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ポチ太と大魔法使い(らしき人)

二話目です。こんな感じでサクサク進めていければいいなと思います。

「「「ご馳走様でした」」」

「…ご馳走様…」


シチューを食べ終わると、話題はやはり俺をどうするかになっていった。


「汚いからポイしなさい!!」

「ヤーーー!!!」

ドブネズミをハムスター扱いする子供に言い聞かせるように、少年は何度も辛抱強くドラゴンに言い聞かせるが、ドラゴンは少年の言葉に耳を貸さない。

まるで自分と同じサイズのテディベアを抱きしめるように俺を抱くドラゴン。

理解できない光景である。

いや、理解することを脳が拒んでいるのかもしれない。


「あのぅ…」

永遠に続くような言い合いに、コボルトが遠慮がちに言葉を挟んだ。

「どうしたタマ美」

「ミュート様はポチ太様が大変気に入られたようですし、とりあえず2人目のお手伝いさんとしてしばらく置いてみてはいかがかと思うのですが、どうでしょうか?ワタクシもこの広い根城を一人で掃除洗濯料理その他全部するのは大変でしたから、そうしていただけたら大変ありがたいんですけれども…」

花柄エプロンを着けたままのコボルトは、両手を口の前で組んで上目遣いに少年を見る。

「…………」

少年がコボルト、ドラゴン、そして俺を順番に見て、ため息をついた。

「ちゃんと役に立つように躾とけよ」

「やったーーー!!!兄貴ありがとーーー!!!」

万歳をしながら喜んだドラゴンは、少年の側まで飛ぶと頬に感謝のキスをする。

キスをされた少年は満更でもなさそうにしながらドラゴンの頭をなでると火にかけたままだったシチューの残りを持って別な部屋に移動していった。


「というわけでー!今日から家族だよおめでとーポチ太!!!!」

今度は背後からではなく真正面からドラゴンが俺を抱きしめる。

もはや俺の名前はポチ太ではないと言える雰囲気ではない。

ドラゴンの怪力に締め上げられ、息ができなくなり生命が怪しくなる手前ぐらいで開放される。

「はじめましてポチ太様。ワタクシはここでタマ美と呼ばれているコボルトでございます」

深々と頭を下げるタマ美と名乗ったコボルト…犬っぽいのにタマ。しかも男の子っぽいのにタマ美。

一瞬で自分と同じような境遇なのだろうと理解し、軽く頭を下げた。

「おれはねー!ミュート!兄貴はねーボーカル!」

満面の笑みでこちらに好意を向けるドラゴンなんて聞いたことがない。

聞いたことはないがここにいるのだからどうしようもない。

「ミュート…様」

「ミュートでいいよー!兄貴はわかんないけど、多分どうでも良いんじゃないかな?」

そういいながらミュートは俺の周りをクルクル回りながら飛ぶ。

「なにしてるん…だ?」

敬語を使おうかとも思ったのだが、呼び捨てで良いと言うくらいなのだから少し砕けた口調のほうが良いだろうと悩みながら言葉を紡ぐ。

「おれねー、人間近くで見るの初めてなんだ!兄貴がばっちいから近づくなっていつも言ってるからー!でもばっちくないね??変な臭いもしないし髪の毛キラキラで綺麗だし!ちょっともっさいけど!」

「もっさ…」

「だってー、せっかくきんきらで綺麗なのにもっさもさなんだもん!ちょっと切ったらー?」

「いや、これは…このままで良いんだ」

そういいながら長く伸びる髪の毛の中間辺りを纏めている布を握り締めた。

髪には、魔力が宿ると言われている。

腰まで伸びる金の髪は、妹と同じ色のはずなのになぜか俺にはくすんで見え、見るのもいやだった…しかし、落ちこぼれの俺のコツコツ積み重ねた努力の内の1つ「髪の毛を伸ばす」こと。


「ふーん?そっかー。コダワリなんだね。ってことはポチ太って職人さん?」

「何故そうなる」

「んー、じゃあねじゃあね…えーと…鳥使い!!!」

「だから何故!?というか本気で何で鳥使い!??」

「だって鳥って目玉が苦手なんでしょー?だから前髪も伸ばして目玉隠してるのかと思ったんだけどこれもハズレかー。でもポチ太前髪そんなに伸びてるのにメガネかけてて前見えてるの?」

