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[COORDINATE 0076] A Day in the Royal Capital Celestia

# Did_You_Have_Fun_Last_Night:


 柔らかな陽光が、窓から斜めに差し込んでいた。

 俺はその眩しさで目を覚まし、ゆっくりと上半身を起こした。


「おはよう、アルス。そろそろお昼だよ」


 可憐で朗らかな、それでいて聞き慣れた少女の声がした。


 そちらへ視線を向けると、窓際でルナリアが愛剣の整備をしていた。

 眩い太陽の光を受けて、ウェーブがかった金糸の髪がきらきらと輝いている。

 彼女の赤い瞳が、陽の光を受けて宝石のように輝いていた。


 俺は自分の茶色の髪に手を差し込みながら、口を開いた。


「……おはよう。いや、疲れてたのかな。ぐっすりだったよ」


 ルナリアの服装は、昨夜に着ていた筒袖の部屋着のままだった。

 マアトの温泉宿で買った、あの紺色の薄手の筒袖の部屋着だ。


 その極薄の生地は、窓から差し込む陽光で透けていて、部屋着の中のルナリアの身体の輪郭を浮かべていた。


 昨夜、酔った俺は、これなら疲れが取れる気がすると言って、二人に薄手の部屋着を着るようお願いした。

 彼女たちはそれぞれ違った反応をしつつも、結局は着替えてくれた。


 ルナリアは、ほんのり頬を上気させながら、「じゃあ、宿で寝る時は、今度からこれで寝るね」と笑みを浮かべていた。

 フェリスは、少し呆れたような目で、「……はぁ。まあ、構わないが」と言いつつ、耳を赤く染めていた。


 そういえば、俺はきちんと彼女たちの着替えから目を逸らしていただろうか。

 酔っていて記憶がなく、自信もなかった。


 俺はそんなことを考えながら、無意識にベッドへ手をつこうとした。


「……んっ」


 むにゅり、と柔らかなものが手のひらの中で歪む感触がした。


 ちらりと、そちらへ視線を向けるとフェリスがまだすやすやと眠っていた。

 はだけかけた薄手の部屋着の隙間から、胸元の白いふくらみがきわどいところまで覗いていた。

 俺は、手を引っ込めると寝具をそっと掛け直してやった。


 ルナリアが俺の様子を見て、くすりと笑って言った。


「ぐっすり寝てるね、フェリスちゃん」

「こいつも疲れてたんだろう。野営じゃ、一番気を張ってるだろうしな」


 俺はベッドから降りて立ち上がり、ぐっと背伸びをした。


 昨日は飲みすぎた。


 久しぶりの王都での食事は美味しく、酒も進んでしまった。

 それに加えて、部屋へ戻ってきたら葡萄酒と軽食がテーブルへ用意されていたのだ。

 最上階の窓から見える王都の夜景はとても綺麗で、三人でだらだらと遅くまで飲み続けてしまった。


 俺は二日酔い気味の身体へ、軽く回復魔法を展開した。

 頭の奥の鈍い重さが引いていく。


 起き上がった俺を見て、ルナリアが愛剣を鞘へ収めた。

 彼女はいそいそと茶を淹れ始めた。

 俺はテーブルの椅子へ腰掛けてぼんやりとそれを眺めていた。


「はい、どうぞ。それにしても昨日はびっくりしちゃったね」

「ありがとう」


 俺はルナリアから茶の注がれた木杯を受け取り、一口飲んでから口を開いた。


「まったくだよ。あれだけ苦労していたのに、なにもしないでSランクとはね」

「旅の間に戦った相手からしたら不思議はないけど、突然だよね。なんでなんだろう」


