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[COORDINATE 0006] Adventurer's Guild Quest

# Mob_Train_and_AoE:


俺たちは王都から北方に少し離れた、アルシア山の中腹あたりにいた。


王都のギルドで受注した討伐クエスト――今回の標的は、放棄された砦を占拠しているオーガの群れだ。

オーガ単体でも相当な脅威だが、それが群れを成しているとなれば難易度は跳ね上がる。

俺たちは、神器持ちが二人という特殊な編成から、まだ王都での活動が短いながら受注を許可されていた。


人の手が入らなくなって久しい山道は、生い茂る雑草と低木が道を塞いでいる。

俺はその茂みに身を潜め、大金をはたいて購入した拡大鏡を覗き込んで、前方に見える砦を観察していた。


俺たちには遠距離を索敵する魔法も、スカウトのような探索技能もない。

この高価なレンズは、その欠落を物理的に補うための苦肉の策だった。


「門番とかはいないのか。全部中にいるっぽいな」


すぐ隣で、ルナリアが目を凝らしながら言った。


「んー、よく見えないけどそうっぽいね。門も……開いてる? よね」


俺は拡大鏡を握る手に思わず力がこもった。

…この拡大鏡、フリージアでの稼ぎをかなり突っ込んで買った高級品なんだが。いらなかったじゃないか。

一体、お前の視力はどうなっているんだ。


いつも新しい発見をくれる相棒の言葉を半分聞き流しつつ、俺はギルドで無理を言って貸し出してもらった砦の見取り図を地面に広げた。


「もともとは国境監視用の砦だったらしい。警戒対象だった街が魔物に呑まれて、砦自体の必要性がなくなったんだと。国も維持できなくなったんだろうな」


俺が説明すると、ルナリアは感心したように目を輝かせ、吸い寄せられるように俺の肩へと身を寄せた。


「きみはすごいね、アルス。討伐クエストで見取り図までもらって、そんなに作戦を練る人はあんまりいないよ」


無防備にひっついてくる彼女の体温が、薄い布地を通して伝わってくる。

俺の腕に、彼女のネイビーブルーのバトルドレスに包まれた規格外の双丘が、どっしりと、そして柔らかに押し付けられた。


下着をつけていないせいか、腕を動かすたびにFカップの暴力的な質量が「ふにゅん」と形を変え、生々しい弾力を伝えてくる。

砦の構造よりも、この至近距離から漂う甘い匂いと、二の腕を埋没させる柔らかな圧迫に意識を持っていかれそうだ。


「…ゼロではないと思うが、まあ数は少ないだろうな。魔物なんて放っておいてもこっちに来る。わざわざ見取り図を用意して、搦め手を考える必要がないからね」


迷宮の方は地図を欲しがるやつはいくらでもいるだろうが、命をかけて手に入れた情報だ。

そう簡単に開示はしないだろう。

ルナリアの柔らかな感触を堪能しつつ、答える。


ルナリアは「へぇー」と喉を鳴らし、さらに深く俺の腕に自身の重みを預けてきた。

あまりの密着具合に、彼女の胸の先端が布地を押し上げている感触までが、鋭敏に伝わってくる。


あっやばい。そこまでいくと冷静に答えられない。


「アルスがそう言うなら、きっとそうだね! だったら、今回もきみの立てた作戦通りに動くよ。わたし、きみの指示通りに暴れるの、大好きなんだ」


嬉しそうに微笑むルナリアの赤い瞳。

その中にある綺麗な星が、俺への全幅の信頼を映してきらきらと輝いている。


「よし。いい子だルナリア。きちんと俺の言う通り動き、命令には絶対従えよ?」


ちょうどいい殊勝な台詞を吐いてくれたので、ルナリアに縛りをかけておくことにした。


「…うん、わかった。きみの言う通りにするよ、アルス。…何だって、やってみせるよっ」


期待に潤んだ瞳で、彼女が深く頷く。

作戦を開始したら、ルナリアは慌てふためくだろうが、まあこれで大丈夫だろう。


…以前から考えていたことがある。


今のところ、他の誰かが使っているのを見たことのない、魔法の階位を引き上げるローディングだが、非常に有用だ。

100%なら上級魔物の大魔法以上の出力だって可能だ。

だが、はっきりとした欠点がある。ローディング中は一切、身動きが取れないのだ。


