表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/60

外一話 妹、活躍

ダンジョン外からの視点でのお話です。

ダンジョン外は非常に忙しい事態になってます。


今日は三話更新しました。

2016年11月25日 東京 朝丸新聞社。


「今日の13時から厚生労働省が記者会見開くから!品川と釜石は早急に向かって!」

「「はい!」」


転移騒動から一夜あけた今日、朝丸新聞社はなお落ち着きを取り戻せずにいた。


「白岡と佐藤は、東京の周りの城壁に取材!田岡は……あー何でも良いわ!適当に取材してきて!」

「適当ってなんすか!?」

「その辺の異世界人に取材すれば充分記事になるわよ!早く行け!!」

「は、はい!!」


これほど忙しいのには理由がある。まず一つに、スクープが多すぎること。次に、職員の半分ほどが消えたため、人手が圧倒的に足りないことだ。


「記事は一面と四面に失踪事件!一面と、五面に『海の壁』!二面に……」


記事はすべて差し替えられ、全面が今回の騒動関連の記事が載ることになる。


「三つ目の号外できた!?さっさと配りに行くわよ!」

「すいません!配りにいく人員が居ません!」

「んぁああ!人手不足ぅ!」

「えーっと、ここまでする必要有るんですかね?」

「はあ!?あんた何言ってんの?」

「い、いや…交通機関も、ほかの企業も、政府もほとんど機能していませんし、我々も人手不足ですから……うちらだけ働く必要は無いんじゃないかなって……」

「おまえそれでも記者か!雑用からやり直せ!!」

「ふぇ!?」


指揮をしていた、眼鏡をかけた女性職員が、弱音を吐いた男性記者につめよる。


「どんな混乱であろうと、どんな騒動であろうと、それは記事の種なのよ!第四の権力(マスメディア)は不屈でなければならないの!わかった!?」

「は、はい!!」

「あのー、お取り込み中すみません。」


二人の諍いに、1人の女性記者が割り込んでくる。


糸目(・・)さん?どうしたの?」

「わたしも、取材に行っていいですか?」

「えっ!?」

「たしかー、警視庁には誰も取材にいってませんよねー。」


たしかに、人員不足で警視庁には誰にも送り込めていない。警視庁も日本人失踪事件の中心組織であるにも関わらず、だ。


「でも、あなたにはまとめ役をやってほしかったんだけど…」

「わたしは、現場で生きる人間ですよー。まとめ役なんて柄じゃないです。」

「あー、わかったわ。でも裂ける人員は貴方1人よ?ってか、あなたなら1人で大丈夫でしょ?」

「たぶん。」

「じゃ、さっさと行ってらっしゃい!」


その少女ともいえる、朝丸新聞記者のエース、糸目 明日香は、あわてる様子もなく、トテトテと走っていった。






「わー。やっぱりごった返してますねー。」


警視庁の入り口は、報道陣、テレビカメラや新聞記者が二十人ほど詰め寄っていた。

警備員が止めようとしているが、いつもよりも人数が少ない。


「やっぱり警備員も人員として割かれてるんですねー。」


その様子を遠めでみた糸目 明日香は、全く別の場所へトテトテ走っていく。


「あれじゃあ、有益な情報は得られないでしょうから。……警備がザルですね。簡単に侵入できちゃいます。」


そう言って明日香は、易々と警視庁本部の敷地内に侵入する。

物陰に隠れ、目をつむり、頭の中にマップを広げる。


「……あっちのダクトから、中に入れそうです。」


成人男性なら通れないようなダクトも、小柄な彼女なら問題ない。

埃で汚れるのにも気にした様子はなく、マスクだけつけて忍び込んだ。


「この騒動ですから、ちょっとばかし法に触れるのも見逃してくれるといいんですけど……。まあ切り札(・・・)も有りますし、心配しなくても良いですかね。」


そうつぶやいた後、彼女は一つため息をついた。


「我が友人も、なかなか無茶を言ってくれます。」





