復讐
陣の回
アルアイン公爵のお屋敷では息子のフリオーソの公開処刑を終えようとしていた。
「グホッ……も…うやめ……じんぢゃ……」
何度も攻撃をしてリンチを行った、拘束されたギャラリーはもう直視をできないほどに目を閉じる者も出てきていた。
「どうだ?自分が私達にしてきたことだ?辛くないか?」
ザルは真剣な眼差しでこちらを見ていた。
その瞳の中に宿した感情は怒りと憎悪……そして虚無を感じる。
最初は怒り復習に身を任せていたのかもしれないがそれが果たされ満たされていくうちに虚しさを覚えていったのだ。
こんなことをする意味が果たしてあるのか……だがこの行為が無駄だったとは思わない。
何故ならその感情はそれを果たしたことで感じることが出来た感情であり、復讐を果たすことがザルの過去の払拭と乗り越えに繋がるからだ。
「は、はひぃ……ゆどぅしてくだ……さい……」
その場で土下座をし始めた。
当初フリオーソは多少は強気だったのかもしれないが暴力によって死と恐怖を感じ貴族としてのプライドが完全い折れ精神もボロボロになったのだろう。
これが指導というのならば暴力ほど効率的な指導は他にないだろう、圧倒的な強さで痛みと恐怖を与え 相手をより壊し屈服させる最適な手段だ。
まぁこんなこと俺の本来の趣味ではないんだけどね~
「もう気が済んだかい?」
「総長」
「ザルはこれで過去を乗り越えた、芽生えた虚しさはその証だよ」
「はい……こいつをこうやってボコボコにして土下座させてやっとわかりました」
ここで憎しみに任せてこいつを殺すようならまだまだだったけどザルは違った、俺の育て方がきっと良かったのだとつい自分を褒めてしまうね~
「さて奴隷を解放だね~確か地下にいたはずだ」
「はいいきましょう!小さい時苦しみを共にした仲間がいるはずです」
◇
玉座の間での爆発の少し前に遡ると陣とアンは玉座に行きゼラとスタイミーと対峙した。
「お、お前は……」
「久しぶりだなゼラ」
やっとだ……この時が来たのだ。
俺をここまでさせるに至った元凶の男……自由を奪い無理やり従わせクラスを壊し俺を狂わせた。
湧き上がる感情が俺に力をくれる気がした。
「宗田陣……何故貴様が……」
「お前にお礼をする為に来たのさ、外がこんな騒ぎになっているのは予想外だがね」
獣人族を奴隷化しているのは周知の事実でいつ反乱がおきてもおかしくないような感じではあったから驚きはないけどな。
「今お前に構う暇などない、今更何の用か知らんがよく抜け抜けと顔を出せたものだ」
そんなゼラの高圧的な態度が俺をより苛立たせる、俺が今ここに何しに来たのか……そして自分がこの後どうなるかをまるで分っていない。
全く……地獄を見せてやるよ!
「フフフッ……ハハッハハッハハッ」
「貴様何がおかしい!ゼラ様の前だぞ!」
こんなに笑っちまうなんてよっぽど滑稽に感じたのかもしれないな。
「ハハッ、だってよ……俺がなんでここに来たのかまるわかってねぇんだもんよ~」
全く舐められたものだぜ、どうやら外が騒がしくて俺の事などまるで眼中にないらしい。
「俺はさ……お前を殺しに来たんだよ……」
「何!」
「お前に復讐する為に這い上がったんだ……見せてやるよ……穢れた天使!」
少し陰りのある三対の白い翼を出し髪も灰色へと姿を変える、光と闇が混じったその力……決して交わらぬ光と闇を融合させた奇跡を見せてやろう。
「その力は……」
「書記長危ない!」
「プリズムアーク!」
まずは先制攻撃、第九位階の魔法だしこいつらがこれでどの程度耐えるかだな。
煙が晴れるとスタイミーがゼラを守って満身創痍な状態なのがわかる。
「ゲホッ……今の魔法は一体……」
「ほう、身をていしてそんなクズを庇うとは大した騎士道じゃないか~十三騎士の名に恥じない動きだ」
「貴様……」
ゼラの顔つきが変わる、今ので俺のヤバさを感じとったのだろう、だが簡単には死なしてやるつもりはない。
お前のその絶望に満ちた顔をしっかり拝んでやるよ。
「スタイミーはそろそろ退場だな……ヴァイスシュバルツ!」
「それは第八位階魔法……何故それを……」
スタイミーがそれを言いかけた瞬間白と黒の弾丸は容赦なく向かう、次は守れるかな?
