決起
もうそろそろ四章終わりです。
サラとフィッシャーマンの結婚式を終え数日が経ったぐらいの時だ、革命軍アジトのとある一室では一人の男が悶えていた。
「グアァァァァァァ!」
辛気臭い鉄の鎖によって拘束され苦しむアリダーをシンはただ見守っていた。
「耐えるのだ!お前はあの街で何を思った?このままでは獣人族の未来は変わらないぞ!」
アリダーは涙を流しながらも踏ん張る、アリダーに教えた獣人族の秘技……獣王の業は歴代の王を魂を呼び自身に宿すという技だ。
獣王がある一定の領域に達すると使えるようになる技で並みの者では使う事ができない、だが俺がアリダーにこれを伝授することで無理やり使えるようにする。
何故俺が伝授できるかと言えば獣王ラムタラが俺にその手法を継承しているからだ、理由としてはこういうことがあった時の為だったのだろうが見事にそれが功を為しているというわけだ。
「僕は……い、イヤァァァァ!」
部屋中に大きな声が響く、外にも聞こえており辞めてやれという声もあるがそうはいかない。
今回何としてもこれを成功させてやらねばいかんからだ。
「今歴代の王の嫌な記憶が入り込んでいるだろうが目を背けるな!受け入れるのだ!」
ラムタラよ……お前はあーも簡単にこれを習得していたな……お前があの時死ななければ俺はまた違った人生を歩んでいたのかもしれないな……
もう革命の準備は整っていると聞く……いつでもこのタウィーの街から乱を起こすことができるらしくあとはアリダー次第なのだ。
「どうだ?」
友が入ってくる。
「相変わらずさ」
「そうみたいだな、こっちはちと問題が発生した」
「問題?」
友はこちらの耳元で囁く。
「サーデュラとテピンの所有者であったアルアイン公爵が声明をだし二人が戻らなければ家の奴隷を殺すと脅してやがる」
「何!?それで二人は?」
「俺達が行くといってるのを何とか抑えている所だ」
行くのはどう考えても罠、だが待ち時間がそう長いわけでもあるまい……
「あとはここ次第ということか……」
「ああ……最悪俺が直接行って助けるが今はなるべく動きたくないのが本音だな…」
急がねばならんな、アリダーの様態を見ると後もう少しではあるが……
「なら少し賭けだが……革命を発起せよ、奴は必ず間に合わせる!」
「了解~」
「周平大変よ」
少し慌てた様子で立花がこちらに入ってくる。
「どうした?」
「このアジトがバレていたみたいで今囲まれているわ!」
チッ……本当に猶予がないみたいだ……あともう少しなのだが……
友は舌打ちをするとそのまま指示をだす、ここで止まれば革命の灯を潰えてしまうからな。
「ならそれをぶち破るように伝えてくれ!革命の決起だ!」
「わかったわ、幸い兵隊はそんなにいないしここの戦力なら余裕、アエロリットにも話はつけてあるからこの街の占拠はすぐにできるわ」
「よしそれで頼む!」
アリダーよ頑張れ……すべてはお前次第だ。
そして見せてくれ、あの輝きを……
◇
同時期ギャラントプルームでは……
「ザル、アルアイン公爵の家で奴隷王女が誘拐されてご立腹だそうだよ~」
九兵衛は飄々とした態度でザルカヴァに言うと顔色が急に悪くなる。
「今この時なんじゃないかい?俺も今回はでる、君もどうだい?」
ザルカヴァは何も答えない、ただいつも明るく元気な彼女がブルーな顔で立っている。
そう彼女が奴隷だった頃の主人とはアルアイン公爵でその息子にかなりの虐待を受けたのだ。
その記憶が脳裏に蘇りついていくことに対して素直に首を縦に振れないのだ。
「俺の女になる人はそんな恐怖に負けない人だと思ってたけどね~」
「き、九兵衛さん!」
九兵衛は部屋を出るがその去り際に一言。
「ギルドのロビーで、出発は三十分後の予定だ、大丈夫俺がついているさ」
ザルカヴァはかつての記憶が脳裏に浮かぶ。
「おい!四つん這いになれ!」
「はい……」
「ほら行くぞ!」
首都ファラモンドの貴族達は奴隷を連れて街をでてお互いの奴隷で競うという遊びが流行っていた。
私もご主人の意にそぐわないと虐待を受けていた、主にその息子フリオーソがメインだったが執拗に私を連れまわされた。
わざと精神的に追い詰め輪がはめられて死ねない私をあざ笑った。
性的暴行こそ受けなかったが体を見られたり触られたりはした時のあの男の顔が忘れられない……
「あと五年したらもっと可愛がってやるからな!」
悪寒と身震いが私を襲う……体が覚えているのだ、その身に刻まれた恐怖とトラウマを……
「ウウッ……」
涙がこぼれる……あの時の苦しみを思い出さないようにしていたがこう思い出すと涙が溢れ出る。
「ザル、今日からここがお前の家だ」
「私……ここに住んでいいの?」
九兵衛さんにここに連れてきてもらった時の記憶だ。
「俺はこの冒険者ギルドの総長だ、ザルも一緒に冒険者にならないか?強くなればその記憶も克服できるさ~」
「困った時は俺がいるしいつでも頼ればいい、俺はいつでもお前の味方だからさ」
そうだ……いつも九兵衛さんが私を支えて励まして……
「ザル、俺達の目指す世界を一緒に見ようぜ!」
周平さん……奴隷解放の為に今も向こうにいるんだったな。
私はこうもたくさんの仲間に支えられてきたんだ……今立ち上がる時なら……
「ザル!大丈夫か?」
「みのるん?」
「来ないで縮こまってるなんて聞いたからさ、行けないか?」
みのるんも私の心配をして……私も行かないとだね。
「ごめんごめん~今気持ちを整理してたんだ~」
今私のしている顔を見ずともわかる、今の私は輝いているとね。
「そっか、邪魔しちゃったかな」
「ううん、心配してきてくれてありがとう」
「当然、今のザルの師匠だからな~」
妖精の国での一件があってからはみのるんが私の師匠となって色々教えてくれており、お陰であの時よりもさらにパワーアップした。
「そうだってねお師匠~お迎えも来たことだし行きましょうか!」
自信と希望に満ち溢れた今の私はもう過去に負けない、私にはたくさんの頼れる仲間がいるんだ!
