深層へ
遅くなりました。
現在迷宮の一三二層まで来ていた。ショートカットしていくにしても罠が置いてある階層までは自力で進む必要があるからだ。
「中々見つからんな」
「そうね、そろそろ見つかってもいいんだけどね」
罠のある階層は固定されておらず、ランダムで選出される。基本的に百層代は必ずと言ってもいいぐらいに配置されているので、二〇〇層につくまでにはその階に辿り着けるはずだ。
「クレセントでは小部屋みたいなのがあってトラップの宝箱を開けて罠が発動したな。どこかに小部屋でも……」
すると奥の方に小部屋のようなものが目に映る。
「おっ、あるじゃん!」
早速小部屋の中に入る。すると大きな宝箱が配置されており、いかにもという感じだ。こういう罠だとわかってても開ける菱田みたいな馬鹿がいるわけだが、普段であればスルー推奨だ。
「こいつが例のあれだな」
「ええ、恐らく間違いないわね」
「早速開けるわ」
宝箱を開けると当然中身は空である。そしてそれと同時に扉が閉ざされ、轟音が聞こえてくる。恐らく罠が発動したのだろう。前のように魔物が出てきて襲い掛かって来るはずだ。
「立花来るぞ!」
「わかっているわ」
だが来たのは魔物ではなく大量の水で、上から水が流れてくる。
「あら」
「まじかよ……チッ……」
「出ましょうか」
罠が作動し当然ドアは閉まっているが、立花や俺の前ではちょっとロックした壁ぐらいじゃ意味はない。
「いくわよ!」
立花は神細剣ローズメイデンを片手に壁を思いっ切り突く。すると壁が崩れたのでそのまま脱出する。
「まさかの水とは予想外だな」
「流石は水の迷宮といったところかしらね」
オルメタの迷宮は水の迷宮、魔物なんかも水属性の魔物が多いがまさか罠まで水とはな。
「だな、だが水攻めも部屋を脱出されては意味を為さんな~」
水が崩れた壁から流れ出る。もし並みの冒険者があそこで閉じ込められたら溺死する可能性もあっただろう。
「そうね、でもあの水に気をつけて」
「どういう事だ?」
「見ていればわかるわ」
小部屋に向かって流された水は何やら不規則に動き、そのまま形を形成する。あれはただの水ではなく魔物だったという事だ。某有名ゲームで良く出てきて、ヌルヌルのブヨブヨで、異世界系だと女の子に忌み嫌われるあの魔物だ。
「気持ち悪いわね……」
「スライム様のお出ましだな~」
この世界に来て初めてのご対面と言ったところだ。ブヨブヨのあいつだが、触れたら服が溶けるっていうのもよくあるお約束だがあいつはどうだろうか。
「周平あいつは任せてもいいかしら?」
「ちょっと触れる敵じゃないわ……」
顔を見ると、嫌そうな感じで引きつっている。スライムにそこまで嫌悪感を示すような奴ではなかったはずだが……
「ああ、まさか服でも溶かす能力でも備わっていたか?」
「そのまさかね……」
それならこの嫌悪感も納得だな。でもそんな強い訳でもないだろうし、ステータスを覗いてみるか。
クローズキラーリキッド
レベル:123
種族:スライム
攻撃:5000
防御:20000
魔法攻撃:12000
魔法防御:12000
素早さ:5000
魔力:12000
固有スキル:対物理耐性、服溶液
能力は高くないものの、スライム系の敵らしく物理耐性に優れている感じか。最早名前にスライムが入ってないし、あの技……普通の女の子なら恐怖しかないな。立花もバリアをいつもより二重に貼ってるし。
「立花あの服溶液って技が……」
「万死に値するわね!そんな技が存在する事が思い上がりもいいとこね」
漫画とかだとこれは服が溶けてウハウハな展開なのかもしれないが、となりキレてるうちの立花さんはそんな約束お構いなしだからな。というか嫁に醜態晒すのは夫としてのプライドが許さん。
「炎獄!」
俺は嫌いじゃないけどすまんな。蒸発して消えてくれ。恨むならそんな変態な技を持つ自分を恨んでくれ。
魔神の力を使い、周囲を高温状態にするとスライムはその場で蠢き、紫色の体をピクピクと痙攣させている。やはり高温には弱いらしいな。
「獄炎撃!」
スライムに直撃すると炎がスライムの体を覆いつくし消滅する。これは展開的につまらんやつだな……何かとても申し訳ないが、もしかしたら俺がいないとこで誰かがしっかり服を溶かされてお約束の展開を見せてくれるかもだし、その誰かに期待しよう。
「立花終わったぞ」
「ありがとう~愛してるわ」
立花は俺に抱き着きキスをしてくる。今の顔がこの街来て一番の微笑みだ。
「やっと笑ってくれたな」
「フフッ、折角周平と二人なのにムスッとしててごめんなさい」
「ハハッ、気にすんな。迷宮入っても邪魔者がいたししょうがない。全部終わったらきっと笑えるさ」
「そうね、スライムも倒してくれたし早速準備しましょう」
一度完全に魔神モードになり、周囲を歩く。俺達が罠に嵌まった影響で、この階が新しく更新される準備がされたはず。どこか地盤の緩い個所を見つけて地面を割ればそのまま最下層のどこかに繋がる。
「どこがいいかな……」
あくまでも準備が始まったというだけで、俺達がフィールドにいる限りは階が新装される事はない。あと闇雲にやっても、脆くない部分を無理にやってしまって上手くいかなかったり、ペナルティーが科されたら面倒だ
