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[COORDINATE 0004] Flame Incarnate Dragon 2

# Hero of the Goddess:


炎の余波が夜風に溶けていく。


俺の目の前でアストライアの剣を振り抜いた姿勢のまま、ルナリアがゆっくりと振り返った。

周囲を見渡せば、十数体いたスケルトンはすべて灰となって散っていた。


「助かったよ。ありがとう、ルナリア」


俺が地面から身体を起こしながら声をかけると、

彼女はふにゃりとした、普段の戦場では絶対に見せないようなだらしない笑顔を浮かべた。


「えへへ…。――よかったぁ。アルス、怪我、ない? わたし、ちゃんとアルスのこと、守れたよね?」


ルナリアは燃え盛る剣を下ろし、ふらふらとした足取りでこちらへ近づいてくる。

その様子は、明らかに異常だった。

まだ奥にはハイ・アンデッドであるリッチが控えているというのに、

彼女の意識は完全に敵から逸れ、俺一人だけに焦点が固定されている。


「お、おい、ルナリア。まだ敵は…ッ」


「ねえ、アルス…。わたしね、きみの言う通りに動くの、すごく、気持ちいい…。もっと、わたしに命令して?…次は何を、斬り捨てればいい?」


俺の言葉を遮るように、彼女は熱を帯びた赤い瞳ですり寄ってくる。

ルナリアは先程の戦闘で肩口が弾け飛んだネイビーブルーの布地から、汗ばんだ白い肌が露わになっていた。

激しい呼吸に合わせて、Fカップの暴力的な質量が重力に抗うように大きく上下に揺れる。

俺の魔力を受け続けた生理的緊張と、俺の指示で動くことへの高揚感からか、

布地越しに押し付けられる胸の先端は、先程よりもさらに硬く、生々しい突起となって自己主張していた。


最低限の戦士としての理性は保っているようだが、言動の端々に俺への異常な依存が漏れ出している。


(あー、これはやばいときのルナリアだ)


少しドギマギしつつも、初めての経験でない俺は、なんとか冷静に受け止める。

だが、そんな彼女の甘い狂気に付き合っている暇はなかった。


――ゾクリと、背筋に冷たい悪寒が走る。


視線を向ければ、奥に佇むリッチが、空高くへとその枯れ木のような腕を伸ばしていた。

収束していく魔力、ビリビリと肌に凍てつくような冷気を感じる。


「I, a nameless seeker of endless life, manifest absolute frost that erases all.」


リッチは天高く腕を突き出し、月であるアズールへ手を伸ばしている。

アズールの光が蒼く、強く輝きを増す。


言語は全く理解できない。

だが、経験上ああいう芝居がかった台詞回しはだいたい大技の詠唱だ。

しかも、わざわざ詠唱するってことは……。


(大魔法がくるぞ!)


背筋を凍らせるような死の気配。

あの極大の魔力の奔流をまともに受ければ、俺たちの命なんか一瞬で凍りつく。


どうする…。俺の防御結界じゃ、魔法の階位を上げるローディングを挟んだとしても耐えきれるかどうか。


その瞬間、俺の脳裏に「星空の少女」がノイズのようにフラッシュした。


「っ! ルナリア、聖水だ! 俺とお前にかけろ! ――命令だ! 俺はローディングに入る!」


俺は声を張り上げ、ルナリアに命令した。

こういうときのルナリアは命令しないと、敵の脅威よりも俺の顔を眺めることを優先しかねないからだ。


「聖水? ――うんっ。いっぱいかけてあげるね! えへへ」


俺の言葉を聞いた途端、ルナリアは嬉しそうに破顔した。


「いっぱいはいらん! 一本ずつだ!」


だらしなくとろけた笑顔の彼女にツッコミを入れつつ、俺は深く息を吐き、精神を極限まで集中させる。


リッチの魔法発動までの時間を考えると、ロード率は30%が限界か。


言動の端々がやばくなっていようと、ルナリアはルナリアだ。信じる。

命令した後、彼女から目を離し、月を掴もうとするかのように腕を振り上げるリッチから目を離さずに、魔法のローディングへと意識を深く沈めた。


ルナリアは、ポーチから小瓶を取り出し、冷たい聖水を自分には無造作に、俺の身体へは丁寧にかける。

冷たい液体が熱を持った彼女の肌を濡らし、ネイビーブルーの布地が透けて、豊かな質量にべったりと吸い付いた。


聖水の冷たさと、艶めかしい彼女の指先を感じつつ、集中する。


――キンッ、と。

周囲の戦場の喧騒が、嘘のように遠ざかる。


――俺の周囲に、神威を感じる淡く柔らかな光が顕現し始めた。

時の流れが極端に遅くなったかのような深い静寂。その中を、かすかに天から降り注ぐような静かな讃美歌が響き渡っていく。


[ System : Universal_Truth_Loading... 5%... 10%... 20% ]


