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尾形編6 希望へ

尾形編ラストです。

 「くっ……」


 後ろから二体のアースドラゴン亜種、前方は絶望狗ディスペアーハウンドとパラライズモンキーの群れが俺達の行く手を阻む。


 「チッ……しゃーない前をこじ開けるぞ!」

 「はい」


 ドラゴンとやるより前の狗と猿が相手の方が楽だという判断だろう、しかしどうして急に襲ってきたのか……タイミングが良すぎる。


 「おらぁぁぁ!」


 デカい斧を手に前へと突っ込む、こっちも遅れを取るわけにはいかないな。


 「魔法剣ファイア!」


 剣に炎を纏う、狗と猿は炎が弱点だ。


 「バイキングクラッシュ!」


 トリプティクの一撃はパラライズモンキーの頭を一狩りだ、攻撃力の高い剣闘士の職業だけあって高い攻撃力と素早さを持つ。


 「ファイアブレード!」


 負けずと猿の体を斬りつける、こっちは斬られた所が発火する攻撃だ。


 「へへッやるじゃねぇか、猿を狩って道をこじ開けるぞ!」

 「了解!」


 絶望狗の攻撃を無視してパラライズモンキーのみを狩っていく。


 「クソッ……キリがねぇ……」

 「だね……でもどうしてこんなに群れが一気に襲ってきたんだろう……」

 「その種の光の魔力に群がってきたと考えるのが妥当だな、こいつらはその種の放つ魔力に敏感に反応するんだろうな」


 闇の中で生きる生き物故の習性ってことか……


 「あの時実の中身を開けて見ただろ?そん時光の魔力が外に流れてそれを検知したんだろ」

 「マジか……自分のせいで……」


 ということはそれをしなければ……クソ……


 「まぁ気にするな、そのことを気にせず言わなかったアタシの責任でもあるし結局それを確認しないといけないのと一度確認すれば魔力があふれてどの道帰りは邪の道だからな」


 トリプティクはフォローしてくれるがこれは痛い。


 「絶対生きて帰ろう、トリプティクには色々教えてもらうことがあるからね」

 「ばっ、バカが……こんな時に何言ってやがる!でもまぁそれで力が発揮出来るなら上等だぁ!あそこの二匹の猿を片付ければ道が開く……行くぞ!」


 トリプティクが片方を片付けると同時にもう片方を片付ける。


 「よし、行くぞ!」


 道が開いたその刹那、後ろから攻撃が飛んで来る。

 振り返るとそこには間合いを詰めたつがいのアースドラゴンがいてそのブレスだと気付く、だがそれを避ける術はなくブレスは自分とトリプティクに直撃した。


 「グッ……」 

 「ぐぁぁぁぁ!」


 思わず大きな悲鳴がでる。

 飛ばされ地面に叩きつけられると体に激痛がはしった。


 「くそ……こんな所で……」


 近くで立ち上がってこちらに近付くトリプティクが視界に映る、何とか立ち上がろうと体を奮起する。


 「ペッ、逃げんぞ」


 トリプティクは血混じりの唾液を吐き俺を支える。


 「は……い、閃光玉を投げてこの先に……」


 そう言いかけた時パラライズモンキーが襲いかかる。


 「危ない!」


 トリプティクは俺を庇い代わりに背中を切り裂かれた。


 「ウァァァ!」


 悲鳴と共に倒れ背中からは血が吹き出る。


 「さっきの……借りは返したぜ……」


 力無い声で言う。


 「トリプティク!」

 「逃げ……ろ……私がここを食い止め……」

 「そんなこと出来るわけがないだろ!」


 トリプティクを置いて逃げるような真似なんかしたら俺は一生後悔するに決まってる。

 何よりエミリアさんやスタセリタに合わせる顔がない、置いてくなら一緒に死んだ方がマシだ。


 「ここで一人逃げるぐらいなら死んだ方がマシだよ、一緒ににここを出よう」

 「コウイチ……」


 なんてカッコイイことを言ってみたがピンチなことに変わりはない、もしここで果てるならそれまでの人生だったということだな。


 「魔法剣ボマー」


 これは相手に攻撃したと同時に爆発攻撃を与えるものだがエミリアさんとの訓練で得た技とこれを合わせて見る。


 「爆斬撃!」


 斬撃を放つこの剣技・斬と魔法剣はかなり相性がよい、被弾したパラライズモンキーに爆発と衝撃波がはしり吹き飛ぶ。


 「よし一か八かだな……」


 幸い今前方に敵はいない、ここを凌げばたぶん逃げきれるはずだ。


 「トリプティクは逃げる準備をして」

 「どうするつもりだ?」

 「見てて」


 もしもの時の為のオイル玉、使うなら今しかない!