 ルナリアがそう答えながら、向かいの椅子へ腰を下ろした。

 彼女が着ている薄手の部屋着は少し前がはだけていて、胸の艶やかな肌と、谷間に落ちる深い影が覗いていた。


 俺はじっとそれを見ながら、茶を飲んでいた。


「どうしたの?」


 俺の視線に気がついたルナリアが、不思議そうに小首を傾げた。

 ふるん、とその動きに合わせて彼女の胸が柔らかく弾み、金糸の髪がするりと肩から零れ落ちた。


「……ルナリア、アルスはお前の胸を凝視しているだけだ」


「え! そうだったの!? もう、みたいならそう言ってくれれば……ううん、恥ずかしいからやっぱり駄目!」


 ルナリアはそう言うと、慌てて部屋着の前をきゅっと閉じた。

 俺は声のした方へ振り向いて言った。


「おはよう。よく眠れたみたいだな」

「……ああ、おはよう。こんな、上等な寝具で寝たのは生まれて初めてだ。……もう昼か」


 フェリスはまだ少し眠たそうな目のまま起き上がり、少し乱れた水色の髪を細い指で整えていた。

 彼女はしっかりと部屋着の前を閉じているが、薄手なので光に照らされると、少女らしい身体の線がはっきりと分かった。


 ルナリアが、いそいそとフェリスにも茶を淹れていた。

 フェリスは口元に薄く笑みを浮かべてルナリアから木杯を受け取った。


「……ありがとう、ルナリア」

「ううん。フェリスちゃんも疲れてたんだよ。今日はゆっくりしようよ」


 ただ一人、まったく疲労を感じさせないルナリアがにこりと笑った。


 フェリスの動きに合わせて、薄手の部屋着越しに覗く身体の線が艶めかしく揺れる。

 俺は、そのなだらかな曲線をじっと見つめながら言った。


「そうだな、教国じゃ野営続きだったしな」


 フェリスは、自分のことを凝視している俺の頭を軽くはたいてから椅子へ腰を下ろした。


「……そうさせてもらうか。……アルス、お前は朝から元気だな」

「ごめん、つい」


 俺が軽く謝ると、目元を細め、口元に薄っすらと笑みを浮かべてフェリスが答えた。


「……ま、いいだろう。お前はよく頑張った。今日は、いくらでもわがままを聞いてやろう」


 俺たちのやりとりを見ていたルナリアが、木杯を置いて言った。


「くすくす。いつでも、フェリスちゃんはアルスに甘いじゃない」


 そんなふうに、俺たちは今日の予定を三人でゆるく話し合っていた。

 しばらくそうしていると、戸を叩く音が聞こえた。


「アルス様、お客様がいらっしゃっております。カタリナ様という近衛騎士の方がいらっしゃっております。お取次ぎいたしますか」


 ……ぶふっ。


 俺は、飲んでいた茶で少しむせてしまった。

 昨日の今日だというのに早いな、おい。



# Welcome_Home_Professor:


 まさか、今日のうちに連絡どころか、カタリナさん本人が来るとは思っていなかった。

 呼びに来た宿屋の従業員には、起きたばかりなので準備してから向かうと伝えた。


 高級宿だけあって、軽食専門の歓談用食堂まで備わっているらしい。

 カタリナさんたちはそこで待つとのことだった。


 部屋に用意された水桶で顔を洗い、さっと衣服を整える。

 後ろから、ルナリアとフェリスが着替える布擦れの音が聞こえてきた。


「もういいよー」

「……私も大丈夫だ。それにしても、宿まで近衛騎士が来るのか。さすがアルスだ」


 俺はフェリスのその発言に苦笑いしながら、神官服に袖を通した。

