第二話 糸目、お前は最強の自宅警備員となるのだ!
説明アンド説明回。
『つまりですね……』
パソコンが合成音声で説明する。
簡単に要約しよう。
彼(彼女?)はダンジョンコアである。
何が起こったかは分からないが、気が付いたらここに来ていたらしい。
ダンジョンコアとは、ダンジョンを作るための技術とデータの塊であり、魂はあれど、容量のほとんどがデータなので、本来思考することはできない。
ダンジョンコアは、近くに演算回路をもったもの(だいたいの場合、魔物や人間)があると融合し、そのものをダンジョンマスターとする。
ダンジョンマスターはダンジョンをつくる力をもち、ダンジョンを統括する者らしい。
では、今回は何が起きたのか。
簡単だ。パソコンが演算回路と認識され、ダンジョンコアがパソコンと融合したのだ。
おかげで最適化されたダンジョンコアは、容量に余分ができて、今のように話せるようになったわけだ。
「ちなみに人間に融合するとどうなるんだ?」
『融合時の情報過多のため、人格に問題が生じたり、あるいは廃人となります。』
「こわっ!」
つまり、ここにパソコンが無ければ、俺は変人か廃人となっていた訳である。迷惑な話だ。
「で、なんで俺がダンジョンマスターになるんだ?融合したのがパソコンなら、ダンジョンマスターはパソコンじゃないのか?」
『パソコンに意志はありません。そしてあなたと喋っている私はあくまでダンジョンコアです。』
「ふむ。しかし俺がダンジョンマスターとなる理由にはなり得なくないか?」
『そうですが、なによりダンジョンコアが無生物と融合した前例がありません。そしてこの演算回路はご主人様の所有物ですので、ご主人様がダンジョンマスターとなるのは当然かと。』
「おいおい勝手な事いうなよ。勝手に現れて何が『当然』だ?こっちはただ迷惑被ってるだけだぜ?」
『……そうですね。プログラムとして組み込まれているので、当然と考えていましたが、思考する能力を得た今では、押し付けがましいと感じています。』
「だろうな。事実そっちの都合押しつけてるだけだし。まあ廃人となった哀れな前例よかだいぶましだが。ちなみに断れるのか?」
『……こちらにあなたの意志を強制する力はありません。』
「じゃあ面倒だし、断るわ。俺はスローライフ送りたいだけだし。」
あっさり断ると、ダンジョンコアがあわてて止めた。
『そ、そんな!待って下さい!あなたに出て行かれたら私はどうすれば……!お願いします!このダンジョンの主になってください!』
「そういわれてもなぁ。お前がダンジョンマスターになることはできないの?」
『ダンジョンコア自体がダンジョンマスターになることはプログラムで禁じられているのです……。』
「うーむ…しかしなぁ。ダンジョンマスターになって、ダンジョンをつくって侵入者から防衛して……」
いや待て、これは究極のひきこもりニート生活を実現出来るのではないか?
ダンジョンマスターとなって、この部屋から出ずにダンジョンを運営する。そして侵入者という邪魔者が存在するなら排除すればいい。
究極の自宅警備員だ。最高のヒキニート生活だ。
なんせダンジョンをちょっといじったら、ゲームでもしたり寝たりして過ごせばいいのだ。まさにかのブラック社畜とは対局の生活……素晴らしい。
「よしわかった! 俺がダンジョンマスターとなってやる!」
『あ、ありがとうございます!この私、全力でご主人様をサポートさせていただきます。』
「ああ。頼むぞ。」
『ダンジョンマスターとして登録されました』
頭の中にアナウンスが鳴り響く。レベルアップの時と同じだ。
「ステータス」
Lv.5 糸目 隆司 人間
称号 ダンジョンマスター
HP 53/55
MP 83/83
うむ。しっかり登録されたようだ。
結果オーライ万事オッケー。
最強の自宅警備員に、俺はなる!!
「で、今更だが、ダンジョンの作り方とかはどうなっているんだ?」
そう。本来、情報の塊であるダンジョンコアと融合することで、ダンジョンマスターとしての必要な情報を手に入れるのだが、俺の場合はそうはいかない。俺は今、ダンジョン運営方法のかけらも知らない、タダの一般人なのだ。
ダンジョンマスターとして登録されることで、何か変わるかと思ったが、特にそんなことはなかった。
『それは、口頭で伝えるのもなんですので、こちらで「ヘルプ」としてまとめてあります。』
「そんなこともできるのか?」
『ええ。この演算回路のデータも全て掌握していますので、こちらの価値観に合わせた形で提供できます。』
とりあえずパソコンのディスプレイに映っている画面を覗く。
おお。
かなりわかりやすくまとめられている。このダンジョンコアは仕事ができる奴のようだ。
ヘルプを見ながら、俺はダンジョンコアに聞く。
「そういえば、お前に名前って有るのか?いつまでも『お前』とかだと、何かと面倒くさいんだが。」
『名前のような物は存在しませんね。』
「そうか…。なら、何か名付けるか。」
『そ、そんな!恐れ多い!わざわざご主人様に手間を取らせる訳には行きません!』
「そういわれてもなぁ。」
『……わかりました。それでは、私のことは「コア」と呼んで下さい。』
「安直だな。それでいいのか?」
『ええ。私はこれで十分です。』
ま、まぁ、本人が満足していれば良いんだがな。
「わかった。これからよろしくな。コア」
『はい。ご主人様!』
コアが嬉しそうに声(合成音声)をあげる。
ところでコアって、性別で言えばどちらなんだろうか。
しゃべり方と言い、一人称といい、俺はどちらかというと女性に近いのではないかと思っている。
合成音声のキーも少し高めだし。
というかこのノリで女性じゃなかったら、少し引くわ。
まあ性別の概念がない可能性も、なきにしもあらずだが。
しかし女性だとすると、少し生活しづらくなるな。プライベート的な点でっ……て……
「なあ、コア…」
『はい?』
「お前、パソコン内のデータを全て掌握しているって言ったか?」
『ええ。その通りです。』
「お前、あまりファイルの中身のぞくなよ?一見普通のタイトルでも、それはプライバシーに反するからな?」
『あ、そうですね。では「冬休み課題」という名前の、女性の裸体が多数有るファイルに関しては黙っ……』
「おい。おいやめろ」
『問題有りません。私はこれをさらけ出すことはいたしませんよ?』
「そうか。いいか?お前は何も見ていない。そうだな?」
『しかしご主人様はなかなか過激ですね。インターネットで検索した結果よりも幾分か』
「うるさいな!それは高校生の時のだからだ!つーか何検索してんだ!!」
畜生、プライバシーもへったくれもありゃしない!
