違和感の正体
遅くなりました……昨日寝落ちして上げれなかった(笑)
屋敷での一件を終えたあとすぐに宿に戻った、当然部屋での盗聴対策は怠らない。
「ふぅ~」
一息つきベッドに横たわる。
「お疲れ様~」
「お疲れ~」
お互い言葉をかけくつろぐ、ちょっとばかしの休息だ。
「さっきはゴメンね~」
「別にいいけど最初の蹴りがガチだったぞ……」
普通の人間なら首ごと消し飛んでいること間違いない。
「どす黒い感情が頭に登っちゃって気付いたら左側頭部に蹴りをいれていたわ~」
そんな軽いノリで殺人キックをされても困るんだが……
今度からは念話でもあらかじめ言っておく必要があるな、また似たような場面に直面するかもしれないからな。
「ああいうことがあったら一呼吸置いてくれ、あんな堂々と浮気をするほど俺の神経は図太くないぞ」
九兵衛さんだったらやるかもしれないがな。
「ふふっ、ゴメンなさいね~次は気をつけるわ~」
「頼むぞ~」
まぁ今後もし事前に言わないで同じことをしたら十中八九今日と同じことかもしくはそれ以上のことをされるだろう。
「あの時はいきなりで頭に血が上っちゃったけど周平が臭いって言った意味はすぐに理解したわ」
魔神は生物から感じる魔力に敏感である。
「後はどれぐらいまで侵食されているね、夜にここに泊まりに来るお客ってのも気になるし」
ここの店員は普通だったし街で買い物をする主婦達も臭いはしなかった、どこまで紛れこんでいるかで仕事量が大きく変わるな。
「なんか眠くなってきたしとりあえず寝るか~」
夜から忙しくなるし睡眠不足にならないようしっかりとるべきだろう。
「私も少し仮眠ね、睡眠不足は肌に悪いし」
立花が隣にきて二人ベッドで寄り添う形睡眠に入った。
◇
数時間後、太陽が沈み夜になった頃静かな足音が部屋へと近づいてくる、夕方十八時を回る頃には大きな鐘の音が響き夜が始まろうとしていた。
「はぁはぁ……」
荒い吐息を必死に押し殺し二人の旅行者が泊まる部屋の前までたどり着く。
「ここの旅行者は悪い人……悪い人は……」
合鍵を使いドアを開ける、ベッドには二人一緒に寝ているのか二人分の膨らみがあるのがわかる。
「いざ……はぁぁぁぁ」
持っていた剣を手にベッドに向かって突き刺す……だが感触は柔らかくすんなりと突き刺さったのだ。
「えっ……」
困惑した、そして布団を開けるとそこには人でなくクッションが置いてあったのだ。
「なっ……」
「人様の泊まってる部屋に忍び込むなんてプライバシーの侵害だな~」
魔法で部屋が照らされる。
「あらあなたはさっきの店員さんじゃないの~」
どうやら忍び込んだのはさっきの店員さんだった、顔を見ると目が少し虚ろなのがわかる。
「くっ……」
店員は逃げようとするがそうはさせない。
「ライジングショット!」
「きゃぁぁぁぁ!」
店員の悲鳴が部屋全体に響き渡るが当然サウンドアウトの魔法をかけているので外には漏れない。
「そんなんで俺達を殺ろうなんて甘いぜ~」
立花は倒れた店員の胸倉を持ち上げ目と目を合わせる。
「随分と怖い目をしてるわね~」
「くっ……」
「ブルーライトニング!」
「ぐあぁぁぁぁ」
店員は抵抗しようとするがすかさず追加の電撃を与える。
「その洗脳を解こうかしら?」
立花は店員の目を見つめる。
「ひっ……」
「ディスペル!」
これは魔法効果を打ち消す魔法だ、ただし無理やりなので店員に強烈な頭痛が走ったのか気を失った。
「さてこいつからなんか聞くか?」
「起こすまでの時間が勿体ないわ、脳に少し負荷がかかったからすぐには起きないだろうし」