…じゃあ逆に考えれば。俺たちは相手が近接特化の場合、自分たちが先に発見したら相当強いんじゃないだろうか。


「ルナリア、静かに近づくぞ。音は絶対に立てるな。もし気が付かれた場合はすぐに撤退する」


俺は、おそらくこの作戦はルナリアがしぶるだろうと思ったので、内容は伝えず最初の指示だけを告げた。


「りょうかい! 静かにだね…。」


彼女は俺の言葉をなぞるように囁き、身体を沈めた。

俺たちは息を殺し、生い茂る雑草をかき分けて砦の門の脇へと陣取った。

すぐ隣からは、集中を高める彼女のわずかに早まった鼓動と、甘い体温の匂いが漂ってくる。


俺は深呼吸をし、静かに意識を深淵へと沈めて、ローディングを開始した。


すぐに――キンッ、と。

脳裏で澄んだ音が鳴り、周囲の風景が嘘のように遠ざかっていく。


俺の周囲に、神威を感じさせる淡く柔らかな光が静かに満ちていく。

時の流れが遠のいたかのような、深い静寂。

そのただ中で、天から降り注ぐような静かな、しかし荘厳な讃美歌だけが、微かに響き続けていた。


[ System : Universal_Truth_Loading... 10%... 20%... 30% ]


星空の向こう側へ、自分という存在が細い糸で結びついていくような感覚。

そこから、人智を超えた何かが音もなく俺の内側へと流れ込んでくる。

胸の奥が、不思議な全能感でじわりと満たされていった。


[ System : Universal_Truth_Load 100% - Maximum reached ]


俺の体からも、強い神威を帯びた光が漏れ出している。

(100%はやばいな。精神のコントロールを失いそうだ。)


「え? アルス、どっどうしたの?」


俺はその神聖な魔力を手に集め、ルナリアの背中へとそっと触れた。

そのまま、階位を最大まで上げた支援魔法をルナリアにかける。属性は魔法攻撃強化だ。


直後、ルナリアの身体が、まるで落雷に打たれたかのようにびくん、と大きく跳ねた。

静まり返った空気の中に、熱を帯びた、湿り気のある吐息が漏れ出す。


「っえ!? こんな、ところで……なんで……? っ……ぁ……!? ……んんっ……!!」


100%ローディングにより階位を最大まで上げた支援魔法を、

突然受けたルナリアの体を、内側から焼き焦がすような快楽的な熱が駆け巡る。

あまりの衝撃に足が震えたのか、ルナリアは耐えきれず、すがりつくように俺の腕に胸を押し付けてきた。

下着をつけていないせいか、その先端が、高まった熱と共にグリグリと俺の腕を抉るような感触さえ伝わってきた。


「…ぁんっ…きみの…まりょく、おっきいよ……。身体の中、すごく、熱い……っ!! んぅ……っ、はぁ、はぁ……。すご、い……力が、溢れて……止まらない、よ……」


恍惚とした表情で、ルナリアが俺を仰ぎ見る。

宝石のような赤い瞳は潤み、星型の瞳孔は、流れ込む膨大な魔力に当てられて激しく明滅していた。


[ System : Lunaria Reason_Gauge -10 ]


「ルナリア、そのままローディングに入ってくれ。100%になったら教えろ」


俺の短く鋭い指示が、ルナリアの周囲に漂う甘く溶けかけていた空気を切り裂く。

その声にハッとしたように、ルナリアは強く首を振った。


「……っ。う、うん。わかった!」


弾かれたように頷くと、ルナリアは熱に浮かされていた赤い瞳に、無理やり理性の光を宿す。

潤んだ目元の朱みや、異常なほどの熱量は引かないままだが、彼女は俺の期待に応えようと必死に緩んだ頬を叩き、表情を引き締めた。


ルナリアは素早く剣を両手で握り、正眼に構え切っ先を立てる。

ローディングに入ったルナリアのアストライアの剣――その冷たい銀色の刀身からチリ、と火の粉が弾け、熱い赤い炎がまとわりつき始めた。


次の瞬間、周囲の空気がビリビリと細かく震え始める。

地の底から這い上がってくるような、低く長い竜の唸り声。

魔法剣のチャージに伴う共鳴音が、彼女の内で暴れる魔力と呼応して辺りの大気をじりじりと圧迫していく。


[ System : Universal_Truth_Loading... 10%... 20%... 30% ]


