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王都への帰還

最近質のいい睡眠がとれてない……

 少し後味が悪かったがラシュカリを後にしファウンドの冒険者ギルドに報告した。

 その前にヘキラクの町に寄って経緯を報告すると人質として取られたまま帰ってこない者の死を悲しんでいた、町からでた死者は数人だがラシュカリではたくさんの人が死んでいるのを考えるとそこまで被害がでなくて良かったとホッとしてしまう。


 「てな訳だ、まぁ完全に元通りってわけにはいかないがな……」


 どうすれば全員を救えたかなんてことは考えてない、貧乏くじを引いたと思って諦めるしかない。

一応故ガヴァナー子爵の望みは果たしたのだから。


 「すまない……僕一人では解決できないというのは肌で感じとっていた……まさかそんな風になるとは予想もできなかったからね……」

 「あなたも私達の力ならどうにかできると思って依頼したし私達もそう過信したが故の結果……いい経験になったわ」


 立花の言う通り俺達は自分の力を過信ししていた、ダイオライト公爵を倒して魔族を追い返すまでは余裕だと思っていた。


 「復興には少し時間がかかるかもしれないがギルドが総力を上げて支援するなんて言っちまったもんだからよろしく頼む」

 「ああ、そこは任せてくれ。ミスリラ夫人からの手紙にも書いてあるからね」


 こっちはもうアッシュ達に任せて良さそうだな、王都アスタルテのこともあるし早く戻らんとだ。


 「頼んだぜ、それと公爵の夜の魔女の亡霊の声が聞こえたってのを詳しく調べてほしい」

 「収容所から聞こえたっていうやつだね、わかる範囲で調査はしてみるよ」


 もし俺達の知ってる奴なのかそれとも違うのか……もしまた夜の魔女の亡霊の囁きがまだ発生するならまた考えなくてはいけないからだ。


 「後は王都だな、あいつらが魔族どもとやるのはまだはやい」

 「そうね、幹部クラスが相手ではまだ分が悪いわ」


 攻めてくるのも時間の問題だ、どうせ正体を明かすならしっかり演出もしないといけないからな。


 「どうやら世界が大きく動きそうだね、連邦の方でも遠征に向けての準備が時期整うみたいだよ」


 インフィニティーシールドが解除されたということか……陣の奴が作った時間も思わぬ形で役に立ったな。


 「そうか……のんびりする時間は当分なさそうだな……」

 「ふふっ、でも楽しくなってきたじゃない」


 立花は意気揚々とする、まぁ退屈はしないんだがね……


 「あの時の蹴りはつけないとだからな~」


 あの時の大戦は途中で止まったままである、しっかり片付けなければ。


 「大きな動きがあるときはマジで連絡頼むよ~君達平気で街一つ破壊するだろうから」


 俺達をなんだと思ってるか……まぁ否定はしないが。



 ◇



 ファウンドを離れ王都アスタルテに帰還した。

 もちろん俺も立花も変装はしっかりしている。


 「変わらん感じだな」


 何だかんだで一週間ぐらいしか空けてないからな、襲撃されてなければあの時のままだろう。


 「とりあえずサラ達の元へ行きましょう」


 サラのいるファーガス城内の塔区画へ向かった。


 「あら、思ったより早いですわね」


 サラとザインタはいつもの場所でいつも通りいた、別に煙の匂いや殺気が混在していた訳ではないので大丈夫だとは思ってたが顔を見れたのでついホッとしてしまった。


 「無事で何よりだ」

 「無事も何もこの一週間いつもと変わりませんでしたのよ、変わったことと言えばあなた達がいなくて退屈だったぐらいですわ!」


 退屈そうなサラフィナの顔を見れて一安心だ。

 

 「シンの奴は?」

 「彼なら勇者達を鍛えてますわ、たぶんそろそろ戻ってきますわ」

 