まぁこの店員に聞かなくても他の誰かが教えてくれるだろう。
「一時間前に変な鐘の音が鳴ったけど何か関係があるのかしら?」
「有り得るかもな」
仮眠中に大きな鐘の音が数回響き、その鐘が鳴り終わるとたくさん気配がこの宿に集まったのだ。
「いくか……」
◇
宿の下に降りると食事処は賑わいを見せていた。
「これはこれは……」
「店員の話は本当だったのね……でもここにいるのって……」
「ああ……そういう事だ」
この光景こそがこの街の違和感の正体……店員を除くここで飯を食べて酒を飲んでいる奴らは全員魔族だ……人の姿をしているが匂いでわかる。
ミスリラ夫人や門番の二人、執事やメイドは人間であったがあの秘書は魔族だ。
「まさか魔族に乗っ取られてるなんて……」
「俺もこれを見るまでは半信半疑だったがな……」
さてどうするか……
「そういえば人間の男が見かけないわね?」
「恐らく収容所だろうな、それか死んでるか……」
さて子爵の屋敷にでも向かうとするかね。
「凄い視線を感じるわね」
座って飲み食いする連中がこちらに気付いたようでこっちを睨んでくる、俺達がよそ者だというのに一目瞭然だからな。
「気にせず外に出ようか」
外に出て子爵の屋敷に向かおうとすると早速数人に絡まれる。
「早いね~寄生虫の皆さんのお出ましだ」
「ふふっ、排除ね」
すると後ろから不気味な笑い声と共に秘書のシラオキがやってきた。
「よっ、やはり来たか」
「臭いを嗅がれた時まさかと思いましたけどやはり気付かれたのですね」
「当然当然~俺を誰だと思ってるの~」
来たときから臭かったしあの屋敷は人間ばっかりなので余計に臭った。
「乗っ取りは半年前から徐々にやってったな?収容所で奇声でおかしい振りをして様子を見に牢の中に入った人間を隙を見て襲い徐々に入れ替わりをしたってとこだろうな」
「ふふっ、ご名答……やはりあなた達は危険……お前達!」
周りにたくさんの魔族が集まる、中で食事をしていた者達も続々と外に集まる。
「あらあら、こんなにたくさん」
カモのお出ましだ、あの余裕ぶった顔を苦悶に変えてやらんとだな。
「やれ!」
シラオキの声と共に俺達に襲い掛かろうとする。
「エミリウスの宴!」
襲い掛かる魔族達を石化状態にする。
「なっ……」
シラオキは何が起きたのかわからないといった感じなのか顔を訝める。
「こんなのたくさん呼んでも一緒ね……でも何人かは石になってないとこを見ると流石は魔族か……」
魔族は魔耐性が高くノーダメではエミリウスの宴が効かなかったのだろう。
こういう相手を異常状態にする魔法は相手の魔耐性が大きく関係してくる、例え立花の創世魔法がチート級だったとしても相手の魔耐性は無視できない。
「まぁ石にならなかった奴はそこそこできる奴だったってことだし気に病む必要はないさ」
「ふふっ、少し見通しが甘かったわね」
石にならなかった残りの魔族が襲ってくる。
「おらぁ!」
「五月蝿いハエが……」
宝物庫の異能で空の上に武器を具現化し向かって来る奴らの首に落ちるように落とす。
「えっ……」
こちらに向かってきた六人の首が落とされ血が噴水のように吹き出る、切れ味のよい武器を選出したからかチーズをスライスする要領で首が斬れる。
「全く身の程知らずもいいとこだな~」
大人数で押せば勝てると思われたのか随分ナメられたものだ。
劣勢になったからかさっきまで不気味に笑っていたシラオキの顔が苦悶に変わる。
「くっ……」
シラオキは撤退しようと後ろに下がる。
「逃がすかよ!」
