ファラモンド潜入
ファラモンド潜入編です。
立花のゲートによって俺達は再びファラモンドへと入る。
アリダーの妹二人を救うべきまずは連邦に戻ったフィッシャーマンにアプローチを試みる、シンとダルジナは別行動だ。
「さてフィッシャーマンとの接触だがどうすっかな?」
接触する為に一瞬サラの元に行き手紙を書かせたので接触は可能だが向こうの親玉と謁見しないといけない感じだ。
「今更顔を見られたとこで計画に支障はないわ、最悪石にすればいいわ」
「それだと七十点コースだからな~目指すは百点さ」
俺達の顔を知る人間はどのみち数人はいる、顔を売っておく方のプランでいくか……
「レインズ魔法学校時代いつもわざと点数を下げて二番手を演じていたあなたが百点を目指すなんて変わったのね~」
「たまには立花に満点って言われたいからな~」
すると立花は腕を組んてくる。
「フフッなら見せてちょうだいね~」
ハイフライヤー城に入りフィッシャーマンと会う前に書記長で連邦トップのゼラ・ハイフライヤーと謁見する、謁見などしたくはないが向こうが会いたいと希望してきたので仕方なくだ。
「お主らがサラ王女お付きの白金ランクの冒険者か?」
「はい、私は神山周平と神明立花です」
俺達が自己紹介すると顔つきが少し変わる、スタイミーの報告済みだとは思うが俺達の名前を聞いて色々気になったのだろう。
「そうか……スタイミーから聞いていたがこうして出会うと不思議な気分だな」
「そうでしたな……こちらからは自己紹介をする必要はなさそうですな」
鋭い眼光と他を寄せ付けぬ威圧感……普通の人間なら話しているのも辛いかもしれないな。
だがこの男が意図してそれを俺達に向けているのだとしたらそれはとても無意味かつ愚かな行為といえるだろうな。
「特に君とは会ってみたかった、元勇者で白金ランクの冒険者……」
元勇者か……ギフトを持たない俺は正確には勇者ではなくただ一緒に召喚されただけに過ぎないがな。
「もし君が我が国に召喚されていたら君は恐らくそんな自由な生活は出来ていなかっただろうな……」
ぬるま湯な環境だからこそ抜け出せたでも言いたいのかな?
「何が言いたいのですかな?」
「ファーガスのようなぬるい国に召喚されたことを神に感謝するのだな」
神様ね……全くいきなり挑発地味た発言には少し苛立ちを覚えるな。
今回に関してはしっかり返させてもらうか。
「君がもし我が国に召喚されていたら……」
「この国は滅んでいたんじゃないか?」
立花は横でクスクスと笑う、立花からしてこの会話が滑稽なのだろう。
「それはどういうことかな?挑発のつもりか?」
少し苛立った様子を見せる、悪いがご機嫌とりに来たわけではないからな。
「陣とは親友なんでね、あいつがここで大暴れした時点で俺がいたら一緒に連れ出されているさ」
「何!」
「フフッぬるま湯なんて馬鹿にするけど縛りに縛ってしっぺ返しくらっててよくもまぁそんなこと言えたものね~」
もし陣と一緒にこっちに来てたら今頃間違いなくここを抜け出しているな、あいつが妙な力を得るか俺が死にかけた時点でそれはほぼ確定する。
陣の力を見ていないからわからんがシンが認めこの国にそれを抑えられる者がいなかった時点でこの国の戦力もたかだが知れているからな。
「まぁどっちがいいのかわからんがどっちにしろ極端なことすれば俺や陣になるってことだな、おたくも勉強になったじゃねぇか~」
失敗は成功の元とは言ったものだ、成功体験よりも失敗談の方が学べることは多い。
「挑発に対し挑発で返すか……この国の私の前では得策とは思えない行動だな?」
「サラのお付きで今や総長に近いギルドの幹部、加えてスタイミー殿が勝てないと評した俺達を今殺るのは得策かどうかって話だな」
先に挑発してきたのはそっちだし俺達は今は喧嘩しにきたわけではない。
「別に私達は冒険者だし今あなたの前で敵対する気はないわ~というかそんな自殺行為する為に話をしに来たわけじゃないしね~」
するとゼラは少し威圧を緩める、どうやら意外と怒りっぽいらしい。
「確かに……少し熱くなりすぎたようだな」
「こっちもすまんな、お詫びといってはなんだが陣がここに復讐しにきた時は止めてやるよ」
もちろん陣へ攻撃したらお前らを敵と見なすがな。
「どうせ攻撃したら敵と見なすということだろう?つまりそれは手を出すなということか?」
「流石はよくお分かりだ」
「ふん、そう言うことならその申し出はうけようじゃないか。今あれに攻められたらひとたまりもないからな……」
これである程度は牽制しておけば後々有利に働くからな、陣がここに直接殴り込みに来るようなら止めてやるさ。
◇
玉座の間を離れたゼラは体を震わせていた。
「わしの威圧をもろともしないとは……スタイミーのいった通りの底知れぬ強さとわしの前でも堂々としているその様は本当に人間かと疑いたくなるな……」
脅威と認定すべきか……だが現時点ではそれも早計か……
だが今はあの脱走した勇者の牽制には使えるかもしれない……あの第四方面軍を壊滅させた忌まわしい男……
「いずれは冒険者ギルドも……」
頭の中は今後の野心で溢れかえっていた。
◇
立花のゲートによってシン達もまた首都ファラモンドに来ていた、だが連れているのはダルジナだけでなく変装したアリダーもだ。