「くっ……」
「ぐぁぁぁぁぁ!」
炸裂するとスタイミーの叫び声が響く。
ゼラも血を流しスタイミーはその場で倒れた、どうやら二度も高位の魔法を耐えることが出来なかったようだ。
それも仕方のない話……何しろこの国に第八位階より上の魔法を使いこなすものはいなかったからな。
「後はお前だけだな……」
「クッ……ユースはいないのか……」
「ああ、そいつらなら下でのびているよ、ついでに邪魔だった兵士の大半は片付けてあるから周りを気にする必要などない」
見た感じそこでのびているスタイミーにも引けをとらない強さを持っている様だが所詮その程度……人の身で今の俺を殺ろうなんて舐めすぎにもほどがある。
「あ、そうだ俺のことはアロゲートとでも呼んでくれ。どうせすぐ死ぬ命だが俺が新たに名乗っている名前だ」
「化け物め……ギガスラッシュ!」
剣を手に斬撃をこちらに飛ばしてくる。
スピードも遅いし威力も乏しい……いや普通ならかなりの威力なのかもしれないが俺には遅く感じる。
「遅い……」
魔弾を飛ばして斬撃と相殺する、これがあの時俺を散々苦しめた男の一撃か……
「フレア!」
「うっ……」
勿論タダでは殺さない、より苦しみと絶望をたっぷり味わってもらわないといけないからだ。
「お前覚えているか?」
そう、俺達がここに召喚された直後みんなでこいつの前に行かされた時のことだ。
「お前達は勇者として召喚された……などという解釈を私はしない。お前達はこの国の未来とその礎になる為にいる、それをしっかり踏まえた上で手駒となって働くことだ。それが君達の生きる道だ」
こいつのこの発言……そして言葉通り隷属の輪を嵌められ手駒となって動くことを余儀なくされた。
性的な行為の強要こそなかったが教育という名の暴行やいじめを受けおかしなくなった者もいた。
「この国の未来の礎……まさにその通りになったな~ライトニングストーム!」
「ぐぁぁぁぁ!」
「俺は一度お前の手駒になりまた戻ってきた、結果それはこの国の未来の為となる。お前は自分という癌を俺に排除させこの国の未来の礎となるのだ!」
「だまれぇぇぇ!」
血を流し傷つきながらもさっきよりも斬撃の数と速度を上げて俺に放ってくる。
いいね……あいつは今生きる為に必死になっている。
そして何より目が諦めていない、このぐらいで生きることを諦めてもらっては困るからな。
「マスターシールド!」
強力なこのバリアは難なく斬撃を防ぐ、流石は第八位階魔法と言うべきだろう。
「さらにお前はこんな事も言ったな!」
来て三週間、過酷な統制と訓練で耐えきれなくなったクラスメイトの一部が暴れだした時だ。
その暴れたクラスメイトを鎮圧すると俺達の前でそいつらを痛めつけた。
「何を驚いている?言っても聞かない手駒は痛めつけるしかないというのを実践しているだけだ。お前達を今飼っているのは誰だ?誰が訓練して育てている?誰のお陰で生きていられるのかを考え国に感謝すべきだ」
これを聞き囚われた後こいつのこの言葉を思い浮かべた時は殺意しかわかなかった……勘違いしていることを理解させ屈服させたいと思い何度脳内でそれを想像したか……
「メガフレア!」
「グハッ!」
「何倒れてるんだ?言っても聞かない屑は痛めつけるしかないというのを実践してるんだ、まだ倒れてくれるな」
「貴様……」
今俺が立場を逆転させてて愉快に思っているって考える奴もいるかもしれないがそんなことはない。
こんな虐めまがいなことして何が楽しいと思うは?