深く、高く、星空の向こうに自分が繋がるような。そこから、何かが自分の中へ流れ込んでくるような。

そんな不思議な全能感が全身を駆け巡る。


「ルナリア! お前は知らんが、俺はリッチの攻撃なんか直撃したら結界張ってても即死だからな! 気合を入れろ! 俺の魔法とお前の愛で耐えろ!」


俺の身も蓋もない叫びに、ルナリアは一瞬だけ目を丸くし――直後、甘く、とろけるような熱い吐息を漏らした。

「愛……っ。きみが、わたしの愛を使えって、命令してくれるの……?」


荒い呼吸と共に、彼女の頬が異常な熱を帯びていく。

死線の上だというのに、彼女の赤い瞳に浮かんでいるのは恐怖ではなく、自身のすべてを捧げることを明確に『要求』されたことへの恍惚だった。


「――うんっ、わかったぁ……っ! きみの命令なら、わたし、いくらでも……っ!」


極限状態での俺の強引な指示が、彼女の残った理性をさらに激しく摩耗させる。

ルナリアは俺を庇うように素早く前へ出ると、熱に浮かされたようなだらしない表情のまま、銀色の刀身に再び爆発的な炎を纏わせた。


リッチの体を覆っていた極低温の魔力が形をなし、破滅的な魔法の発動を予感させる。

やがて掲げていた手を、ゆっくりとこちらに向けたリッチが、理解できない言語を口にした。


「Death Filled Winter」


直後、リッチの放った極低温の魔力波が、津波のように押し寄せてきた。


[ System : Universal_Truth_Load 30% Reached ]


「防御結界展開っ!!」


俺の意志が物理法則をねじ伏せ、前方に不可視の防御障壁を何層にも重ねて展開する。


「んっ――! 負けないっ……! きみの命令通り、わたしの全部で、アルスを守るんだからぁっ!!」

「くぅぅっ……!!」


凄まじい轟音が夜の墓地を支配する。

俺の展開した結界がガラスのように一枚、また一枚と砕け散り、ルナリアの剣から噴き出す紅蓮の炎が、殺到する死の冷気を必死に相殺していく。

鼓膜が破れそうな衝撃と、熱と冷気がぶつかり合う暴風の中、俺たちは歯を食いしばってその圧倒的な暴力に耐え切った。


やがて、土煙と魔力の残滓が晴れていく。

なんとか、凌ぎ切った。


「はぁっ――。はぁっ――……。アルス、無事、だね……」


結界と炎の盾によって、二人とも目立った外傷はない。軽傷だ。

だが、前衛で暴風と魔力の余波をまともに受けたルナリアの姿は、酷い有様だった。


ただでさえ肩口が破れていたバトルドレスは、聖水と汗で完全に透け、白い肌にべったりと吸い付いている。

胸元の布地は防御の衝撃でさらに大きく裂け、重力に引っ張られる豊かな質量の半分以上が、無防備に夜の冷たい空気に晒されていた。

短かったスカートの裾も焼け焦げ、捲れ上がった布地からは無防備な太腿の絶対領域がこれでもかと主張している。


リッチは、自分の大魔法を軽傷で耐えきった俺たちを警戒したのか、じっとこちらを見ている。


…なんだ?…なにかおかしい。


リッチって、生前は大魔法使いだったんじゃないのか?

今、動きを止める理由がわからない。


――寄る年波に負けてボケてるのか?

――大魔法の反動で動けないのか?


