第三話 食糧問題
食糧、大切。
「はら…減った……」
失念していた。この引きこもり生活で、一番の問題を。
「食事を持ってきてくれる人がいない。」
床ドンしようにも、俺以外の家族はここにはいない。スーパーか何かで買おうにも、付近にはコンビニすらない。
一面畑だ。
しかもその畑はほとんど荒野に近い。捨てられた土地なのだ。
遠出をすれば、農家は無いこともないが、あいにく今は収穫時期ではない。
最初は密林か生協かに注文して、持ってきてもらおうと考えていた。
しかし、この混乱でどちらも機能していないのだ。
つまり現状差し迫った問題は、食糧問題である。
あいにく、冷蔵庫にはほとんど食事が入っていない。保存食もだ。
もともとある程度は貯蔵されていたのだが、帰ってから妹と二人で食い尽くしてしまった。
というかここまで気づかなかった俺もアホだよな。
今冷蔵庫に入っているのは、ゴブリンの死体のみである。
新鮮だが、あの肉は食いたくない。
が、背に腹は代えられないか!
「コア。ゴブリンに可食部はどれくらいある?」
『ゴブリンの肉は食用に適しません。固く、また臭く、食中毒を起こす可能性もあります。』
最終手段が、封じられた、だと!?
「そうだ!ダンジョンにモンスターを召喚すればいいじゃないか!」
そう。ダンジョンにはDPを消費して、モンスターを召喚するという機能がある。これで美味しい魔物を召喚すれば!
『では、召喚可能な魔物の一覧を表示します。』
召喚可能魔物
・ゴブリン 5
・ゾンビ 30
・スケルトン 50
・ゴースト 60
・レイス 150
・リッチ 300
・
・
・
「ほとんどアンデッド!!」
すごい、一覧みる限り、ゴブリン以外全部アンデットだ。
『そもそも「レンガのダンジョン」は、アンデッドのダンジョンですから。』
「そうだったのか!」
初耳だぜ。でも確かにしっくりくる。
右に表示されている数字は消費するDPだろう。
「てかゴブリン安っ!カスッ!」
5DPって!ゾンビの六分の一って!
余りにも不憫だろ。ゴブリン。
『……本来このダンジョンはアンデッドしか召喚できないはずですが……。なぜゴブリンが……。』
ふむ。表示のバグかもしれないな。
と、そんなことはどうでもいいのだ。
重要なのは、食べられるモンスターを召喚できないと言うことなのだ。
グゥ
「くそ、腹が……」
腹が減っては戦はできないと言うだろう。それと同じで、空腹状態でダンジョン作成など出来ようはずもないのだ。
『では、狩りに出てみてはいかがでしょうか?』
「狩り?」
『ええ。ツイッターで検索したところ、ゴブリンの他に、レッドボアやオークといった、食用となりうる魔物が確認されています。』
「ほう。だが、俺のレベルで大丈夫なのか?」
『レベル?……えーっと、1対1なら、弓矢を持てば狩れるのでは無いでしょうか。ご主人様は単独かつ素手でゴブリンを倒したようなので、油断しなければ倒せるかと。』
「そうか。ならさっさといこう。早く行こう。」
食べ物がないと今すぐ死ぬという訳ではない。
しかし、体力に余裕があってこその狩りだ。早いに越したことはない。
『とりあえず、何か武器を持ってみてはいかがでしょう。』
「武器?包丁とか?」
『いえ、宝箱をお使い下さい。』
なるほど宝箱か。
宝箱はDPで作り、ダンジョン内に設置することができる。
宝箱に何が入っているかは開けなければわからない。福袋のようなものだ。
しかし「防具の宝箱」や「宝石の宝箱」と言う風に、分野ごとに分かれている。
その中で、最下級の「武器の宝箱」を作ればいい。
10DPと、良心的な価格になっているので、DPが火の車になっている今もそれほど損害はない。
「よし、最下級の武器の宝箱を、コアルームに設置しよう。」
『了解しました。』
目の前に木箱が現れる。
宝箱と言われなければわからないほど、質素な木箱だ。
『箱を豪華にすることも出来ますが、余計にDPを食うので。』
そうか。まあレア度で箱の外装が変わったら、ハズレの意味がなくなるもんな。
とりあえず開けてみる。
ナイフが二本入ってる。何の装飾もない、鉄のナイフだ。
「ナイフなあ…。出来れば、リーチの長い武器が欲しかったんだが。」
『投げナイフとして使ってみては。』
「いやそんな経験無いし。」
剣術も習ったことはないが、ナイフ投げるよかましだろう。
「とりあえず、もう一回やってみよう。」
『わかりました。』
また木箱が現れたので、すぐ開ける。
