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陣の追憶

予定よりアップが遅れてしまった……

 尾形の元に戻ると須貝とまだ話をしていた、俺が顔を出すと案の定須貝はしかめっ面を向けて来る。


 「よっ、話は済んだか?」

 「ある程度は済んだよ~」


 尾形は陽気な声で答えるが須貝の顔は全く笑っていない、それどころか今にも食ってかかってきそうな感じだ。


 「尾形、先生がちと呼んでたから話を中断して先生んとこに行ってくれないか?」

 「先生が?わかった~」


 尾形を一度席から外させる、先生が呼んでいるなんてのはもちろん嘘だ。


 「水を差して悪いな」

 「本当だね……私達の会話を聞いていたでしょ?」

 「途中からな」


 このタイミングで割って入ったのは尾形が俺のことで強く責められるのを避けるためだ。


 「ここを抜け出したのは尾形の意思で俺は全く関与していないとは言っておこう」

 「じゃあなんで今光一と一緒にいるの?神山君と繋がってたって考えるのが一番妥当だよ」

 「尾形が今いるジャジル王国には裏の支配者がいるがそれは俺の昔の仲間だからだ」


 まさか尾形がエミリアに師事するとは思っても見なかったな、俺としては嬉しいことであるがな。


 「光一は君達とは違うの、光一を巻き込まないで欲しいものね」


 巻き込むとは心外である、尾形は自らの意思で俺達と共にいるのだから。

 それでも俺達といるというのは彼女からすればそういう風に捉えるのも無理はない、尾形は俺のことをかなり慕っていたからな。


 「あら、それはあなたの誤解よ須貝さん。私達が彼と一緒にいるのは完全な成り行き……もっとも周平は彼をこっち側に誘ったとは思うけどね」

 「だとしても私はあなた達とは相容れない……あの事件のことだって元はと言えば……」


 その言葉に立花は過敏に反応した、鋭い目付きになり須貝を睨みつける。


 「感情論で私の夫を悪く言おうとするなんていい度胸ね!クラスごと壊してあげましょうか?」

 「ヒッ……」

 「まぁまて、立花もムキになるな。頭のいい須貝はあの事件のこともある程度気づいてるはずだ、須貝は俺と尾形がこうやって繋がっているのが気に入らないのさ」


 須貝のクラスの中に俺はいなくて尾形がいる、そして尾形と俺を切り離すことが出来ない自分がいるのが気に入らないのだ。


 「なぁ須貝、縛られずにお前も……」

 「言わないで!それは私が決めること……人の心に触れないで!」


 声は部屋中に大きく響いた、こんな風になる須貝も初めて見たが今のはいささかプライベートに突っ込み過ぎたかな。


 「今のは余計だったな、だが尾形がそんなに大事なら考えておくことだな。尾形は俺に付いてはいるがそれは目的が一致しているというのもあるしな」


 これ以上は何か言うのは野暮だな、あとは須貝次第だ。


 「そんなに強いなら私達のことだって……だから私はあなたが嫌いなのよ……」


 須貝がボソッと言った一言……もし俺がクラスでのこと全てを許せるような善人で最初から強かったら、また陣がいたら俺はこいつらと一緒にいたのかもしれない……だがそれは仮定の話に過ぎないのだ。



 ◇



 修練の里パールダイヴァーの一番難しいダンジョンを攻略していた陣とジャッジ・アンジェルーチはダンジョンの奥へ向かっていた。

 陣は歩きながら自身の受けた苦痛を思い出していた。


 「お前のような反乱分子にはお似合いの様だな!」


 連邦の中でも前線に一番行くことが多いとされるファラリス連邦第四方面軍部隊、通称血牙けつが

 名前の由来は単純に戦場で飛び交う血を浴びながらも相手を倒すということからついたらしいが俺はそこに配属された、そんな危険な部隊に何で配属になったかといえば俺達全員の最初の教官のレヴモスが第四方面軍部隊のトップで俺は色々と目を付けられていたからだろう。


