第一話 怒涛の展開
はじまるぜ。
俺、糸目 隆司(26)は、所謂ブラック企業というもので働いている。
もうここまで休みなしで働いていると、ニート生活が羨ましい。プライド?そんなものはもともとない。
約二週間前に、唯一の親だった母親の死亡の報が届いた。
交通事故だったらしい。
入社後初めて、まとまった休みをごり押しでとった。
田舎の実家に戻って、妹が遅れてくるため1人でもろもろの手続きをし、妹と身内とで小さな葬式をしたばかりだ。
その後、遺産相続をしていたとき、田舎の、昔長らく住んでいたこの家を売るかという話になった。
最初は売る方向で動いていたが、俺の気が変わって、手元に残してもらった。
妹も記者の仕事で忙しいし、俺も東京で居を構えている。全く持っている必要は無いんだ。
ただ、幾らかの金と共に遺書が残されていた。
交通事故なのに遺書とは?と思った訳だが、「もう歳だから、いつでも安心して逝けるように、遺しておかなきゃ」と常々言っていたことを思い出した。
当時は心配しすぎだと、笑って流していたが、今回はそれが幸いしたということだろう。
このへんの性格が、田舎住まいのくせに、女手一つで二人の子供を育て、その上貯蓄までつくった才覚かもしれない。
とりあえず、その残された遺書に俺宛に、働きすぎだから、少し休みなさい、なんてかかれていたのでしょうがない。
もう働きづめで、気が参っていたんだ。休み取った日数超えてなお、この実家で俺はゆっくりしている。
まあ、やけってやつだ。
どうせ首になるだろうし、そのときは母が残してくれた金で、もう少しまともな転職先でも見つけよう。
妹は仕事のため、さっさと家に帰った。
そのため、この家には俺1人だ。1人でのんびりスローライフなう。
この家の周りは、なぜか他の家がほとんどないので、とても静かだ。ここ数年でこれほど静かな気分になれたのは初めてだ。
今日は2016年11月24日。
この家でスローライフを初めて、五日になる。
いつまでも家にいるわけにはいかんと、俺は庭に出て、寝っ転がってぼおっとしていた。
とつぜん、近くの茂みが音をたててゆれた。
まあ野生動物かなにかだろう。このへんじゃ、それほど珍しくない。
そう思って、寝っ転がったまま、首だけそっちへ向けた。
薄汚れた緑の体。小柄な体格に、服ともいえぬ毛皮をまとい、ボロボロの棍棒を担ぐ。
目は爛々とひかり、とがった耳と小さな一本角が目に付く。
ゴブリンやぁ~
ご、ゴブリン!?
俺は急いで跳ね起きる。
なんだ!?ゴブリンってなんだ?ツチノコより珍しくないか?写真撮らねば!!
まずいスマホ忘れた!カメラもない!
っと、混乱していたようだ。
目を閉じて、深呼吸。ゆっくりと目を開ける。
ゴブリンやぁ~
頬つねる。
痛い。
夢じゃない。
ど、どどどどうすればいいんだ!?
ゴブリンと相対したときの対処法!?死んだふり?ちゃうやろ!
というか、ゴブリンって人を襲うんじゃなかったか?追い払った方がいいのか?
まてまて、特殊メイクとか、ドッキリの可能性だってあるじゃないか。
よし、まずは会話を試みよう。
「こんにちは」
「ギイッ!」
あぶねっ!攻撃して来やがった。とりあえずよけたけど、やっぱり本物かね?
「ど、ドッキリ大成功~、的な?」
「ギイッ!!」
いてっ!ちょっと当たった!
「ちょ、暴行罪!傷害罪!」
「ギイッ!!」
あぶねって!
くそぅ、コミュニケーション失敗だ。
というか、戦わないとまずいか?すでに逃げられる距離じゃない気がする。
うおっと!また攻撃してきやがった。
OK覚悟を決めろ糸目!
こいつは本物。こいつは敵。攻撃対象。
よしぶっ殺す!
つっても武器が無いんだよな。どう攻撃しようか。
小柄だし、殴りにくいから、蹴りか。
ということで、サッカーのごとくローキックを繰り出す。
ちょうど棍棒を振り上げていたゴブリンはノーガードでもろにくらい、二メートルほど吹き飛んでいく。
ゴブリンが立ち上がる前に追撃。
棍棒をとりあげ、マウントをとり、棍棒で顔面を滅多打ちにする。
しばらく殴ってると、動かなくなった。死んだようだ。
殺しちゃったけど、大丈夫だよね?動物愛護団体とかに訴えられたりしないよな?