アストライアの剣を包む炎が、より一層強い輝きを放つ。

爆発的な熱量を帯びた刀身は、銀色から極彩色の紅蓮へと完全に染め上げられていく。

剣を起点として巻き起こる濃密な熱波が、背後に立つ俺の肌をジリジリと炙った。


「んっ、く……っ」


彼女の深く規則的な呼吸に合わせて、炎の渦はさらに密度を増していく。

集束する魔力が物理的な重さとなって空間を歪め、彼女の金色の髪を激しく巻き上げた。

限界まで圧縮された炎の照り返しが、凛とした彼女の横顔を鮮烈な赤に染める。


そして、刀身を覆う炎の圧が最高潮に達し、空気が張り裂けんばかりの臨界点を超えたその時――。


[ System : Universal_Truth_Load 100% - Maximum reached ]


「アルスっ!……100%になったよ!」


轟音を上げる熱風の只中で、彼女は俺へと視線を向けた。

一切の淀みがない信頼の眼差し。その凛とした声は、燃え盛る炎の音を掻き消して俺の耳に真っ直ぐに届いた。


「よし。そのままそこで待機。奥義発動の準備に入れ。命令だ」


ルナリアに「待て」をした俺は、自身に速度上昇と物理防御の支援魔法、念の為に何層もの強固な防御結界を素早く編み上げる。

腰の刀には手をかけない。代わりに足元に転がっていた手頃な小石を一つ拾い上げ、

手のひらで軽く転がしたあと、おもむろに敵の待ち受ける砦の入り口へと走り出した。


「えっ、えっ!? アルス!?」


背後から、悲痛なルナリアの声が響く。

突然走り出した俺の背中を追って、彼女は弾かれたように飛び出そうとした。

バサリと白いスカートが翻り、急な動作の反動で彼女の胸元の豊かな質量が大きく揺れる。


「……っ、アルス、だめっ、武器も抜かないで……っ!」


振り絞るような声には、明らかな嗚咽が混じっていた。

振り返りこそしないが、気配だけで痛いほどにわかる。

彼女の宝石のような赤い瞳には今、大粒の涙がいっぱいに溜まり、瞬き一つで零れ落ちそうなほど揺れているはずだ。

俺が傷つくかもしれないという強烈な恐怖と、命令には絶対に従わなければならないという縛りの狭間で、彼女の心はひどく乱されている。


「ううぅぅぅ。わ、わたしはアルスを信じるっ! 絶対に、無事でいて……っ!」


涙声で懇願しながら、彼女は約束通り、それ以上前へは出なかった。

すがるような、泣き出しそうな瞳のまま、彼女は奥義の発動体制へと移行するため、アストライアの剣を頭上高く振りかぶる。


限界まで圧縮されていた極彩色の炎が、主の焦燥と悲哀に呼応するように、彼女を包み込む。

涙で滲む視界の先で、莫大な魔力の奔流をその細い腕に押さえ込みながら、彼女はただひたすらに砦の奥へと進んでいく俺の背中だけを見つめ続けていた。


[ System : Lunaria Reason_Gauge +20 ]


一方、そんな決意と悲しみを抱え、魔法剣士として、己の責務を果たそうとするルナリアの悲壮な表情とは対照的に、

そのときの俺の行動は、ひどく馬鹿みたいなものだった。


薄暗い砦の中に足を踏み入れると、饐えた獣の臭いが鼻を突く。

奥には予想通り、大木のような丸太を抱えた巨大なオーガが数体、蠢いていた。

一、二、三…。五体か。


俺は大きく息を吸い込み、わざとらしく砦全体に響き渡る声で叫ぶ。


「やーい、バカオーガ!」


俺の声に反応して、ギョロリとした濁った瞳が一斉にこちらを向いた。すかさず言葉を叩きつける。


「おい、図体だけのノロマども! 脳みそまで筋肉でできてるのか!」


そして、怒りで醜い顔を歪めかけた巨鬼たちへ向けて、手のひらで転がしていた小石を立て続けに弾き飛ばす。

ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ、と風を裂く音と共に、三つの石が三体のオーガの眉間や鼻っ柱へと正確に命中した。