理由は定かではないが……どっちでもいい。

俺たちにとって、都合の良い隙が生まれたという事実だけがあれば十分だ。


「ルナリア、合わせろ!」


俺はポーチに残っていた最後の聖水の小瓶を引き抜き、不気味に沈黙するリッチの顔面めがけて全力で投擲した。

狙い違わず頭部に直撃したガラス瓶が砕け散り、聖なる水がボロ布と枯れ骨にぶちまけられる。

ジュワァァッ! と肉を焼くような不快な音と共に、リッチが浄化の光に苦悶の声を上げて大きく仰け反った。


致命傷にはならない。だが、一瞬の隙を作るには十分だ。

俺はその隙を縫うように、隣に立つ相棒に飛ばす。


「ルナリア! 全力であいつを消し飛ばせ!」


俺の容赦のない命令が夜の空気を震わせた瞬間。

ルナリアは、熱を孕んだ甘い吐息を一つ、長く吐き出した。


「――んっ、ぁ……! 全力、だね。うんっ、アルスの望む通りに――あいつの全部、灰にしてあげるっ」


彼女がローディング動作に入る。


ルナリアは頬を火照らせ、とろけるような笑みを浮かべたまま、

彼女は普段は片手で扱うアストライアの剣を、両手で力強く握り直す。

脚をわずかに開き、切っ先を立てて正眼に構えた。


生命の根源、星空の彼方へ接続し、自分の魂を極限まで彼女は研ぎ澄ます。


その目はさきほどまでのような熱にうなされたようなものではなく、まるで星が輝くように光を放つ宝石のようだった。


周囲の空気が、強大な生命の余波にビリビリと震えだす。

そして、地の底から響いてくるような、低く、長く、途方もなく重たい「静かな竜の唸り声」が辺り一帯に広がり始めた。


[ System : Universal_Truth_Loading... 5%... 10%... 20% ]


刀身を纏っていた炎がルナリアの全身を覆い出す。

その赤かった炎は徐々にその密度を増し、燃え盛り、赤く、緋く、どこまでも赫い光となって広がっていく。

圧縮された圧倒的な熱量が、先程の防御で破れ透けたネイビーブルーの布地を激しく煽り、

無防備に晒された柔らかな肌と、はち切れんばかりの胸のラインは暴風の中で艶めかしく揺れる。


[ System : Universal_Truth_Load 30% Reached ]


彼女を覆い、果てしなく広がっていくかのように見えた光が、再び彼女のもとへと収束し、赫く輝く竜の姿をとる。

彼女の瞳の中の星が赤いキラメキを発する。


「――消し飛べっ!!」


ルナリアの裂帛の気合と共に、大地が爆発したかのように大きく陥没する。

彼女は凄まじい推進力で飛び上がった後、リッチへ向かってその異常なエネルギーを振り下ろす。


「――アストライア・フレイムインカーネイトッ!!」



[ System : Astraea / Flame Incarnate Dragon, Manifest! ]


[ System : Lunaria Reason_Gauge -20 / Total Limit Reached / Next Turn: Tempest_Explosion ]



竜の咆哮そのもののような轟音が、夜の墓地を飲み込んだ。

放たれた一撃は、もはや剣閃の域を超えていた。

刀身から解き放たれた赫い炎、いや赫い光が巨大な竜のあぎととなって、仰け反ったリッチの身体を丸ごと喰い破る。


「ギ、ギィィィィィィィィガァァァァァッ!!?」


ハイ・アンデッドの断末魔すら、爆発的な炎の轟音にかき消された。

ボロ布も、枯れ骨も、その存在の全てを。

物理的な斬撃の重さと、魔法的な圧倒的熱量の複合ダメージが、リッチという存在を文字通り塵一つ残さず焼き尽くし、跡形もなく蒸発させていく。


――ドパァァァァァァァァンッ!!


遅れて発生した極大の衝撃波が上空へと抜け、重く立ち込めていた夜の暗雲を一瞬にして丸く吹き飛ばした。

雲の晴れ間から、蒼く輝いていたアズールの光が、静かに消えていく。


リッチが佇んでいた場所には、もはや黒い煤すら残っていなかった。

ただ、高熱でガラス状に融解し、赤くドロドロに溶けた地面のクレーターだけが、

そこに規格外の暴力が叩き込まれた事実を雄弁に物語っていた。



# Lunaria_Core_Drive:


赤々と融解したクレーターの中心から、赫い炎がゆっくりと夜風に溶けて消えていく。


「――終わった、か」


隣で、アルスが安堵の吐息を漏らすのがわかった。

その直後、カラン、と硬い音を立てて、わたしの手から銀の剣が滑り落ちた。


「ルナリア、さすがだ。よくやってくれた。今、回復するからな」


緊張の糸がぷつんと切れて、わたしはその場に力なくへたり込んだ。

さっきまであれだけ滅茶苦茶に剣を振っていたのが嘘みたいに、肩は大きく上下して、情けないくらい荒い息が漏れる。

今のわたしは、魔法剣士なんかじゃなくて、ただの華奢で無防備な女の子にしか見えないだろう。


「リッチのドロップ品か。どんなのだろうな。高かったらいっぱい食べれるぞ」


アルスが地面に座り込むわたしのそばへ駆け寄り、わたしの細い背中に手を添えて、残った傷と疲労を癒やすための回復魔法を流し込もうとする。

――彼の魔力が、わたしの熱を持った肌に触れた、その瞬間だった。



[ System : Lunaria Reason_Gauge 0 / Tempest_Explosion Triggered ]