 そろそろ日が暮れるからな、たぶん俺達が帰還したのも気づいているだろうし戻ってきたら報告しないとだな。


 「二人共戻ってくるのが予想よりも早いですね……外で何かありましたか?」


 ザインタが怪訝な顔でこちらを見てくる。


 「少しね……」

 「詳しくはシンが戻ってきてから話すよ、状況はあんまし良くないがそれを逆手にとれなくもないからな」

 「やはり……了解しました」



 ◇



 しばらくくつろいでいるとシンがこちらに来る。


 「早い帰還じゃないか、デートは楽しめたか?」

 「ああ、多少は楽しんだよ。お留守番&見張りご苦労様~」

 「おかげで周平と二人の時間を過ごせたわ、ありがとう」


 シンが城にいるからこそ全てを任せて外出できたようなものだ。


 「とりあえずご飯でも食べながら報告会をすればいいのではなくて?」

 「サラの言う通りね、そうしましょう」


 夕食が運ばれ席に着く。


 「それで話そうか」


 俺達はラシュカリの街での事の経緯を話した。


 「それは災難でしたわね……でもまさかあの街でそんなことが……」

 「少し信じられませんね……」

 「魔族の乗っ取りか……魔族用の大きな収容所があったとはいえそんな事があるのだな……」

 

 三人共驚きを隠せない様子だ。


 「それで魔王軍の幹部がここを攻める為の準備の手助けをしていたみたいでこの王都のどっかに転移魔方陣が作成されてていつでも攻めれる状態らしいんだな」

 「嘘でしょ?」


 サラフィナは声が部屋中に響く。


 「本当だと思うぞ」

 「ええ、本当ね」


 サラフィナはキョロキョロしながらあたふたし始める。


 「ザインタ、非難する準備を!替えの洋服は最低一瞬間分は用意しなさい!」

 「はい、姫様」


 二人して何をそんなに慌ててるんだか……それに女王になろうとしているのにそんな動揺していては……


 「まぁ待て、そんな焦らんでも大丈夫だ」

 「これが焦らずにいられますか!あなた達はなんでそんな暢気でいられるのですか?」

 「落ち着きなさいサラ、私達を誰だと思っているの?今からもうその対策はある程度考えてあるわ」


 立花の言葉で落ち着きを取り戻す。


 「成程、それなら安心ですわね。ちなみにどういった案でしょうか?」

 「たくさん現れれば大きな反応があるだろうからそこに移動して全員石にすればそれで終わりよ」


 まぁ一番簡単に済ますならそれだがそれじゃあつまらないからな、それを逆手にとってちゃんと味付けはする予定だ。


 「まぁ今後の為にももっと演出する必要があるがな、まぁお前達の安全は保証してやるつもりだから安心して見ていてくれ」

 「あなたのそれは信用できるのかできないのかわかりませんわね……まぁ頼るしかないのが現状ですのでお任せしますわ」


 もっとも国王やその他の貴族達がどうなるかは知らんがね。



 ◇



 「シャーガーさん~」


 夜城の中庭に行くと杉原が一人長椅子に座っていた。


 「暫くだな美里」

 「一週間ぐらいだったよね?奥さんのハンナさんと調査兼旅行だっけ?」

 「そんなとこだな、最初は旅行で途中から調査だったな」


 シンが言うには一週間のうちに異能の上手い使い方を教えてやったらしいな、美里の異能があれば不意打ちを防げるだろうし夜の戦闘が得意な魔族のいい対策になる。


 「ははっ、あんな美人な奥さんいて羨ましいですね~それでいてお互いに仲がよくて……私もいつかそんな相手が見つかるいいんですがね~」

 「美里なら相手はより取り見取りだ、いずれは見つかるさ」


 美里を彼女にしたい奴はたくさんいたからな~


 「そうだといいんですけどね~木幡にも告白されましたけどこの人ならいいってのは二人しかいなくて……」

 「二人?」

 「前に話した周平君と陣君ですよ、あの二人は私を惹き付ける何かを持っていたので」


 立花がいない状態だったらたぶん美里を選んでいたかもしれないな、あるいは月島と二人ここからかっさらっていたに違いない。


 「なんか聞くと二人共少し変わった二人だよな、どっちも普通じゃないし」


 自分の事をこうやって言うのは何か恥ずかしい気分だ。


 「そうですね、中学生の時作った伝説なんて実話とは思えないレベルでしたからね」


 中学生の時立花や俺達の所属していた生徒会六人は外部で多額の金を作ることに成功し先生をも超える権力を持っていた、漫画じゃあるましいそんなの現実で有り得るかなんて話だが本当の話だ。

