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打ち勝つために

あと数話で四章が終わりです。

 タウィーの街の地下にある獣人族の秘密のアジト、そこを数百名あまりの兵士が取り囲んでいた。


 「とうとう奴らの尻尾を掴んだのだ……いくぞものども!」


 指揮官の合図と共に入る、だが入ってすぐの広場は閑散としており風の入る音ぐらいしか聞こえてこない。


 「この奥にいるはずだ!進め!」


 奥に行こうと兵士が進もうとした最中正面の暗闇から矢が飛んでくる。


 「ウッ……」


 先頭を行く兵士がその矢に当たり倒れる。


 「なっ……小癪な、バリアを!」


 すると今度は入って来た入り口が騒がしくなりそれと同時に悲鳴が響く。


 「た、隊長!後ろからも敵襲です!」

 「何だと!うわぁぁぁぁ!」


 今度は暗闇から大きな砲弾が飛んでくる、そして大きくなる後ろの悲鳴……もうおわかりかもしれないが彼らは罠にハマったのだ。

 タウィーの街の地価は獣人族の巣……日陰で長年耐え続けた彼らは誰よりもこの地下水路を熟知している。

 たかだか数百の兵で捕まえようとするなどガムシロップよりも甘い、周平はここがバレて攻められた時の対策を予め打っていたのだ。


 「くっ……そうか、罠にハマったのは我々だったのか……」


 数百の兵は三十分も経たないうちに殲滅……シス達幹部陣はアジトから地上に戻り裏通りに待機させていた獣人族達に指令を出す。


 「みなさんいきまっせ……」


 シスの一声と共に待機していた獣人族達が出てくるとそのまま表通りに向かった。



 ◇


 「今はこんな感じだ、というわけでそっちは避難誘導をしてくれ」


 今俺は変装をして人質二人に刀を突きつけ脅していた、といってもそれはフリで予め打ち合わせをしてある。

 スジ書きとしては獣人族が立ちあがりその仲間である俺がギルドを襲撃、アエロリットに獣人族とは一切戦わず住民の避難をさせることを要求といった感じだ。


 「くっ……卑劣な……」

 「どうする?逆らえばこいつらの命はないぞ?」


 こちらの人質もやられたフリをしているアエロリットの部下だ、というかここにいるメンバーの一部はこの茶番をわかっており俺の要求になくなく呑んで住民の避難を最優先にやるという作戦に沿って動いている。


 「マスター俺達のことはいいから……」

 「そうです……悪党の要求なんぞ呑んでは……」


 この二人は縁起が上手く役者の道をと進めたくなるほどでアエロリットもめっちゃくちゃノリノリで二人に負けない名演技を見せる。


 「駄目です……あなた達二人を見捨てることなどできません……」

 「マスター要求を呑みましょう……そこのお前?要求を呑んだら助けてくれるのだろうな?」


 周りからもそういう声かけでよりリアリティーを増していく、反獣人族のダーレー教徒系冒険者もいるのでそいつらを抑える為の作戦だが見事に上手く行っている。


 「当然だ、冒険者を敵に回したくはないからな。加えてなるべく一般人には無傷でいてもらいたいが故の要求だ」

 「クッ……わかりました……でもその二人を殺せばあなたを死んでも殺します……」


 殺気を俺にぶつける、この人質にとっているマクフィとフローラはカップル同士でかつアエロリットが弟妹ようにかわいがっている二人。

 もしこの二人に何かしたら本気の殺意を向けられるだろうな。


 「賢明だな……」

 「あなた達住民の避難を!獣人族と交戦しては駄目よ!」


 

