兄妹の再会
もうすぐ4章も終わりです。
シン達は最初に転移してきた場所まで戻り周平達を待っていた。
「きたか……」
シンが振り向いた先には周平と立花の姿があった。
「わりぃわりぃ遅くなっちまったよ~」
「案ずるな、それでそちらの首尾はどうだ?」
「こっちは無事救出したよ、そっちは?」
「こちらも良い社会科見学になった、それと一人増えた」
見ると一人新顔が増えていた、打ち合わせの時奴隷商館に行くなんて言ってたからおそらく買ったのだろう。
「そこの猫人族~」
声をかけるとこっちに来たので挨拶を交わす。
「俺は神山周平、こっちは神明立花だ」
「わ、私はデラローズ、シンの仲間?」
「ああそうだ、よろしくな」
「よろしくです……」
少しこちらを警戒している様子が見受けられる、聞くまでもなく奴隷で間違いない、首輪を解除しているから正確には元奴隷だな。
「そう警戒するな、俺達はお前の敵じゃない。それにお前さんに何かしようもんなら立花が浮気と認定して俺を絞め殺すさ」
「フフッ、安心して。色々つらい思いをしたかもしれないけどもう安心よ」
するとデラローズはわずかだが笑みを見せる、感情が上手く出せないのだろう。
「どうも昔ミッディに呪いをかけられたみたいでな、少々気になり購入した」
「なるほどね~」
ミッディか……先の大戦では中立を貫き終戦後にファラリス連邦の基盤となったファラリス王国を建国しいつしか行方をくらましたと聞いているが……
「とりあえず戻りましょう、そこの坊やは早く再会したいでしょうからね」
◇
「サーデュラ、テピン!」
「兄ちゃん!」
「兄さん!」
タウィーの街のアジトに戻ると先に送っていた二人とアリダーが感動の再会を果たす。
こういうシーンは涙が出てきてしまうな、何しろドラマではなくリアルで十数年ぶりの再会だからな。
「良かったな~」
「周平さんも立花さんもありがとう……何てお礼をいっていいか……」
「いいってことよ、二人も良かったな?」
「この度はありがとうございました、必ずやこの御恩返させていただきます」
「最初は疑ったけどありがとな、感謝です」
三人含め周りの獣人族も揃って涙を流し立花もハンカチで涙を拭っているしダルジナなんか大泣きだ。
「何と言うかこういうシーンが見れただけでも助けた甲斐があったてもんだな立花」
「ええ、想い人を待つのは私も経験しているからよくわかる……誰が何と言おうと私達のこの行動は良い行いに間違いない」
そういや迷宮で一年ちょっと待っていたんだよな……こいつらの場合その十倍で嬉しさや感動も比にはならんが立花も俺との再会をその間待ち望んでいたのだろうな。
「二人共ありがとうございます、まさかこんなに早く救出してくれるとは……さすがですな~」
「当たり前だろシス、この手の救出は立花に任せれば余裕よ」
「フフッ、周平もちゃんとそれに一役買ったわ」
今度は獣人族が揃って俺達の方を見る。
「ありがとうございます!来た時は疑っちまってすまねぇ……」
「兄貴って呼ばせてくだせぇ」
「姉さんもどうか俺達を導いてくだせぇ」
俺達を崇拝するかのような眼でこちらを見てくる、まぁ難航していた王女二人をこうも短期間で救出しちゃったし当然といえば当然か。
「ハハッ、俺達が導いてやるさ。お前等はみんな俺の仲間であり友だ、これからよろしく頼む!」
「ウウッ……兄貴~」
「俺達こそよろしくお願いします!」
歓声が沸き上がる、これで一つにまとまったし後はシンの方の準備が終われば後は完璧だ。
「フフッ、あらあら周平ったら~」
「昔の友に戻ったようだな」
「そうね……転生後の周平は私が表に出ていたこともありいつも裏方に徹してしたけどもうその必要もなさそうね」
「陰で支えてやるのが妻の務めと言えるだろう、奴の為にもそうしてやるといい」
「ええ、そうするわ」
シンは立花の愛情表現が歪んでいることも気付いているがそれを歪んだとは言わない。
「友も手厚い愛を受けてまったく幸せな奴だ……性格も無事昔に戻ったし結果オーライだな」
「あらそれは皮肉かしら?」
「ハハッ何を言っている、その手厚い愛をしっかり愛と受け止めてくれると確信したからこそだろ?俺は最愛の人と共にいる為に世界を一つ壊したからな、それに比べれば可愛いものだ」
シンはかつて最愛の人と平穏な生活をする為に世界一つを永久凍土へと変えた、それに比べたら些細なことなのだ。
「フフッ、そうだったわね。私なんてあなたに比べれ可愛いものね」
◇
「クソ!」
花瓶の割れる音がその場に響く、アルアイン公爵邸では今調査を行いどのように侵入して奪われたのかを調べているが依然わからないままだ。
立花の創生魔法は探知に引っかからない為その痕跡も残らない、加えて気配を消しながら自身にハマジクをかけていたのではお手上げだ。
「原因はわからんのか!」
「はい……魔法を使われた痕跡もまったくありません……」
「どういうことなんだ!」
「まるで二人がその場からテレポートして消えた感じです……我々もお手上げです……」
連邦の特務機関で魔法のエキスパートを集めた組織ドッグスでも解明はできなかった。