◇
ファラリス連邦ペブルスの街はダーレー教団の本拠地があり街も他とは違い異質な雰囲気が流れている。
「レダさん、ここ思いっきり敵の本拠地ですよね?」
「ええ、祐二とデートも兼ねた社会科見学よ」
レダは街の動きの監視の為にこの街に来ていた、一人で行くはずではあったが強い要望により祐二を連れていた。
監視に来たというのにデート用と思われるワンピースを着ての潜入だけに周りもまさか彼女が監視に来ているなどとは夢にも思わないだろう。
彼女からすると監視という名のデートなのだろう。
「緊張します、その……レダさんがあまりにも美しくてこうして手をつなぐのは……」
「フフッ、私もこうして祐二と手をつないでると凄い緊張よ」
「レダさんに相応しい男にまだなってなくて……」
祐二が顔を赤くしてタジタジさせている姿をみてレダは胸が高鳴る、一度別れてからしばらくして成長した祐二とこうして一緒にいる事に嬉しさを感じていた。
小さい頃から手塩にかけて育て教育した愛しき人との一時を過ごす喜びを直に感じていた。
「これからなるのだから問題ないわ、それとこの街をどう感じるかしら?」
「どうって……来て数日ですが聖地でもあり観光地らしき賑やかな街ですね」
「それだけ?」
「いや、裏を見ると慌ただしく落ち着かないですね、大聖堂を監視した感じでわかりますが物騒な服装をした戦闘員が何度も出入りしていますからね~」
報告によれば革命を起こす準備が整いどこの街でも導火線に火がつくのを待つのみといった感じらしいがこの街は違う、連邦の中にあるが一つの国のような感じで獣人族も奴隷となっている者が大半だ。
「教団のトップの顔を見ておきたかったけど流石に難しそうね」
「ですね、獣人族の不穏な動きを察知しているのか最近は表に顔を出さないみたいですね」
暗殺の危険も有り得るからだろう、あるいはもうこの街から抜け出しているのかわからないが……
「もうすぐ私達の任務も終わるし後は気楽に残りの観光していない場所に行きましょうか~」
「そうですね~」
「暢気なものですね~」
突然声をかけてきたのはまだ若い少女だ、だが一目見てそれがただの少女でないのはわかる。
「誰かしら?デートの邪魔をするなんて野暮ね」
「久しぶりだけど姉さんは相変わらずだね~」
少女は姿を変え成人の姿へとなる、ピンク色のセミロングに人を小馬鹿にしたような表情がデフォのその姿は見覚えのある顔だ。
「久しぶりねミッディ……」
「姉さんもお久~百年ぶりぐらいだったよね~」
四人の戦姫は元々九人……その中で五人は力に耐えられず消滅し残った四人が四戦姫として二十柱の王に認められたのだ。
私はその中でも一番姉であり面倒を見ていた。
「今更現れてどうしたのかしら?あなたは確か中立だったわよね?」
「ええ、この国も私が作った頃に比べると随分変わったわ……」
彼女は大戦後に前身となるファラリス共和国を設立、それは完全中立国家としての願いを込めてだったと聞いている。
それが今や大国となり獣人族を隷属化し国もダーレー教団とくっつき設立当時とは大きく変わり果てていた。
「そうね……」
「今姉さんのとこに来たのはここで隠居生活をしてるからよ、何日か監視してたけど男を連れて楽しそうだったから声をかけなかったの」
「そんなに気をつかわなくてもいいわ、百年ぶりの再会じゃない」
「そうなんだけど凄い楽しそうにしてたからね、せっかくだし私の家に案内するわ。そこの彼氏君もね~」
◇
クラスメイト達は首都ファラモンドに到着していた。
「ここが首都ファラモンド……」
「とりあえずここのゼラ書記長との謁見だな」
タピットさんが説明してくれた今後の予定だと数日間ここに滞在して魔大陸へ向かうという話らしい。
「そういや二組の奴元気にしてっかな?」
「あまりいい噂は聞かないけど死者はでてないって話だぜ」
後ろで話す声が聞こえると陣君のことが脳裏に浮かぶ、それ以外にも一年生の時同じクラスだった子のことも考えるといたたまれない気持ちになる。
「謁見は全員じゃなくていいらしいけど雪はどうする?」
「今回はいいかな、陣君のこともあるし……美里ちゃんは?」
「私も今回はパスかな~」
陣君に酷いことをした国のトップに会って頭を下げるなどしたくはない。
「嫌な予感がする……」
何か落ち着かない空気が漂っている、この首都からはそういう雰囲気を感じた。
そろそろ別のも書いてみたい(笑)




