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尾形編5 眠らずの地

次で尾形編は終わりです。

 「コウイチ、あともう少しだ!」


 荒い吐息と共に森を走り駆け抜ける、さっき感じた気配竜は間合いをとって追って来ていた。


 「ハァハァ……」

 

 応戦も迷ったが向こうも襲ってきたわけではなくただ徐々に距離を縮めてくるだけなのでこの判断だ。


 「ここで奴とやるのはちと面倒だからな……」

 「そうですね、ッツ……」


 腕が痛む、今さっきトリプティクを庇ってパラライズモンキーの爪攻撃を受けた時の傷だ。


 「向こう着いたらしっかり治してやるからな……」

 「これぐらいかすり傷なんで大丈夫!」


 攻撃を受けたときは傷よりもその追加効果の麻痺を心配したが装備している魔具の効果もあってかそっちは大丈夫だった。


 「そういう強がりはしなくていい、傷がまぁまぁ深いのは見りゃわかるからな」

 「耐えられないほどじゃないよ、それにトリプティクを守って出来た傷だし勲章さ」


 トリプティクは自分よりも強い……でもあの時は体が咄嗟に動いたのだ。

 身を呈して庇うなんて下手すれば命の危険が伴う、でもそれだけ俺がたくましくなったことの証かもしれない。

 勿論スタセリタでも同じようにしただろう。


 「馬鹿が……でも男の子としてアタシを守ってくれたな……」

 「トリプティク?……」


 いつもと違い少し色っぽい声をだす。


 「今のはグッとくるポイントだったな、でも自分の命削ってまでやる必要はないんだからな?そこは頼むからちゃんと理解してな」


 トリプティクはこちらを真剣な眼差しでこちらを睨みつける、たぶんそれが危ない行為であるという認識が甘いのだろう。

 身を呈して庇うなんて格好いい行動は言い換えればただの死にたがりともとれる。


 「うん……気をつけるね」

 「それでいい、でも守りたいものを身を呈して守るってのは大事なことだけどな」


 微笑みながら頭を撫でる、トリプティクに頭を撫でられるのは心地好くこっちも微笑んでしまう。


 「チッ、後ろが近いな……三百メートルだ」

 「近付いてきてるね……」

 「いつでも戦える状態にしつつ逃げれるなら逃げよう!」


 もしドラゴンと戦ってる時に別の魔物がきたりしたらたちまちピンチだ、何とか逃げ切りたい……


 「一応目くらまし爆弾が数発あるけど気休め程度にしかならなそうだね……」

 「そうでもないさ、十秒は稼げるしいざという時は使えるさ」

 

 森を駆け抜けること十数分、森のゴールが見える。

 上空に霧がかかっているので光は見えないがそれでも森の終わりは確かにわかる。


 この先が眠らずの地……エミリアさんが言うには先の大戦の後半は特に泥沼化してヤバかったらしくここでの戦いを勝って大戦が終結の方向に向かったが代わりにこの地に多大なる負の遺産を残したという……そんな場所だ。