「これは…斧か?」
『斧ですね。バトルアックスと言うには質素ですが。』
木を切り倒すのには便利そうだ。
まあぜいたくは言うまい。ナイフよりましだ。
なにより技術もないくせに、下手に剣を使うよりも、力任せに斧を振った方が効果的な気もする。
「よし!じゃあ行ってくるわ。」
『行ってらっしゃいませ。』
さて、家から出てきたは良いものの、どこに獲物は居るだろうか。
つか自宅警備員になったその日に外にでるとか。引きこもるために狩りというアクロバティックを侵さなければならない矛盾。
まあ今は置いておこう。
この平原(荒野)でちょうど良く見つかればいいのだが、見渡す限り目に付かない。
気は進まないが、裏山に入るしかなさそうだ。
森や林は、死角から襲撃される危険性をはらむが、背に腹は代えられん。
幸い子供の頃の遊んだ記憶で、この周辺の地理は把握している。
森で迷うことがないだけマシとしよう。
森の中を注意深く、ゆっくり歩く。
ちなみに俺は右手に斧を持ち、ベルトにナイフを差している。特に右手の斧は、すぐに対応できるようにしてなければならないな。
狙うのはレッドボアだ。つまり赤毛の大きめな猪。
少し肉が固いが、その分旨味が強いとのことだ。(ソースはコア)
オークも見つけたら倒す。
ただ、味は豚肉と同じだが、なにより人型なので、出来れば食べたくない。
さあレッドボアよ。はやく来い。いい加減腹の虫がうるさいのだ。
視界にとらえた瞬間、俺は音を立てずに茂みに身を隠す。
大本命、レッドボアさんです。
俺には気づかず、地面に落ちている木の実を食べている。
今から戦闘しようというのに、俺は非常に落ち着いていた。
ゴブリンの時は結構ビビってたはずなんだが…2度目の戦闘だからか、空腹が勝っているのか。
レッドボアはまだ俺に気づいた様子はない。
今のうちにナイフを投げるべきか?
しかし急所を外して、激昂して突進されたら一溜まりもない。
ならばこのまま突撃すべきか?
ただ、気づかれる前に攻撃できるか、微妙な距離だ。
せっかくの獲物を逃がしてしまう可能性もある。
そうなると……
俺はナイフを上に投げた。
放物線を描き、緩やかに、レッドボアから見て俺と反対側へ落ちる。
ナイフは枯れ葉に落ちて、乾いた音を鳴らした。
レッドボアはビクッとして、一瞬その方向に顔を向ける。
その隙だけで充分だ。
俺は茂みから飛び出し、最速で斧の攻撃範囲にはいる。
やはりレベルアップによって、多少身体能力が上がっているようだ。
レッドボアがこちらを振り向き身構えるが、遅い。
俺は高く振りかぶった斧を、体重と走った勢いを載せて、レッドボアの首に叩きつける。
「フガッ!?」
かなり深く刺さり、骨も折ったようだが、即死には至らなかったようだ。
姿勢を崩したレッドボアに馬乗りになり、斧からもう一本のナイフに持ち変えると、俺はそのナイフをレッドボアの喉に突き刺した。
ちょうど頸動脈を断ち切ったようで、レッドボアは弱々しくもがいた後に、動かなくなった。
うん。まともな戦闘は初めてだ。
結構上出来なんじゃないだろうか。
しかし俺は失念していたのだ。
動物が最も油断する時はいつか。
すなわち、獲物をしとめた瞬間である。
突然の左腕の激痛に顔をしかめる。
結構な衝撃を横から受け、俺は枯れ葉が敷かれた地面に倒れることになった。
あわてて立ち上がり、態勢を整えて、俺に攻撃しただろう相手をみる。
レッドボアだった。しかし幾分か小さい。
子供のようだ。恐らく、俺が先ほどしとめたレッドボアと親子なのだろう。
小さいせいで非常にすばしこい。
なんとか斧で対応するが、的が小さいので何回もど突かれてしまった。
子レッドボアを捕まえたとき、俺は身体中に痛みを感じていた。
まあ、今回の失敗は俺が原因だ。
幸い骨折もしてないようだし、この痛みは自分への戒めとしよう。
暴れる子レッドボアをベルトで縛った後、成体のレッドボアの死体に血抜きをして、担いで帰る。
今回の戦闘で2レベル上がったが、満身創痍だ。
こんな状態で、さらに魔物と遭遇するなんて真っ平ごめんだ。
フル警戒しながら、さっさと帰路についた。
今回のあらすじ
腹が減ったから猪を狩った。
次回予告
帰り道に突然現れた黒服の男。彼は静かに糸目に告げた。
「君は結局、ここで死ぬ運命なのだ。なんびたりとも、神の因果からは逃れられない。」
圧倒的な威圧感!レベル7でどうしろと?糸目は運命から逃れられるのか!?
次回!「糸目、死す。」お楽しみに!