部を蹴りつける。
「ガハッ……」
「まだ立場を理解してないようだな?いくらアキーダの妹だろうが俺がいつまでも何もしないとでも思っているのか!?」
「何と言われようと秘宝は貴様には……グハッ……」
「いい事思いついたぜ~」
マムールは刃物を取り出しコロネーションに突きつけ、ニヤニヤと高笑いを見せる。
「な、何をする気だ……」
「ちょっとずつお前の身体に傷を残し、その血をアキーダに見せれば大人しくなるんじゃねぇかと思ってな~さぁてまずはどこがいい?」
「くっ……」
コロネーションは周平達が街に来た時、少し高圧的な態度を見せた。だがそれには理由があった。あの屋敷にはギュイヨン家の手先も仕えている為二十柱である二人を受け入れるような素振りを見せる事ができなかったのだ。かつて九兵衛を追放し、ギュイヨン家を抑えて長となった過去がある手前、その行為自体が支持者の減少につながるからだった。
「それじゃあまずは肩らへんからだな~」
だがナイフが肌にあたる直前、部屋に従者が入って来る。
「た、大変です!」
「どうした!?」
「や、屋敷に侵入者です、護衛を次々になぎ倒しています!」
「何だと!」
「こちらでは歯が立たず……」
「チッ……今行く。サデックスの奴も呼んで来い!」
これを聞いた時コロネーションは一つの確信した事があった。この状況での侵入者など一組しかいない。そして彼等がギュイヨン家に負ける等微塵も考えられない。
「せいぜい気を付ける事だな……」
「ふん、お前の相手は邪魔者を始末したらだ」
マムールが部屋を出ていくとコロネーションは思わず笑みがこぼれた。恐らく次会うとしたら立場が逆転しているし、下手をすればもう二度と会わないかもしれない。
「お前達は二十柱を甘く見すぎだ……」
◇
「ハァァァァァ!」
「グフォッ!」
屋敷の中に侵入した周平達は暴れまわっていた。特に周平はここに来るまで何もせずだった事もあり、その鬱憤を晴らすかのように相手をなぎ倒す。今は別行動をしているので一人だ。
「おら!その程度か?もっと楽しませてくれよ!」
「化け物め……」
化け物?そりゃ誉め言葉だな。今の俺はそれ聞いたらテンション爆上がりよ。
「いたぞ!やれ!」
ちょっとよそ見をしている間に追加の敵か……面倒だし魔法で一気に沈めるか……
「ヴァイスシュヴァルツ!」
おなじみ無数の白と黒の弾丸を放ち攻撃する第八位階魔法。この魔法は第八位階に入った段階で習得する便利な攻撃魔法としては、トップ五には入っている。というのも無属性で攻撃速度が速く、攻撃範囲の幅をかなり持たせられるからだ。属性のあるやつはいくら第八位階魔法といえど、相手によっては効かなかったり減少してしまう事がある。例えば魚人であれば、水属性の魔法は階位が高くても効果減少の対象になる事間違いないからだ。
「グァァァァァ!」
「この化け物め!」
「おせぇよ……」
「なっ……」
背後から薙刀のようなものを振ってきたが、それを避けて腹にグーパンだ。
「グフォッ……」
まぁわかると思うが、俺の拳はその気になれば首を吹っ飛ばす事も造作ではない。
「この拳はお前の首が吹っ飛ぶぞ?」
「ヒッ……」
俺の速度と殺気に怖気づいたのか、弱腰になり攻撃も緩む。せめて動じず来てくれればいいんだが、流石に無理だろう。魚人族は人間族よりは強く力もあるが、メンタルまで特別強いわけではない。
「数でどうにかできる程俺は甘くないぜ!」
さてこっちで暴れて出来るだけたくさんの兵をおびき寄せ、その間にあいつらを奪還。うまくやっているといいが……
◇
「邪魔よ!」
「グァァァ!」
立花は宮本の奪還をすべき部屋を探して屋敷内を探し回っていた。
「里菜はどこ?」
「う、上の部屋に……」
立花にとって宮本は親友であり守るべき存在。立花がこっちに来てから一年以上離れている間、宮本がこっちに来て連邦で酷い目にあっていた事に関して後悔していた。
「ここは行かせない!」
「邪魔よ!」
兵士をなぎ倒して上の階に進む。
「里菜!」
「立ちゃん!」
部屋に入り宮本に近づき、縛る鎖を破壊する。
「怪我はないかしら?」
「うん、大丈夫だよ」
「ごめんね、もうちょっと早く攻略が終われば……」
「ううん、まさか攻略中にこんな事起こるなんて、そもそも想定外だったし仕方ないよ~それにみんな命に別状はないしさ。それよりもそっちの方は問題なし?」
「ええ、こっちは無問題よ。だから早いとここの騒ぎを片付けて……」
すると部屋に魚人族の男が入って来る。さっき宮本に蹴りを入れたサデックスだ。
「貴様何をしている!」
「誰かしら?」
「我は魚人族最強の戦士サデックス!その人質は逃がさんぞ」
「私を拘束して暴行した野蛮人よ」
里菜のその言葉を聞いた瞬間立花から強烈な殺気が放たれる。
「ベンドアの鎖!」
空間から現れた複数の鎖がサデックスを拘束すると、そのままサデックスの腹部に強烈な蹴りを入れる。
「グハッ……」
