第7話
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知識の森から1時間弱ほど歩いたところに森から一番近く、そして、この国エルド王国の首都カーディアが見えてきた。人口は約1,000万人ほどの大きな都市で、この国の約半数の人がここで暮らしている。首都というだけあって、さまざまな建物が建てられており、王族の住むお城はもちろん、学業を学ぶ学校、兵士になるための仕官学校、この国の流通の主を担っている商業ギルド、そして、もちろん開拓者のための開拓者ギルドだ。
ギルドは商人と開拓者の二つがあるが、ギルドというと大体は開拓者の方を指すため、開拓者ギルドと正式名で呼ぶ人はほとんどいない。町に入ったらまずこのギルドを目指すつもりだ。そして、とりあえず今夜の宿を確保できるだけの金を稼がないといけない。
しばらく歩くと、大きな門にたどり着いた。ここから町に入るらしく、門の両側は大きな壁が町をぐるっと囲んでおり、さらにここから見える町の中心にはお城が建っており、見た感じ正しく城下町って感じだ。
(門番とかはいないんだな)
門に門番などは居らず、ひたすら大きな門が開けっぴろげになっていた。門を抜けたらそこは大きな道が伸びていて、奥にもまた小さいけど門が構えている。どうやら町を上と下で分けているらしく、門の奥の豪華さを見るに貴族街というやつだろうか。まあ俺にはあまり関係ないだろう。
「それにしても、こんだけ広い町だとギルドを探すのも大変そうだなぁ」
そんな呟きは、2分後、簡単に覆された。
「うん、これがギルドだな。絶対に」
今、目の前にはそれ自体がそこそこ大きく、さらに正面に大きくギルドと書かれた、とても自己主張の激しい建物が建っている。もちろんギルドと書かれた言葉自体はこちらの世界の文字なのだが、この世界の知識を持っている俺に死角はない。
「まあとにかく入ってみるか」
特に何の変哲もない普通の扉をくぐってみると、外の通りとはまた違った熱気が空間を包んでいた。向かって左側はカウンターが並んでいて、そこに何人かの女性が座っている。おそらく、受付なんだろう。
そして、右側は酒場のようなスペースが広がっており、見た目からして肉体労働をしてそうな人たちがまだ日が上っている時間帯にも関わらず酒をあおっていた。見たところ、ギルドが経営している酒場なのだろう。受付に座っている女性と酒場で働いている女性の制服が同じだ。
酒場には用はないのでもちろん受付の方に行って、比較的人の少ない列に並んだ。
待つこと数分、ようやく先頭に出て受付嬢の笑顔を拝むことが出来た。もちろん営業スマイルだろうけど。
「いらっしゃいませ、何をお求めでしょうか?」
「え~っと、登録がしたいんですけど」
「登録ですか。分かりました。少々お待ちください」
そう言って、カウンターの中を探って2枚の紙を差し出してきた。
「2名様でよろしかったでしょうか?」
「あ、はい」
「でしたら、こちらの用紙に記入をお願いします。書き終わりましたら、あちらの受付にお進みください」
示された場所を見ると、さっきは気づかなかったが端っこにひとつだけ全く人の並んでいない受付があった。そして、カウンターには一人の女性が暇そうに虚空を眺めていた。
この後の流れが分かったところで、いつまでもここに居座っては俺の後ろに列を作って待っている強面のお兄さん達から何を言われるか分からないので、とりあえず受付のカウンター前から離れることにした。そして、落ち着いて座れるところを探したがギルド側のスペースにそんな場所はなく、かと言って現在無一文である俺らが酒場の席に座るのも気が引けた。
結局、どうせこの後行くのだからと思い、おそらく登録専用であろうと思われる受付で書かせてもらうことにした。
(人も来なくて暇そうだし、別に良いだろう)
そう思い、右手に登録用の紙を2枚、左手にルーを連れて受付までやってきた。
一応、場所を借りるにあたって許可を取った方がいいと思い、受付に座っている女性に話しかける。
「すいません、登録をしたいんですけど良い場所が見当たらないので、ここで記入させてもらってもいいですか?」
すると、女性は今やっと俺の存在に気づいたらしく、少し驚きながら言葉を返した。
「え?あっ、はい。もちろん良いですよ」
「ありがとうございます」
そう言ってポケットからペンを取り出し、用紙の記入欄を埋めていく。記入する内容は特に難しいところはなく、名前と年齢、そして任意で契約した幻獣の属性や力のタイプなどを書く欄などもあるが、そこらへんは大抵の人は書かないみたいなので俺も書かなかった。
自分の分の用紙は記入し終えたのでルーの方に移り、名前と年齢だけ記してこれも特に問題なく終えた。ただルーに年齢を聞いたところ、どうやら知らないらしく俺が見た目から推測して書くことにした。ちなみに、12歳と記入した。
「これでいいですか?」
用紙を差し出しながら、受付に座る女性に尋ねる。
「はい、え~、レイ様とルー様ですね」