「ここが首都ファラモンド……」
実際アリダーが首都ファラモンドを訪れるのは初めてだ。
「まずはよく見るべきだな……」
「はい……」
「それでシンさんどこに向かうのですか?」
ダルジナが首を傾げる。
アリダーに見せるべきものはダルジナに見せる為でもある、今の連邦の闇というやつだ。
「ジュースでも買って大通りにでるぞ」
路面店で飲み物を買い大通りにでると見せたかった光景が見ることができた。
「おら!歩け!」
その声の主は大通りの真ん中を移動中の貴族らしき男だ。
獣人族六人が担ぐ台の上にふんぞり返って座り手には鞭のような物を持っている。
「むっ……お主今少し傾いたのう……」
貴族らしき男が一人の獣人族の肩に鞭を数発入れるとアリダーが出ていきそうになるので制止する。
「ぐっ……あいつ……」
「ちゃんと怒れるじゃないか」
「何で止めるんです……あいつ今……」
こんなとこで暴れたら即捕まってしまうな。
だが同胞がやられてることに対して怒ることができる感情はあるようだ。
「今は耐えろ……その為にやって来たのだろう?」
「は、はい……」
鞭を叩かれた奴隷は動かず耐える、動いたら更に酷い仕打ちを受けるのだろう。
全く反吐がでるな……
「さていこうか」
次に向かったのは奴隷商館だ。
ここに来るまでに奴隷を連れている貴族達を見たアリダーが怒りを顕にしていたがそれが大事だ、まずは憎しみという感情で強い意思を見せる必要がある。
「わざとこういう所に来ているが全ての人間がこうだと勘違いは決してするなよ、どの種族だろうとゲスはいる」
「はい……それは亡き父も言ってました……友好的な国もあったと聞いていますので」
奴隷商館に入るとアリダーは複雑な表情を見せる、だが今の彼の力不足を補う為には強い意思が必要なのだ。
「これはいらっしゃいませ~活きのいい奴隷を揃えてまっせ、最近入荷した獣人族の女なんか獣臭さが大丈夫なら夜のお供に最適でっせ」
またアリダーの神経を逆撫でするような言葉を……内心溜め息をつき奴隷達を見に行く。
「失礼ですが何をやっておられで?」
「冒険者さ、この二人は私の弟子だ」
嘘ではないし変に怪しまれても面倒だ、経費として友から渡されたお金もあるから買おうと思えば購入も可能だ。
「なるほど、高位の冒険者ということですな」
実際にこうやって売られているとなると獣人族と人間の溝を完全に埋めるのはほぼ不可能……奴隷解放しても解決は数百年単位での話になりそうだな。
「ここら辺はどれも上等な奴隷ですな~」
見せられた奴隷達はどれも若く人の姿に近い女性だ。
「うむ、ここら辺は金貨何枚からだ?」
「そうですね、ここいらは白金貨2枚からですな~」
渡されたのは金貨五千枚、つまり白金貨五十枚分。
かなりの数の奴隷を買うことが出来るわけだがどうするか……奴隷商館に来たのは二人に今のこの国を見せる為であって奴隷を買いに来たわけではない。
だが大金を持っているしこのまま帰ればただの冷やかしだ。
「少し吟味していいか?」
「どうぞどうぞ~ちなみにいくらぐらいお使いの予定で?」
「金貨五百枚程度の買い物で考えている」
さて見るとどれも光を失った眼で未来を感じていない様子だ。
確かにここのキレイで可愛い奴隷達は買われれば大抵が性的な慰みの相手になるに違いない、キレイであることが仇になるとはなんとも皮肉だろうな。
「シンさん本当に買うんですか?」
「そのつもりはなかったが金もあるし冷やかしと思われるのも癪ではないか」
「なるほど……でもまさかシンさん買った奴隷を……」
ダルジナがジト目でこちらを見てくる、何故かとても悪いことをしている気分になるが俺は奴隷にそんなことを強要する気はない。
「俺はそういうことを強要する気はないさ、買った奴隷は後に解放するさ」
「そうですよね~疑ってごめんなさい」
「ハハッ、気にするな」
どれを買うかな……別に若くてキレイな奴隷に固執する必要はない。
革命による解放までに役にたちそうなのを数人買えればそれで良いが……
「どれ魔眼で闇を覗くとするかな……」
俺の魔眼は見るのもの心の闇を見ることが出来る、負の感情を大きく持つ者は黒いもやが大きく映る。
「うむ、どれも負の感情が強いな……むっ!」
一人だけ負の感情とは違った感情を持つもののがいるのに気付いた、負の感情はあるものの他の者とは違う物を抱いている。
「あれは……」
見ると猫人族シーキャットのようだが……他の者と何が違うかというと恐怖という感情を抱いていない、通常売られて何をされるかという恐怖があるはすだからだ。
「おい、あれはいくらだ?」
「ああ……あれは確かに容姿はいいですが辞めておいた方がいいかと」
店主が顔をしかめる。
「どういうことだ?」
「あれは呪われていて触れると魔力を吸われます……みなどの貴族も買わない不良品ですからね~あなた様ぐらいの予算があるなら断然他をオススメいたします」
その言葉にアリダーの神経が逆撫でされたようだがダルジナが一生懸命なだめて抑える。
確かに不良品などという言い方はとても不快で一瞬この店主の首を切ろうかと思ったぐらいだ。
「ラムルマ……」
昔のことが記憶によぎると俺はその奴隷に声をかけた。
次話はシンが奴隷を買います。