 「クソが……」


 俺はそこを抜け出そうと奮闘したが裏切りに合い牢獄に投獄された、何とかクラスメイトと接触して色々準備したのにそれが一瞬でパーになったのだ。

 どうやらレヴモスは俺を危険と感じ自分の所に置いたらしい。


 「書記長の寛大な処分に感謝するんだな!」

 「てめぇはぜってー許せないからな!」


 俺のその遠吠えに対して高笑いしながら消えていくレヴモスに激しい怒りと憎悪を貯めていた。


 「この鎖を外せれば……」


 足に鎖がはめられていてこの鎖のせいで異能を発動しようとすると激痛がはしる、魔法を発動しようにも檻が魔力を吸収するので脱獄はほぼ不可能であった。

 その上暗くて不気味なその独房だ、誰も助けに来ないとわかっていたので初日から不安が募っていた。


 「おらぁ!」


 魔法も連発して檻に当ててみるがやはり吸収されて何の意味も為さない、三日で断念した。


 「クソっ……こんなまずい飯よこしやがって!」


 一応飯が運ばれてくるが上手くないどころか不味い、だが体を持たせる為に食べていた……


 「力が……」


 二週間もすると言葉も失い気力もなくなっていった、後からわかったが原因はこの食事だったらしい。

 だが体が異常をきたして動きが悪くなったとしてもレヴモスへの恨みだけは忘れなかった、それがここで自分を保つ唯一の糧だったからだ。


 「どうだね、そろそろ言う事を聞くになったかな?」


 三週間が経つ頃レヴモスがこちらに来て様子を見に来た。


 「ヘッ、てめぇの面見て余計に気分悪くなったよ」

 「んんっ?どういうことだ?こいつ何でこんな余裕なんだ?」

 

 レヴモスが兵士に声を荒げる、てめぇの喜ぶ顔なんざ死んでも見せねぇよ。


 「いや、それは……」

 「あんたのその顔が見れて嬉しいね~俺への御褒美か?」


 するとレヴモスがこちらに来て俺の腹へ想いっきり蹴りつける。


 「グハッ……」

 「いい気になるんざじゃねぇぞクソガキが!」


 俺を何度も踏みつけると流石に兵士が止めに入る。


 「おやめくださいレヴモス様!」

 「黙れ!こいつのこの目が気に入らんのだ」


 蹴られてボロボロになって飯が更に不味くなろうとこの感情だけはなくさない、いつか必ず復讐してやると心に決めていた。


 「誰か……俺を……」


 一月が過ぎると俺の精神は完全にやられていた、何故だかわからないが奇声を上げるようにまでなっていた。

 おそらく助けを求めていたのだろう、それだけ心身共に限界だったのだと思う。


 「助け……」


 とうとうその言葉を出るまでになったその時声が聞こえたのだ。


 「お前の奴への憎しみはこの程度だったのか?」

 「誰だ……」


 暗闇の牢獄の中で聞こえたその声はより不気味に聞こえた、だがその不気味な声が俺には癒しに思えた……誰かと話すことに飢えていたからかもしれないが結果それが転機となった。