『レベルアップ!』
は?
なんだって?レベルアップ?なにそれおいしいの?
いや、この流れ見たこと有るぞ。
いわゆる、異世界転生という奴ではないか?
ふふふ、ついに俺の時代か。異世界でチート生活か。夢が広がるぜ。
まわりは結構みた事ある風景だが、なにか違う気もしないこともない。
ここはすでに異世界なのだ。
ということで後ろを振り向く。
俺の家はあるか?
あるね。
わかっていたさ。そんなうまい話はないと。
しかしこのゴブリン、どうしようか。
汚いし、死んでるから腐る可能性もある。
燃やしてしまうか?しかし手段がない。
しかも、こいつはもしかしたら研究対象になりうる。新種の生物かもしれない。それをここに捨て置くのは惜しい。
臭いのは我慢して、持ち帰るか。
余り乗り気はしないが、状態保存のため、冷蔵庫に入れても良いだろう。
俺は自宅にゴブリンの死体を抱えて帰ってきた。
やたらでかい冷蔵庫に死体を入れ、手を入念にあらって自室に入る。
もしかしたら、全国で魔物が発生とか、有るかもしれない。
スマホのブラウザで調べてみるか。
ブー、ブー、ブー、ブー、ブー、ブー…
あ、会社からの電話やメールでバイブがえらいことんなってる。
そうか、そろそろ帰ってないと不自然だもんな。
うるさいので放置。
電源切って封印。
さて、気を取り直して、マイパソコンで調べてみよう。
うん。出るわ出るわ。
どうやら全国的に魔物が発生しているらしい。
ツイッターのトレンドなんか、魔物やらゴブリン関連で埋まってる。
これほどゴブリンが人気になったのは空前絶後の事件だろう。
というか、発生した魔物はほとんどゴブリンらしい。
めずらしかないのな。保存し損だわ。
とりあえずゴブリンの死体はさっさと捨てよう。
と、そんなとき、検索結果に面白い情報が載っていた。
どうやら「ステータス」と念じると、ステータスが出てくるらしい。
どこのラノベだよ。
「ステータス」
Lv.5 糸目 隆司 人間
HP 53/55
MP 83/83
ほんまや。
もうどこに驚いていいのかわからん。
最初はレベル1じゃないのか。いや、ゴブリン倒してレベルアップしてたか。
一回棍棒が当たったが、あれで2ダメージな。やべぇゴブリンに倒されるビジョンが見えねえ。ゴブリン、カスすぎるだろ。
レベルがあがったと言うことは、身体能力とかも上がってたりするんだろうか。
軽くジャンプしてみる。
なるほど、たしかに体が軽い気がする。
そしてMPがあるということは、魔法が有るかもしれないと言うことだ。夢が広がるね。
しかしなんだろう。この、コレじゃない感。
まあいいさ。とりあえず検証はここまでだ。
もう掲示板に検証スレが乱立してるし、これ以降は同志達がなんとかしてくれるだろう。
さあゴブリンを捨てにいこう、としたとき、突然部屋のなかが、強烈な光で満たされた。
思わず目をつむる。
しばらくして恐る恐る目を開けたが、すこし光を見てしまったので視力が回復しない。
ようやく回復したところで俺の視界に入ってきたものは、薄く光る宝玉のような、バスケットボールサイズの玉だった。
それが、浮いている。
そしてゆっくり動いたかと思うと、パソコンのディスプレイにズブズブと入り込んでいった。
「……?おいっ!?」
するとパソコンの画面はブラックアウトし、カリカリと、パソコンが音を立てる。
しばらくして、ディスプレイがようやく点くと、なんとそのパソコンは、合成音声みたいな音で喋ったのだ。
『演算回路との融合成功。こんにちは。私は「ダンジョンコア」です。あなた様を、私のマスターと認証します。』
「はぁ?」
今回のあらすじ
田舎でのんびりしてたらゴブリンに襲われた。
全国で魔物が発生しているようだ。
倒したらなんかレベルアップした。
そしたら突然ダンジョンコアが現れた。
『おまえダンジョンマスターね。』
「はあ!?」
次回予告。
突然あらわれたダンジョンコア。
パソコンと融合成功と言っときながら、ディスプレイがホワイトアウトしたかと思うと突然爆発しやがった!
物語序盤に突然の危機!糸目は生き残れるのか!
次回!「糸目、死す。」
お楽しみに!