コンッ、と小気味良い音が響く。


「グオオオオオオッ!!」


石の命中した三体以外も、連鎖的にこちらに反応する。俺は即座に反転し、一直線に逃げる。

背後から迫る五体の巨大な質量が、凄まじい地響きを立てて追いかけてくる。

ここで一度でも足をもつれさせれば、間違いなくミンチにされて死ぬ。だが、俺は転ばない。きっと転ばない。


砦の出口の光が近づく。

そこを抜け、あらかじめ指定しておいた射線へと飛び出した瞬間、視界の先で、限界まで圧縮された紅蓮の炎を掲げたままのルナリアの姿が飛び込んできた。

無事に俺の姿を認めた途端、祈るように見開かれていた彼女の赤い瞳から、安堵の大粒の涙がポロリとこぼれ落ちる。


「ルナっ、ルナリア!! うて! 全力全開だ!!!」


俺が叫んで射線から大きく身を翻した直後、彼女の顔から不安の涙が吹き飛び、魔法剣士としての鋭い覇気が爆発した。


彼女は大地を力強く蹴り上げ、紅蓮の炎を引いたまま高く、高く跳躍した。

空中でネイビーブルーのスカートが激しく翻り、限界まで魔力を溜め込んだアストライアの剣を頭上高く、上段へと構える。


「――アストライア・フレイムインカーネイトォォォッ!!」


[ System : Astraea / Flame Incarnate Dragon, Manifest! ]


ルナリアの凛とした絶叫が響き渡る。彼女の瞳に宿る星がキラメキ、輝きを放つ。

赫く燃え栄える業火となったルナリアは、空を裂くような勢いで、極彩色の刃を眼下の敵へと一気に振り下ろした。


ルナリアから溢れ出した莫大な炎の奔流が収束する。

眩く光、燃え盛る炎の奔流は、空中で巨大な顎と牙を持つ「紅蓮の竜」の姿を貌どる。

ローディングの際に響いていたあの地鳴りのような唸り声が、今度は明確な竜の咆哮となって天地を揺るがす。


炎の竜は、俺のすぐ横を通り抜け、背後に迫っていた五体のオーガへと真っ直ぐに喰らいついた。

断末魔を上げる暇すらない。圧倒的な熱量と質量を持った竜の牙に叩き潰され、巨鬼たちの肉体は瞬時に炭化して塵と消える。


だが、解き放たれた竜の猛威はそれだけでは止まらない。

そのまま直進した炎の化身は、ごうっ、と世界が割れるような轟音と共に砦の分厚い石壁に激突し、叩きつけるような大爆発を引き起こした。

砦の半分がまるで飴細工のようにドロドロに吹き飛び、さらに背後にそびえていた岩山の中腹までをも大きく抉り取って、ようやくその威力を霧散させる。


あまりの破壊力に巻き起こった強烈な爆風が、俺の身体と髪を乱暴に煽る。

焦げた石と土煙の匂いが立ち込める中、かつて砦の入り口だった場所には、ドロドロに溶けてガラス状になったクレーターだけが真っ赤な軌跡を描いて残されていた。


「はぁ……。はぁ……。す、すげえな。よくやった、ルナリア」


荒い息を吐き出しながら、地形ごと消し飛んだ砦の跡地を見つめる。

先に敵を発見して二人で100%までローディングを行い、強力な支援魔法をうけ、さらに全開になったルナリアが奥義を撃ち込む。

物理特化の敵なら魔族だってどうにかなると思っていたが、これは予想を遥かに超える威力だ。五体のオーガを一撃か。


今後はこういう建物や特定の地形に閉じこもってる魔物の討伐依頼だけを受けて、

同じ戦法を繰り返していれば、すぐにでもAランク冒険者になれるんじゃないか。

そんな能天気な皮算用をしていると、ドタドタと慌ただしい足音が近づいてきた。


振り返ると、大粒の涙をボロボロとこぼしながら、ルナリアが俺にすがりつくように駆け寄ってきていた。


「アルスっ! なんで、なんで最初に言ってくれなかったの……!」


涙声で怒鳴りつけられ、俺は内心で首をすくめる。

だって最初に『俺が囮になって丸腰でオーガを釣る』なんて言ったら、お前は絶対に猛反対して俺を止めるだろう。


「もうやめて……っ! わたしのこと、どんなふうに使ってもいいから……っ!」


彼女は俺の服の胸元を両手できつく握りしめ、しゃくりあげながら言葉を続ける。

急激に飛びついてきたせいでネイビーブルーのバトルドレスが乱れ、豊かな質量が息を呑むほど無防備に俺の胸へと押し付けられているが、彼女はそんな自身の状況には微塵も気づいていない。