 「やっとゴールが……」


 森を抜けたその時後ろから大きな轟音が響いた。


 「コウイチ!」


 後ろを振り向くとアースドラゴンの亜種がこちらに牙をむく。


 「くっ……」


 勿論これを予想してなかったわけじゃない、用意していた閃光玉を投げる。


 「これでもくらえ!」


 目くらましの光でドラゴンの動きを封じる。


 「逃げんぞコウイチ!」


 トリプティクが手を引っ張り先導する、だがその刹那闇雲に攻撃をしたドラゴンの爪が俺の背中をかする。


 「ッツ……」


 致命傷こそしていないのはわかるものの激痛がはしる、だがここで逃げなければ折角の閃光玉が意味を為さない。

 痛みを耐えつつ走り抜けた。



 ◇



 痛みを耐えつつトリプティクに手を引っ張られた状態で無我夢中で走り建物へと逃げ込んだ。

 ドラゴンの方も追ってくるのをやめたらしくようやく一息つくことが出来た。


 「大丈夫か?」

 「何とか……」


 背中の傷は爪が掠っただけだったが走りながらそこそこの量の血液を流したせいかフラフラする。


 「閃光玉のタイミングが一秒おせェ……それがこの様だな……」

 「ごめん……」


 あの時の一瞬気を抜き油断したせいで反応が遅れた……油断しちゃいけないのはわかっていたのに……


 「全く……このバカヤローが……」


 トリプティクは壁に寄っかかって座る俺を抱きしめる。


 「でもそれで済んで本当に良かった……もしお前を死なせたらアタシは……」

 「ハハッ、大げさだよ。でもありがとう」


 少し涙目なトリプティクを見ていてとても申し訳ない気持ちになったがその一方で心配してくれるのがとても嬉しく思えた。

 こっちに来て王都を離れてから俺の周りに人が増え頼られスタセリタやトリプティクにしろこうやって自分を心配してくれる人もでてきた。

 危険な目に遭っているのにもかかわらず俺はどこか幸せを感じていた。


 「回復魔法もかけて傷も塞いだしここで食事をとるぞ、外は暗いが一応昼食の時間だしな」

 「でもここは安全なの?」


 今いるのは二階建ての石で作られた古めかしい建物だ。


 「元々ここは古代の遺跡で神聖な場所だった、加護があるからか知らんが建物には何故か魔物は入ってこないんだ」

 「へぇ~ということはここは安全地帯が多いんだね」

 「そういうことになるな、だがファーガスからの怨念の霧道側は危険だ。墓もそっち側にあるから余計にな」


 確か怨念の霧道から入って戦闘態勢に入ると頭がおかしくなるって話を聞いたな、眠らずの地もファーガス側に近いほどその症状になりやすいと聞いている。

 おそらく悪霊でも取りつくのだろう。


 「確か眠らずの地の中心に位置する慰霊碑から見て東側にいかなければそれは大丈夫って話だよね?」

 「ああ、墓の方は悪霊の巣だって聞いているから絶対に近づいちゃ駄目だ。幸い黒怨の木はどこにでも生えているからな。後は魔力値の高い実を見つけて種をゲットすれば終わりだ」



 ◇



 食事を終え体力を完全に回復させた廃墟から出て捜索を始めた、本来なら気持ちのよい日の光を浴びることができるはずなんだが空を覆う黒い霧が光を遮っている。

 古めかしい遺跡群と木々が混在する不思議な場所だ。


 「この場所は何とか出来ないのかな?」

 「百年前からこんな感じらしいからな、姉御の話だと昔は古代に栄えた王国の遺跡がたくさんあってミステリアスな観光地だったらしい。大戦前はもっと遺跡群がたくさんあったんだとさ」


 よりによってそんな場所で激戦を繰り広げなくても……もっと別の場所でやるべきだろう。


 「そんな場所で何故激戦するなよ……」

 「何でも遺跡には謎が多くて魔力が集まる場所でもあったらしくてな、この場所の占拠が両者の狙いでだからここが激戦区になったらしい」

 「そういう背景があったんだね」


 その魔力を呼び寄せる性質がこの悲劇を生みだした原因の一つと言えるだろう。


 「まぁ姉御が仲間と集結したら何とかするって言ってたしきっと何とかしてくれるさ」


 境界騎士団……俺が今師事するエミリアさんが所属する表向きの世界の反逆者であり真の英雄、あの周平君がリーダーだというのだからビックリだ。

 本気の白夜虎を威圧のみで引かせる実力を持つエミリアさんだが騎士団では下の方だというのだから周平君の今の実力は相当恐ろしいものに違いない。


 「騎士団にはエミリアさん以外にも知り合いがいるからその人と早く会いたい」


 周平君は今の俺を見たら少しはビックリしてくれるかな、そんな期待が少しある。


 「そういえばそうなんだってな、確かこれが終わったらギャラントプルームへの招集がかかっていて姉御達と私達総長の腹心が集まるって話になっているな」

 「そうなの?」

 「うちの総長もその騎士団の一人だからな。たぶん姉御はコウイチも連れて行くと思うぞ」


 ということは周平君と再会も近いってことか……ヘヘッ、ならなおさら早くこれを片付けないとだな。


 「それは楽しみだね、うん?あの木の実が目的の物?」


 話ながら探索していると黒怨の木らしきものとそこに生える絶望の実を見つけた。


 「どれ」

 