 「私は……そうだな……魔の亡霊とでも言っておこうか」

 「魔の亡霊か……とうとう俺もおかしくなったようだな……」

 「フフッ、かもしれんな。何しろ私に見込まれてしまったお前は相当きているだろうな」


 当たり前だ、こんな薄暗い闇の牢獄に一月以上いるのだ。

 おかしくならない方がおかしい。


 「元気が出てきたではないか」

 「ああ、話し相手に飢えていたからな。相手が例え得体の知れない相手でも嬉しいものさ」

 「ならこうやってお前に話しかけた甲斐があったと言うものだ」


 孤独というのは実に辛い、だがそれだけ俺が脆く弱い存在だと言う事の裏返しだろう。

 クラスメイトの中ではずば抜けて強かったしこの腕輪さえなければ連邦の将校クラスにだって負けることはなかった俺だが自身の弱さと脆さを痛感したのだ。


 「もっと早く来てくれても良かったんだがね……」

 「お前から出る負の感情が私を呼び寄せたからな~」


 こんな状況だからか奇妙なその声は妙に親近感を感じた。


 「まぁそれはいいさ、それで魔の亡霊さんは俺と話をしに来ただけか?」

 「いいや、お前にならこの力を渡せると思ってな。力が要らぬか?」


 その言葉に俺は即座に反応した、力が欲しい……だがその言葉に当然疑いもあった。


 「力は欲しいけどな~何で俺なんだ?」

 「主は絶望と弱さを知り力を求めている、そんな主ならこれを渡せると思ったからだ」

 「なるほどね~」


 魔の亡霊なんて言うんだから十中八九闇の力だろうな、だけど今の俺にはピッタリかもしれないな。


 「どうだ?別にその代償に命をとるようなことはしないし私も成仏できるから共に益はある」

 「成仏って……そうか亡霊だったな」

 「ああ、元は上級悪魔インペリアルデーモンだったが上級天使アークエンジェルとの恋が原因で二人共命を落としたのさ」


 禁断の恋という奴か、天使と悪魔なんて正反対な存在だし許されるものじゃないよな~


 「禁断の恋とは本にしたらベストセラーになりそうだね~」

 「ああ、切ないエピソード盛りだくさんだぞ~」

 「ハハッ、それでその力俺で本当にいいのか?」


 今必要なのは力を得てここをでること、そして奴に復讐しこの国をでて親友と会うことだ。


 「ああ、主がいい。きっとこの力も有効に使ってくれるだろうからな」

 「そうか……ならいつでもいいぜ、準備万端よ」

 「ならすぐにでも渡そうか。それとそこの檻は第八位階より上の魔法ならば吸収されずに破壊できる、最初は体にかなり負担がかかるが力を与えると同時に主の脳内に知識を送り込もう。そこの檻を破壊する一発は私が負担しよう」


 第八位階魔法……確か人では唱えることのできない超級魔法、そんなものまで使えるようになるのか。


 「なんかそこまでしてもらって悪いな~そういやあんたの名前は?俺は宗田陣だ」

 「気にするな、私の名はゾーマン・ヴァオリミクスだ。すぐの別れだがよろしくな陣よ」

 「おう、ゾーマンの力有効に使わせてもらうぜ!」


 ゾーマンは何やら怪しげな呪文を唱えそれが終わると何かが俺の中に入る感じがした。


 「ウッ……」


 力が体にあふれ俺は体に魔を宿したのだ。


 「力がみなぎる……」

 「喜ぶのはまだ早いぞ、まずは足の鎖を破壊するのだ」

 「わかった!」


 足の鎖に炎の魔法と氷に魔法を交互に当てた後に風の魔法で鎖を切り裂いた。


 「よし、これが最後になるな、第八位階魔法ヴァイスシュバルツを発動するのだ」

 「おう!」


 ゾーマンに与えられた知識を元に呪文を唱える。


 「ヴァイスシュバルツ!」


 白と黒の弾丸が檻の吸収を無効にし破壊された。


 「これはかなり負担がかかるな」

 「力をコントロールすれば慣れるさ、さて私は今ので力を使い切った」

 「おう、ありがとうな」

 「主も頑張るといい」


 ゾーマンの最後の言葉がそれだった、短い間ではあったがたくさん話したし少し寂しい気持ちが芽生えた。

 命の恩人に何か恩返しができればと思ったがそれもすることはできないのは少しもどかしい……この力をコントロールして使いこなすのがせめてもの恩返しだろう。


 「さぁ反撃の時間だ!」


 早速向かったのは第四方面軍……そうレヴモスのいる所だ。


 「ゆ、許してくれ……私は……」

 「俺を散々苦しめたんだしてめぇにもお礼をしないとだな~」


 恐怖に歪むレヴモスをなぶり殺しそれを半殺しにした部下の前で見せつけた。

 だが他の部隊も応援に来たのでクラスメイトとはまともに接触しないまま首都ファラモンドを追われた。


 「くっ……コントロールが難しいな……」

 「魔の力は人では中々難しいものさ、しかもそれは強大だ」


 力の制御に苦労している時に追手に囲まれ困っているその時その男は現れた、得体の知れない何かを纏ったその男は追手を瞬殺した。


 「あんたは?」

 「俺はシン・アークトライアル・ゲイクルセイダーだ、少年にその力をコントロールする為の導きをしよう」


 シンと名乗った男に修練の里パールダイヴァーを紹介され魔大陸に渡りここに辿りついた。


 「陣?」

 「うん?」

 「やっと反応してくれましたね~話しかけているのにうわの空でアンは悲しくなりました……」


 アンの悲しそうな顔を見て現実に戻された。


 「ああ、すまんちと考え事をしててだな~」


 苦笑いで誤魔化す、つい感傷にひたって前のことを思い出してしまったな~

 ゾーマンも天国で恋人と一緒に仲良く暮らしているといいな。


 「ここが最後っぽいです、本気で行きましょう~」

 「おう!」


次回はお見合いの話の予定です(あくまでも予定w)


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