「どんな無茶な作戦だって構わないっ! 魔王に突撃しろって言われたら、わたし、笑って斬りかかるよっ! ……え、えっちなことだって、なんだって……きみの命令なら全部従うから……っ! 今ここで、裸になれって言われたって、いいから……っ!」


「……だから、お願いだから……もう、こんな危ないこと、しないで……」


その切実な叫びには、俺を危険から遠ざけたいという必死さだけが張り裂けんばかりに詰まっていた。


「わたしが先に突っ込むの。わたしが前衛で、アルスが後ろ。……逆は絶対に、ダメ……っ」


――俺に本気で怒るルナリアを見るのは、これで三回目くらいだろうか。

服を握る彼女の指先は、俺を失うかもしれないという恐怖でまだ微かに震えている。


「…。ごめんな。ルナリア、ちょっと俺が無神経だったよ。もうしない。」


泣きじゃくるルナリアに謝りながら、俺はさすがに反省していた。

本当にどうしようもない時にたまに使う程度に封印しておこう…と。



アルシア山は標高が高く、アルス達のいる中腹では、空気は澄み、涼やかな風が絶え間なく吹き抜けている。

空にはまだ高く陽が昇り、その柔らかな光が、並び立つ若い二人を静かに包み込んでいた。


...Quest Completed!



# Lunaria_the_Crimson_Blade:


――さらに数週間後。


やっぱり、探索技能がないと迷宮は厳しいなぁ…。


俺は宝箱の上にどっかりと腰を下ろし、眼前の鉄格子の向こう側で奮戦するルナリアを見ながら、ひとりごちた。


俺たちは今、スプートニク高原に位置する遺跡、『人形師の庭』の攻略中だ。

先日、オーガの群れを短期間で、なおかつ無傷で撃破して帰還したことから、王都の冒険者ギルドにおける俺たちの評価はうなぎ登りだった。


だが、いくつかの討伐依頼をこなしても、待てど暮らせどAランク昇格の打診はやってこない。

しびれを切らしてギルドの受付で相談したところ、「討伐特化でも十分時間をかければいずれAランクになれます。焦らず地道にやりましょう」と、やんわり窘められてしまった。


