終止符へ
遅くなりました。
「兄さん!?」
シンはアリダーを連れて部屋から出て来ると自信有り気な表情でこちらを見る。
「成功をしたようだな、流石はシンだ。アリダーも見違えちゃうぐらいに凄いオーラを……って本当にアリダーか?」
神々しい風格と力強さに全てを包み込むオーラ……獣王そのものともいえるがアリダーはそんな感じではなかった。
「フフッ、今アリダーには俺と盟友であり二十柱にもっとも近かった獣王ラムタラが体を借りる形で乗り移っている」
「ラムタラだ、よろしく頼む」
「なんと……俺は神山周平、魔神になりかけの者だ」
歴代の獣王の魂を呼び寄せるワザとは聞いていたがまさか伝説とも言えるような存在を呼び寄せているとは……
「第八の魔神か、よろしく頼む。そちらの方は第十六の巨人王ですかな」
「そうだよ~君の話は戦神からよく聞かされたよ、一度会ってみたいと思っていたけどまさかこうして会えるとは嬉しいね~」
「ネレイデか……懐かしい名ですな」
ネレイデ・アカテナンゴ、第三の戦神であり女傑と言われた最強の戦士。
直接戦闘の天才であるそのセンスと嗅覚は二十柱随一……俺も何度か手合わせした事があるが完全記憶の異能をもってしてもその多種多彩な戦闘スタイルを見切ることができないぐらいに凄かった記憶だ。
「彼女がよく言っていたよ~肉弾戦による直接戦闘を純粋に楽しめたのはあいつだけだってね~」
「そうですか、彼女にもシン同様すまないことをしたな………」
よく知らないが三人で世界を旅していたらしくまだ完全な二十柱となってなかったシンとラムタラを二十柱にする為に色々教えていたと聞いたことがあったな。
「その話は今更だ、早速革命を終わらせよう。久しぶりにお前と踊りたい」
シンもテンションを上げているな、こりゃ面白い祭りになることは間違いない。
総戦力をもってあの男を屈服させる……楽しめそうだ。
「オーケー、ならば首都を陥落させよう。俺達二十柱の存在と力を世に知らしめようか!」
◇
首都ファラモンドにてゼラはハイフライヤー城の書記長室にてスタイミーを呼びお茶を飲んでいた。
「今日も呼び出してすまんな」
「いえ、遠征を止められて暇をしてます故問題ありません」
「ハハッ、それは俺に対して皮肉かな。まぁ遠征に行くのを止めているのを俺自身だし言われるのは無理もないがな~」
ゼラは不穏を感じスタイミーを遠征先に戻らせず待機させていた。
「書記長の護衛にはユースの奴がいますしそこまでご心配なさらなくてもよろしい気もしますがね」
「ああ、あいつの能力や忠誠心はお前やブッシャー同様に信頼しているよ。だがなんか変な胸騒ぎがしてな……遠征の方は今のとこは上手くいってるみたいだし今は俺の傍で護衛を頼みたい」
ゼラの感じた嫌な予感……それはアルアイン公爵の家の奴隷がいなくなった時からだった。
獣人族の王の娘である二人があの厳重な警備の中から消えた……あの二人を救出したのは獣人族の手のものだと考えていた。
「護衛は厳重にするに越したことはありませんからな、あの事件のこともありますし任せてください」
あんな事ができる者は獣人族にはいるとは思えない、だがやったのは獣人族の手の者に間違いないことを確信していた。
何故ならお金目的ならわざわざあの家を狙う必要がないしリスクに見合わないからだ。
「スタイミーよあの事件犯人は誰だと思う?」
「公爵の家の事件ですか?そうですね……相当な実力者である事は間違いないのですが正直検討がつきませんな……」
「だな、変なことを聞いてすまんな」
ゼラが聞いた理由……それは周平と立花の事だ。
二人から感じたオーラはかなりの実力者であると見て間違いない、だが二人が獣人族に通じてて手助けをしているなどという考えには流石に至らない。
ゼラとしては二人を少し疑っており二人に会ったことのあるスタイミーに聞いてみたのだ、彼が自分同様二人を疑ってくれているかもしれないと。
だがそれは他に疑うに値する実力を持つ者の検討がつかないという理由もある。
「いえいえ、お役に立てず申し訳ないです」
「考えすぎ……だよな……」
そうつぶやいたその時だった。
突然大きな音が響いたのだ。
「な、なんだ!?」
突然扉が開くと息をハァハァさせた兵士が入ってくる。
「ほ、報告します!街で突然原因不明な爆発が……するとマントを身を隠した集団が暴れだし街はパニックです……」
「ユース達の部隊はどうした?」
「今鎮圧にあたっているのですが……」
兵士の表情が曇る、首都ファラモンドを守る第一方面部隊やその他特殊部隊がたった数人にやられて今にも全滅しそうですなんて口が裂けても言えなかったのだ。
「スタイミー、外にいくぞ!」
「はい!」
◇
「どうなっているの……」
雪達は首都ファラモンドにて数日間の休息をとっていた、二組の人達に会いたかったもののみな他の場所に遠征中と言って会う事が出来なかった。
酷い扱いを受けている噂も含めこの国に腹を立てたがだからといって何か出来るわけでもなくその感情を腹の中に抑えて街を刊行していたその時だった。
「みんな大丈夫?」