 多分もっと驚く人物がいるぞ、これは。


 腰帯に星切を差し、ルナリアに髪を整えてもらってから部屋の戸を開けた。

 三人で階段を降りていく。


 軽食専門の食堂へ入ると、赤みがかった長い髪を後ろで束ね、怜悧な目元をした美貌の女騎士が起立していた。

 その騎士を背にして椅子に座っているのは、これまた見覚えのある綺麗な黒髪の気品ある少年だった。

 少し大きくなっているが、その人を惹きつける笑みは以前と変わりなかった。


 やっぱり。

 そこにいたのは、カタリナさんと、ユーリだった。


「先生! お久しぶりです!!」


 俺を目にした瞬間、ユーリは黒い瞳をきらきらと輝かせて、勢いよく声を上げた。

 そしてそのまま、椅子を引くのももどかしく俺の方へ駆け込んでくる。


 俺は腰を落とし、彼に目線を合わせるようにして抱き止めた。


「先生! 来ちゃいました!」

「久しぶりだな、ユーリ」


 俺がユーリの頭を撫でてやっていると、つかつかとカタリナさんが歩み寄ってきた。

 相変わらず背筋の伸びた、隙のない立ち姿だ。

 だが、その毅然とした美しい相貌に宿る優しさが、以前より少し増した気がした。


「アルス殿、ご健勝そうでなによりだ。あまり人目につきたくない。不躾ですまないが、貴殿らの部屋へお邪魔してもよいか」


「ああ、そりゃそうですよね。もちろん構いませんよ。ルナリア、飲み物と茶菓子を頼んでおいてくれ」


 ルナリアは頷き、宿の人に飲み物と茶菓子をお願いしに行った。

 成り行きを見守るフェリスの表情は、いつもと変わらず静謐だった。

 当然ながら、ユーリは王族らしい服装ではなく、上等ではあるが平民の衣服を着ている。

 だからだろう、フェリスは多分よく分かってないな。


 ルナリアが注文を終えるのを待ち、俺たちは階段を上がった。


 俺は、ユーリの手を引きながら声をかけた。


「しかし、ユーリお前も無茶するなあ。また、城を抜け出したりしてないだろうな」


「先生が悪いんですよ。帰ってくるのが遅いんです! 城はたまにしか抜け出していません」


 あんなことがあったのに、まだ抜け出してるのかよ。

 カタリナさんも苦労してそうだ。


 俺は、自分たちの部屋の戸を開け、二人を案内した。

 ユーリは駆け込むように部屋へ入っていき、カタリナさんは近衛らしく戸の側に起立した。


 部屋の中をあちこち見渡していたユーリが、感心するように口を開いた。


「わあ! いい部屋ですね」

「絶対、お前の部屋のほうが広くて綺麗だろ」


 俺はユーリの話に応じながら、カタリナさんへ向き直って声をかけた。


「カタリナさんもご苦労さまです」


「なに、私としても貴殿らに早く会いたかった。それに、現在の私はユリウス殿下の直臣でね。仕事内容は変わらんよ」


 それまで空気に徹していたフェリスが、驚いたようにユーリを見た。

 珍しく彼女の切れ長の美しい目元が、見開かれていた。


「……え? 殿下?」


 ひととおりはしゃいで、少し落ち着いたユーリがフェリスに顔を向けた。

 はしゃぎすぎて、俺にしか挨拶をしていなかったことを思い出したのだろう。

 彼の顔からは照れた様子が伺えた。


 ユーリは軽く深呼吸してから、はきはきとした声で自己紹介を始めた。


「はじめまして! 僕はユーリと言います。先生の生徒で、商人の嫡男です! 先生のパーティーに加入された方ですよね。いずれ先生のパーティーの戦士になりますので、そのときはよろしくお願いします!」