なんとか期間を短縮できないか食い下がると、やはり護衛、迷宮攻略系のクエストもこなせる『ゼネラリスト』の方が、A級選考のテーブルに乗りやすいらしい。

そこで手っ取り早く実績を作るため、あえて苦手な迷宮攻略を選択したわけだが……。


「みごとに、罠を踏み抜いたな」


迷宮の中層。

いかにもな装飾が施された宝箱を開けようと俺が不用意に手を伸ばした瞬間、部屋の入り口から分厚い鉄格子がガシャンと降りてきて、見事に閉じ込められてしまったのだ。


「まあ、鉄格子の隙間から支援魔法は届くし、俺は逆に安全か」


閉じ込められたというのに、俺の心に焦りはなかった。

なにせ、鉄格子の向こう側には、世界最強の魔法剣士が控えているのだから。


 * * *


わたしは少し、焦りながら。

でも今、わたしだけがきみを守れるという少しの高揚感を抱きながら、鉄格子の向こう側のアルスに声を掛ける。


「アルスっ、ちょっと待っててね。すぐに助けるから!」


通路を塞ぐように迫りくる三体のアイアンゴーレムを鋭く睨みつけ、愛剣を下段に構えた。

本来は美しい銀色をしたアストライアの剣の刀身に、膨大な魔力が注ぎ込まれる。

直後、ぼわっ!と爆発的な熱量を持った紅蓮の炎が銀の刃を包み込み、周囲の冷たい空気を赤く、赫く染め上げた。


アイアンゴーレム、三体。

わたしはあの分厚い鉄屑を斬り刻んだ後、きみに優しく褒められている自分を妄想する。

アストライアの剣が纏った炎が、わたしの心の熱に呼応するかのように激しく揺らめいた。


背後から、アルスの支援魔法がわたしを包み込むのを感じた。

――下半身から脳へ、軽い電流が流れるような甘い痺れが駆け抜ける。


「……んっ。……んぅ……。ありがとう、アルス!」


石畳を強く蹴り上げ、一気に距離を詰める。


「はぁぁッ!」


急加速した踏み込みの反動で、薄いネイビーブルーの布地が限界まで張り詰める。

拘束を持たない胸の重たい質量が、重力と遠心力に乱暴に振り回され、張り付いた布地と敏感な部分との間に生々しい摩擦を生んだ。


だが、わたしはそんな生理的な違和感など意に介さず、アイアンゴーレムの懐へと潜り込んだ。

なぜだか知らないが、怪我による痛みや布の摩擦程度で、精神を乱されたことは一度もない。

――わたしの身体の奥を痺れさせ、支配できるのは、アルスだけなんだから。


ギガァンッ!!


炎を纏った赤い斬撃が、アイアンゴーレムの分厚い鉄の装甲に深く食い込む。

物理的な刃の重さと、超高温の炎による熱ダメージの複合攻撃。

叩き斬ると同時に断面をドロドロに溶かすその一撃は、強固な装甲すらも容易くバターのように切り裂いていく。


一体目を一合で斬り捨てた後、わたしは勢いを殺さずにその奥へと着地し、左手を残った二体へと向けた。


「――ファイアブラストっ!」


すれ違いざま、無詠唱で放たれた炎の爆風が残る二体に襲い掛かる。

片側のゴーレムは関節に直撃を受けたようで、高熱で駆動部が溶け落ちて大きく体勢を崩した。


わたしはそれを見て、素早くアストライアの剣を正眼に構え、ほんの刹那、魔力のローディングを行う。

周囲の空気が微かに震え、地の底から響くような静かな竜の唸りが辺りを制圧していく。


[ System : Universal_Truth_Load 10% Reached ]


「――ファイアランス!」


移動を封じられたアイアンゴーレムへ向けて、一段階、階位を上げた火炎魔法を放つ。

鋭い破裂音を伴って炎の槍が直撃し、迷宮内に重たい轟音が木霊した。

爆風でわたしの白いスカートが大きくめくれ上がり、露わになった太腿の柔らかな肌が、冷たい空気と炎の熱気に晒される。


「……きみのところには、絶対に行かせないっ!」


充実感と使命感がわたしを満たす。きみと一緒に戦う魔法剣士であることへの、強い多幸感。


[ System : Lunaria Reason_Gauge +10 ]


「これで、最後っ!!」


アストライアの剣を両手で握り直し、水平に構えて残る最後の一体に突進する。


左から右へ駆け抜ける、揺らめく赤い一閃。

炎を纏った剣が、アイアンゴーレムの胴体を斜めに両断する。

ズズンッ……!と重たい音を立てて崩れ落ちる鉄の残骸を背に、わたしは大きく息を吐き出した。


「ふぅ……っ」


激しい呼吸に合わせて肩を上下させるたびに、胸の重みが肩の筋肉を引っ張るのを感じる。

せめて顔の汗だけでも拭っておきたかったわたしは、手の甲で無造作に肌を拭うと、鉄格子の向こう側にいるアルスへ向かってとびきりの笑顔を向けた。


「終わったよアルス! 怪我はない? 今この鉄格子も、わたしが斬り飛ばしてあげるからね」


「ありがとう、ルナリア。さすがだな。ちょっと横によけておくか……」


――さっきまで、どれだけ激しく動いても、胸が擦れる刺激を受けても、一切精神を揺さぶられることはなかったのに。

アルスに「さすがだな」と褒められただけで、また全身に甘い電流が流れるのを感じていた。


 * * *


その後、俺がさらに二回ほど罠を踏み抜いた時点で、ある致命的な事実に気がついた。


――もし罠にかかったのが俺ではなく、ルナリアだったら完全に詰んでいる。

その事実に思い至った瞬間、俺はすっぱりと迷宮の攻略を諦めた。


...Quest Failed!



# COORDINATE 0006 END

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