お見合い2
遅くなりました……
「何ですって!!!!」
サラの叫び声が部屋全体に響き渡る、ちなみに俺も叫びそうになったぐらいだ。
「どどど、どういうことですか?」
サラは顔を真っ赤にしてタジタジになる、こんなサラは初めてだが無理もないか。
「どうしても何も結婚しましょうと懇願しているのですよ」
「なっ……いやそうですけど……」
サラの奴思考が追い付いてないな、今あいつの脳内はオーバーヒートして思考が働かない状態だ。
「あなたは私がお見合いを断るのを待っていた?違いますか?」
「ギクッ!」
サラから嫌な汗が流れる、少し助けてやるか……
「いや~これは予想外だな、読めなかったよ。だがあんたもそういう腹だったんじゃないのか?」
フィッシャーマンだってお見合い嫌いなはずだ、このお見合いは仕方なく受けていたのは間違いない。
「ええ、もちろん僕もそういう腹でしたよ」
「じゃあ何でだ?考えを聞きたいな」
こいつは容姿に一目惚れするような奴ではないはず、それなら今頃結婚しているはずだからな。
「そそ……そうですわよ?話して御覧なさい」
「はい……理由は簡単、あなたが僕と同じだからですよ」
フィッシャーマンは目をギラギラ輝かせた、サラと同じとはどういうことだ?
まさか……
「僕は熱心な反ダーレー教徒です、歴史を研究し探求した結果世界が間違っていることに僕は気づきました!でもあの国は間違った世界を信仰しているのです!」
「あんたもなのか……」
スタイミーを見るとスタイミーはため息をついて半分呆れ顔だ、恐らく知っていたのだろう。
「その通りです、歴史を追求した僕にとって今の世界は過去への冒涜だと考えています。
世界を救った境界騎士団を悪者するダーレー教……それを信仰し金を貰う有力貴族達と後ろに潜む教団……もううんざりなんです!」
テンションを上げて喋るフィッシャーマンの目を見る、どうやら嘘をついている訳ではないらしいな。
「後ろにスタイミーがいるがカミングアウトしてよかったのか?」
「私は一度フィッシャーマン殿から聞いてしますし家もダーレー教徒ではありませんからんな~」
「だがこんなのが明るみできら二人ともヤバいはずだが?」
ファラリス連邦は教団の本拠地があるぐらい教団との中も蜜月なはずだ。
それと表情にはでていないがスタイミーも教団に対して何かあるのだろう、そうでなければフィッシャーマンのこれを容認できるはずがない。
「フフッ、あなたがたは言わないでしょう?スタイミー殿は理解しているしサラ王女がダーレー教が嫌いだと聞いたあの瞬間から僕の答えは決まっていましたよ」
自信ありげに言う、こいつも待っていたという事なのだろう。
とりあえず立花に報告だな、あいつの創生魔法でハマジク空間の中でも接続を可能にしているのでリアルタイムでの念話は無理でも状況を報告することはできる。
◇
立花は退出したメンバーとともに別の部屋で待機していた。
周平からの報告を待ちつつ部屋で秘書の二人と話をしていた。
「立花さんは美しいですね」
「フフッお二人だって負けてませんわ~」
年は三十ぐらいだが二人とも美人で綺麗だ、プレイフルアクトは綺麗な翡翠色の髪をしていてパンクティリオスは紅色の髪だ。
地球では考えあまり見ない髪色だがこの世界だとけっこういて黒髪が珍しいぐらいだ。
「そこのお美しい黒髪の君!」
声をかけてきたのは連邦の貴族のシャーディだ。
「何か用かしら?」
「君は実に美しい……その美貌はまるでまばゆい宝石そのものだ、是非私の愛人にならないか?」
私は内心ため息をつく、告白とかはされて悪い気はしないが愛しの周平がいる上にこんな親父にそんなことを言われても不愉快なだけだ。
「フフッ私これでも人妻ですので~」
顔は笑ってごまかしておく。
「さっきの黒髪の護衛か?私の愛人になれば豊かな暮らしと私の寵愛を約束する、黒髪の愛人はいなくてな……勇者に手を出すことは出来ないし是非どうだね?」
むさ苦しい親父の寵愛とか勘弁ね……
「彼は私と同じ白金ランクの冒険者で幼なじみよ。今の暮らしに満足してるしお金も困らないぐらいあるのと私は彼以外考えられないからごめんなさいね~」
シャーディの口が止まる。
せめて私の息子と縁談をぐらいに留めてほしかったものだ。
「ハハッ、シャーディ殿もその方を口説くなんてずいぶん勇気がありますな~」
もう一人の貴族のジルザルが絡んで来る。
「改めてファラリス連邦のジルザルと申します」
さっきの奴よりはむさ苦しさはないけどその分頭が切れそうな不気味な雰囲気を出している。
「神明立花よ」
「立花殿の黒髪は我が国やそちらに召喚された勇者と同じですが何か関係があるのですかな?」
黒髪というのはこの世界では割と目立つ、同じ地球出身だというのはすぐにわかってしまう。
「同じ星出身だけど私は勇者ではないわ、こっちに来たのも彼らよりもっと前よ」
最初に来たのは百年以上前だけどね。
「なるほど、では無関係ということですな」
「ええ、でも私の旦那は元勇者だからそちらにも知り合いが召喚されたはずよ」
「あの彼は元勇者で今は冒険者ですか……」
少し考えるような素振りを見せる、周平はあまり言ってなかったけどあっちのクラスには仲の良かった人が陳くん以外にもいるのかもしれないわね。