 「いくぞ!」


 複数のオイル玉を四方に投げ自分達の逃げる方向以外にまんべんなく地面に浸透させる、森でこれをやりたくはなかったが背に腹は替えられない。


 「魔法剣ボマー……爆斬撃!」


 斬撃をオイルの巻いた場所に向かって放つ。


 「今だ、走れ!」


 今度は自分がトリプティクの手を握って先導する。

 斬撃がオイルを巻いた地面に当たると爆発を起こし炎が発生、オイルの浸透した地面全体に炎が発生し広がると俺達へ追撃を阻む炎の壁が完成した。


 「ついでにこれでも喰らえ!」


 おまけで閃光玉で目くらましだ、お互いに傷付いた体にムチを打って駆け抜ける、あれでどれぐらい足止め出来るかはわからないがとにかく少しでも時間を稼いで建物に逃げなければ。



 「ハァハァ……」


 お互いの荒い息の声が響く、とりあえず追ってきている様子はないが体力の限界が近い。


 「トリプティク大丈夫?」

 「いや、駄目だな……もう走れん」


 走るのをやめて一度立ち止まる。


 「ハァハァ……とりあえず撒けたのか……」

 「どうだろうな……ただここで止まったままではいずれは来るな……」


 トリプティクはその場で崩れ落ちる。


 「トリプティク!」

 「ちと無理しすぎたな……」


 背中の傷を回復魔法で塞ぐ、だが流した血の量が多くすぐには動けないだろう。


 「置いてく選択肢はないからね」


 トリプティクを無理矢理おんぶする。


 「もう何も言わねぇよ……全く馬鹿だよお前は……」

 「その割には嬉しそうな声だね」

 「呆れて思わず笑っちまっただけさ、でもありがとうな……」


 背中におんぶの状態なのでトリプティクの顔が見れないのが残念だが恐らく今の彼女は少し照れくさそうな表情をしているに違いない。


 「どういたしまして、まぁこのまま敵に囲まれたら正真正銘の終わりだしその言葉は早いのかな」

 「そん時は運の尽きだったということだろ?死ぬ時お前が傍にいてくれたら寂しくねぇし」

 

 それはフラグになるからやめてくれ……


 「物騒な事言うのやめてくれよ、そんな死を見届けるなんて嫌だよ」

 「ハハッ、だな」


 囲まれたら終わりという状況の中魔物とは遭遇せず着々とさっきの場所に近づいていた。


 「あともう少しだね……」

 「ああ、眠らずの地はエンカウント率は森よりも低いのが救いだな。さっき種をゲットした場所は森同然の場所で魔物に囲まれたが遺跡跡の道を通る時は建物同様魔物も襲ってこないからな」

 「魔物も遺跡を神聖な場所と判断しているんだね」


 この場所が一体なんなのかもっと詳しく調べてみたいところだが俺の実力ではまだまだそれが難しいのが現状だ……


 「そういうことだな、なんでかは知らんがな」

 「力を付けたらまたここに戻って色々と調べたいね、とても興味深い」

 「ああ、お互いもっと強くなったらまたここに来ようぜ」


 その為にも今は帰還だ、さてそろそろあの建物が見えるはずだ。


 「あそこだ!」


 さっき休憩した建物まで戻ってきたのだ、さっき死にかけて風前の灯だった俺達だがやっと希望が見えてきた。


 「長かったね」

 「ああ、でもお前のお陰でここまで戻って来れたんだな……」


 帰る時はまた森を超えなくてはいけない……それでもあそこで一休みして十分に休めばそれも難しい話ではない。


 「よし!あそこに……」

 

