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魔大陸の価値観

少し三人の話と主人公の話を併用して進めます。

 夜になりメイスが菱田達三人の部屋に来たので、そのまま食事をとりに宿を出る。


 「待たせてごめんね」

 「いえいえ、そんな事ないですよ~むしろわざわざお付き合いいただきありがとうございます」


 秋山はニコニコと愛想を振りまき、菱田と大野は相変わらずそれを呆れた様子で見る。


 「フフッ、それで食事だけど人も魔族も食べる物に差異はないわ。これから行くところも旅の人が良く利用するお店だから安心していいわ」

 「はい、結構旅で通る方が多いのですか?」

 「修練の里パールダイヴァーなんかは種族問わず訪れるし、騒ぎを起こしたりしなきゃ魔王軍が来る事もないわ」


 それを聞いた三人は驚く。クレセントやレガリアといった人間主体の大陸では魔族はほぼいないし、獣人族以外の他種族をほとんど見なかったからだ。だが魔大陸ではたくさんの種族を見る事が出来た。戦争を本当にしているのかというのを錯覚してしまうぐらいに不思議だった。


 「戦争してるのにそんな風でいいのか?人間に対して警戒を覚えるべきじゃないのか?」


 菱田は疑問をぶつける。


 「そうね……でも魔王軍の中には人間もいるわ。街によっては人間が魔族やその他の種族を率いて大陸に来た人間達の軍を追い出そうと戦う所もあるぐらいなの」

 「マジかよ!」

 「勘違いしているようだけどオルメタは他種族を拒まないわ。魔族や魔王軍は初代魔王アファームド・ガルカドール様の教えを忠実に守っているの」


 初代魔王に君臨していたガルカドール卿は他種族共存を掲げ、魔大陸を統治していた。その威光は百年経っても消えず教えも受け継がれている。


 「でもそんな昔の魔王の教えを守っていたとしてもそいつが守ってくれるわけじゃ……」

 「アファームド様は死んでいないわ。今は眠っているだけ」


 意外にも、ガルカドール卿が死んでおらず、封印されて眠っているというのは有名である。


 「どういう事だ?」

 「魔大陸で血が流れる時……アファームド様は復活し、それに加担した者には死が訪れ大陸は消滅するだろう。そしてそれは私達魔族にも言える事で、魔族が過度に人間達を征服しようとしたら逆に私ごと大陸を消すという事よ」


 魔族の数は人より少ないが、魔族に味方する人もいる。その気になれば人族の領土を奪う事不可能ではない。だがそれをしないのは今なおガルカドール卿の威光が強く、ガルカドール卿を知る者も生きているからだ。だが現魔王はガルカドール卿を知らないし、征服を掲げるなら逆にひねりつぶすという考えを持っている。その迎撃をどの程度までやるかは魔王や重鎮達ですれ違いがあったのは言うまでもない。


 「つまり戦争はお互いに不都合をもたらすという事か」

 「ええ、だけど今回人間族は痛い目を見るかもしれないわね」

 「なんでだ?」

 「現魔王はやられっぱなしは気に食わないし、攻撃がしてこない程度に痛めつける予定だからよ」


 現魔王もガルカドール卿の威光を知る重鎮達を無視できないとはいえ、攻撃が止まないなら徹底的に痛めつけるべきだと主張し、重鎮達もそれを致し方ないとした。


 「成程な……堪忍袋の緒が切れたという訳か」

 「そういうことね」


 菱田はファーガス城で魔王軍の幹部と直接交えた事で力の差を実感している。戦闘能力で上を行く上級魔族が複数いる事や周平の助言から、帰還の為に魔王を倒すというのには割と慎重になっている。玲奈先生を安全に連れて帰るという目標からこっちの選択肢を選んだのもそれだ。


 「まぁ俺達には関係のない話だ。同族とは言え勝手に死んでいく奴等に同情なんざできない」

 「意外とドライなのね」

 「そんなにたくさんの奴面倒見れるほど強くはないんだ。そんな奴らを気に掛ける余裕も助ける余裕もないさ」


 全員で無事帰還……それが理想論に過ぎない事は彼自身百も承知。その理想論を掲げて複数で動く集団に居続ける事の危なさを彼は理解していた。だからこそ周平の提案にのっったし、今の彼にあるのは二人と玲奈先生以外を助ける気はない。元々集団行動が苦手であまり協力的ではないので、それを全面的に出してしまうであろう自身の性格から亀裂を促進させない為の配慮でもあった。最もその亀裂を早く起こした方が、ひょっとしたらそれがクラスメイト達の為になる場合もあるかもしれない。


 「大事な人だけを守るという事ね……正しい判断ね」

 「欲張りが許されるのは力ある者だけだからな」


 周平のような有無を言わせない圧倒的な力。それを間近で実感した彼はかつてのように傲り高ぶる事もないだろう。それを見ながらもわずかに残った周平への対抗心……それは彼をあっと言わせるような事をする事だった。


 「若いのに随分と達観しているのね。ここいらを旅するには必要な力をその若さで身に着けているのは勿論驚きだけどね」

 「本当の化け物を見ただけさ。本物を知れば自分が偽物だというのは嫌でもわかるからな」


 今の彼が求めるのは三人を守りきるのに必要な力。この旅を通してそれを手にしようとしていた。


 ◇



 「ここが洞窟の入り口か」


 海の洞窟と呼ばれるその場所まで三日ほどかけて着いたが、入り口からは風と潮の匂いがうっすら感じ取る事が出来る。広大な洞窟の中は海に繋がっており、海水が流れている。ここを抜けると海沿いに出るので、そこからすぐの街が魚人族の街だ。


