第6話 「タヌキの伝説」
よくわからないけどポンタは全力で走っていた。
(なんか久々に全力で走った気がするポン……)
さっきまでしていた人間の匂いが薄くなり、土の匂いが強くなってきてだんだん草や木の濃い匂いもしてきたのでポンタは何だか安心感が湧いてきた。
だがその時である。緑の匂いに混じり変な臭いがした……知らない臭い……
「……ポン?」不意に声が出たその瞬間、目の前に黒い何かが飛び出してポンタに体当たりしてきた!!
―――ッ!? ドフッ!!!
咄嗟に回避するが間に合わず吹き飛ばされ目を回す。なにが起こった? 自分はどうなった? ゆっくり視界が戻る……と、目の前には見たことのない大型な……何かがいた!!
まず顔が無い!! そして胴体に手足と口しかない毛むくじゃらの何か……ポンタは本能でコイツはヤバいと感じ取り、唸りながら失禁していた。
「ニチャァ……」それを見たそいつが多分笑ったのをポンタは見た、そしてその瞬間巨体が動いた。
逃げろ! 逃げろ! 逃げろ! 本能が警告を出す!! しかしポンタの身体は動かない!!! 全身ブルブル震え足元は聖水でビチャビチャ、もう彼は完全に腰が抜けてしまっていたのだ!!!
巨体がポンタに突っ込む――ドフンッ!! 「グゥポォ!?」巨体に体当たりされるポンタ。口いっぱいに血の味がする……
ああここで死んじゃうんだと思いママとパパの事を思い出す。ママは優しかった……ポンタが人間の食べものが食べたいと言ったら人里から残飯を持って来てくれた。コンビニで廃棄されたフライドチキンだ。ポンタはそれが好きだった、好きだったから……なんだっけ? よく思い出せない。
あとパパは何でも知っていた。食べものを見つける方法、肉食獣や人間の猟師から逃げる方法、そして……
昔から伝わるのタヌキの伝説のこと―――
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『ポンタや、おめーオラ達の先祖の話知ってらポンが?』
『ポン??? 知らねーポン!』
『……ポンだが、へばだば教えるポンじゃ、オラ達の先祖、実は空の上から来たポンだど』
『ンポ!?』
『今の人間達より科学使って故郷無くしてまって、ここさ来たポンだど。でもここ人間の世界だはんで、自分たちば退化させていまのタヌキの姿になって山でひっそり暮らし始めだポンだどよ』
『すげぇポン! とっちゃ話作るのうめぇポン! ポンポーン!!』
『……ポンタや、これホントの事だはんでちゃんと聞げポン。でな、平和に暮らしてったら事件起きたポンだど』
『なに起きたポン?』
『恐ろしい恐ろしい熊神様が出たポンだど――』
熊神様……パッパが言うには超巨大な熊的な何かで、そりゃもう強すぎて他の山の動物は敵わなずみんな食われてしまったらしい。
で、タヌキ達は最後の希望に祖先の血を濃く引いていると言われた一族最強の戦士に命運を託す。
その最強戦士は見事、熊神様を退治し山に平和が戻ったというおとぎ話な伝説。これ最後の方めっちゃ適当でパパに戦士は何で熊神様に勝てたのかって聞いても『わも良く分んねぇポンじゃ』だそうだ。そこ重要でしょパパン……
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(―――ポンタも……よくわかんないけど先祖の力……最強の力が欲しいポン……)そう思う。
ポンタの身体は巨体に蹂躙されボロボロでもう逃げることも抗うことも出来ない満身創痍だった。
――力が欲しい……目の前の敵をポンする力が……欲しい……ポンポン力が欲いポン……!!!!!!!!!
「ンンンッッポンポオオオオオオオオオオオンンンンン!!!!!」最後の力でポンタは叫んだ!!!!!!
――――その時!!!!
なんと微妙に奇跡が起きるのだった。