第五話 現状を把握しよう。
すこし短めかもです。
「ふわぁ~……」
目が覚めた。大きなあくびをしながら、起きたばかりで寝ぼけている目をこする。
「む?知らない天井だ。」
俺の部屋はこんなにレンガレンガしてなかったはずだが……
っとああ。思い出した。昨日寝る前に、自室とは別に、寝室を作ったんだった。
なんでわざわざそんなことをするかって?
まあ、あれだよ。プライバシーってやつだ。
ずっとコアに観察された状態で寝たくはないだろう。
と言うわけで昨日、コアルーム拡張で、一辺三メートル程度の立方体の部屋を追加したわけだ。消費DPは27だ。
いつも作る部屋より小さいが、寝るだけなので問題ない。
DPの無駄だって?いや、いつか追加する物なのだから、いつ作ろうと関係ない。
さすがにベッドを移すのは無理があるかとも思ったが、レベルアップにより強化された身体能力により、案外簡単にできた。
コアには『それほど気にしなくてもいいのでは無いでしょうか。』と言われたが、コアと俺が、互いに利用し合っている関係なのだと、はっきりさせておく必要がある。
俺が引きこもり生活をするためにコアを利用し、コアは自身を守るために、俺を利用する。それだけの関係なのだ。
まあ、普段の会話が冷め切ったものである必要はないから、親しく話しているが、一定のプライバシーというのは欲しい。
これも、コアを一個人としてみている故なのだ、と言い聞かせて、納得してもらった。
しかしあいつは俺なんかの寝顔を見て面白いのだろうか。
『おはようございます。ご主人様。』
「ああ。おはよう。」
自室に戻るとすぐに、コアが挨拶してきた。
「で、結果はどうだった?」
そう、なにも寝ている間、コアを放っておいた訳ではない。
いや、放って置いたことに違いはないのだが、情報収集するように仕事をあたえたのだ。
『では、まず地脈からのDPの計測結果を報告します。地脈からは一日あたり、500DPの収入が得られました。』
「お!予想以上だな。」
初期ボーナスの半分が手には入るとは、かなり有益な情報だ。
『ここは地脈としてはかなり優秀なようです。私の知識にも、地脈で得られるDPはよくて200だとあります。』
「ふむ。そういえば、祖母がそんなこと言っていた気がするな。」
たしか、ここは龍脈の特異点となる場所だから、守らなければならないとか。
当時は聞き流していたが、本当に龍脈があったのかもしれない。
『それは興味深い話ですね。』
「ま、それはあとにしよう。次の報告を頼む。」
『わかりました。ゴブリンの一時間当たりのDP供給量ですが、これも5DPでした。』
「ふむ。」
どちらもレベル5だったはずだから、DP供給量にはレベルが関係しているのかもしれない。
『では、日本の現在の状況について、情報をまとめました。』
「ああ、頼む。」
こっちが本題だ。
昨日はずっと引きこもってダンジョンを弄っていたので、インターネットさえあまり開いていないのだ。圧倒的な情報不足である。
『まず、ゴブリンが全国的に発生した時、日本人の一部が、行方不明となっています。』
「なんだと!?」
『現在、警視庁、防衛省、厚生労働省が中心となり、総出で行方不明者の確認に当たっています。推測するに、約半分が失踪したかと。』
「半分が!?」
大問題だろ。国家の信用問題にも関わる事態となりそうだ。
『そして同時に、多くの不審者が確認されています。服装から判断するに、我々のいた世界の住民だと思われます。』
「ふーむ。」
『この事案とゴブリンの突然の発生に関係性があるのは確実でしょう。』
「だろうな。ということは、異世界転生じゃなく、逆転生?というよりかは、転移というべきか。」
『我々の世界の住民と魔法などの法則がこちらに。そしておそらく、日本人の半分が異世界に飛ばされたのだと推測します。』
「まあ、日本人の半分がどこへ行ったかはわかりようもないが、妥当な推理だと思うぞ。」
異世界「が」日本に転移してきた、か。これは大パニックが起こりそうだ。
「と、さっきから日本人といってるあたり、この異常事態は日本でしか起こっていないんだな?」
『その通りです。世界では現在確認されておりません。また、それにつながる話ですが、日本の排他的経済水域の周りに、魔法による障壁のようなものが確認されています。』
「なっ!!?」
『自衛隊海上保安部が調査しているようですが、今のところ穴は見つかっておりません。』
