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[COORDINATE 0008] Aftermath of the Battle

# Until_We_Meet_Again:


やってきた警らの騎士は、金の装飾の施された白銀の鎧をまとった騎士たちだった。

これまで見たこともないような、傷一つない見事な鎧だ。

ユーリが王子だったということは、近衛騎士団ってやつだろうか。


重たい金属音を響かせ、部隊長らしき騎士が兜を取り、ユーリの元へ片膝をつく。


「ユリウス殿下。ご無事であられましたか。

護衛の任を全うできず、万死に値する失態…お詫びの言葉もございません」


美しい赤みがかった長い髪。後ろで束ねられたそれは、彼女の所作に合わせて静かに揺れている。

その容貌は、騎士の鋭さを纏いつつもひどく整っており、息を呑むほど美しい。


――美人女騎士って、本当に実在したんだ…。


憧れの存在を直に見て、俺は思わず口を開けたまま固まっていた。


「カタリナ、心配をかけました。もともと護衛を振り切ったのは僕です。あなたのせいではありません」


ユーリは穏やかにそう告げ、次いで俺を手で示す。

とんでもないことをさらりと言う。護衛を振り切るなど、正気の沙汰ではない。


「僕はこの通り、傷一つありません。この方が助けてくれました。僕の命の恩人、アルス殿です。どうか粗相のないように」


先ほどまでの少年の顔は消え、そこには王子としての気品があった。


ユーリの言葉を受け、カタリナさんは静かに立ち上がり、こちらへ向き直った。

少しきつめの理知的な瞳が、俺を値踏みするように一瞥し…直後、胸の前で拳を握り、深々と頭を下げてくる。


「アルス殿。殿下をお守りいただき、感謝する。私は近衛騎士団所属、カタリナ・アッシュフォード。騎士団を代表し、ここに礼を申し上げる。

……貴殿がいなければ、我らは責を負いきれぬ失態を犯していた。この借りは必ず返す」


俺の憧れをそのまま形にしたようなその態度に、少し顔が熱くなり、声がうわずってしまう。


「い、いえ。俺、いや僕は、たまたま知り合った友人を助けただけです。そこまでお礼を言われることではありません」


そんな俺の反応を、カタリナさんは騎士に対する緊張とでも勘違いしたのだろうか。

鋭い眼差しを少しだけ和らげ、わずかな微笑を浮かべた。


「近いうちに王家より正式な礼があるだろう。失礼だが、貴殿の所属は?」


ふわりと、風に乗ってカタリナさんから微かに汗の甘い匂いが漂ってきた。

涼しい顔をして完璧な所作を保っているが、全力で駆け回って探していたのだろう。

そのリアルな体温を感じる匂いに少しどきどきしつつ、俺は必死に平静を装って答える。


「冒険者のアルスです。恐れ入ります。身に余るお言葉です」


俺はユーリの方を向いて、周囲の騎士たちの手前、一歩引いた態度をとる。


「ユリウス王子殿下、お怪我がなくて何よりでした」


そのよそよそしい言葉に、ユーリが微かに寂しげな瞳を見せる。

俺の態度の変化に、身分差という壁を突きつけられたような気がしたのだろう。

俺は「しょうがないな……」と苦笑し、ユーリの目線に合わせてしゃがみ込むと、周囲に聞こえないよう小さな声で囁いた。


「ユーリ。勇者パーティーの戦士になるなら、修行は怠るなよ。また遊ぼうな」


そう言って、ユーリの子供らしい柔らかい黒髪をくしゃりと撫でてやる。

視界の端で、カタリナさんは咎めることはせず、聞こえないふりをしてそっと目を背けてくれている。


「っ! はい! 先生! 是非今度、王宮にも遊びに来てください!」


俺はパッと顔を輝かせたユーリににっと笑い返してから、立ち上がり、その場を離れる。


「先生ー! 約束ですよー!」


ユーリの弾んだ声を背に受けながら、俺は大きく手を振って路地を後にした。



# The Wise Prince:


王都の美しく整備された石畳の上を、王族専用の白い馬車が車輪の音を規則正しく響かせながらゆっくりと進んでいる。


向かいの席には、現場の事後処理を部下に任せたカタリナが護衛として同乗している。

彼女は、父上にその才を認められ、若くして一個中隊を任されている叩き上げの騎士だ。


僕は車窓から流れる景色から目を離し、静かに姿勢を正して座る彼女に声をかけた。


「カタリナ」


彼女はすでに、先ほどのような焦燥を微塵も感じさせない、毅然とした騎士の姿を取り戻している。

僕の声に、揺るぎない視線を真っ直ぐに向けてきた。


「はっ。殿下、いかがなさいましたか?」


僕は、今日の鮮烈な記憶を脳裏に浮かべながら、早急に手を打たなければならない懸案事項を口にする。


「今回の事件の実行犯たちは、どうなっていますか?」


