魚人族の街
久しぶりの投稿です。
「やはりいないか……」
洞穴の中に入った三人だが、アーシアはいなくもぬけの殻だった。
「まさか本当に封印が解けているとは……」
エミリアは舌打ちをするがイライラが隠せないようだ。
「ああ……だが彼女の封印が解けたという事は力が完全に戻ったからと見ていい」
リオンは魔力の痕跡を探りどちらの方向に消えたのかを探る。
「そうですね……もう少し早ければ……」
「まぁまぁ、落ち着こうエミリア。リオン様が今痕跡を見てくれてるから」
直樹がエミリアを宥める。エミリアはかっての二の舞になる事を危惧していた。優しさ故に乗っ取られそうになった大天使に不安があったからなのが言うまでもない。
「ふむふむ、どうやらここを出て北の方角へ向かっているね」
「北……レガリア大陸かしら?」
「レガリア大陸か……となるとペブルス辺りの可能性が……」
「確かに偽神の一人があそこにいるという噂だからね。それを倒しに向かったと考えれば辻褄は合う。まぁあくまでも北へ向かったという事しかわからないから本当にあそこへ向かったかどうかは怪しいけどね」
アーシアは偽神に乗っ取られていた時期があったせいもあり封印されている偽神の場所を察知する能力があり、北へ向かっていた。だがそれを三人は知らない。
「いずれにせよペブルス組に伝える必要がありますね」
「ああ、一度ギャラントプルームに戻って九兵衛に相談しようか」
「ですね」
三人は洞穴を出て祠へと戻る。本来の目的である祠への供養を済ませる。
「あの二つの封印はどうするんです?」
直樹が何気なく聞く。残り二つも対偽神戦に対し切り札となりえる代物だからだ。あの場所を利用して約百年日の目に出る事はなかったが、アーシアの封印が解けた以上残り二つも時間の問題だった。
「片方はこの後の立花次第さ……立花が最後の一欠片を取り込めばあれはすぐにでも開放する時がくる。もう一つは……」
リオンは口を止める。もう片方が解き放たれる日がくるのは果たしていつだろうか。これがもし偽神との戦いが終わる前に解かれればこの世界は滅ぶ。片やそれまで使われなければこれは別の用途に使われ、次元エレベーターの完成に貢献するだろう。
「これはまだまだ先さ。少なくとも僕はそれを信じている。だから直樹がこれを知る必要はまだないよ」
これを対偽神に使わせないようにとリオンは心に強く刻む。この場所に起きた悲劇を世界規模で起こさせていけない。そんな想いを胸に祠を後にした。
◇
「外だ~」
「いいお天気ね」
「洞窟の中は太陽の日が当たらないからね。この光が恋しかったよ」
「ハハッ、里菜さんもご苦労様です。やっと抜けれましたね~」
海の洞窟を抜けた俺達は解放感に浸っていた。特に宮本は恋しかったのか大喜びだ。
「ここから魚人族の街へはあとどれぐらいだ?」
「ここを抜ければもうすぐですよ。もうあと一時間足らずでつきます」
「やっとか~楽しみだぜ」
「あの街はとても綺麗ですし、お三方とも気に入るに違いない」
そういえば前に九兵衛さんがあそこは楽園だなんて言っていたな。美女揃いってだけでなく街並みも凄いって言っていたし色々期待できるはずだ。
「待て、貴様等!」
と歩いていたら横の岩陰から声を掛けられる。
「俺達の事だよな?」
こちらに近づいてきたのは人間風の男。だがこれは恐らく擬態している魚人に間違いない。
「貴様等以外に誰がいる。この先に何の用だ?」
「ちと魚人族に用がある。それと迷宮に取りに行くモノもある」
「この先は許可なき者の立ち入りは禁止している。大人しく立ち去れ!」
迷宮も含めこの大地や海は俺達二十柱の所有……まったく勘違いにも程々しい。だが魚人族にもこういう風に警戒するに至る過去がある。
「ヴァルドマイン、ここは頼めるか?」
「わかりました」
ヴァルドマインが間に入り説明する。すると武器を下げ警戒心を解く素振りを見せた。
「成程……私がこっちの警備を任されるのはここ最近故あなたが定期的にここを通ってくるのは知らなかった。だが後ろの三人は?」
「戦争悪化が懸念されるので我らが長である九兵衛さんの代理で来てくれたのです」
「そうであったか……最近魔族が頻繁に出入りしてきて徴兵を募るものでよそ者に対いしての警戒心がより高まっているんだ」
魔族側も本気で潰すという事か……どちら側にも傾かないようにコントロールできれば良いが……
「成程ね、それでその徴兵に応じているのかしら?」
「一部の血気盛んな人間嫌い以外はみなそれを拒否した。基本的に戦争に参加する気はない」
魚人族は基本的に中立と独立を貫くと聞いていたがそれに嘘はないようだな。
「魚人族自体が他種族との関りを控えていますし、元々大人しい種族ですから」
「その通りだ、そちらのお三方も里に入れば人間を嫌う者達以外は普通に客人として見てくれる。こんな状況だし人間側の情勢も気になるからな」
「それについても話をするつもりよ。その為にこっちに来たんだから」
「うむ、ではアクエリアに案内しよう」
◇
「噂通り綺麗な街だな」