それでも俺がこいつにそれを実践するのはその上から目線な勘違いを正し、腐った性根を叩きなおしているからだ。
「誰が貴様に飼われたいといったんだ?誰が訓練してほしいって頼んだんだ!?誰のおかけで生きていれるか考えろなんて自分本位の勘違いだよな?」
魔弾を少しづつ放ち、部位を変えて当てる。
「あんなことされて国に感謝しろなんて良く言えたな?あれを今ここでもう一回俺の前で言って見せてくれよ?気高いお前なら言えるだろ?」
「き、貴様達の立場が弱く低かったからああなるのは当然だと思わないか?弱いから支配される、弱肉強食の世界とはそんなものだろ?」
「ヴァイスシュヴァルツ!」
「グアァァァァァ!」
今日一番のゼラの悲鳴が響く、そうかい……そういう考えならちゃんとそれに誠心誠意もって応えようじゃないか。
「弱肉強食……いい言葉だなゼラ?ということはお前が今こんな状況になっているのは当然納得しているということでいいんだよな?」
力の無い物が有る物に従うというのは世の常、あの状況下でしっかり本音を言えたのは流石は書記長といったところだ。
「俺は今強者側に立ち弱者側にいるお前にとある教育をしているのだが弱肉強食という物がどういうことなのか今は弱者側を体験して改めてわかったはずだ、色々教えられて勉強になったと思うが感想聞かせてくれよ?」
「まさかこんな風に教わるとことになるとは……だがこんなことをしてタダで済むと思うなよ!」
強きな発言で自分を鼓舞しようとしたのか分からないが相手の劣勢に変わりはない。
今の今までお前がしてきたことの報いを受けていると言ってもいいだろう
「お前は俺に対し牢獄に入れる時もいった言葉覚えているか?」
これも忘れない……俺を見てただ無表情で俺に行った。
「これが裏切り者の末路だ……」
それだけ言って鼻で笑ったこの男の顔も浮かぶ。
「いつ俺がお前の下についたんだ!?ワイルドローズ!」
薔薇のツルを自在に操り痛めつける。
「うっ……」
「誰がいつお前の下についたんだ?」
質問と魔法を繰り替えしさらに十数分痛めつける。
満身創痍で血を流しながらも肩を抑えて一生懸命立ち上がろうとするゼラもそろそろヤバいのだろう……口数がどんどん少なっていく。
「俺はお前に屈しはいない……」
「そうか……」
まだ自分の意志を曲げるつもりはないようだ……
近づき溝に一発撃ちこむとその場で崩れ落ちる。
「グハッ……」
「みじめだな……玉座に座る男の最期にしては無様だ」
「我が野望は……」
次は両足を折って激痛を与えるか……いやもう気が済んだような気もする。
いっそここで終わらせるか……
「気が変わったよ、もう逝け……ホーリーエクス……」
その瞬間だった、後ろから何かが飛んできて俺の右腕に当たる。
「グッ……」
「何者!」
アンが魔法を放つが男はそれを防ぎこちらに来る。
「やはりお前だったか……」
こちらゆっくりと近づいてくるその男には見覚えがあった、その姿に声……そうか俺を止めに来たのか。
全く良い所だったのにお前との再会で全てが台無しだ、でもこんな男への復讐よりももっと大事なイベントが今訪れた。
「久しぶりだな親友……」
次回は主人公と陣の再会です。




