魚人族の街へ
続きです。
次の日になりヴァルドマインと共に里を出る。目指すはオルメタの迷宮、魚人族の街があるアクエリアだ。ここから西北に向かい進む。
「道中は危ない道はあるか?」
「ここいらは巨人族でも通れるように整備されています。あなたがたからすれば道は広い。段差が激しい場所は私に捕まってくれればいいので問題ないでしょう」
「でも魔物とか凄いビックサイズなんじゃないんです?」
宮本が質問する。
「ええ、あなたがたの住んでる地域に比べたら大きな魔物が多い。だけど襲って来ることはないでしょう」
「どういう事?」
「巨人族を襲うような魔物はいません。それと周平さん立花さんの通る道で粗相を侵すような真似をする魔物は少ないでしょう」
強い魔物であれば相手の強さを感じ取る。本能でヤバイと感じればいくら相手が小さくても襲ってくる事はない。ここいらの魔物はレベルが高いとも聞いてるし道中は静かに行けそうだな。
「どれぐらいで着きそうだ?」
「そうですね。荒野をずっと超えて三日もすれば海の洞窟につきます。そこの中は少し気をつけないといけませんがそこも二日から三日で抜けられます。そこを抜けたらすぐです」
「了解」
だいたい一週間ぐらいで見ておけばいいな。ピチピチ人魚がたくさん住んでる街か……昔は行かなかったから今回は楽しみだな。隣に嫁がいても目に焼き付けるぐらいはしても罰は当たらないだろう。
◇
「本当に暇だな……」
少しぐらい魔物が襲ってきてくれないと暇だ……ここら辺の魔物は賢いらしいな。
「ハハッ、そもそも巨人には手を出しませんからね」
「成程な~」
ヴァルドマインの肩の上に乗りそこに魔法で壁のある部屋を形成している。流石に巨人と足並みを揃えるのは難しいからだ。
「それよりも揺れないか大丈夫ですか?」
「問題ないよ」
「わざわざ乗せてもらってるのにお気遣いありがとう」
「いえいえ~」
馬車に乗るより高さが上がるから景色は良くなるし操作もいらない。もし連邦が巨人の奴隷を捕まえていたら肉体労働と乗り物代わりに使っていたかもしれないな。
「ミストの森のこん棒だけどさ、あれ俺が持ってていいのか?」
森で回収したこん棒だが渡したら、彷徨える同胞の魂を逝かせてくれたお礼という事でいただいてしまった。なんでも巨人族の武器は戦士の証であり誇りらしく、持っているだけでお守りになるのだとか。
「はい、周平さんは戦士たるに相応しい人物ですから」
「そんな立派な人物じゃないんだけどな~まぁ貴重な巨人族の武器だし大事にするよ」
九兵衛さんに前に欲しいっていったら、巨人族限定だからダメっていってくれなかったからな。武器コレクターとしては念願のゲットだ。
「巨人族は魔族とはどういう感じなの?」
「両種族は昔から一定の友好関係があります。王が巨人族と深い友好を結んでいる事を魔族側が知っていますし、何かしない限り友好を破棄という事はないでしょう」
「なるほどな。まぁ俺達もいるし、あの里の平和はたぶん大丈夫だと思うよ」
もし有効破棄して攻めてこようものなら痛い目を見るのは魔族達だ。恐らく魔大陸の一部は地獄に変わるのは容易に想像できる事だ。
「王自体が魔王よりも遥かに強いですからね~戦争したらたぶん勝つでしょう」
もっともこの世界の魔族はそこまで世界を征服するような意思はない。というのもたくさんの種族がいて、大きな大陸を分割するように分け与えられているから領土的な狭さはない。魔族自体人間ほど多いわけではないので他大陸侵攻なんてまず考えない。そもそも長命で百年前を知る者もいるのでガルカドール卿の決めた事に逆らうような意見も出ないのだろう。
「九兵衛さんはキレたら大陸ごと変形して破壊するからな」
初めて出会ったときは暴れ終わった後だったがあの時は初対面でどういう人かわからなかっただけに戦慄した。まぁその後は見方ががらりと変わってしまったわけだが。
「はい、王もやる時はやってくれますから」
「こうして話を聞いていると魔族はそんなに悪い存在でもないって事だよね?人間側が遠征辞めれば平和になるんだね~」
宮本の言う事は正論だ。だが今回はガルカドール卿復活の為にもしっかり戦争で殺し合いをしてもらわないといけない。俺達の組織はどっちかに肩入れ出来るような感じではないし、介入するにも偽神の事もある。
「里菜、人間は欲深い生き物なのよ。種としてあまり強いけど、繁殖力が高い。知能も高いから余計に競争が激しい……それ故に征服者はもっともっと高みを目指し征服欲を満たそうとするの。そしてそれが上手くいった時に同時に与えられる達成感や周りからの羨望の眼差しなんかが欲しいの」
「それが悪い事じゃないんだけどな。それを上から監視したりする俺達みたいなのもいる。それを頭に入れないで弱いのに欲に身を任せて滅茶苦茶やろうとするから痛い目にみるのさ」
「成程ね~つまり身の程知った上で自制しろって事だね。そんでもって強ければある程度何をしても許されると。前に立ちゃんがそれをよく言ってたけど今は凄く説得力あるよ」