優秀な彼等でも十位階魔法たるハマジクが使われたことは夢にも思わないし創生魔法の知識などないので無理もない。
「では首輪の行方は?逆探知できるだろ?」
「それが完全に破壊されているのか探知は不可能です……」
「クッソが!」
「そう慌てるなよ父さん?」
ドアの開く音ともに入って来たのは息子のフリオーソだ。
「これが慌てずには……」
「僕に策があるんだ、それに乗ってみないかい?」
フリオーソの不気味な笑い声が部屋中に響いた。
◇
救出してから数日後ファーガス王国ではフィッシャーマンとサラフィナの結婚式が行われ各国の関係者が出席し盛大なものとなったが、来ていた書記長のゼラが俺と立花の元に来るとアルアイン公爵の事件の話をしてきたのだ。
「あの事件について貴殿等は何か知らぬか?」
「ああ、アルアイン公爵の家の奴隷の話ですかい?フィッシャーマンの奴から聞いてびっくりでしたな」
「うむ、うちの特務機関でもお手上げで主らなら何か心当たりがあるのではないかと思ってな」
下手にしらばっくれるより協力します風の方が疑われないかもしれないな。
「ご存知であるかと思いますが私どもはアルアイン公爵の家にお邪魔し奴隷を見せてもらいました、侵入に関しては転移が一番有力ですが……」
「転移ではあの部屋の魔力探知に引っかかるわ周平」
「その通り、あの部屋に転移をすれば魔力探知に引っかかるし魔方陣の痕跡などもなかったのだ」
立花のゲートはそんな探知に引っかからんし魔方陣もいらないからな。
「だとすると気配を消してあの場にいた可能性とかですかね?あとその方はとても高価な魔具を持っているでしょうな~」
「どういうことだ?」
「ハマジクをご存知ですかな?人類が到達不可能な第十位階魔法にして魔法の発動を無効にする魔法です」
「噂では聞いたことがある……だがそれを人が使うことなど……そうか!それで魔具か?」
あの国の特務機関ならそれを疑ってもおかしくなさそうだが……
「そういうことです、気配と姿を消して長い時間忍び込んでいてかつハマジクを発動できる魔具を持ち自身か魔具かで転移魔法を発動ぐらいしか俺には思いつきませんね」
「なるほど……だがあやつの家にはけっこう来客が多いから特定は難しい……では首輪の反応がないことについては何かわかるか?」
「そっちに関しては首輪ごと爆破ぐらいしか……首輪の解除は無理でしょうからね……」
最上級の呪術と魔術を用いれる者や高熱で溶かせたり圧倒的なパワーで破壊できないと無理だ、二十柱除けばレダさんぐらいしかできる者はいないだろう。
「やはりそうなるか……参考になったな感謝する」
「いえ、お役に立てて何よりですな」
「ちょっと二人共こっちに来なさいよ~」
サラが手招きしている姿が目に映る。
「失礼します」
ゼラの元を去ると立花が耳元で囁く。
「あれは私達を疑ったのかしら?」
「かもな、だが奴も俺達が犯人とまでは考えていないさ。革命軍との繋がりはバレてないだろうから俺達に動機がない、奴は直感よりも理論を優先する」
「確かに冒険者を犯人なんて頭は彼にはなさそうね」
冒険者は金で動くが基本的にそういう依頼は受けない、というのも高位貴族に対しての攻撃的行為をする行いは下手をすれば除名処分に繋がる可能性があるからだ。
まぁ俺達には関係ないけどな。
「どうですか?美しいでしょう?」
サラはドヤ顔をしながらこちらを見てくる。
「ああ、サラは元々美人だが今回は特別だな~」
「なら良かったですわ、このドレスも立花の見立てですが流石ですわ」
立花がチョイスしたドレスは純白の花柄だ、サラの容姿との相性を考えたのだろうがバッチリに会っているし流石は立花だ。
金髪のサラに白のドレスは良く似合う、というかサラは美人だから何着ても似合うと思うがね。
「フフッ、喜んでもらえてなによりね」
「お前さんの方もよく似合っているぞ」
「どうもです、いや~緊張しますね」
フィッシャーマンはサラに比べると表情が硬いな、体も緊張しているみたいだ。
折角の衣装もこれじゃあ台無しだ、どれ緊張をほぐしてやるか。
「それっ!」
フィッシャーマンの後ろに回り膝カックンをすると崩れかける。
「ああっと!何するんですか~」
「これで少しはほぐれただろう~サラの旦那になるんだしもっと堂々といけよ」
「あっはい!絶対幸せにしますから!」
「おう、期待してんぞ!」
この二人は問題ないだろう、フィッシャーマンの奴はもうこっちに住んでいるし危害が加わることもない。
◇
その頃魔大陸のとある場所では……
「ば、化け物……」
「グランドクロス!」
陣は魔大陸に侵攻した連邦軍の部隊一つを壊滅に追い込んでいた。
「お、お前……まさかあの時の……」
「俺を知っているか……てことは第四方面軍かな?」
「ヒッ……お助けを……」
その兵士はその言葉が最期となった、陣とアンは連邦を目指して南下しておりその過程でたまたま出会った部隊と交戦したに過ぎない。
「この海を越えれば連邦か……」
陣は灰色の翼を羽ばたかせアンをお姫様抱っこする。
「陣!?」
「このまま飛んで連邦まで向かう、姿と気配を隠す魔法をかけてくれ」
そのまま飛び二人は連邦へと向かった。
陣と周平の再会も近いですね。