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異世界「が」転移してきたので、自宅ダンジョンに引きこもる  作者: さいとうさ
第四章 なんということでしょう迷宮都市
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第三十二話 奴が来た



 太陽光を浴びながら、手を広げ背を反らす。大きい深呼吸と共に体を一伸び。目を開ければ、天高き青。


「うむ。……本日も晴天なり」

『疑似青空ですからね』


 コアが水を差してくる。


「おい。不粋だぞ」

『申し訳ございませんご主人様(マスター)


 いや、確かにここはダンジョン内の農場だから、擬似的に再現された青空は常にどこまでいっても青空だ。


「実際に外は晴天だろう?」

『モニターから見た限りはそうですね』

「あとネットの天気予報でもそうだった」

『実際に外に出てやったほうがいいのでは?』

「いやだよ寒い」


 2月なのだ。寒いのだお外。


 12月、1月と、異世界騒動に乗じて社畜生活から抜け出した俺は、異世界騒動にも関わらず尚社畜生活送ってる奴らを内心で散々煽ってきた。年末に忙しい忙しいと忙殺される彼らの呟きを眺めては指を差して笑い、年始の休み明けに怨嗟の声を上げる彼らの呟きと指を差して笑い、年末年始休みがなかった奴らには流石に同情して慰めのリプを送った。


 2月3日は節分であった。とりあえず豆撒きを決行。第二次コア糸目大戦勃発である。大豆の豆鉄砲(音速超え)を撃ってくるコア率いるロボ軍団相手に逃げ回る俺(鬼)という構図。俺の勝ちだった。大豆はダンジョン産である。

 え? 鬼が勝って良いのかって? 俺の家だから良いのだ。鬼は外? 俺は引きこもりだ意地でも外には出ないのだ。大豆は美味しく頂きました。冒険者達が。粉砕してきな粉みたいになってたけど。

 なおルドルフは危機を察知したのか不参加だった。チッ。まさか日本の行事をネットで調べまくってたのは逃げるためか。小癪な。


 そんな日々も過ぎ去り、取り敢えず通常に戻った2月11日。極寒である。

 外に出れば白い息。冷え切った風が肌を突き刺してくる。霜柱を踏めば上に乗れるほどだ。

 確かに晴天で日光こそ暖かいが、あんなもの劣化版ストーブだ。空気を暖めもしてくれない。地球の暖房仕事して。

 ということで絶賛ヒキニートの俺は家の中でぬくぬく生活である。


「さてトレーニングも終わったし、日光浴もしたし」

『疑似ですが』

「しつこいぜコア」

『申し訳ありません』

「よろしい許す。で、コアよ。今日のこれからの俺の予定は?」

『これからはゲームの時間ですね。無制限です』

「やったぜ」

『……これ聞く必要ありましたか』


 何をいうか。俺にとっては大事な予定だ。


「さて、やってないゲームはあったかな」

『最近ルドルフが新作を幾つか買ってきてましたね』

「お、ナイスだルドルフ。後で高めの猫缶をやることにしよう」

『「そんなんより酒だ!」と言いそうですね』


 ありありと目に浮かぶ。


「んじゃ、早速そのゲームをゆっくりと……」


──ピンポーン


「『ピンポーン?』」


 どこからかインターホンのような音がした。異世界が転移してくる前は耳慣れた物だったが、最近は全く聞かない。

 しかし、一体何の音だ。コアが発する音声や警報って感じじゃない。それだったら俺が把握してるはずだし。こんなインターホンみたいな音は……

 ん? インターホン?


「あー……インターホンかぁ」

『ありましたねそういえば』


 このダンジョン、地上部分の外見は実家そのままなのだ。多少レンガが装飾に入っていたりしてるが。空龍に一度破壊されたが、その後ちゃんと修復している。

 家の形のままダンジョンにする意味はあるのか、とルドルフに問われたことがある。確かに四角い適当なレンガの入り口のほうが楽だし、「ダンジョン」って感じがする。

 だが違うのだ。このダンジョンはダンジョンである前に俺の家なのだ。そこ重要ね。そこはもう立派にご近所さんに対して顔の役目を果たしてほしい。

 そこで、インターホンがいるかどうかの話になった。もはやインターホンは機能していない。玄関扉に鍵がかかっていないから、ダンジョンに入る冒険者は皆普通にドアを開けて入ってくる。そもインターホンの存在に気づいていない冒険者が大多数だろう。俺たちだって存在忘れてたし。

 ただまぁ、一応家であるからインターホンもつけておこうという事になったのだ。


「オーケー、コア。ちょっと玄関先の様子をモニターで見せてくれ」

『了解ですご主人様(マスター)