すると立花は恥ずかしそうな表情を見せる。宮本は立花の言う事は正しいという認識で言ってるが昔それを偉そうに言っていた自分が少し恥ずかしいのだろう。
「でしょ~里菜も私達のような存在といれば間違う事はないわ。だからもっと世界を知るといいわ」
「はーい」
◇
その頃菱田達三人は魔大陸のとある街に辿り着いていた。
「はぁはぁ……やっとか」
「疲れたね……」
「隼人君があそこで面倒を起こすから……」
菱田は道中の森で綺麗な水晶を見つけ、持って帰ろうとしたらそれが動き襲って来たのだ。
「魔法効かないし堅いし全く面倒だったな~でもいい汗かいたじゃないかお前等~」
何とか倒したものの追加で同じ魔物が襲って来たので森を駆け抜けてきたのだ。全速力で走ったので三人ともヘトヘトに疲れ果てていた。
「隼人君があそこであれを持って帰ろうとか言わなければ今頃こんなはぁはぁしてないけどね……」
「そうそう、あれほど魔物に気をつけろと神山に言われてたのに……」
「う、うるせぇ!あれが玲奈ちゃんにお土産にすれば喜ぶかなって思ったんだい!」
菱田は帰る方法を見つけ出したら、一度ファーガスに戻り玲奈先生と元の世界に帰ろうと考えていた。
「さらにあれが価値ある宝石だったら指輪にして先生になんて考えていたんでしょう?」
「わ、悪いかよ」
秋山が見透かしたような目で言うと菱田は照れくさそうな表情を見せる。
「いや、俺達応援してるから」
「あんがとよ。玲奈ちゃんは俺と真正面から向き合ってくれたからよ。あんないい女は他にはいねぇ」
菱田は素行はあまり褒められたものじゃなく先生からも問題児扱いされていた。だが玲奈先生は一年生の時、そんな菱田に声をかけ打ち解けたのだ。菱田はそのお陰で丸くなったという過去がある。勿論玲奈先生だけでなく、そんな菱田を日々サポートしているこの二人のお陰でもある。
「確かにいい先生だよ」
「隼人君頑張れよ」
「ああ、その為にもその戦神の丘とやらを探さないとだな」
「とりあえず宿で休もうか」
菱田達がついた街は魔大陸東部の位置する街ティーハーフだ。魔族もそうだがちらほら他の種族もいる街で、いくつかの種族が共存している街だ。
「とりあえずここでいいか」
宿に入ると女性が出迎えてくれる。綺麗なお姉さんと言った感じだが背中に翼があり頭に角もあるので魔族だ。
「おや旅の方ですか?」
「ああ、今晩ここに泊まりたいんだけど大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫よ。じゃあここに名前を書いてね」
魔族の女性がニッコリ笑うと、秋山が顔を真っ赤にしてタジタジしながら言う。
「あ、あのお名前聞かせて貰ってもいいですか?」
突然大きな声をだしたので菱田も大野も一瞬固まる。だが女性はニッコリと笑顔を見せる。
「フフッ、私はメイス。あなたは」
「あ、秋山祐一です。その凄くお綺麗ですね」
「ありがとう。人間の男の子にそんな風に言われたのは初めてかも」
「本当ですか!是非握手を……」
秋山は顔を赤くしたまま手を前に出するとメイスもそれに対応し握手をする。
「フフッ、よろしくね祐一君」
横で見ていた二人は呆れたように溜息をつく。
「このバカっ!いつまで顔をニヤついてんだよ」
菱田が頭を軽く叩く。
「そうだよ。連れがすみません」
大野がメイスに頭を下げる。
「いえいえ、あなた達みたいな若い人間の子なんて初めてだから~三人は何でここに?」
勇者が召喚されたというのは、くれぐれも公言しないようにと周平から言われているのを思い出す。それがわかれば向こうも警戒し情報収集に影響が出るのは頭に入っている。
「戦神の丘って場所を探してるんだ。その為に色々街回って情報収集をと」
「なるほど、戦神の丘の話なら知ってる範囲で良ければ教えてあげようかしら?」
「知ってるのか?」
「少しはね~」
それを聞いた三人は表情が明るくなる。
「よ、良かったら聞いてもいいですか?」
秋山は顔をニヤニヤさせながら言う。年上の色気のあるお姉さんに弱かっただけにメイスを見て一目ぼれでもしてしまったのだろう。二人はそんな秋山を見て苦笑いだ。
「いいけど今は仕事中なの。だから今夜一緒にご飯でもどうかしら?」
「いいのか?」
「ええ、私もあなた達の話とか聞きたいし是非良かったら」
「よ、喜んで!是非お願いします」
菱田が考える暇もなく秋山が即答する。
「おい秋山……」
「まぁまぁ、玲奈先生の為にも情報収集しないといけないしさ。折角教えてくれるってなら教えてもらおうよ」
「まぁいいんだけどよ」
菱田はかなり用心深い。こうやって親切に教えてくれようとしてる人にも何か裏がなんて多少なりとも疑ってしまう性格だ。秋山がメロメロなのも余計に不安なのだろう。
「それじゃあ三人とも名前をここに書いてね。あと少しで終わるからそしたら部屋に声にかけにいくわ」
「了解です~」
秋山はそんな菱田の事も気にせずニコニコと名前を書いたが、菱田の不安は杞憂に終わるだろう。
次は菱田達の話&周平達の話の予定です。