「――っ……、あ……ぁ……っ」


わたしの身体が、弾かれたようにビクンッと大きく跳ねた。

きみの太ももに添えられていたわたしの指先が、痙攣したように泥だらけの布地をギュッと強く握りしめる。


「んっ…。ねえ、アルス……。わたしたち二人なら最強、だよね……?」

自分でも驚くほど、ひどく甘ったるい吐息が混じった。


「え? あ、ああ、俺達二人は最強だ」


アルスは、なにか戸惑っているかのような返事をわたしに返してくる。


「わたし……自分の魅力とか、そういうのは全然わかんないし……。きみが言う『えっち』がどういう意味なのかも、本当はよくわかってない……」


わたしは、きみの太ももに添えた手にジワリと力を込める。

手から伝わってくる、アルスの確かな体温。それだけで、わたしの背筋はゾクゾクと泡立った。


「でもね……。わたし、きみの剣だから。……きみが使いたいように、使っていいんだよ……?」


もう、魔法剣士としての矜持も、常識も、貞操さえも──その全部をアルスに縛られて、握っていてほしい。そう願ってしまった。


「戦いの道具としてだけじゃなくて……きみの言う『えっち』なことのための、きみ専用の『所有物』としても……使ってくれる……?」


わたしはさらにアルスの顔に近づく。

彼から目が離せない。瞬きすら忘れ、きみの瞳の奥底を覗き込む。

鼻先が触れ合うほどの至近距離。わたしの異常なほどの熱を帯びた呼気が、きみの唇を直接撫でた。


「わたし……剣の柄みたいに、硬くないよ……? ほら、触ってみて……?」


わたしは、破れた胸元――いまにも零れ落ちそうなほど豊かな双丘――をきみの視界の真正面に突き出すように、かすかに身をよじりながら、きみの手を引いた。

下着さえ身に着けていない胸元は、重力に従って、驚くほど柔らかな弧を描いて揺れる。

「むにゅり」と、損壊したネイビーのドレスでは覆いきれない白く柔らかな肉が、誘うように形を変え、きみの腕に押しつけられた。

衣服の端に押し上げられた肉が、確かな質量と重みをもって、きみの肌をじわりと圧迫していく。


「ちゃんと、きみの指示通りに動くし……すごく、柔らかいから……。きみのこと、ちゃんと満足させられる……便利な道具になれると、思うの……」


(――ああ……わたしの、ご主人様――っ。わたしの思考も、からだも、ぜんぶきみのもの――っ)


心の中で、甘く、痺れるような声できみをそう呼ぶ。

その響きだけで、わたしの下腹部の奥底が熱く疼き、息が詰まるほどの快感が全身を駆け巡った。


「貞操観念とか……普通の女の子が気にするような常識とか……そんなの、どうだっていい……。ドロップの確認なんかより、わたしの価値を……きみが、確認して……?」


完全に自己判断を停止した、濡れた瞳で、わたしはすべての権利をきみに委ねたいと心底願った。


「わたしの体の価値も……この体をどう扱うかも……全部、きみが決めていいよ……? だから……わたしを、好きに、使って……?」


夜の焦土の真ん中。

アンデッドの残骸と硝煙の匂いが漂う泥濘の上で。


わたしは、自分が何を言っているのかもあやふやなまま、自分の欲求のためだけに動いていた。

きみに支配されたいと。震えるような甘い声で、ひたすらに、ただひたすらに懇願し続けていた。



[ System : Lunaria Core_Drive / Status: Active ]



夜の焦土の真ん中。

アンデッドの残骸と硝煙の匂いが漂う泥濘の上で。


俺は、ルナリアが何を言っているのかもあやふやなまま、自身の奥底からせり上がる欲求を必死に抑え込んでいた。

震えるような甘い声で、理性の欠片も残さず依存を訴える彼女を、俺はひたすらに宥めることしかできなかった。


おそらく今、銀色の光が俺を助けることはないだろう。

だって俺には役得しかないんだもの。


しかし、しかしだ。

相手は、あの(普段は)清廉潔白、明るく実直なルナリアだ。


いま手をだすのはよくないんじゃないか?