「そういえばそっちの勇者は脱走したみたいだけど管理はどうなっているのかしら?」
少しカマをかけてみる、酷いのは里奈の話を聞いている。
「彼は少しキツイ部隊に行かされたせいでしょう……その部隊を仕切っていた奴の大半がその勇者にやられて死に……今は色々と改善されていますよ」
改善?配属された部隊によって差異がありそうね。
「物騒な話ね……でもその部隊の人には同情は出来ないわ~」
「どうゆうことですかな?」
ジルザルは首を傾げる。
「そんな報復を受けるぐらいのことをしたということでしょう?その彼がむしろ可哀相ね~」
少し挑発気味に言ってみた、それが周平の親友の陳くんだというのだから余計に同情する。
「貴様……我が連邦はそれで大きな打撃を受けたのだぞ!わかっていて言っているのか?」
ジルザルの従者が突然声を上げるがジルザルがそれを宥める。
「私は冒険者だし客観的な意見を言ったまで……いちいち怒鳴れても困るわ~」
「そうですね……これは失礼しました……」
私の発言は少し不快だったらしいが顔にださないように平静を装う。
さて周平からの連絡が来たけどこれはちょっと予想外ね……
サラが果たしてこれを受けるかどうかね……
◇
「それでサラ王女、どうしますか?」
フィッシャーマンのその問いにサラは答えられずにいた。
「ぐっ……」
流石にこれは予想していなかっただけにサラは口ごもる。
「僕があなたの婿になった暁には連邦との縁を切ることとこの国の政治に口をださないことを約束します」
ふむ、どうやらこれにも嘘はついていないようだな。
フィッシャーマンはサラを見つめながら続ける。
「あなたには強いボディーガードもいるし僕のこれが嘘ならそこの彼が僕をつまみ出すことが出来るはずです」
「そ、そんなことを彼にさせたくありませんわ~」
「例えばの話です、そんなことをするおつもりはありません」
フィッシャーマンは誠意のこもった声で言う、女性関係に疎いだけにそっちの部分は純粋かもしれないし案外いいかもしれんな。
「そ、そんな口約束信用出来ませんことよ」
「ならもしあなたを深く傷つけるような真似をしたら彼に殺してもらいましょうか、どうやらそういうのは慣れているようですし」
「おいおい俺にそんなことさせんでくれよ~」
人を殺すのは簡単だが近しい敵じゃない顔見知りを好き好んで殺れるほど俺の神経はす太くないんだが……
「ハハッそれは冗談ですがその時はそれ相応の報いをくれてくださいな~」
「ちょっと待ってください、私はまだ承諾をしたわけでは……」
「では今回懇願したが断れたと国に帰ったら報告させていただきますね~」
フィッシャーマンは顔をニヤニヤさせながら言う。
「むっ……それは卑怯ですわよ~」
何人か候補がいれば逃げ道があるけど候補は他にいない、今回は同盟国同士のトップの子同士で外交問題が発生しておりそもそもこいつらは断りまくったせいもあって断るなどという選択肢はないのだ。
おまけにサラは次期女王だし相手となる相手の選出は周りもかなり慎重だ、自国の貴族では貴族間のパワーバランスに影響するのと権力を振るってた宰相のアーノルドを殺したことでこの国で一人抜けて大きな権力を振るう貴族はいない。
となると俺や俺に近しい強き者かフィッシャーマンのような人物に限定される。
「僕はあなたを心底愛せることが出来る自信があります、周平殿でなければ僕を選んでほしい」
「じゃあ周平あなたが私と……立花に殺されますわね……」
「だな~それでどうするんだ?」
こればっかりはサラ本人が決めてもらわなくてはいけない、断るにしても承諾するにしても自分の意志を持ってほしい。
今回の縁談はサラにそれを一人で決断させるのが王妃の真の目的だ。
「ちょっとあっち行っていいですか?」
サラは立ち上がり部屋の隅っこに行きしゃがんでブツブツと独り言を言いだした。
「あれは……」
「あいつなりに考えているんだ、数分あのままにしといてやれ」
「あ、はい……」
二人は苦笑いを見せる。
「少し考えてみたんだがスタイミー殿は連邦内での教団の力が強くなること、あるいは強くなっていることに対しての危機感がある感じか?」
「そういうことですな、私は連邦に仕えていますが教団の従う気はありませんからね」
スタイミーが書記長からフィッシャーマンの護衛を頼まれたのはそういうことか。
「それでこの結果についての予測は?」
「周平殿同様予想外でしたよ、さっき二人して目が点になっていましたからね~」
まさか縁談嫌いが出会って間もない時にストレートに結婚してくれなんて言うとは思わなかったからな、お互いに目が点になるのも無理はない。
「あれは予想外すぎだわ!」
「ハハッ、まったくですな~」
いずれ連邦と戦う日が来るだろう……もし戦場でこの人と顔を合わせたらお互いどういう顔をするのか……想像してみるがそれは想像の中の出来事であってほしい。
もし敵対して邪魔する用なら排除というのはもう決めているからな。
「周平決めましたわよ……」
後ろからサラの声が聞こえこちらに戻って来ると座り紅茶をすすると一度大きく深呼吸をした。
「それでどうするんだ?」
「ええ……今回の縁談承諾してやりますわ!」
サラの力のこもった声が部屋中に響いた。
お見合い話は次で終わりです。