連れられる事十数分、魚人族の街でオルメタの迷宮があるアクエリアへと着いた。建物には少し文化的な遅れを感じるものの、水の流れる細かい通路を設けたその造りは芸術といってもいい。変にたくさん人口がいないから活気という面では少し寂しい感じもするがそれがかえって街が綺麗な事を証明しているようにも思えた。
「私この世界に来て初めて美しい街を見た気がするよ」
「そうね、私も同感だわ」
「ああ、自慢の街だ。来た者はみなそう言ってくれる」
「観光もしたいがまずはそちらの長に会わないとだからな」
「ああ、まずはそうして欲しい。その方が変に警戒をされずに済むからな」
何でもヴァルドマインの話では外の世界がどうなっているかに関心を持つ者が滞在中は離してくれないらしいな。閉鎖的な場所だけに余計にそういう興味が出るのだろう。
「長の住む場所はここから遠いのか?」
「あの大きな建物がそうだ。ここに来た時に門番に伝えてあるからすんなり謁見になるはずだ」
「私が過去に感じた印象だと、厳しい感じだけど優しい方というイメージです」
「長は我らの事を第一に考えていてそれ故に厳しい事を言う時も多々あるが、根はとても優しく思慮深い。そんな長だからこそ我々もこうして慕っているのだ」
さっきの見張りの魚人族が自信満々に言う。さて実際に話して俺達の身分をさらしてどう出るかだな。なるべく力づくでいくのは避けたいからな。
◇
魚人族の長がいる大きな建物へと行くまでにたくさんの魚人からの視線を感じた。中には奇異な目を向けてきたりする者もいてあまり気分が良いものでもなかったが致し方ないだろう。それよりも念願の人魚を見れてウハウハであった。
人魚は美しいという噂は嘘ではなかった。立花がいるのが非常に残念だというのは心の奥底にしまったのは言うまでない。
「遠路はるばるごくろう。私が魚人族の長のコロネーションだ」
館の中に入り案内されると蒼髪の美女が迎えてくれた。人魚の特徴として下半身が魚のようになっているのが特徴だが、魔法で四足歩行に変化させる事ができ陸地に移動する時は変化させているらしい。
「お久しぶりです長」
いつもヴァルドマインが来る時は屋敷に入りきれないので外で謁見するらしいが今回は立花が魔法で人間サイズに変えている。
「ヴァルドマインなのだな?」
いつもは大きいからか困惑した様子を見せている。
「はい、このお方たちの魔法で大きさを人間サイズにしてもらっています」
「うむ、そなたらは?」
「俺は神山周平、こっちは神明立花に宮本里菜だ。俺は二十柱の一角魔神、立花は大賢者としてオルメタの迷宮の攻略と現在の世界事情、今後の世界の在り方なんかを伝えに来た」
「二十柱だと?お主らがか?」
二十柱と聞いて訝し気な表情を見せる。
「そうだ、その顔は信用できないって感じか?」
「いや、そういうわけではないのだがな」
そういいながらニヤッと笑う。取り巻きの人魚も同じように笑うもので立花が不快に思ったのか不機嫌な顔を見せる。
「何か問題でもあるかしら?」
「これでも長生きしているもので、お主らのような若者が二十柱とはにわかに信じがたくてな」
「信じる信じないはあなたの勝手だから構わないわ。ただ私達は私達の目的を果たすだけし何と思われようとも関係ないわ」
立花が強気な姿勢を崩さないでいると取り巻きの人魚が負けずと睨みつける。
「長の前で随分な態度ね。あなたが何者だろうとここではここのルールがある!特に人間に勝手に動かれても不愉快ね」
「プリモディーネ、口が過ぎるぞ!」
「いいのですよ。大体こいつらはよそ者です!この街は私達魚人族のもの」
「そうですよ。迷宮だってこっそり入り口を封鎖して……」
もう一人の取り巻きがその言葉を発した瞬間空気が変わる。立花がオーラを全開にして殺気を放つ。
「お、おい立花……」
「少しイラついちゃった」
立花は一度俺の方を向いて微笑むとそのままもう一人の取り巻きに近づく。
「ヒッ……」
「死にたいのかしら?」
「スティンガー!貴様離れろ……」
プリモディーネと呼ばれた人魚が立花を制止しようとするとエミリウスの宴を発動したのか下半身を石化させる。
「あなたも死にたい?」
「ヒッ……身体が……」
「二十柱を前にして随分となめられたものね?この迷宮もこの世界も本来は誰の管理下かしら?あなた達の種族全体の長が二十柱だというのを忘れたわけじゃないでしょうね?」
「は、はい……」
「私達が管理する世界の一部を住処にしているのはどちらかしら?」
「わ、私達です……」
プリモディーネはさっきまで威勢が嘘かというぐらい子猫のように小さくなって怯えている。立花は敵意を見せる者に対して容赦ないが同性ならなお徹底的になる。こうなると止めるのは困難だ。
「それなら立場をしっかりとわきまえる事ね!私達の為す事に邪魔をするとどうなるか身をもって知りたくはないでしょう?」
すんなり話し合いが進まず、結局立花が威圧をして場の空気を支配するところから始まってしまったがこれは何となく予想がついた。というのも立花はプライドがとても高い。格下が舐めた態度を見せてマウントを取ろうとすると、いつも潰していたからだ。
早く書いて完結まで持っていきたい……