東京 警視庁本部 1124事件捜査本部


1124事件と名付けられた、昨日の事件の捜査本部は、警視庁本部ビル内に設置された。


「いいか!全員で捜索に当たれ、失踪した人間の名簿をできるだけ早く仕上げろ!」

「高木警部!『異世界人』はどうしますか!?」

「今はまだ構っている暇はない!行方不明者名簿完成後に当たる!」

「警部、『王都冒険者ギルドのギルドマスター』と名乗る、耳が長い青年が、面会を求めています!」

「それも後回しだ!明日会うと伝えろ!」


高木警部は騒々しい本部内で、怒号にも似た指示をとばす。

右目尻に傷跡のある威圧感のある顔と、その的確で先見のある仕事ぶりは、警視庁内からも裏の世界からも、一目置かれていた。


「全く!エルフのギルドマスターとか、どこのラノベだよ!」

「警部その顔でラノベとか読むんすか。」

「うるせぇな!!さっさと仕事につけ!」


今度こそ本当に怒号が飛び、職員はいっそう仕事の手を速めた。


本部内には何層にも重なった、電話のコール音が絶えず鳴り響いていた。

国民から寄せられる苦情などの対応もあるが、電話で行方不明者の確認を行っている面も大きい。

全国民、約1億2500万人一人一人に電話を片っ端から掛けているのである。気の遠くなるような作業量だ。

ゆえに、警視庁に所属する全人員が、己の課を無視して、捜索に当たっているのである。このような事態は、まさに空前絶後だ。


「警部!警視総監からの連絡です!」

「む、そういやさっきも呼ばれてたな、早めに行かねえと……………っと、その前に!」


高木警部は言葉を不意に切ると、天井に据え付けられている空調設備に、椅子を投げつけた。


「な!?」

「警部!?」

「うひゃあ!?」


驚く警官とは別に、空調の裏から少女のような可愛い悲鳴が聞こえた。


「なに盗み聞きしてんだ!さっさと降りてこい!」

「うー……。天井に隠れてる敵に気づくとか、いつの時代の侍ですか……。」


そう愚痴りながら天井の空調の蓋を外し、小柄な少女がスタッと降りてきた。


「じゃあ天井に潜んで盗み聞きしていたお前は忍者か?」

「はー、盗み聞きとは人聞き悪い。」

「何も間違ってねえだろうが、チビ。」

「むー!いい加減、糸目って呼んでください高木警部。明日香でも良いですよ?」

「呼ぶかバカやろう。」


おっとりとした口調で話す、糸目と自称した少女は、ミニスカートの下にジーンズをはき、パーカーを羽織ってベレー帽ににた帽子をかぶっていた。

肩に掛かる髪を横に二つに結ぶ、いわゆるツインテールであり、小柄な体と整った童顔によく似合っている。

首にはカメラを下げ、大きめの肩掛け鞄をかけている。

子どものような彼女は、高木警部と親しげに話していた。


その様子を見かねた一人が、高木警部にきいた。


「け、警部…。この子とは知り合いなんですか?」

「子供じゃないですよー。失礼ですね。ちゃんと成人してますよ。」

「え、うそん。」

「じゃ、なくてだな、こいつが何者か知りたいんだろ?」

「あ、はい。」

「ネズミだ」

「はあ?」

「ひどいですね。私はただの朝丸新聞記者ですよ。」

「ただの新聞記者はダクトから警視庁本部に侵入しない。つかどっから入ったんだ……。」


高木警部は眉間をおさえ、ため息をつく。


「知り合いなんですか?」

「一年前の事件で似たようなことがあってな。こいつに振り回された。」

「そんなー。ちゃんと推理して解決したじゃないですか。」

「おかげで現場をかき回されただろうが。どんだけ後始末大変だったと思う?」

「知ったこっちゃないです。」


高木警部は、またため息をつく。

そのため息の濃さに、当時の苦労が見て取れる。


「と、お前に構っている暇はないんだ。とりあえず、不法侵入に公務執行妨害、器物損害に窃盗な。拘束してつまみ出せ!」

「え?は、はい!」

「ま、まってくださいー。話、話だけでもー。」

「で、警視総監のとこに行きゃあいいんだな。」


