ラシュカリの街
出かけてたら投稿が遅れました~
ヘキラクの町をでてラシュカリへと向かった。
ゲートで再びキングホースを移動させた時のあいつは何が起きた?みたいな感じに挙動不審になっていた。
おそらく今いた場所から全く違う場所に移動したのがわかったのだろう、プライドが高くて強いあいつがそうなるのはそれだけ知能が高い証でもある。
「てっきり周平はあの町で暴れると思ったのに~」
「最初はそのつもりだったけど後のこと考えたら話し合いが得策だと判断したのさ」
あの町一つでも直轄地にすればそれなりに利益が取れる、ああいう小さな町の元締は周辺にある大きな街の領主にあるからそいつを丸め込めば利益を独占できるのだ。
「ふふっ、賢明ね」
立花は俺の頭を撫でる、立花がこうやって褒めるように俺の頭を撫でるというのは自分の思う最良の選択を俺がしたときである。
「今も昔も俺はお前の手の平にいるな~」
「あら、それは皮肉かしら?」
皮肉じゃないと言えば嘘になるが別にそれに対して不満はない。
むしろ手の平にいることを俺は望んでいるのだ。
「いや、俺はそれを望んでいるからこれからもそうしてくれ~」
「ふふっ、そうだったわね。でもあなたが私の手の平におさまらなくなる時がたまにあるのよね~」
立花的にはそういう俺を見るのがいい刺激らしいな。
俺を隣で見ているのがライフワークなんて言う女だ、思えば昔束縛しますみたいな感じのメンヘラチックな告白をよく二つ返事でオーケーしたなと感心するよ。
それだけ好きだということでもあるが……
「それはそうだ、人は学習する生き物だし考えた方も変わってはいくからな」
「そうね、だからこそ退屈しないわ。私の予想を超える周平をこれからも見せてね」
見せろと言われて見せれたら苦労しないな。
そんな自分を立花に見せることができるとしたらそれはピンチになった時だろう。
「昔立花が俺に告白してきたの覚えているか?」
「ええ、私にとっての幸せの始まりだもの」
魔法学校に入った頃の話だ、俺が魔神の力の一部を手にしてから大賢者の力の一部を手にしていた立花とは軽く許婚状態にあった訳だが意識していたもののあんまり深く考えてなかった俺はそのことを触れずにいた。
だがそれを良しとしない立花は学校に入ってすぐに告白をしてきたのだ。
「どうしたんだい?こんな人気のないところに呼び出して?」
「最近私の事を避けてないかしら?」
この時俺は十三歳になる頃で思春期に入っていた、なので立花のことを意識していただけに避けていた。
「そ、そんなことないよ~俺が立花のこと避けるわけないっしょ」
思えば立花はこの時から大人びていた、体も成長の片鱗を見せており二年後は文句なしになるなんて言われていたぐらいだ。
それだけに男子に羨ましがられていたしその事で茶化されたりもしていたから余計に避けていた。
「男子共に色々言われたぐらいで私を避けるなんて周平も落ちたものね~魔神の名と家の名に泥を塗る気?」
「ば、馬鹿言うなって~俺は天下の将軍家に生まれ二十柱の一角を担う男だぞ」
まぁこの当時は二十柱が何たるかなんてよくわかってなかったんだがな。
すると立花は俺に近づき顔と顔を近づけてきた。
「あなたは私のことをどう思ってるか聞かせて欲しいわ、ここなら誰もいないし恥ずかしがる必要はないわ」
「そりゃ好きだよ、昔から一緒にいるし隣にいるのが当たり前だったしさ」
思えばここでこれを言ったことで立花は勝負に出たのだろう、俺自身も立花と結婚するもだと思っていた。
「その言葉に嘘はないかしら?」
「神に誓ってないね!」
この時の立花の顔ときたら、勝ちを確信しましたと言わんばかり顔をニヤッとさせたのを覚えている。
「なら私と永遠を誓いなさい、一生束縛して愛し続けてあげるわ」
その時同じ十三歳の少女の口から出るには重すぎる言葉での告白を受けた訳だがなぜか俺はそんな彼女を引くことなくそれを受け入れたのだ。
凛とした力強い声とその強さや容姿、立花に惹かれるポイントは多かったが何より俺を好きだと言ってくれたのが素直に嬉しかったのだと思う。
「あん時色々俺に色々これしなさいあれしなさいなんて言われたけどよくまぁ素直にやったよな~」
「あら、でも言ったのって学校でも二人の時間をちゃんと作るとか周りにアピールするとか一緒に主席をとるとかごく当たり前のことしか言ってなかったと思うけど」
周りにアピールとか当時は恥ずかしいし主席になるとか面倒だしなんて言ったら何言われるかわからなくて仕方なくやったのだ。
まぁ三年生になる頃には恥ずかしさも消えてそれらは全て当たり前になっていった。
「まぁいい思い出になったな~」
「そうね~」
これ以上は何も言うまい。
◇
馬車に揺られるとこと数時間、ラシュカリの街が近づいた所で馬車を再びゲートでアルマンゾールに送った。
この街がよそ者、特にギルドの者が来るのを良しとしていない勢力がいる以上はその方がいいだろう。
「ファウンドを出てここまで、整備された道を通ったとはいえ魔物に一度も襲われなかったわ。これはどういうことかしら?」