カタリナは微かに眉を動かし、僕の質問の意図を測るような間を置いたが、すぐさま正確な報告を返してきた。


「現場で取り押さえた実行犯は七名。うち一名は第一級賞金首のグラディオ・サンダールと確認しました。

残り六名についてはこれからの素性調査によりますが、おそらくは街の裏組織に属する者かと思われます。

首謀者の特定はこれから…」


僕はカタリナの報告を静かに手で制し、一番確認したかったことを問う。


「全員、生存していますか?」


「…はい。アルス殿は、相当な手練れと見受けます。七名全員が、命に関わらないギリギリの線で戦闘不能にされていました。

あの乱戦の中でこれをやってのけるのは、相手との間に隔絶した技量差がなければ不可能です」


冷静な分析の中に、わずかな称賛が滲む。僕は先生が褒められたことが嬉しくて思わず顔が綻びそうになる。

その話題をもっと続けたかったが、ぐっと我慢した。


「カタリナ。捕らえた者たちの尋問は、近衛であるあなたたちが直接行ってください。

そして…そこから出てくる情報のうち、先生、じゃない、アルス殿の戦闘方法については、箝口令を敷いてください」


一息つき、さらに続ける。


「可能であれば、父上に対しても、しばらくは内密にしておきたい」


僕の言葉に、カタリナの理知的な瞳に明確な戸惑いが走った。


「尋問の管理、および部下への箝口令は直ちに手配いたします。

…しかし、国王陛下にまで秘匿するというのは。それは、騎士としての忠誠に反します」


僕は姿勢を正し、真面目な顔でカタリナの目を見つめ返す。


「カタリナ。アルス殿は、極めて特殊な魔法を用いて戦闘を行います。

僕も様々な魔法使いを見てきましたが、あのような魔法をこれまで一度も見たことがありません」


「アルス殿はご自身の魔法の特異性を理解しており、最初は僕にも内密にしていました。

ですが…僕を守るために、それでは間に合わないと悟り、自ら制限を廃し、全力で戦ってくれたのです」


カタリナは居住まいを正し、白銀の鎧を微かに鳴らして僕の言葉に深く聞き入っている。


「ですから、僕を助けたことが原因で、アルス殿が理不尽な目にあうような事態は、僕の本意ではありません。

父上に対しては、いずれ必ず僕の口から直接説明します」


僕は、さらに近衛騎士団の立場も考え、最もらしい口実を提示する。


「そうですね…。僕はアルス殿の才覚に惚れ込み、いずれ第一家臣として迎え入れるつもりである。

兄上たちに横取りされぬよう、意図的に隠匿を命じた。そういう体裁にしましょう。これならば、近衛騎士団の面目も立つはずです」


カタリナは少し視線を伏せ、騎士としての責務と僕への忠誠の間で静かに葛藤しているようだった。


「…殿下のお気持ちは理解いたしました。筋も通っております。しかし…」


なおも難色を示すカタリナを、僕はまっすぐ見つめて続ける。


「お願いします、カタリナ。…先生は、自分の魔法の秘密が公になってしまっては、面倒を嫌ってこの国を出て行ってしまうと思うんです…」


僕の偽らざる本音だった。そうだ、僕は先生にどこかにいってしまってほしくないのだ。

カタリナは僕の打算のない言葉を聞いて、微かに目元を和らげた。

そして、小さく息を吐いた後、静かに首を垂れてくれた。


「…承知いたしました。殿下の御心のままに。事後処理と情報統制に全力を尽くします」


その言葉に安堵し、僕は深くシートに背中を預けた。

馬車の中に再び、車輪が石畳を転がる単調な音だけが響き始める。



――僕は剣術こそ苦手だが、座学は大好きだ。

魔法の理論や知識については、優秀な兄上たちよりも詳しい自信がある。


だからこそ、わかるのだ。


先生の特異性の本質は、神器の有無でも、神の後光のような魔法強化でもない。

そのくらいなら、父上に伝えてもいい。


……先生は、魔法で人の怪我を完全に治療していた。

中には致死の怪我を負っていたものもいた。それらを完全に治癒していたのだ。


あり得ない。この世界の魔法の歴史において、そんな事象は存在しない。

これだけは、絶対に公にしてはいけない。


…それにしても先生は本当に慈愛あふれる人だ。僕は賊の命のことなんて、最後まで頭になかった。

あれほど秘匿したがっているのに、死なないように治癒するのだ。


……本当に神様なのかな。



重厚な音を立てて、馬車が王城の巨大な正門をくぐる。


僕は小さく息を吐いて居住まいを正した。

重たい思考は脳の片隅に追いやる。

さて……護衛を振り切ったことを、父上と母上にどう言い訳しようか。



# COORDINATE 0008 END

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