「船も通れないのか?」
『あらゆる物理現象を阻むようです。』
大問題だな。一番問題かもしれん。つまり、外国とのいっさいの交易路が断たれたということ。
日本という国にとっては、国家を揺るがす事態だ。
『魔物は日本中で発見され、特に都市より山や森に見られる傾向が強いとのことです。また、一部の都市や町の周りに、柵や石壁が出来たとか。』
「柵に石壁ねぇ。作ったんじゃないよな?」
『魔物発生と同時期に、いつの間にか作られていたようです。』
「んー、不思議なことも有るもんだ。」
それも異世界転移の影響か?ダンジョンコアが転移してきたのだから、ほかにもいろいろあるかもしれない。
『あと、これは私の感想なのですが……』
「ん?何だ?」
『あちらの世界に居たときより、モンスターが弱くなっているように思えます。』
「んっと、その知識はいつのだ?」
『およそ100年前のものです。』
「その100年間で魔物が弱体化した可能性は?」
『否定できません。ですからただの、感想です。』
まあたしかに、弱すぎるとは思う。
「ありきたりだが、あっちの世界に冒険者というのは存在するのか?」
『います。魔物退治や調査などは、彼らの仕事です。』
「だとしたら、やっぱり魔物は弱くなっているのかもな。昨日戦った感じだと、そんな職業がわざわざ成立するとは思えない。……そいつらも、こっちの世界に転移しているのか?」
『ええ。冒険者と思われる服装の人物が確認されています。』
「武器を持った人間が突然町中に現れるとか…、治安は大丈夫かねぇ。まあ、彼らから話を聞ければ僥倖だな。」
冒険者に魔物に魔法に……、ほんとにどこのラノベだよ。
『最後に気になることがあるのですが…』
「ん?」
『「ステータス」とは何でしょう?』
「は?」
それはどういう意味の質問だ?辞書的な意味を聞いているのか?
『いえ。検索結果に、「ステータスと念じれば、ステータス画面が出てくる」と言う話が多数見つかったので。』
は?
いやいやまてまて
「ステータスはそっちの世界のものじゃないのか!?」
『ええ。そんなものは知識に存在しません。というか、あるのですか?』
「あ、ああ。『ステータス』と念じれば見えるぞ?コアは見えないのか?」
『私は生物ではないので適用外なのでは?』
「レベルとか、HPとかの概念もない?」
『聞いたこともありません。』
まあ、これはゲームから来るものだから、あっちの世界に無いのも当然かもしれないが……
「100年間で、そういうシステムができた可能性は?」
『否定できません。が、たった100年間でそんなものが作られたとは思えません。』
……ステータスはあっちの世界にはない。レベルと言う概念もない。
無論、レベルと言う言葉はあっても、ステータスというシステムは、こちらの世界にはない。
日本の周りの障壁、転移、モンスターの弱体化……城壁……
考えられるのは、
『「第三者の介入?」』
そう、こっちの世界でも、あっちの世界でもない、「誰か」の介入。
「それなら、疑問点もあらから説明できるな。」
『城壁や柵ができたのは、急な魔物の発生で町が潰れないようにするため。』
「日本の周りの障壁も、そいつの仕業だろうな。だれも日本から逃がさないようにするためか。」
『レベルやステータスというシステムを作ったのは、日本人が異世界の法則に慣れるためでしょうか。』
「魔物が弱体化しているのも、日本人に慣れてもらうため…」
辻褄は合っている。合っているんだが……
「『そいつ』はそうとう遊び好きだな。まるでこの日本で起きた異常事態を楽しんでいるかのようだ。」
むしろ転移自体、そいつが起こしたと考えるのが自然か。
『まさに我々は手の平の上、テレビゲームの中って訳ですね。』
「まあ、どうしようもないさ。世界ごと転移させたり、障壁つくったりステータスシステムつくったりできるやつに、かなうわけがない。」
まあ人ではないよな。
困ったな。俺は神とか信じない性格なんだが……
「まあ踊ってやるさ。俺の家が壊されない限りはな。」
今回のあらすじ
外の状況がだんだんわかってきた。
次回予告
徐々にあかされる真相。
そんな中、コアルームに突然現れた黒服の男!
「残念だ。貴様らは知りすぎた。殺さなければならない。」
圧倒的な既視感!糸目は助かるのか!?
次回!「糸目、死す。」お楽しみに!