「さっき罠に嵌まった部屋はどうかしら?あそこなら絶対に変わるだろうし」
「確かに、戻るか」
さっきの部屋に戻ると立花の予想通り、地面が脆くなっていた。
「どうかしら?」
「これなら大丈夫だな。脆くなってるしすぐ行けるよ」
それじゃあ早速初めてしまうとするか。と言っても少し集中して地面に拳をぶつければすぐだがな。
「周平お願い」
「了解、それじゃ早速やるぜ」
三〇〇層より下にいくのは確定で、いかに最下層に近いとこに落ちれるかだな……
「ハァァァァァ!」
力を込め、思いっ切り拳を地面にぶつけると地面にヒビが入り、そのまま崩れ落ちるので、立花の手を掴む。行き先が複数ある可能性もあるだろう。
「おっと、はぐれないようにな」
「フフッ、ありがと」
「この先は油断せずにだな」
「ええ、あなたもね」
◇
その頃ギャラントプルームでは陣が九兵衛の特訓を受けていた。
「ウッ……」
「この程度の攻撃はしっかり見極められないと駄目だよ~」
九兵衛さんの攻撃は重い……二十柱随一のパワーは伊達じゃないという事か。
「九兵衛さんの攻撃を直で受け止めるなんて今の俺じゃ難しいですよ~」
「ハハッ、でもこれかた戦う偽神のボスにあたるエクリプスは強い。そんなのが敵として出てくるという事は、俺の攻撃ごときでヒーヒー言ってられないという事だよ~」
「は、はい」
とはいえこんな物理攻撃を直接受ける事はない気がするんだけどな……
「ほら雑念が出てるよ~」
向こうが繰り出す拳は尋常じゃないほどの圧力があり、くる瞬間拳が大きくなってくるような、そんな幻影を見させられる。巨人モードになって対峙したらそれは幻じゃなく現実になるのだろうが、人間の大きさのままでも、その圧力は変わらない。
「はっ!」
その幻を見ると逃げたくなるが訓練だしそうも言ってられない。だがそれを受けるともの凄い衝撃が体を奔る。
「力の点と中心をしっかり見極められればこの程度の攻撃なら簡単に対処できる。まずは力の点を常に見極められるようにするからだね~」
それが出来たら苦労しないって。こうして対峙するとわかるが、同じ二十柱へとなってステータスも同等なものとなってきているのに、まだまだ大きな差があるのを実感させざるを得ない。長年培ってきた技術はすぐには埋められいという事だろう。
「ウォォォォォオ!」
受けるところを、力を中心から少しずれてしまったせいか耐え切れず吹き飛ばされる。
「くっそ……」
「ハハッ、でも最初に比べたらかなり良くなってきているよ~」
「まだまだですよ……本当に九兵衛さんと同等の能力を得ているのか疑いたくなりますね~」
「二十柱である以上力事体は同じぐらいさ。なぁに数百年ぐらい技術的な面の習得の訓練をしていれば同じぐらいになるよ~」
数百年って……あっもう俺も年をとる概念をなくしてしまったんだったな。二十柱からすると数百年って軽いんだろうな。
「努力します」
「その意気だね~少し休憩しようか」
訓練を中断し、九兵衛さんと共に昼食を取りに行く。
「そういえば陣は修練の里パールダイヴァーに行ったんだったよね?」
「はい」
「俺も暫く行ってないけど今はどんな感じだった?」
パールダイヴァーか……アンと会ったのもあそこだったな。結構最近の出来事なんだけど次々に色んな事があって昔に感じてしまう。
「あそこですか?そうだな……一言で言えば色んな人がいましたね。勿論強さを求めている者が多数でしたが、僻地らしく迫害を受けて行くとこがない者も多々いました。だから種族数で言えばここよりも多かったですね」
アンがいい例だろう。ダークエルフ程ではないが、各種族のハーフだったりで迫害の対象となった者も多数いた。あそこにいるだけに、みなそれなりに実力を持つ者だったがな。
「そこは昔と変わってないね~前はちょくちょく訪問していたんだよね」
「九兵衛さんが今更あそこで学ぶような事があるんですか?」
確かに個々のレベルが高い場所ではあったが第八位階魔法を連発できるような超人は見なかった。
「ああ、俺は主にギルドへの勧誘で行ってたんだよ~」
「てことは勧誘成功してギルドに在籍してる者もいる感じですか?」
「ちょいちょいいるよ~シルキーサリヴァンやトリプティクとかもあそこで修行していた組だし。本部メンバーじゃない白金冒険者の何人かはあそこに住んでいたのが何人かいるし」
確かに種族間の差別を許さない冒険者ギルドの方針やこの街ならそういった者達も普通に受け入れる。流石に犯罪者経歴が凄いのはNGだと思うが。
「そうだったんですね~最近は行ってないんです?」
「周平達が来る前にあそこまでの通り道の地域でいざこざがあってね~今は収まったけどそうしてるうちに周平がこっち来たりで全然行ってないんだ」
「いざこざ?戦争ですかい?」
「それに近いものですわよ」
突然後ろの方からアンの声が聞こえてきた。
「知っている感じか?」
「知っているも何も私達のような者のせいで起きたと言っても過言じゃありませんわ」
次章はクラスメイト関連を進めていこうと考えています。