 ◇



 「首尾はどうかしら?」


 アジトを抜けだして街の中心にいるシスの元へ行く、私のここでの役目は制圧後に息のある兵士を石にすることだ。


 「ばっちりですよ姉さん、ここの街にいた兵士の半数は倒すか追い出すかしましたしギルドのメンバーは住民の避難誘導をやってくれています」

 「周平とアエロリットも上手くやってくれたようね、それで次は隣街を動かせばいいのかしら?」

 「はい、夕方までにはこの街を制圧できるでしょう。息のある者は地下の牢屋に随時ぶち込んでいますので後でお願いします」


 シスはニヤニヤしながら言う、君が悪く見えるがシスは笑うといつもこんな感じだ。


 「嬉しそうね?」

 「ええ……やっとこの日が来ました。あの時あなたと会ったのは運命……感謝してもしきれませんな」

 「フフッ、お礼を言うのはまだ早いわ、それは全て終わってからよ」


 この革命によってダルシ国が再び復活すれば連邦は大打撃を受ける、魔大陸の魔王軍も宣戦布告をした今連邦を本気で潰しにかかる。


 「あいつらが嫌でも出て来ざるを得なくなる……」


 あの時私達から逃げて自ら封印状態となって偽神達……二十柱への反逆を長年続けた上に私と周平に百年の溝を作った害虫……


 「死を以て償わせてあげるわ……ここの領主を逃がしては駄目よ!」

 「はい、もう囲んでおりそこにはフィダルゴが抑えにいっています」


 領主を人質にすれば奴らの動きは止まる、制圧した街の領主を一つに集め盾にすればあの愚かなアルアイン公爵の息子もその要求を取り下げざるを得なくなる。


 「私もそちらに向かうわ、ここは任せたわよ」



 ◇



 「ぼ、僕は……」


 暗闇の中頭に嫌でも流れ込んで入ってくる記憶が精神を確実に蝕んでいた。

 歴代の獣王と呼ばれた者達の記憶、裏切り殺された者や志半ばにして戦死した者……そんな王たちの汚い部分や苦しい部分の記憶を自分の事の様に感じさせられる……


 「甘かった……僕は王と呼ばれるには全く相応しくない……」


 いかに自分が大切に守られて育てられていたかを実感した、自ら王となる為に親や兄弟を殺して王になり最後はその罪悪感で苦しみ死んだ王の記憶などまったく実感が湧かずただ虚しく感じただけであった。


 「でも……それでも……僕はここで王にならないといけないんだ!」


 例え仮初めの王だったとしても獣人族の為に……国を奪われ妹と会えないまま死んでいた父の無念を果たす為……理不尽に苦しむ同胞を救うために僕はやるんだ!

 その為ならどんなことでも受け入れる覚悟だ。


 「それがお前の意志か……」

 「誰?」


 暗闇の中聞こえてくる見覚えのない声……幻聴なのか、それとも……


 「たまげたよ……力も能力も劣るお前がこれに耐えるとは……」


 暗闇の中姿を現したのはスラっとしながらもがっちりとした体つきの白髪の美男子だった。


 「あなたは?」

 「フフッ、まずは見事だと言っておこうか。能力のなさをその粘り強い精神力で耐える……まさに奇跡と言えるだろう」

 

 神々しいオーラを放つその男の人は見ていて惹かれてしまう、まさに理想の王ともいえる風貌だ。


 「俺はラムタラ、生前は獣人族の王であり真なる王の称号を継承した二十柱になるはずだったものさ」


 二十柱……ダーレー教に出てくる神殺しであり周平さん達三人のことだ。


 「まさかあなたがシンさんの言う真なる獣王……」

 「シンか……懐かしいな、そうかお前が俺を呼びよせることが出来たのはシンの差し金か」

 「はい、シンさんが僕にこの技を伝授してくれたからこそ発動することが出来たのです」


 シンさんはこの技が発動されれば獣人族は救われると言っていた……だがこの技は一体どういう効果があんだろうか……


 「シンの奴もお前のような若き王にこの技を発動させるとは……だがあの時は何も言えずじまいだったからな……」

 「どういうことですか?」

 「この技を発動させるぐらいに獣人族がピンチだというのはわかるがこの技の発動はシンのエゴという一面もあるということだ。勿論助ける為の手段としてというのがあったからだがな」