 「流石に巨人族が出入りするだけあって入り口もデカいわね」

 「確かに」

 「ハハッ、中も僕達が移動できるぐらいに広いですよ」


 ここまでは魔物も特に出て来なかったが、デカい洞窟だけあって強力な魔物がいるに違いない。一応警戒していくべきだな。


 「中は流石に魔物がうじゃうじゃか?」

 「そうですね……流石に全く襲われないという事はないでしょう」

 「いつもここを通る時も魔物に苦戦しているのか?」

 「いえ、確かに奥には凄い魔物がいるという噂ですけど、ここは魔物というより毎回経路を変えなくてはいけないというのが面倒くさい点ですね」

 「どういう事かしら?」

 「この洞窟は潮の関係で、洞窟内の海水の流れる量が変動します。そして流れ込む場所も毎回固定ではないのです」


 海水が流れ込んでいる部分は道としては使えず、その時は別の経路を取らないといけないという事か。加えてそれがランダムというのはパターン化が出来ず面倒だな。


 「普通に抜けようとしても二日三日かかる上に中がそれだと面倒くさそうだな」

 「はい、一応いくつかのパターンは記憶してますがまったく知らないパターンの道を通る可能性もありますね」

 「その凄い魔物とやらと遭遇する可能性というのもあるという事かしら?」


 立花はニヤつきながら言う。確かにどうせなら遭遇してみたいとは思うがな。


 「お二人なら問題なく殺れるでしょうが、遭遇はしないかと思います。というのもヌシは奥深くにいますし、洞窟を抜けるなら海水が流れ込む場所を進むだけですから」

 「そっか、それは残念だ」

 「面倒はなるべく省いていこうね周平君!」


 宮本は魔物と遭遇するのが嫌みたいだな。


 「はいはい、わーったよ」

 「まぁヌシを探して奥にいくとなるともっと時間がかかるかと思いますし、急ぎなら私もおすすめはできませんね」

 「そうね、今回は抜ける事だけを考えていきましょう」


 案内役をしてくれているヴァルドマインにそこまで付き合わせるのは気が引けるな。少し残念だが今回は見送りだ。良かったな宮本よ。


 ◇


 「凄く綺麗だね~」


 洞窟の天井は鍾乳洞のようになっており、宮本はそれを見てはしゃいでいる。


 「フフッ、確かにいいデートスポットかも」

 「だな」

 「こんな魔物エリアをそういう風に思えるのはお二人だけですよ~」


 ヴァルドマインは苦笑いだ。


 「また来るよ」

 「はいはい、ブレードテンペスト」


 風の刃で切り裂く第七位階魔法だ。洞窟の中だけに高位の魔法は控えている。


 「結構襲ってくるのな」

 「はい、どうも魚人族には襲わないみたいですけど、それ以外にはしっかり襲って来るようです」

 「いつもここを通る時もこんな感じなの?」

 「いや、ここまでは襲われませんね。おそらくさっきまでの道中とは違い、二人から滲み出る得体の知れないオーラを警戒してなお好戦的になっているかもしれません」


 魚人族を襲わないようにというのは、ルシファーさん達がここを造った時そういうのをこいつらに植え付けたって事かもしれないな。人魚というのが昔から狙われやすかったみたいだし、ちゃんと領土して集落を形成させ、他の種族から侵略されにくいようにという配慮をしたという事だろう。魚人の領域がこんな辺境でしかも行きにくいというのはそれが何よりの証拠だ。内陸からいくにも険しい山脈移動が必須だったはずだからな。

 

 「成程、本来なら俺達がちょっと威圧すれば本能で大人しくなるけど、それがかえって仇になっているという事か」

 「ごめんなさいね」

 「いえいえ、しっかり護衛して貰っているので」

 「それで今回そのルートとやらはどうなりそうだ?」

 「まだ共通ルートなのでわかりませんが、ここに流れる水の量からして満潮に近いのは間違いありません」


 ヴァルドマインは洞窟内のすみに流れる海水の流れを見て言う。


 「満潮に近いとどうなるんだ?」

 「満潮に近いとまず途中で一回足止めです。この少し進んだ先の道は満潮だと通れません。他のルート進んで回り道をしても、そういう理由で足止めを喰らう場合があるので、最短であるルートを通るにあたってそこで海水が引くのを待つ必要があります」


 抜ける為にかかる時間は運次第という事か。厄介な洞窟だ。


 「つまりそこまで行ったら一度休憩を取らざるを得ないという事か?」

 「この感じだとそういう事になりますね」

 「一人で行く時、ここでの睡眠とかはどうしているんだ?」

 「魔物の嫌う匂いのお香を用使って、それを自分が寝る周辺に焚いておくんです。プラスで集落の魔法に長けた者から即席の結界を発生させる魔具を作ってもらっています」

 「成程な」

 「前はもっと親交があったので、ここを抜けるのに色々と考えたらしく、そのお香も先祖たちの研究の成果と言えます」


 その魔物避けのお香とやらは人間達の間でも普及させるに値する代物かもしれないな。成分なんかを聞いて作るのに難しくないなら普及させるとするか。

 


次の投稿は遅くても一週間以内に投稿します。

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