表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界「が」転移してきたので、自宅ダンジョンに引きこもる  作者: さいとうさ
第四章 なんということでしょう迷宮都市
58/60

外十三話 とある勇者の前日譚

大昔の閑話の人

果たして覚えてる人はいるだろうか……


「よっこいしょ!」


 勇人のロングソードが、オークの頭をかち割る。それに怯えたもう一体のオークが、ブヒぃと悲鳴を上げながら森の中へ逃げていく。


「あ、しまった」


 勇人は慌てて追いかけようとするが、森の奥から断末魔が聞こえ、ほっと息をついてから足を止めた。

 ガサゴソの茂みが揺れ、森の奥から現れたのは獣の耳が頭にある少女、マホロであった。


「全く、勇人はすぐ油断するんですから……」

「ははは……ごめんごめん」

「そんなだから、未だにS級になれないんですよ」


 能力(アビリティ)聖剣(エクスカリバー)」を保有する青年、芦屋勇人。能力(アビリティ)を隠しながら町で冒険者稼業を行ってきた彼は、そのコツコツとした努力が街の人々に認められ、規模こそ小さいが有名人となっていた。冒険者ランクもAとなり、生活も軌道に乗っていた。


「いやいや、流石にS級はまだ早いよ。まだレベル60だし……」

「その上能力(アビリティ)持ちなのです。というか冒険者ギルドに能力(アビリティ)を公表すれば、すぐにでもS級になれますよ」


 マホロは、勇人が過小な評価を受けていることに日々憤慨していた。勿論今でも彼の評判はかなり良いのだが、マホロはそれでも妥当な評価だと考えていない。かつて彼女を助けた勇人の光り輝く聖剣(エクスカリバー)は、まさに英雄の持つ剣であったからだ。


「ほらでもやっぱり、異世界人である君たちにとっては聖剣って、きっと大切なものだろうからさ、僕のはあくまで能力(アビリティ)だし」

「そんなことありません! あの剣は確実に、かつて魔王を倒したと言われる英雄の持つ剣でした!」

「うーん……」


 マホロの熱意に、勇人は苦笑する。彼に英雄願望が無いわけではない。ただ、その剣で何かを為して、それをもって英雄と呼ばれるならともかく、突然与えられた能力(アビリティ)で讃えられるのは、彼の本意ではなかった。なにより、異世界で実際に事を成した英雄の栄華を横取りしてしまうようで、気が引けたのである。


「……それに僕は、聖剣を隠したいから能力(アビリティ)を隠しているわけじゃないんだよね」

「? どうしてなのですか?」

「だってほら、マホロも言ったじゃないか。能力(アビリティ)を公表すればS級に上がれるって。でもそれって、多分僕だけの話でしょ?」


 勇人は照れくさそうに頬をかく。


「最悪パーティを解散することになるかもしれない。でも僕は、折角だから、マホロと一緒にS級に上がりたいなって……」

「あ……」

「今までずっと一緒にやってきた訳だしさ。それに……」

「そ、それに?」


 森の中、二人は顔を赤くして硬直する。

 しばらくして、遠くの方からモンスターの唸り声が聞こえたきた。


「あ、ほら、あっちにモンスターが居るみたいだ。行こう!」

「え、ちょっと、勇人!?」


 駆け足で向かう勇人を、マホロは追いかけていった。






「サキュバス? 珍しいですね」

「そうなの、しかもダンジョン内とかならともかく、町中なんて……」


 討伐を終え、勇人は街の冒険者ギルドに帰ってきていた。そこで、親しくしているギルド職員から、少し離れた街の話を聞いたのだ。


「被害を抑えようとしているみたいなんだけど、どうも人手が足りないみたいで……」

「大きい街ですよね? 人手が足りないってことがあるんですか?」

「丁度その街のS級冒険者パーティが、富士樹海のダンジョンに駆り出されていてね」


 その話は勇人も聞いていたため、合点がいった。紅花香澄率いるS級冒険者パーティ「華園」は有名である。S級冒険者唯一の日本人リーダーであり、かつメンバーが全て女性で構成されているという特異なパーティだ。

 その「華園」は、現在富士樹海のダンジョンに、同じS級パーティ「白龍の尾」と本格討伐に向かっているのだ。


「まあ、多分大丈夫だとは思うんだけど……知り合いがいるから心配なのよね」

「良かったら僕が様子を見てきましょうか?」

「え!? いいの?」


 不安げに聞く女性職員に、勇人は快くうなずく。


「討伐は難しいかもしれませんが、様子を見に行くくらいなら全然大丈夫です」

「良かったわ……なんだか私が誘導したみたいで悪いわね。そんなつもり無かったのに」

「誘導してくれて全然構いませんよ。僕だって助けになれれば嬉しいですし」

「……うん、ありがとうございます」


 女性職員は深々と腰を折った。勇人がなにか言葉をかける前に、マホロが彼の腰に飛びついた。


「だめです!」

「なんで!?」

「勇人は女好きだから、サキュバス誘惑に簡単に引っかかっちゃいます! だからだめです!」

「お、女好き!? なんでそんな……」


 慌てる勇人に対し、マホロは女性職員を指差す。


「毎日毎日この(ひと)とお喋りしてます! それが証拠です!」

「いやそれは、たまたま話が合ったからで……」

「そうですよマホロ様。私はそんなつもりはありませんから」


 そう言いながら、女性職員は手を口に当てて微笑む。


「ほら見てくださいあの色欲に溢れた顔!」

「マホロ!?」

「きっとこの(ひと)は悪魔です! 勇人は騙されているんです!」

「そんなことないし失礼だし、なにより話がズレてる……!」


 キシャーッと毛を逆立てて女性職員を威嚇するマホロを、勇人はなだめる。


「分かったよ……じゃあマホロも一緒に行こう。僕が誘惑されそうになったら止めてくれればいいから」

「いっしょに行くのは当然です! おいていってもついていきますから!」

「おいていったりしないって……」


 勇人は困ったように顎に手を当て、思いついた。


「じゃあついでに近いから、舞浜にいこう。テーマパークのダンジョンだけど、浅い階層なら楽しめるらしいし」

「……なるほど。デートですね」

「まあ……そうなるかな」


 マホロは目を輝かせ、今度は勇人の腕をグイグイと引っ張った。


「デートのついでに情報収集ということで! そうと決まればすぐ行きましょう!」

「ちょっと待って! 色々と準備することあるから……!」


 そのままギルドの外まで引きずられていく勇人。そんな二人を見て、女性職員はにやける。


「仲がいいですね〜」


 彼女はNLのCP厨であった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] カップルポイント53万、素晴らしい
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