高木警部は報告してきた部下に向き直る。


「いえ、忙しいなら来なくても良いとのことです。変わりに伝言を頼まれました。」

「伝言?」

「ええ。捜査の優先順位の変更です。内閣総理大臣から、内閣を構成する大臣の安否を、最優先に捜索しろとのことです。」

「ばかな!!」


怒号を放ったのは、横で聞いていた刑事だ。


「警察庁が内閣府の下部組織であるとはいえ、それは権力の乱用です!大臣で有ろうと無かろうと、この騒動の下、国民と対等に扱われるべきです!」


羽根刑事。最近刑事に昇格した、若年のホープだ。正義感が強すぎて、頭が堅いことが欠点だと言われている。


「いや、その方針で行こう。警視総監に……」

「警部!そのような馬鹿な指示に従わなくても構いません!」


羽根刑事は、国民の半分が消えるという事態に焦っていた。昨日から若干興奮気味であったのである。

正義感ゆえの発言であるが、余りにも罵倒に近い発言を、高木警部が注意しようとしたところに、明日香が口をはさんだ。


「まったく馬鹿ですよねー。」


高木警部は後ろを振り返ると、明日香をその強面で睨んだ。


「チビ。お前が『内閣叩き』の犬だってのは知ってるが、あんまり俺を怒らせるんじゃ……」

「ちがいますよー。私が『馬鹿』だと言ったのは、そこの刑事に向けてですよー。」

「何!?」


反論しようとした羽根刑事の口を押さえ、高木警部はよりいっそう少女を睨んだ。


(わかっているのか?やはりこいつただもんじゃねえ。何言い出す?)


「ちなみに、行方不明だとされている、山口産業大臣は、◯◯区◯ー◯◯番地の倉庫で監禁されてますよ?この騒動の便乗犯と言った所でしょうか。」

「ッ!!!!??」


突然の情報に、半分の職員は冗談だと、残りの半分はいまだに理解が追いついて居なかった。


だが、そのなかで高木警部だけは、その情報を吟味していた。


(情報は、おそらく本当だろう。こいつは冗談は言うが、つまらん嘘はつかない。だが、根拠のない情報で、人を動かすことも出来ないか。しかし、それより…)


「確かにそこはまだ捜査してねぇ。だが、なぜだ?何でお前がその情報を知っている?……今度はどんな手品使いやがった!?」


高木警部の真に迫る表情に、その場にいる人間は息をのんだ。


「手品の種を教えてやってもいいんですがー。」

「さっさと答えろ。それとも質問を変えた方がいいか?『何でその情報を、ただでよこした?何が目的だ。何を要求する?』」

「目的はー、話を聞いてもらうためですよ。このままだと成果無しに連行されるところだったので。」

「わかった。話とは何だ?」

「さっきの手品のタネ(・・)に絡む話なんですが……」


拘束をとかれた明日香は、高木警部に近づいて、笑顔をつくった。


「わたしと、取り引きしませんか?」

「取引だ?」

「ええ。わたしを、行方不明者の捜査に加えてください。」

「何をばかな!」


また叫んだ羽根刑事の口を押さえ、高木警部は続きを促す。


「それが、さっき産業大臣の場所を言い当てた、タネ(・・)につながるってのか?」


その高木警部の言葉に、聡明で冷静な何人かは、ハッとする。

先程目の前の少女が言った、産業大臣の居場所の情報が本当だとすると、警視庁が捜査で見つけられなかった人間を、見つけたということだ。

その方法と、この取引が、無関係なはずがない。


「その通りです。わたしなら、捜査に多大な貢献を出来ます。」

「その根拠は?さすがに一般人を、捜査に加えることはできない。」


明日香は、彼女の持つ切り札(ジョーカー)を切る。


能力(アビリティ)って、知ってますか?」



警察の事情とか、記者の職場とか知らないんで。適当です。



この話の続きは、二つ後くらいになりそうです。


兄とは違い、妹はやたらアクティブです。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