 トリプティクは魔弾で木の実を一つ落として拾う、外見は黒紫色で肉質は硬めらしい。


 「こいつは外れだな」


 ナイフで実を二つにすると黒い種が一つでてきた。


 「当たりはこの種が光輝いているのともっと魔力を感じるんだ、ちなみに当たりはごくまれだ」


 うん?モンハン初期の老山龍の紅玉かな?嫌な記憶がフラッシュバックしてきた……


 「なるほど……なんか見つけるのにいい方法ないの?」

 「ヘヘッ、ちゃんと準備してるぜ」


 トリプティクは眼鏡を取り出し俺につける。


 「その眼鏡ごしに見ると物質の魔力の流れを見ることができるんだ、姉御から借りたやつでそれで実を見て魔力の高い物を見つける感じだ」

 「作業自体は楽だね、まぁ来るのが命がけだったし実を見つけるのも大変だと体が持たないしよかったよ」


 歩くこと二時間……魔力の違う異質な実を感知した。


 「やっとだ……」


 なんだかんだで結構時間がかかり足が疲労困憊だ、この眼鏡がなかったらと思うと恐ろしい……おそらくハゲていただろう……


 「あれだな、落とすぜ」


 魔弾で落とした実をキャッチする。


 「では早速……」


 実を二つに切ると中の種が眩い光を放っているのがわかりそれを取り出す。


 「これが希望の種……これでミッションコンプリートだね」

 「ああ……後は帰るだけだ……一旦建物に入って休んでから帰還を……」


 トリプティクがそう言いかけるとまたも大きな轟音が響く。


 「嘘……アースドラゴン亜種が二匹だと……しかもあいつは……」


 鋭い眼光を放つ黒眼でこちらを睨み付ける。


 「チッ……逃げんぞ、こいつら二匹は分が悪い!」

 「うん!」


 倒せなくはないかもしれないが致命傷を負う可能性も高い、目的は果たしたし今は安全な帰還が最優先だ。


 「何であんな所に……」

 「さぁな……奴らはこの区域の守護者気どりだからな、探して始末しようとしてるのかもな……」


 トリプティクの表情を見ると少し焦燥している様子だ、おかしいな……アースドラゴンは倒せなくはない相手だと言っていたが……


 「どうしたの?何でそんなに焦っているの?」

 「奥にいた大きい方の目を見たか?」


 元気のない低い声だ。


 「うん、なんか鋭い感じがしたのと傷があったよね?」

 「そう、そっちはここにいるアースドラゴン亜種のリーダー的存在で通称ブラックデビルって言われる個体だ。奴は他の仲間も呼び寄せる……クソ……巣は東側にあって普段はそっちにいるっていう話なのによ……」

 

 トリプティクでも勝てるか微妙な能力ってことなのか……


 「とにかく急いで逃げよう!建物に入ればば何とかなるはずだし」

 「ああ」


 閃光玉を投げつつ逃げるが相手のスピードも速い……追いつかれるのも時間の問題だ。


 「あれは……」


 追い打ちをかけるようにパラライズモンキーの群れと絶望狗ディスペアーハウンドの群れも襲い掛かってくる。


 「多すぎる……このままでは……」


 建物まであともう少しだというのに……


 「コウイチ後ろだ!」

 「うん、魔法剣ファイア!」


 後ろから奇襲をかけてきたパラライズモンキーを斬る。


 「囲まれたか……」


 後ろから来るアースドラゴン亜種ニ体と前方の道を塞ぐパラライズモンキーと絶望狗の群れが俺達の逃げ場をなくした。


全体的に異能を使う頻度が少なく戦闘でもっと異能を活用させないとですね(笑)

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