雪の悲しみ
割り込みでいれます。
やはり悲しみにくれる雪と責められる3人のシーンがないのはおかしいと思ういますので。
周平が下層に落ちてから立花と出会い迷宮から脱出するまでの時間はわずか一ヶ月と少しだった。
周平が力と記憶を取り戻しながら迷宮を攻略している間、クラスメイト達はちょっとしたパニックになっていた。クラスメイト一人が戦闘中の事故で死んだと思われている以上、全員平常心でいられるわけがないからだ。
クラスメイトの一人である月島雪は周平が下層に落ちた日の夜は特にひどかった。
「あなた達が周平君を殺したようなものじゃない!」
「すまねぇ……」
その日の脱出後の反省会後タピットさんに呼ばれ、私と菱田君達三人と美里ちゃんと嶋田君と木幡君が集まった。それはタピットさんが作った謝りの場であったのだが、私はは元凶を作った菱田君の頬を思いっきし引っぱたいた。
「私はねぇ周平君と約束してたんだよ……なのに……」
「悪い……俺だって神山を殺したかったわけじゃないんだ……」
いつも周平君にちょっかいをだしていた菱田君がの姿が目に浮かび、憎しみがこみあげてくる。
「嘘だ!いつも周平君を付け狙ってちょっかいだして……周平君を殺した原因を作ったのは菱田君だ!」
「確かにそれは俺だし、それについて弁解するつもりはねぇ……だがあいつがああなったのは別に……」
「この期に及んで言い訳するの?この人殺し!」
私はとても悔しかった……守るって約束した大事な人を私は守ることもできずただ死なせてしまったのだから……悔しくて悔しくて……悔やんでも悔やみきれなかった……だから菱田君には強く当たったのだ。
「そ、そんな言い方しなくてもいいだろ!」
「そうだ!隼人君だってそんなつもりで……」
秋山君と大野君が私に反論しようとするが菱田君がそれを制した。
「お前らは黙ってろ!俺がその原因を作った以上、俺が責められるのは当然だ……俺は月島からしたら人殺しも同然なんだ」
菱田君自身も今回ばかりは真剣だった。彼とて殺す気はなかったのかもしれない。でもそれでも……今こうなった原因を憎むことを避けることはできない。
「私あなたのこと許せない……正直あなたを殺したい……」
「雪!」
こんなこと言っては今後の関係に亀裂が入るし言うべきでないのだろう。美里ちゃんがストップをかけようとするがそれでも私は続けた。
「でもねあなたを殺しても彼が戻るわけではないし、どうにもならないことはわかってる……だからちゃんと私に約束して!」
仮に彼を殺したって何も生まれないしただ虚しさが残るだけなのはわかるからだ。
「何をだ?」
「今後一切軽率な行動をしないでクラスの為に動くこと。そして周平君に心の底からちゃんと謝って……例え嫌いでちょっかいをだしてても、やっていいことと悪いことの自覚ぐらいあなたにだってあるはず……」
私は涙を流しながら悔しい思いを一生懸命抑えて言った。
本当は今この男を殺してやりたい……周平君と会う前に私は前もこんな感情を持っていた奴がいた。でも当時それを周平君は抑えてくれたし、きっと彼なら私を抑えるはずだと思い抑えた。
胸が張り裂けそうだがそれでも今はこの感情を抑えないといけない気がしたんだ。
「わかった、俺だって確かにあいつにちょっかいをだしてたし、いじめのようなことしたが、それぐらいはアホで素行が悪い俺にだってある。人を殺すのを正当化していいなんてことはねぇ!だから俺はあいつに対して心の底からあいつに謝る。それとお前に対してだけは俺を殺してもいいことにする」
「「隼人君!」」
「月島が俺を殺しても俺は文句を言えねぇ……俺だって男だ!そこまで落ちるつもりはねぇ!だからもしそん時が来たらお前らが見届けろ!」
菱田君のその言葉を二人はしぶしぶ納得した。
菱田隼人という男は、素行は悪いがプライドがないわけではない。むしろ父親のことを反面教師にしてきたらしいので、そこはしっかりと自分の中で確立していた。
「月島も杉原も嶋田も木幡もお前ら二人もタピットさんも俺の誓いはしっかり聞いてくれたな」
菱田君が言うと、ずっと静観して見ていたタピットさんが口を開いた。
「ああ、確かに菱田の誓いはしかと聞いた。俺も何かしろ言おうと思っていたが、こいつの目を見た感じもう菱田には追加で言うことはなさそうだ。ただお前ら二人はもっと反省すべきだと思うが二人はどうなんだ?」
タピットさんは少し強い口調で大野君と秋山君に言うと二人は慌てて謝罪を口にする。
「もちろんわかっています。殺す形になったのは僕らにも責任があることは間違いないし、それに対して言い訳をするつもりはありません……」
「秋山と同意見です……これからは隼人君同様心を入れ替えてやるつもりです。こういういい方は月島には失礼かもしれないが、同じような目にあったのが秋山だったり隼人君だったら気が気ではないので」
秋山君と大野君も殊勝な態度で反省の姿勢を見せる。
「そうか……ならその気持ちを忘れず今後もやっていってほしい。今回起きてしまったことを元に戻すことはできない……でもそれを糧にすることはできる。今後お前たちが変わる姿を俺は楽しみにしている」
タピットさんの言葉に三人は頷く。この時の菱田君の目はとても真っ直ぐで別人に思えた。
「それじゃこの話は一旦終わりにします。色々思うことがあるけど、それは自分で少しずつ整理していきますから」
「大丈夫なのか?」
タピットさんのその質問に対し、私は大丈夫とは言えなかった。きっとこの先もこの事で悲しむに違いない……ただこのままじゃ彼に顔向けできない気がしたので私はこう答えた。
「彼の為にも止まるわけにはいかないので……」
◇
ちなみに周平君を助けようとした玲奈先生は脱出した次の日に目を覚ましたが、あの時の記憶がショックで一部欠落してしまった。ただ周平君の話をすると涙を流し、周りの目を気にせず泣いていた。助けようとした記憶は残っており自身の力のなさを悔やんでいた。
あの日から数日が経ち少しは落ち着きを取り戻したが、今でもまだ悲しみはぬぐいきれてはなかった。だから冷静を取り戻した私は美里ちゃんから聞かされた話に驚きを隠せなかったのだ。
改稿中ですので少しの間この話と次話がつながらないかもしれませんがご了承ください。
2019年3月12日修正