「里菜に暴行ですって……万死に値するわね!」
◇
「一体何が起きている……」
マムールがコロネーションのいた部屋を離れ屋敷の侵入者を確認しに行くと物凄い強さで周りをなぎ倒していく周平を目の当たりにし、焦りを感じていた。
「あの強さは……ならばまずはアキーダを……」
逃げる方向で考えたマムールは先にアキーダを回収し屋敷の外に向かおうとしていた。
「マムール!」
部屋で捕まっているアキーダの元に近づき、一時的に足の方の拘束を緩くする。
「これはどういうつもりですか?」
「侵入者だよ……ちょっと厄介みたいでね。悪いが一緒に来てもらおうか」
「なるほど……ですが私はここを離れません……貴方に決してついていきません!」
「なら力ずくでも……お前達!」
取り巻きの二人が無理矢理アキーダを持ち上げ連れていこうとする。
「や、止めなさい!」
「お前は俺の物だ。他の誰にも渡さない……」
「それはどうかな~」
「あぁっ!」
その瞬間取り巻きの二人が倒れる。
「えっ……」
「全く物騒だね~」
「なっ……なぜ貴様が……」
「ウウッ……来てくれたのですね……」
その姿を見てアキーダは涙を流す。ずっと会いたかったその姿を目の当たりにした事で今まで貯めてきた何かが込み上げてきたのだ。
「ハハッ、そんな大袈裟だね~」
「九兵衛~ずっと会いたかった……」
「嬉しいね~俺も会いたかったよ」
そう、助けに来たのは冒険者ギルドの総長にして、巨人王の高天原九兵衛だ。立花と周平は屋敷に侵入する直前にゲートでギャラントプルームに戻った。元々出入り禁止になっている九兵衛を何とかするつもりでいた事もあり、今回のクーデターは好機と考えたのだ。九兵衛も事情を聞き、それにのってここに来た。
「さぁて後は長を助けないとだね~さぁて長の居場所を……」
振り向くとマムールの姿はなかった。
「早いね~アキーダ、コロネーションの場所は?」
「一つ上の一番大きな部屋ですわ。恐らくマムールもそこに向かったと思います」
「オーケー、それじゃあいこうか~」
「はい!それと一つ……」
アキーダはモジモジしながら九兵衛を見つめる。そしてそのまま九兵衛に抱きつき頬にキスをする。
「今はこれぐらいで……」
アキーダのキスで九兵衛は思わず欲がむき出しになりそうになるが、コロネーションの救出がまだというのが頭にあり、踏みとどまる。真面目モードとはいえ美しいアキーダの誘惑に心が揺らいでしまったのだから普段であれば目も当てられなかったかもしれない。
「ハハッ、ま、まずはコロネーションを助けてからだね」
今この場所にザルカヴァがいなかった事を心底良かったと思った瞬間だった。
◇
「ハァハァ……」
マムールは階段を駆け上がり、コロネーションの部屋を目指す。
「クソッ……」
どうしてこうなった?予定では今頃長の座を手入れ、アキーダを嫁にしていたはずなのに……
これらの感情が頭の中をよぎりながら焦燥していた。元々彼からすれば二人が二十柱だという事を知らない。巨人族の使者と共に来た人間族程度にしか考えていなかった。それ故に今回こういった事態になることが予想外だった。その上九兵衛がきたとなれば気が気ではない。周平や立花の事はともかく九兵衛の事は二十柱の一人としての認識があるからだ。
「俺は絶対に長となるのだ……その為の邪魔はさせない……」
コロネーションのいる部屋に辿りつき中に入る。
「マムールか……」
「コロネーションよ……事態は急変した。よって手段を選ぶ暇はなくなった」
マムールは剣を抜き、コロネーションに向ける。
「何をするつもりだ……」
「決まっているだろ?貴様を殺し、無理矢理にでも長の座を奪い取る。貴様さえいなければ長になるのは俺しかいないからな」
「私を殺せば秘宝の場所はわからないままとなるぞ?それに今更長になれるとでも思っているのか?」
「黙れ!俺は貴様とは違う……真の長に相応しいのはこの俺だぁぁぁ!」
剣を手にコロネーションに斬りかかる。
「ウォォォォ!」
「はい、ストップ~」
だが剣はコロネーションの元にいくことはなく途中で止められる。
「なっ……」
「全く……それは流石に駄目っしょ」
後ろからマムールの肩を掴み、動きを止めたのは周平だ。マムールは身体を一生懸命動かそうと努力するが当然動かない。
「は、離せ……俺はこいつを殺して長に……」
「テメェなんぞに長なんざ務まる訳がねぇだろ!」
「グハッ……」
周平はマムールの正面に行き、顔面を思いっきりひっぱたくと、ふっ飛んで部屋の壁に叩きつけられた。
「ふぅ~危機一髪だったな~」
「すまない……感謝する」
気絶したマムールから錠の鍵を奪いコロネーションを解放する。
「まぁ気にすんな。こっちもイラついてたしちょうど良かったからな」
こうしてマムール達ギュイヨン家のクーデターは終わりを告げた。
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