 するとまた後ろで大きな音が響く、後ろをチラッと見ると一体のドラゴンまた姿を現したのだ。


 「嘘だろ……」


 あともう少しなのに……どうして……あいつは森を抜ける時襲ってきた奴か……

 冷汗が流れる……考えろ!こういう時はどうすれば……


 「ルナティックフレア!」


 後ろにいるアースドラゴン亜種に突然攻撃が被弾した。


 「えっ?」

 「ヴァイスシュバルツ!」


 白と黒の弾丸がドラゴンを襲うとそのまま息絶えた。


 「全く……あんまり世話をかけさせないでよね~」


 やや低めの声と共に現れた朱色の長い髪に眼鏡をかけたその人を見て俺は思わずホッと息をついてしまう、やはり俺達を見守っていたんだな。


 「エミリアさん……」

 「姉御……」

 「ほら二人共まだ気を抜かない、そこの建物まで行くわよ!」


 エミリアさんと共にさっき休憩をとった建物に向かった。


 

 ◇



 「痛っ……」

 「ほら光一我慢しなさい!」

 「はい……」


 建物の二階でトリプティクと共に横たわる、緊張が一気に解け体に痛みと脱力感が俺を襲っていた。


 「全く……でもよくトリプティクを守り抜いたわね……あの炎の壁を作って逃げる作戦も良かったわ」

 「ハハッ見ていたんですね……その後魔物が襲って来なかったのも……」

 「私とそこにいるルグロリューが始末したのよ」


 少し上手くいきすぎているとは思ったけどそういうことか……


 「ハロー坊や、私はルグロリュー・キュアザブルースよ」


 見た所外見はダンディなおじさんだがどうやらおねぇ系のようだ。


 「尾形光一です」

 「ルグロリューはリユーン共和国にある一番デカいギルドのギルドマスターをやっている総長の腹心の一人よ」


 ということは白金ランクの冒険者ということになるな。


 「姉御はともかくなんでルグロリューがここに?」

 「ギャラントプルームで行われるギルドマスター会議があるのよ、それで国をでて向かおうとしたら姉さんに会って付き添ってるのよ~」

 「なるほどな……ということはこのままコウイチごとギャラントプルームに向かう感じかい?」

 「そういう事になるわね、光一も早くシュウと会いたいだろうし」


 とうとう周平君との再会だな……長かったけどやっとだ……


 「それは楽しみだ、スタセリタ達にそれは伝えてあるのですか?」

 「ええ、勿論よ。あなたがいつまでも帰って来ないとスタセリタが心配しちゃうからね」

 「ハハッ、そうでしたね」


 たぶん帰りが遅いって文句を言われるのは十中八九間違いないな。


 「それとトリプティク?希望の種は魔物の群がる場所では開けない様にって教えたはずだけど……あれはどういうことかしら?」

 「ついそれを言うのを忘れちゃって……はは……」


  エミリアさんがトリプティクの頭上に拳骨を飛ばす。


 「いっ……た……姉御……怪我人に何するんですか?」

 「御黙りなさい!その一個一個の行動の見落としが危険に繋がると前にも言ったはずよ!今回はあなたが光一を引率する立場であった以上そういう見落としは本来あってはならないわ!」

 「すみません姉御……」


 普段のトリプティクでは考えられない力のない怯えた声だ。


 「これは説教の時間ね……覚悟なさい……」

 「ヒッ……それだけは……」


 エミリアさんの説教が始まった、あんだけ普段から男勝りでオラオラしているトリプティクもエミリアさんの前ではこうなるんだな。

 


 ◇

 

 

 十数分の説教が終わるとトリプティクからは生気が抜けていた。


 「その一つ一つのミスが今回のようなことに繋がるから気を付けなさい!光一もよ!」

 「は、はい!」


 鬼教官モードの顔だ……トリプティクもわかってるみたいだから説教中は何も言い返さなかったけどあそこで言い返す素振りを見せたら……怖くて想像できないな。


 「とりあえず休んだらそのままここをでてギャラントプルームに向かうわ、二人共ここを出るまでは気を抜かないように!」


 何はともあれ俺とトリプティクは助かったのだ、今はただそのことに喜びたい……そんな気分だった。

次は主人公達の話に戻ります。

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