逃げようとするシラオキよりも速い速度で近付き後ろから肩を掴む。
「は、離せ……」
「ヘルハンド!」
触れた相手の体力を吸収する第八位階魔法だ。
「ぐっ……」
その場で倒れるシラオキを上から抑え込む。
「さっきまでの笑みはどうしたんだ?」
「化け物め……」
「どうもありがとう~それで収容所にはどれぐらい捕らえてある?」
あまり見ていないこの街の人間の男はおそらく収容所にいるはずだ。
「ふふっ、貴様自身で確かめるといいさ……ジェットブースト!」
魔力を内に溜め込みエンジンとして体を飛ばす第五位階魔法だ。
「果たして俺から逃げられるかな……」
右腕のみを魔神化しジェットブーストによって飛ぼうとするシラオキの体をしっかり押さえ込む。
「な、何故動かない……」
「破魔軸」
立花が後ろから発動する。
「ふふっ、あんまり遊んじゃ駄目よ周平~わざと威力落としたヘルハンドで相手に希望を持たしてあげるなんて本当に気でもあるのかしら?」
まったくうちの嫁は……
「そうでもしないとつまらんだろ~まぁそろそろ立花に閉めてもらうかな」
立花は地べたにはいつくばるシラオキと目を合わせる。
「ふふっ、どういう気分かしら?」
シラオキは何も答えない、観念したとも言えるだろう。
「石にしてそれを砕くとどうなるか知ってるかしら?一部砕いた状態で石化を解くとどうなると思う?」
「や、辞めろ……」
苦悶の表情を見せる、観念したと言っても考えないように恐怖を押し殺していただけで言葉でその姿を頭に想像させたら平静を保つのは無理だろう。
つまりこの女は死の覚悟を持ち合わせていないということだ。
「いい顔ね、エミリウスの宴!」
シラオキは苦悶の表情を浮かべたまま石化した。
「こいつ周平の宝物庫に入るかしら?」
「まぁ一応な」
生きている者を収納することは出来ないはずだが石像になった人は大丈夫らしいな。
「さて子爵の屋敷にレッツゴーだな」
ゲートで子爵の屋敷の中へと移動した。
◇
「なっ……あなた達どこから!?」
突然さっきの応接室に現れた俺達に大層驚きの様子だ、まぁ当然の反応だが……
「どうも~この屋敷にいる人間の使用人を呼んでくれ」
その言葉にミスリラは悟ったのか一瞬喜色の表情を見せるが辺りをキョロキョロさせすぐに暗くなる。
「でもシラオキが……」
「あ、こいつか?」
宝物庫から石像にしたシラオキをだす。
「シラオキ!?」
「宿を出たらこの女がたくさんの魔族を引き連れて襲い掛かってきたからだいたい石にして数人の首は切り落としておいたわよ」
「あなた達一体……」
いきなりで困惑している様子だ。
「あの依頼書はあんたのSOSだろ?隠し持ってたか複数あったのかわからんがユリウス子爵の印を使い子爵の名前で依頼を出した、街に潜伏させていた内通者に協力してもらいギルドへ直接送った、違うか?」
もっといえばアッシュはこの件に関して無知ではなかったのだろう、恐らく下手に教えるより俺達が勝手に異変に気付くと踏んだのだろう。
「流石はアッシュが送り込んだ者達ですね……」
ミスリラの目から涙が流れる。
「あの時あんたは適当に報告書を書いてくれと言ったが依頼の取り消しをしなかったからな、あの時点でおかしいと思ったよ」
間違いなら依頼は取り消しだ、ましてや死人からの依頼だし普通なら依頼取り消しだがミスリラはそうは言わなかった。
それに適当とは適切かつ妥当にという意味にもとれる、つまりちゃんと依頼を遂行してくれということになる。
「今からあなた方に全てお話します、そしてどうかこの街を救ってほしい……」
三章はもうすぐ終わりにする予定です。