 少し何か考えているとラムタラさんはその場で光だす。


 「とりあえずシンの説明不足はお前の脳内の直接教えるとして……」


 光だすとそのまま粒となり消えていく。


 「借りるぞ!」



 ◇



 ファラモンドではアルアイン公爵とその息子であるフリオーソが声明をだし逃げたサーデュラとテピンを呼び戻そうとしていた。


 「しかし息子よ、こんなんで本当に来るのか?もう遠くに行ってしまったかもしくは……」

 「来るよ父さん、そんなに遠くへ逃げたとは考えにくいし周辺の街や大きな街にはこの声明をするよう伝えてあるからね」


 フリオーソは一週間以内に姿を現さないと公爵家の全ての奴隷を殺すという声明を出すことで王女として誇りを持ち同族への仲間意識の強いサーデュラを引きずり出そうとしていた。


 「だが仮に現れなかったとしても本当に殺すわけには……」

 「ああ、殺すフリでいいよ。折角大金をはたいて買った可愛い奴隷達だからね~」


 フリオーソは親の人間至上主義を自分の良いように解釈してしまうような人間でかつて奴隷として調教していたザルカヴァを逃がしてしまった事からより奴隷をより束縛し精神的な追い詰めるような歪んだ人格へと変わった。

 彼のそのきっかけともいえる出来事が幼少期にザルカヴァに軽い怪我を負わされたことが根源にあるわけだがそれは父親のアルアイン公爵も知らない。

 それこそが彼がザルカヴァも必要以上に執着して調教した理由でもある。


 「フフッ、これ以上奴隷を逃がしはしない……逃げられたあの時にそう誓ったもだから」



  ◇



 「ウウッ……」

 「どうしたザル?」

 「いや急に寒気を感じてさ」


 何だろう、今凄い悪寒が私を襲ったのだ。

 昔のことをじっくりと思い出してしまいあの男の顔が浮かんだからかもしれないな。


 「寒気ね……もしかして武者震いじゃない?」

 

 武者震い……確かにみのるんの言う通り今戦いたくてウズウズしてはいるけどな……


 「いや違うよ……体が不安なんだよ……」


 きっとこれはあの男と相まみえるであろうこの先の自分への警告だ、確かにさっきまでの私ならあの男と会ったら体が震えて青ざめ動悸が止まらなくなっていた。

 でも今は違う!この体の不安は私を試しているのだ。


 「大丈夫かい?無理はしてほしくないけど……」

 「大丈夫!確かにとっても不安だし怖いよ、でもね私には背中を押しながら見守ってくれる仲間がたくさんいるんだから!」


 今私は獣人族の革命に参加し勝利と解放を勝ち取るのだ、そしてあの時の恐怖に完全に打ち勝つ……長年の目標であり次に行く為の試練だ。

 九兵衛さん達が待つ所に向かうと九兵衛さんやイネーブル、九十九達が待っていた。


 「来たね~」


 九兵衛さんはこちらを見て微笑む。

 ダリウスは心配そうな顔でこちらを見る。


 「良かった……ザルカヴァさん来てくれたんですね」

 「あったり前さ~お前が参加して私が参加しないなんておかしな話しだろう~」

 「でもの割には随分遅かったじゃないか?実は内心ビビってるんじゃん?」


 ヴィエナが挑発気味に言ってくる。


 「ヘッ、向こう着いたら私の実力見せてよんよ!」

 「フッ、その意気だね。私はまだまだ弱いからあんたが逃げないように見てるとするわ」

 「よろしく~」


 恐らくワザと挑発的な態度を見せて私を元気付けようとしてくれたのだろう。

 目に物見せてやるさ、私が自分を超えるその瞬間をね。


 「そろそろ立花ちゃんが来るから準備してね~」


この回もキャラの視点が変わりまくりですみません。

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