「というのは嘘で、こいつはユリウス・アーサー・セレスティア。この国の第三王子様だ」


 俺が横からそう補足すると、ユーリは頬を膨らませて抗議した。


「先生の生徒なのは嘘ではありません! 戦士にもなります!」

「うちのパーティーの戦士は厳しいぞ。勇者が空を飛ぶからな」


 フェリスは子どもの勢いに押されつつ、小さく息を吐いてルナリアの方を向いた。


「……駄目だ。アルスのやつも舞い上がってる。……ルナリア、説明してくれ」

「あはは……。ユーリ君、久しぶりだね。カタリナさんもお久しぶりです」


 俺たちをにこにこと見ていたルナリアは、挨拶をしてからフェリスの疑問に答えた。


「フェリスちゃん、ユーリ君がこの国の王子様なのは本当だよ。あとは、アルスが大好きみたい」


 俺も舞い上がっている自覚はある。

 だが、ルナリアの説明も結構雑だった。


 普段の凛とした表情に戻ったフェリスは、ルナリアのその大雑把な説明を聞いて彼女をじっとりと見つめた。

 それから、思案するようにしたあと小さく息を吐いた。


 ユーリはにこにこと笑顔を浮かべ、口を開いた。

 陽光をきらきらとはね返す黒髪が、彼の動きに合わせ、ふわふわと揺れた。


「あはは、すいません。挨拶が遅れました。ルナリアさん、お久しぶりです! ええと、そちらの方のお名前は?」


「……フェリスだ。悪いが、私はアルスの知己であっても、セレスティアの王族に敬意を示すつもりはない。それでは問題があるだろう。……なので、私はいないものとして話を続けてくれ」


 少し冷たい声音で、フェリスはそう言うと腕を組んで目元を伏せた。

俺はちらりと、カタリナさんの様子を伺った。

 カタリナさんはフェリスの発言にも動じた様子はなく、俺の視線に気がつくと、つややかな口元に薄く笑みを浮かべた。


 カタリナさんは、以前より貫禄が増している気がした。色々と苦労しているのだろうな。


 そんな風に俺が考えていると、フェリスの拒絶の言葉にもめげず、ユーリは笑顔のまま答えた。


「フェリスさんというのですね。僕は商人の嫡男なので、敬意も敬語もいりませんよ。なので、問題ありません。むしろ、嬉しいです! 僕のことはユーリと呼んでくださいね!」


「……え? いや、私はエルフ族だぞ。王族なら因習は知っているだろう」


 予想外の発言に、再びフェリスが表情を崩して、呆気にとられた表情を浮かべた。

 ユーリは、そんなフェリスの様子に、少し表情を正して答えた。


「ああ、あの下らない話ならどうでもいいので大丈夫です。ね! 先生!」

「俺はその因習が、なにかも分からん」


 珍しく戸惑う様子を見せたフェリスは、戸の側に控えていたカタリナさんの方へ視線を向けた。


 金の装飾の施された白銀の甲冑を纏うカタリナさんは、その視線に応えるように口を開いた。


「フェリス殿だったな。殿下は本心から仰ってる。それに、因習がくだらないのは私も同意見だ。私の名はカタリナという。私のことも、カタリナと呼んでくれて構わない。そう、簡単な話ではないのだろうが」


 フェリスは視線をユーリに戻した。

 眉尻を上げ、瑠璃色の瞳でしばらくユーリを見つめたあと、口元に薄く笑みを浮かべて答えた。


「……そうか。……だが、私は臆病なんだ。少年、お前がパーティーの戦士になれたら名を呼ぶとするよ。……だが、ありがとう」


 会話の流れが、正直よく分からない。

 これは打ち解けたのだろうか。


 俺は首を傾げた。


 そんな俺の不思議そうな様子を、フェリスの隣で見ていたルナリアがにこりと笑った。

 ルナリアの判断によると、どうやら打ち解けたらしい。


 まあ、ユーリは人たらしの天才だからな。


 ちょうどその時、戸が叩かれた。


「はーい。今行きます」


 そう答えたルナリアが受け取りに行き、茶と茶菓子をテーブルへ並べていく。

 俺のとなりの席を、ルナリアがユーリに譲り、俺とユーリが隣り合って座った。

 ルナリアに促されるように、フェリスが向かいの椅子に腰掛け、ルナリアも席についた。


 カタリナさんは、ひと安心とばかりに表情を正し、近衛騎士としての立ち姿に戻った。


 そうして、少し慌ただしく緊急のお茶会が始まった。



# COORDINATE 0076 END

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