さて、全部はまだ把握していないが、とりあえずやってみよう。
本来ダンジョン魔法という物を使うわけだが、これが非常に複雑な魔法なのだ。
こいつの術式が、ダンジョンコアの情報のほとんどなのだから。
しかし俺の場合は、そのややこしい術式をコアが代替わりしてくれるわけだ。俺はパソコンを弄るだけで良い。
まず、ダンジョン作成に必要な手段は、領域の確保だ。ダンジョンの範囲を設定する。
とりあえずここを中心に、125立法キロメートルを領域とする。
これで125DP消費。
DPとは、ダンジョン作成に必要な魔力のようなものらしい。
初期ボーナスで1000DP貰ってるので、残りは875DP。
んじゃ、部屋を作りますか。
まず俺の部屋の真下に、一つ部屋をつくろう。
ここから下へ潜る階段と、廊下と部屋で、175DP消費。
残り700DP。
するとガコンという音と共に、下へ続く階段が、俺の部屋に現れた。
確認のためその階段を降りていく。
ちなみにコアは、俺のスマホの中だ。
そんなこともできるのか。モバイルコアか。
ついでにコアに、企業からの電話とメールの嵐をさばいてもらってる。ありがたい。
赤茶色の薄汚れたレンガでできたトンネルの先に、五メートル立方ほどの部屋があった。これも壁がレンガで覆われている。
「おお、ほんとにダンジョンできるんだな。今の今まで半信半疑だったわ。」
『失礼じゃないですか!?』
そりゃあこんなファンタジー、誰が信じるってんだ。
コアと会う前にゴブリン倒してなきゃ、ウイルスに感染したかと思ってパソコンを修理に出していたさ。
帰還。
出来た部屋がレンガで出来ていたと思うが、これはダンジョンの「印」というものらしい。
そこがダンジョンであるという証拠。つまり、このレンガで出来た部屋が、俺たちのダンジョンであるということだ。
ちなみにこの「印」というのは、ダンジョンごとに違っている。
例えば洞窟型ダンジョンだったら、壁に緑の宝石が有るとか。
そしてこの「印」がダンジョンの特徴であり、名前なのだ。俺たちのダンジョンは、「レンガのダンジョン」というわけだ。
この、ザ・迷宮って感じのデザインは、俺は結構気に入っている。
では、今居る俺の自室はどうなのか。
実は、領域の設定をしたとき、内装が少し変わった。といっても、部屋の隅が少しレンガに変わっただけだ。
思うに、この「印」というのは結構アバウトなんだと思う。
レンガの上に土壁を作ってカモフラージュも出来そうだ。
ダンジョンコアが破壊されたとき、ダンジョンマスターは死に、このダンジョンも停止する事になる。
すなわち、このパソコンが壊れたら、俺も死ぬことになるのだ。パソコン命(比喩じゃない。)
ほかのダンジョンでは、ダンジョンコアとダンジョンマスターが同化しているので、ダンジョンマスターを殺し、分離したダンジョンコアを破壊する、と言う流れになる。
そして、ダンジョン攻略とは基本的に、ダンジョンコアの破壊か、保管である。
ま、とにかくこのパソコンと、この部屋を死ぬ気で守れと言うことだ。必然的に、この部屋、コアルームを最深部にもっていく必要がある。
コアルームの移動はできるのか、と聞いたところ、DPを消費してできる、との答えが返ってきた。
コアルームの移動は距離に関わらず、125DP消費。
試しにやってみると、数秒間、ゴゴゴゴと揺れた。
揺れが収まってから、自室を見ると、下へ続く階段がなくなり、変わりに廊下ができている。
上に、先ほどのレンガの部屋を確認した。
その部屋から外に出ると、外装は愛しの我が家のままである。
一部レンガになっているだけだ。
どうやら内装が交換されたようだ。
帰還。
思うに、距離に関わらず、一回の移動にDPを消費するなら、いくらかダンジョンを成長させてから、移動した方がいい気がする。
まさか、この家を見て「ダンジョンだ!」とかいって攻略する奴はいないと思う。ぱっと見タダの家で、ダンジョンには見えそうもない。わからないだろ。
わからないよね?
実は魔力がダダ漏れで、ばればれなんてことはないよね。
コアに聞いてみると、心配ないとの答えが返ってきた。
『ダンジョンの魔力はダンジョンの中でのみ循環するため、外に漏れる事はありません。』
とのことだ。
ひとまず安心。
今回のあらすじ
よし!俺がダンジョンマスターになってやる!
と言うわけで、部屋を一つ作りました。
次回予告
コアと喧嘩してしまった!怒ったコアは、俺の秘蔵ファイルをメールでばらまいてやると脅してくる!
やめろまじでやめろ。
糸目は社会的に生き残れるのか!?
次回!「糸目、死す。」お楽しみに!