「ヘキラクからは腐敗臭は感じなかったが、やたらと魔素が濃いのが気になった。原因の一端はそれだろうな」
ただ一般的に魔素の濃い地域は魔物が凶暴化し無法地帯となることが多い、眠らず地なんかがそれに該当する訳だがここは魔素こそ濃いが魔物はいない。
「確かここいらこ魔素が濃いのは昔勇者召喚の為に捕らえた魔族の命を魔力に変える段階で暴発を起こしたからだったからだと思うけど……」
「そういえばエミリアがそんな話をしていたな、だが魔素の濃さは今回の一件に何かしらの形で関与しているとは思うけどな」
魔素が濃い場所というのは魔力が集まりやすく魔法効果が高まる、もし何かしらの実験をしているのならそれを利用しているはずだ。
「何にせよ私と周平のデートが楽しめるイベントが待っているに違いないわ」
そうだった、これはデートの一環だったな、なら楽しまないといかんな。
「ああ、楽しい街巡りができること間違いなしだな」
◇
街へはすんなりと入ることができた、ヘキラクの町のような怪しいお出迎えも民家からの視線もなかった。
「向こうからのコンタクトがあると思ったんだけどな……」
「何もないわね……ただ街は大きいし人もそれなりにすれ違うけど普通の感じよね」
露店が並ぶ通りを通ったが普通に買い物をする主婦達の笑い声も聞こえてくるし至って普通の街並だ。
「何処で情報収集する?」
「とりあえず宿を探しましょう、依頼主のガヴァナー子爵が何処に住んでいるかも調べる必要があるし」
適当に歩き酒場と隣接している宿を見つけることができた。
「いらっしゃいませ~」
受付にいる若い女性が声をかけて来る。
「今夜ここで泊まりたいのだが部屋は空いているか?」
「ええ、二人で銀貨十枚よ。同じ部屋でよろしいでしょうか?」
「ああ」
女性に案内され部屋へ向かう。
「チェックアウトは昼の十一時ですので連泊するときはそれまでにお願いしますね」
女性は営業スマイルで俺達の対応する。
「ねぇ、随分お客が少ないみたいだけど?」
「夕方になるとけっこうお客さんが来るんですよ~」
確かにまだ十五時ぐらいだが大きな生き物の気配を全く感じないあたり客が俺達だけなのは間違いない、見栄を張っているかと疑いたくなる。
「あらそれは失礼したわ、それとこの街最近悪い噂を聞くんだけどなんか知らない?」
「悪い噂ですか?特に聞きませんけど」
店員はとぼけているのか何の話ですか?みたいな表情だ。
「魔族を捕らえている収容所から寄声が響いてるって聞いたんだけど」
「ああ、あれはだいぶ前の話ですよ~今はそんな声は聞こえませんし」
へぇっ?だいぶ前?依頼を受けたのは今日なんだが……
「まてよ、あんた嘘を……」
立花は俺を制止させ話を続けた。
「あら、そうなのね~所でガヴァナー子爵という方のお屋敷を知らないかしら?昔世話になったから御礼を言いにきたのよ」
笑顔を崩さず続けた。
「ガヴァナー子爵ですか?子爵の屋敷ならここを出て右に真っすぐ行くと二つの別れ道があるのでそこを左に真っすぐ行くとつくわ」
「ありがとう~たびたびごめんなさいね~」
「いえいえ~楽しんでいってくださいね~」
店員とのやり取りを終え部屋に入ると立花は魔法を唱えた。
「サウンドアウト」
外部の音を遮断する魔法である、その範囲内の声や音はは外に漏れないし外の音は中には聞こえなくなるので盗聴防止になる。
「盗聴防止か?」
「ええ、怪し過ぎるもの」
さっきの店員とのやり取りは明らかに疑問が残る、アッシュが俺達を嵌めようとした線もありえなくはないが俺達の恐ろしさを知っているアッシュがそんなことをするのも考えにくい。
「ガヴァナー子爵が鍵だな」
「あとこの宿に泊まりにくる客も気になるわね、この街へ来るのをできる限り防ごうとする働きがされているのに余所からの旅行者が来るのもおかしい話だもの」
ラシュカリは辺境の地域なので隣接する大きな街はファウンドぐらいなのだ。
客が来るとしたらファウンド側だし逆はエルプス海だからそこから客が来るのは流石に考えにくい。
「全く……どうなってやがる……」
少し休息を取った後宿を出てガヴァナー子爵のあるお屋敷に向かった。
「静かな街だな~もっとこの街の情報聞いとくんだったな~」
「そうね、ただ昔からいわくつきの街ならアッシュは前もって教えていたと思うの」
騒動が起きたのがもっと前で依頼がギルドに届くまでに色々と邪魔が入った可能性がある、ただ依頼自体が罠の可能性だったりわざとこのタイミングで依頼したという線も考えられる。
何にせよ依頼主に会わないと結論は出せんな。
◇
ガヴァナー子爵の屋敷は店員に聞いた通りの場所にかまえてあった。
こないだの行った屋敷よりは大きさは劣るが品位を感じる建物であることは間違いない。
「何だ貴様らは?」
「ユリウス・ガヴァナー子爵に用があって来たんだが子爵はご在宅か?」
すると護衛の兵士達の表情は暗くなる。
「子爵様は半年前に亡くなったよ……」
「「えっ……」」
それを聞いた俺達は一瞬思考が固まってしまった。
何が起きたのか分からず世界が一瞬止まったようにも感じた……そんな一言だった。
今週もできる限りアップします。