 ダンジョンに入るのに、バカ正直にインターホンを押した冒険者は、どこの酔狂だろうか。確認してみたくなった。

 コアロボットに設置されているモニターに、玄関の様子が映る。構図といい場所といい、本当に監視カメラみたいだ。


 そこに写っていたのは男女四人組のパーティーだった。男二人女二人の構成。

 その中の一人に、俺の妹である糸目 明日香がいた。男二人のうち片方は知らないが、もう片方は前回妹が来たときに、隣にいたやつだった気がする。

 妹が来たことにも驚きだが、何よりも……


『金澤瑠衣? 何故有名女優がここに?』

「アイツ……」


 俺とコアが少し理由で驚いていると、彼等の会話がモニターから聞こえてきた。



『金澤さん!? 何やってるんですか!?』

『え? なにか問題かしら、刑事さん』

『インターホン押さなくても入れるみたいですよー、このダンジョンー』

『音に反応してモンスターが集まってくるかもしれない。これだから素人の護衛というのは……』

『失礼ね。素人じゃないわよ』

『ならなお悪い』

『向井。流石に口が過ぎる』

『すみません』

『しかし、金澤さん。向井の言うことも正しいです。私達が先行しますから』

『このバカ(羽根刑事)でも、ダンジョンでインターホン押したりしないんですよー』

『でも、インターホン押さなかったら不法侵入じゃない』

『不法侵入って……ここはダンジョンだぞ?』

『ダンジョンの前に隆司様の家よ』

『あー、こうなったらもう聞かないですよー。瑠衣はー』

『わかりましたわかりました。とにかく、これから先は我々が先行しますから、金澤さんは後ろで……』

『さっきから素人だの後ろだの、私は前衛だって言ってるでしょう。今まで何もしてなかったわけじゃないわ。まるで私が弱いみたいな言い方止めてくれるかしら』

『いやそういうことでなく……』




ご主人様(マスター)、お知り合いですか?』

「あー、知り合いというか、幼馴染というか、腐れ縁というか、ファンというかストーカーというか……」

『……おかしいですね。私はスーパーコンピュータの筈なのですが、仰っていることがよく分かりません……エラーでしょうか』

「いや、大丈夫だ。正常だ」


 なんで瑠衣がここに……いや、明日香が教えたのか。

 いやそれにしたって来るか? ダンジョンになってんだぞ? 普通だったらあっちに飛ばされたか、もう死んでるかって思うだろ。

 大体、あいつは体力はあるが、身体能力は高いほうじゃない。冒険者なんてできるタイプだろうか。


『金澤瑠衣と言えば、冒険者であることも有名でしたね。最初はそのための取材か何かかと思いましたが』

「え……なにそれ」

『ご存知ないのですか? 日曜日朝の冠番組ですよ。「金澤瑠衣の冒険ぶらり」』


 なにその旅番組みたいな緩さ。


「朝はニュース見てるし、あいつの出る番組は意識的に避けてたからな……」

『知人の出る番組は見そうなものですが』

「いや、なんというか恥ずかしくてな」


 よく本性隠してるなっていう。


 コアが首を傾げ(比喩)、俺が頭を抱えている(現実)間に、四人組の口論は瑠衣を中心に激しくなっていった。


「……開けてやれ。確か玄関扉って、こっちで操作して開閉できるだろ」

『可能ですが……宜しいのですか?』

「まあ、インターホン押したし、開けるのが礼儀かなぁと……」


 んー、本当は居留守使いたいけど、どうせアイツのことだからズカズカ入ってくるだろうし。もしかしたら何か要件があるのかもしれない……。

 本当は! 知らんぷりしたいけど! 仕方なく!


『では、開けます』


 コアの操作でドアが開く。

 と同時に、四人組の口論が止んだ。



『開いた』

『……開いたな』

『開きましたねー』

『ほら、私の言った通りじゃない』


 偉そうに言う瑠衣。

 仕方なく。仕方なくだからな?


『さあ行きましょう。私に続きなさい!』

『ば! っだから、私達が先行しますと……!』

『羽根ー。もう言っても無駄ですってー』

『はぁ、たまたまだろ……』


 尚もグダグダの四人組。こんなチームワークで大丈夫か?

 まあ、これなら下層以下には来れなさそうだし、会う心配もしなくて良さそうかな。少しホッとした。 


『今ので隆司様がここに居ると確信したわ! 待っていて下さい隆司様! 隆司様隆司様隆司様隆司様隆司様隆司様……』

『ひぇっ……』

『心配しなくていいですー。ただの発作ですー』

『発作て』


 ……前言撤回。怖い。来ないで。



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[良い点] 最高級の贅沢、隆司様ガソリンを浴びた古参ファンの雄叫び
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