爆発音が聞こえたその数分後悲鳴と爆発が周辺で響き始めた。
街の人達は逃げまとう、何があったのか街をみんなで調査すると行く先々で兵士達が倒れている。
「ああ、でも街はヤバそうだね……」
嶋田君の表情も険しい、無理もない。
一緒にいる木幡君と美里ちゃん、橋本君、田島さん、河内さん、岡部君、東君もみな同じような表情だ。
「でも一体なんでこんな事が……」
「わからない……」
「もしかしてテロ?」
「この街に入るのにはあの厳重な警備態勢を突破する必要があるけど突破された様子はないわ……」
確かに外を覆うバリアもちゃんと発動されていて破壊されたような様子はない……でもやられた兵士達はそこら中に転がってる。
ほんの十五分前まではなかったただ賑やかな街だったのにどうして……
「上から様子を見てみるわ」
異能を発動し身軽な猫となって建物の上に上がる。
「これは……」
建物の上に上がって見てみると煙は城の周辺のみで起きていることがわかった。
「みんな、この爆発と煙は城の近くでのみ起きているわ!」
となると城にいるゼラ書記長を狙ったテロか……なら城に戻らねば。
「てことは城が危ないわね、城に向かいましょうか」
美里ちゃんが私の心を読むかのように代わりに指示をだす、下に下がろうとしたその時だった。
「何あれ?」
雪の目に入ったのは空を飛ぶ二人の存在だった。
一人は白い髪に鳥の翼と尻尾を生やした獣人族のような男、もう一人は黒髪に金のつがいの角と黒い翼を生やした魔族のような男……
片方はどこか見たことがあるような顔であった。
「あれは……」
「お前は!?」
空を飛ぶ二人をジッと見ていると今度は地上で誰かが現れたのかみんなが警戒態勢にはいり下に下がる。
こちらに来るのは三十ぐらいの男にまだ二十歳もいかないぐらいの獣人族らしき女の人で男の方は見覚えがあった。
「周平君の仲間……確か名前は……」
「やっ、久しぶりだね~高天原九兵衛だ」
あの時玉座に来て国王に色々脅しをかけた冒険者ギルドの総長だ、でもどうしてここに……
「あなたはあの時の……」
嶋田君が顔を顰めながら言う。
「君達もここに来ていたんだね~」
飄々した表情こちらに見せる、何故この状況下でそんな表情を見せていられるのか……答えはすぐに出てきた。
「遠征中ですからね……それより今街はパニックです、倒れている兵士の避難と手当てを……」
嶋田君が必死の表情で言うと彼は笑いながら答えた。
「今獣人族の革命の最中だからね~俺達の邪魔をした奴はこうなって当然当然~」
「ですね、邪魔しないなら危害は加えないと言ってますからね~」
一緒にいる獣人族の子もさも当然かのように言う。
今あの人俺達と言っていたけどまさか……
「あなたはまさか……」
嶋田君が身構える。
「何の真似だい?」
向こうは不思議そうな顔を見せる。
「あなたを連行します、抵抗するならここで始末します!」
嶋田君の言葉で私と美里ちゃん以外は武器を構える、どうやら美里ちゃんは理解したみただけど……
「待って嶋田君!」
おそらくこれには周平君が絡んでいる、ならばここで彼の邪魔をするのはマズイ。
「どうして止めるんだい?この男はこの騒ぎの原因を作っているんだよ」
「そうだけど……」
「どうやらそこのプリティーな二人は理解したようだね~」
ニヤニヤしながらこちら見てくる。
周平君は私や美里ちゃんには絶対手を出さないと思うけど邪魔をする奴は容赦しないとみんなの前では言っていた。
つまり嶋田君達は例外ではない。
「どういうことだい?」
「この騒ぎには周平君が絡んでいるということよ、みんな武器をおろして」
美里ちゃんがみんなに訴えかけるがそれを聞くと余計に火がついたのか誰も武器をおろさない。
「みんな……」
「街をこんな滅茶苦茶にするような奴らに譲る道なんかないさ」
「そうだ、その名前を聞いたら余計に火がついたよ」
嶋田君も橋本君も感情むき出しである、木幡君は美里ちゃんい言われたから若干揺らいで武器をおろそうとしていたが二人がそんなこと言うものだからおろすのやめてしまった。
「あら~俺達の邪魔をするつもりかい?それはおすすめできないね~」
こちらを少し小馬鹿にしたような余裕な表情だ。
「黙れ!みんな行くぞ!」
嶋田君の掛け声とともに二人に向かおうとしたその瞬間だ、それはおそらく今後絶対忘れられないような衝撃がはしる。
「死にたいのかい?」
飄々とした態度のあの男から発せられたその言葉はずっしりと重く黒い物であった。
その一言で私達の周りに強い風が吹き動きが止まり、数秒間時が止まったかのように思えたその威圧……はっきりいって対峙することすらおこがましいぐらいに力の差を感じた。
「なっ……」
全員動きが止まり冷汗を流す、場を支配されただ茫然と立ち尽くす中二人は歩きだす。
「それでいい、とりあえずお城にでも行って非難していなさいな~」
二人はそのまま通り過ぎて行き私達……特に嶋田君は悔しそうな表情を浮かべていた。
首都へ入った時点でのアリダー(ラムタラ)の容姿は昔のラムタラの姿へ変わっているという設定です。