 陣の奴は海外で事故にあい拉致られてから戦場を奔走することを余儀なくされた時期があった。

 幼少期や成長期にそういう刺激的なことがあると変な奴になるんだなと実感した。


 「まぁ人間色々あるだろうよ、そっちの世界のことは良くは知らないけど変わった環境にいた奴が風変りに育つのはどこの世界も共通だ」

 「ははっ、ですよね~私達も元の世界戻ったら前までの生活が困難だろうし」


 俺予想では誰かしらが何らかの暴力事件を起こすと確信している、心的ストレスで引きこもりになるのもいるかもしれないな。

 いずれにせよ問題だが今はどうしようもない。


 「そうだな、でも今は目先の問題を対処しないとだな」

 「そうですね!絶対生きて帰らないとなので……」


 少し力なしに言う杉原の肩を軽く叩く。


 「何かあれば月島と一緒に二人でギャラントプルームに来るといい、この国は信用できないがお前達二人は信用しているからな」

 

 それは神山周平としての本心だ、二人で来てくれるなら喜んで迎えいれたいからな。


 「ありがとうございます、シャーガーさんが私と雪にくれたこの腕輪は二人共肌身離さずつけていますよ」


 隷属の腕輪を無効にする為に二人に与えたのはそれを打ち消す反呪の腕輪だ、勿論外せないようにもしてある。


 「それがあればもしもの時に助けになるはずだ、希少価値が高いから人数分がないがな」

 「それだけシャーガーさんの信頼が厚いってことだと受け取っておきますね~」

 「ははっ、そう言う事だ」


 後は最終的に二人がどういう立ち位置で戦い続けるかだ、俺達が目指すものに賛同できればいずれはこちら側に来るだろうが賛同できなければ別の道だ。

 どっちに転びにせよ二人を死なせる気はないがな。


 「今日はもう遅い、明日もあるから寝ようか」


 大きな欠伸をすると美里もつられて大きな欠伸をする。


 「ふぁ~そうですね~明日も早いですしおやすみなさい~」


 城に戻る美里を一人見送り長椅子に再び座った。


 「もういいぞ」

 

 物陰から出てきたのは立花だ。


 「旦那の浮気疑惑現場をつい遠目で監視していたわ」

 「ははっ、会話全部聞いてたくせに何言ってんだか」


 美里の元に行く前から立花の視線を感じていたからな、おそらく美里がここにいるのも元から知っていて俺が部屋から抜け出した時点でここに来ると確信していたのだろう。

だから会話を聞かせるつもりで話していた。

 

 「ふふっ、冗談よ。夜中の城の巡回をしていたからあなたが部屋を抜け出した時点であの子の元に行くのはわかっていたしね」

 「それでわかったか?」

 「ええ、転移陣の場所はわかったわ。余計なネズミも見つけたわ」


 流石は立花だ、仕事が早い。


 「やはりこの城の中だったようだな」

 「ええ」


 となると向こうの行動があるまでは夜間帯もここを離れられんな。


 「いつ攻めてくるかだな……」

 「ネズミの会話の流れからして一週間以内だと思うわ、それも夜ね」


 となると明日になったら戦力を集結させておく必要があるな。


 「今夜じゃなきゃ問題ないさ、夜が明ければ戦力を引っ張ってこれるしな」

 「面白そうなショーになりそうね」

 「だな」

 

 来る場所と時間がある程度分かっていてればなんてことはないからな。

 夜空に光る下弦の月はどこか不穏を煽っているようにも感じた、だがその不穏は俺達に向けたものではないと信じたい。


明日もアップします。

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