こちらの世界では貴族以外は苗字を持たないと知っているので、名前はレイとだけ記した。
「はい。そうです」
「では、ギルドカードをお作りします。支払いはどちらになさいますか?」
「あとでお願いします」
「かしこまりました。では、少々お待ちください」
記入済みの用紙を手に、女性はカウンター裏の扉に消えていった。ちなみに、支払いというのはギルドカード発行にかかるお金のことで、先に払う方法と後から払う方法の2種類ある。
先に払う方法はカードを発行するときに払い、後に払う方法はカード発行後1ヶ月以内に受けた依頼の依頼料から発行にかかる金額分だけ引かれるというやり方だ。
これらの方法はあっちの世界で言う一括とローンのようなもので、前者は発行したその場で支払うだけでその他の制約はない。一方、後者は発行の時にお金がなくても作ることが出来るが、発行後1ヶ月以内に規定の金額を支払えない場合、発行してもらったカードは没収となる。もちろんそれまでに支払ったお金は返ってこない。
これらの知識はソニアさんから教えてもらっていたのでシームルグと契約する前から知っていた。あとはカードを受け取れば一応登録は完了するので待ってる以外にすることはない。ただ、これから1ヶ月以内に発行にかかる金額を稼がなくてはならない。当然生活する分のお金も依頼で稼がなくてはならないため当分休めそうにない。ちなみに発行にかかるお金は初回は日本円で2,0000円程で、紛失や盗難にあった際に再発行する場合は、倍の4,0000円程かかる。
そんなこれからの生活に思いを馳せていると、カウンター裏の、俺から見れば正面に位置する扉が開き、先ほどの女性が姿を現した。
「お待たせしました。こちらがギルドカードになります」
そう言って、名刺大のカードを2枚手渡された。
「こちらのカードは依頼の受注、完了の手続き、また身分証明としても使えますので、必ず無くさないでください。もし、無くされた場合には再発行に4,0000ゼニー必要となりますのでお忘れなく。また再発行の際はその場での支払いのみとさせていただきます」
再発行などのことはもともと知っていたので、話半分に聞いておく。そもそもギルドとは開拓者だけが登録しているわけではなく、ギルドカードそのものが身分証明などに使えるため、農民や商人、貴族なんかも登録していることが多く、登録の際の流れなどは小さな村の子供でも知っているくらいだ。なのでギルド側もこれらの説明は相手が聞いているかどうかは重要じゃないらしく、ちゃんと説明をしたという事実を残すことが大切らしい。
「続きまして、開拓者のランクについて説明させていただきます。ランクというのは、ギルドが開拓者に対しての信頼度を示すもので、一番下を10級から始まり、最大で1級まで存在します。これは位を表す数字が小さければ小さいほどギルドから信頼されているということで、その等級によって受けられる依頼なども変わってきます。またこの等級を決める際の信頼とは、その人の強さや依頼の成功率を基準とします。これは等級が上がるにつれ受けられる依頼は討伐や護衛など危険度の高いものが増えてくるからです。なので、腕っ節が強くても依頼の成功率が低い人、成功率が100%でも受けている依頼の難易度が低い人はギルドからの信頼を得ることが出来ませんので、ランクが上がることはありません。ここまでは大丈夫でしょうか?」
「はい。大丈夫です」
まあこの世界のことに関しては目の前の女性よりも知っているだろうからあまり聞く意味はないのだが、だからといって聞かないのもどうかと思うので適当に相槌をうっておこう。
「最後に依頼の受注と完了の際の流れですが、まずあちらに見えます掲示板から受けたい依頼を選びこちらの受付までお持ちください」
はじめに入り口付近に立っている大きな掲示板を、その次にずらりと並んだ受付の右半分のカウンターを指された。
「受注の際は先ほど渡しましたギルドカードが必要となりますのでお忘れのないようにお願いします。そして、完了の際の手続きですが討伐依頼の場合は討伐対象の証が必要となります。これは対象により部位が異なりますので事前に調べておくことをお勧めします。また、採集の依頼は依頼用紙に記載されているモノを規定の数集めていただきます。これらのモノをギルドカードと一緒にこちらの受付まで提出していただければそれで依頼完了となります。何か質問はありますか?」
先ほどとは違い左半分の受付を指し、質問がないか聞かれる。もちろん、質問は無い。ルーは理解できてるか分からないが、あとで俺が教えれば良いだろう。
「いえ、大丈夫です」
「そうですか。それではこれで説明を終了とさせていただきます」
それを聞いて俺達はこの場を離れる。
まだギルドに登録したばかりでお金もない、むしろ借金している状態だ。しかし、知識と力<魔法>を手に入れた。きっとこれから輝かしい明日が待っているはずだ。そう信じてギルドの扉を来たときの反対からくぐる。
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