「まぁ…スダレ状の前髪越しに多少は…」

そろそろ少しだけ切ろうかと思っていたタイミングだったので、後ろ髪だけでなく前髪も伸ばしたい放題のままだった。

「そーゆー器用なのはねー、タマ美も苦手じゃないけどレシピ姉ぇが得意だよ!」

「レシピ…?」

「あっ、今日は来てなかったっけ。レシピ姉ぇはね、手先が器用な魔法使いで裁縫も得意なんだよ!ケンキューとかも好きだから熱中しすぎてご飯食べに来なかったりするの!兄貴とレシピ姉ぇは仲良しだから兄貴がご飯もってくんだー」

「レシピって…500年前の偉大な大魔法使いレシピ様と同じ名前だな」

「うんー!本人だかんね!」

「うん…?レシピ様は男性だろう?それに戦死なされたはずだ。500年前に」

「うんー!そうだよ!でもねー。おれと兄貴がなんか色々したら甦って女の人になっちゃったの!」

「………うん?」

理解が追いつかず頭の上に?マークを浮かべる俺の肩をミュートがまた爪で掴み、パタパタと飛ぶ。

いってらっしゃいませーと手を振るタマ美が視界の端に消える。

その速度はあまり急いでいるわけでもなさそうなのにとんでもなく速い。

複雑な迷路のような石の洞窟をミュートはすべて記憶しているようで、迷うことなく目的地にたどり着いたようだった。

「兄貴ー!レシピ姉ぇー!入るよー!!」

そう言ったミュートは木の扉を呼吸の風圧で開けるとそのまま部屋の中に飛び込む。


「ミュートちゃん。いらっしゃい」

おっとりとした優しい声が俺たちを迎え入れた。

「いらしたー!」

少し勢いをつけすぎたミュートは、俺の肩を掴んだまま声の主の目の前ギリギリで止まった。

「あれ?新入りくん?」

こんにちはーとほのぼのした声の主の顔が見えない。

見えないというか…

「みひゅーほ、ふるひい」

なにかたゆたゆとした柔らかくて暖かいものに顔面が包まれている。

これはあれだ。その。なんというか。

「ミュートちゃん。ちょっと後ろに下がらないと、新入りくん窒息しちゃうよ?」

声の主は特に気にする風でもなく、自らのたわわな胸の谷間に食い込む俺を思いやってミュートに声をかけてくれた。

「あっ、ごめんー!」

掴まれていた肩が自由になり、同時に押し付けられていた顔面が開放される。

「く、苦しかった…」

少し咳き込みながら喉をさする俺を心配そうにミュートが覗き込む。

「大丈夫ー?ごめんね」

「ちょっと苦しかっただけだよね、新入り君。大丈夫だよミュートちゃん」

顔を上げると、そこには確かに伝説の魔法使いの肖像画に良く似た顔があった。

しかし。

しかし絶対に本人ではないわけで。

いやだってあの柔らかさで偽物ってことはないだろう。断じて。

「はじめまして新入り君。ボクはレシピ。君の名前は?」

「この子はねー、ポチ太!ねーポチ太!」

「いや、えっと、なんて言うか…そうらしいです」

一瞬かわいそうな子を見る目をしていたレシピさんだったが、すぐに笑顔を取り戻して話を続ける。

「そっか。ポチ太くんって言うんだ。よろしくね」

そう言いながら差し出された手を握り、握手をした。

「それじゃあ、ミュートちゃんは挨拶にポチ太くんを連れてきてくれたのかな?」

「あっ!そうだった!姉ぇ、ポチ太の前髪切ってあげて!もうナイアガラなのー!」

そう言いながらミュートは俺の前髪が揺れる程度の息を何度も吹きかけて遊び始める。

「なるほど。もちろんいいよー、ハサミどこにあったかな…」

そういいながらレシピさんは部屋の奥に入っていった。

「じゃあポチ太!後でね!」

ぶんぶんと手を振るミュートは俺が声をかける間もなくまた猛スピードで飛び去ってしまう。


ドラゴンの巣で伝説の魔法使い(らしき人)に前髪を切ってもらうらしい俺。


ここに来てからああ、世界って俺が思ってるよりずっと広かったんだなぁ。なんて思うようになった。

それが良いことなのか悪いことなのかはわからない。

でも自分の小さな世界が広がるのは悪いことではない気がする。

きっとそうだ。うん。いや、現実逃避なんかじゃなく。


そんな感慨に耽っていると、部屋の奥からレシピさんの「あったー!」という声が聞こえた。

「ポチ太くん、こっちおいでー、前髪切ってあげるよ」

そんな声をかけられて、俺は部屋の入り口から声のするほうへ歩む。


初めて入った大魔法使い(らしき人)の部屋は、春の花の香りがした。








できれば翌日~一週間以内に更新していくペースで投稿していければと思っています。

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