第1話 「転移」
「ここは……どこだポン……?」
ポンタは目が覚めると森の中にいた、昔ポンタパパとタケノコ採りしていた馴染みのある山とは違う西洋チックな森だった。
(わからない……ポンタは確かポンタの家のポンタのベッドで寝たぞ……どうなってるんだポン……)
寝る前の記憶を思い出そうとするタヌキのポンタ。彼は以前、山に住んでいたタヌキで退屈な山生活から脱走して人間の街に住み着き早数年、今ではすっかり人語を話し、人間社会に溶け込み人間とまったく同じ生活を送るタヌ人間となっていた。ダメな方に。
いつものように仕事を終えコンビニで大好物のカツサンドとモンスターなドリンクを購入し、自宅に帰った彼は疲れからか、そのまま自室のベッドに倒れ込み寝てしまい今に至る。
(よくわからんけど腹減ったしとりあえずカツサンド食いたい……カツサンド食わねばポン……)
立ち上がろうとすると、体の重さと金属が擦れる感触に我を疑った。
「つながれている……?」
ポンタは樹齢百年はあるであろう大樹と1本の太い鎖で1つになっていたのだった。
(どー考えても脱出不可能だポン……)
大樹は置いといてこのぶっとい鎖である。数時間格闘して分ったことは、マジこれとっても頑丈!
(60tクラスの戦車とか余裕で牽引出来ちゃいそうだポン)
もうポンタは疲れからか適当な事を考え始めたのだった。
何時間経っただろう、明るかった辺りも次第に薄暗くなってきてそろそろ夜が来そうな雰囲気を醸し出す西洋チックな森。西洋チックってなんなのよ!って言いたくなるだろうがポンタにとっては西洋チックなのである。
グ~グ~
「腹減ったポン、このままじゃよく分からんまま餓死するポン……」
カツサンドを食わなかった空腹と疲労でポンタのやる気がゼロになり両目を閉じたときである。
「ご主人様!!!」
え?
顔をあげるとランタンを持った人影が向かいの木の陰からこっちに走ってきた、猛スピードで。
「だれだポン! ポンタお前のこと知らないけど助けてポーン!」
自分の事をご主人様と呼ぶ者をポンタは知らないので反射的に相手に叫んだハラヘリポンタ、もうなりふり構っていられないのである。ポンタは腹が減っているだけなんだ……!
「かわいそうなご主人様! 今お助け致します!!」
ガッ!…ブチーンッ!!!!!
ポンタは見てしまった。自分の事をご主人様と呼ぶ英国風メイド姿の女性が、その女性らしい美しい御手で自分と大樹を固定しているぶっとい鎖を鷲掴みにし、ノーモーションで引きちぎった瞬間を……
(ま……まじやべえポ……ン……)
ポンタはショックと空腹のあまり、そこで気を失ってしまったのであった。