いやでも、柔らかそう…。

いやいやまてまて。違うだろう、俺は誓ったはずだ。


ん…?何に?


と、とにかくだ。ここで手を出したら、明日以降のルナリアの精神が死ぬ。

俺も多分、変な態度になってしまう。


俺は精一杯の理性を振り絞り、彼女の肩を優しく押し返した。


「……よし。じゃあとりあえず、ここはまだ危ないから村に帰ろう。宿を用意してもらってから、そこでゆっくり話そうそうしよう」


先延ばし。これこそが現状の最適解だ。


俺は自分のコートを脱ぎ、見えてはいけないところまで透けてしまった彼女の身体に、ばさりとかける。


ルナリアは一瞬だけ不満げに頬を膨らませたが、俺のコートに包まれると、


その襟元をギュッと握りしめて「くんくん」と俺の匂いを嗅ぎ始めた。

そんな姿を見せられると俺の理性にダメージが入るのでやめてほしい。


村長に報告をしているあいだも、ルナリアは俺の腕にぴったりと張りついたまま離れなかった。

みんなが「英雄だ!」と口々に称えてくれる横で、彼女だけは恍惚とした表情で俺の肩に頬を擦り寄せている始末だ。

ちなみに周囲は、「英雄は女に好かれるものだ」とでも思っているのか、生暖かい目で見守っていた。


だが、もはや周囲の視線など、壊れた彼女の理性には一切届いていない。


ご馳走を用意してもらえることになっていたが、

「今日はちょっと相棒が魔力酔いで……明日にしてもらえると助かります」

とそれっぽく誤魔化し、宿代わりに用意してもらった民家へと身を引いた。



――ひとつ言えることは俺の理性の壁なんて、皮の盾ほどもないってことだ。



# Good Morning:


小鳥のさえずりと、窓から差し込む爽やかな朝日が、宿屋の一室を照らしていた。

昨夜の狂乱を嘘のように洗い流す、残酷なまでに穏やかな朝の始まり。


「………………は?」


ベッドの上で、わたしは跳ねるように飛び起きた。


わたしの身体からは昨夜の、あのドロドロとした「熱」が嘘のように引いていた。

だが、その視界に映っているのは――。

アルスのコートを、自身の所有物であるかのように大事そうに抱きしめ、

さらにその「破れた胸元」から、無防備な胸の輪郭が、あられもなく零れ落ちている自身の姿だった。


どんな顔で、どんな声で、彼に迫っていたのか。

わたしの記憶は、拒絶したくても拒絶できないほど、鮮明に脳裏に焼き付いている。


(わたし……『柔らかいから触ってみて』なんて……アルスの手に、自分の胸を……っ!)


「…………な…………っ!!!」


顔が、火傷しそうなほど真っ赤に染まる。

動くたびに、昨夜自らアルスの脚に擦りつけ、彼の腕を自身の胸の谷間に挟み込んだ「生々しい肉の感触」が、鮮烈なフラッシュバックとなって脳内を蹂躙した。


何より恐ろしいのは、あのとき口にした「道具にしてほしい」という言葉も、

支配を望んだあの熱情も、すべてが紛れもない「本心」だったと理解できてしまうことだ。


「あ、あ、ああああああ、アルス……っ! き、昨日、あの、わたし、えっと……っ!!」


ガタガタと震える手でシーツを引き寄せ、必死に自分を隠そうとする。

だが、シーツの隙間から覗く自身の太腿や、重力に従って形を変える双丘の重みが、昨夜の「破廉恥なわたし」を嫌というほど思い出させる。


「う……うあああああああああっ! こ、殺して……! 今すぐわたしを聖水で清めてから、殺してえええええ!!」


わたしの叫び声が宿屋じゅうに響き渡り、穏やかな朝は一瞬でぶち壊れた。

――リッチを討伐した二人の英雄が送る、どこまでも平和な日常だった。



「ルナリア、落ち着け。俺がお前を殺せるわけがないだろう。……俺の手が折れるどころか、砕け散るわ」



# COORDINATE 0004 END

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